立ち昇るオレンジリキュールの香り。
チョコレートとダークオレンジの色味を湛えた皮膚に、ひときわ澄んだオレンジの瞳。
「……な、何で? 何で一日でこんなに?」
昨日ウチに来てくれたときは、目も体も純黒色だったのに。
「お前が、望んだから」
「え?」
「悪魔は欲望の化身。お前が望んでいる色と形に変身する。有無を言わさず」
つまり今の悪魔っ仔の姿はジブンが望んでいた色と形で。満足していた外郭に、ちょっと物足りないなと感じていた色彩がプラスされたということか。
全身を確認するように見回してから、ジブンの瞳を覗き込む黒と橙の体躯。
「そんなに趣味は悪くないと、思う。お前は不服か」
「不服だなんて! むしろ大歓迎だよ! それにしても、よくもこんな深いトコロの欲望を感知してくれたもんだね」
「勝手に、こうなった。オレがどうこうしたワケじゃない。それよりも」
ぽっ、と頬を紅くして顔を背ける。
「抱いて、ほしい」
うっ。目の前の小さな悪魔っ仔がおねだりを始めたぞ。
「お前の欲望を満たすためにオレはいる。だから、好き放題むちゃくちゃにしてくれないと、オレの役目が果たせない」
ぽそぽそと、しかし淡々と言葉を紡ぐ。人称と口調さえ、一夜でジブン好みに修正されたらしい。前の感じもお気に入りだったけど。
「で、でも、そんな、好き放題だなんて……」
「いまさら遠慮しなくていい。お前がフルーツチョコレート風味の幼年の異形を抱きたくて仕方のないことは自明だ」
ううっ。下腹部を疼かせる理想形態を目の前にブチまけられてしまっては、弁解も立たない。立つトコもあるけど。
「だから、早く。オレも、あまり辛抱できそうにない」
まっすぐに見据えられて、腕を伸ばされる。視線を落とすと、屹立して震える悪魔っ仔の性が息衝いて、臍を目指し育ちきっていた。
「もしこのままお前が手を出さなければ、誰かに治めてもらいに出かけるしかない。お前に感化されたこの衝動は、独りでは抑えられない」
「で、出かけないでよ!」
「それじゃ、ちゃんと誑かされてくれるのか」
「ん……ジブン、初めてなんだけど」
「オレもだ」
「……あ、あと、初めては好き同士がいいなー、って」
「オレもだ」
「……ジブン、悪魔っ仔のコト好きだからさ、ちゃんと確認してからがいい」
「オレもだ」
……オレも?
「好きだ。好きじゃなかったら、こんなに切なくならない。性が苦しくなるまで張り詰めたりしない」
悪魔っ仔たん……
「やり方しか、知らなくてすまない。でも、お前とつながりたい。……オレは役目を果たさなくてはならないが、そのためだけじゃない」
小さなカラダに密着されると、じんわりと熱が伝わる。押し付けられた硬質棒状の体積が、ジブンの素肌を誘惑する。
互いの口元が近づく。
オレンジチョコレートの甘酸っぱい味。絡められた舌は悪魔っ仔の体液を惜しみなくジブンに味わわせてくる。ちゅくちゅく、という水音がやんで、そっと唇を離す悪魔っ仔。オレンジ色の舌がチョコレート色の唇を拭い、柔らかい吐息の音が静かな部屋に響く。上気する胸。
「うまいか?」
どっちの意味なんだろう。とっさに答えるには頭がそんなに回っていなくて、
「うん……甘くて、おいしい。」
と、技巧ではなくて、味の感想を述べてしまう。
「タブン、カラダのドコも、ドコの体液も、そういうふうになっている、と思う。お前が、望んだように」
いまさらながらちょこっとアブノーマルな自分の性癖を実感しつつ、同時に感謝する。大悪魔様、こんな仔をジブンのトコロに送り込んでくれて、脳と腰が耐えられるか心配です。
「できたら」
「ん?」
「お前がシたいことを口に出して、羞恥しながらも昂奮し、所作してくれると嬉しい。そのほうが欲望が流れ込みやすい」
「そ、そんなの、恥ずかしいよ……」
「難しいようだったら、オレがいかに淫乱で恥知らずで、お前との行為を心底愉しんでいるかを口にしてくれてもいい、たとえば」
「ああああ! たとえばの例は出してくれなくてもいいよ!」
「どちらにする?」
「う、うう、少しずつ両方やってみる、慣れてきたらどっちかに偏っちゃうかもしれないけど」
「わかった」
「悪魔っ仔がジブンに対していやらしいコトを言うのはどうなの?」
「尽力する。昨晩練習してみたが、あまりうまくいかなかった」
「れ、練習、してたんだ」
「お前のカラダがどんなふうに上りつめていくのかわからなかった」
「あ……うん。これから、ゼンブ見てほしいよ」
「もっと具体的に」
「あ、あの、ジブンのいやらしいトコ、いっぱい見てください」
「もっと」
「あ、悪魔っ仔たんかわいいから、ジブンのオチンチン擦り付けて、ダークオレンジなほっぺたに注ぎかけたり、尖ったシッポ先を尻尾穴に、お、押し込んで苛めたりしたいです」
「過激だな」
頬を赤らめて斜め下を向く悪魔っ仔たん。
「だ、だって、言えっていうから……」
「その調子でどんどん曝け出していい。恥ずかしがるほどオレのセンサーは過敏に反応して吸収率を高め、お前から得られる淫乱さの質が上がっていく」
「はぁ……」
「最終的には、集団の中で視姦されながら後ろに欲しがりつつ腰を振り、あまつさえみずから前を弄り出すように成長するのが望ましい」
「それはさすがにイヤだよ」
「オレもそんなのはイヤだ」
「そりゃ、悪魔っ仔たんとやらしいことしたいけど。その果てに不埒なジブンを見ぃ出すのはイヤだなぁ……それに」
「?」
ジブンの眼差しが悪魔っ仔たんを捉える。
首を傾げられる。
「悪魔っ仔たんだけとシたい、ってのはダメ?」
「そのぶん、回数と質を上げなければならない」
「うー……あんまり自信ないなぁ……」