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ご主人様編ニノダテその二
一 十 一 二

 なでなでが終わると、今度はご主が親愛の情を示す番だ。ニノダテの甚平の紐に指をかける。
 「ニノダテたんのお腹はかわいいなぁ」
 紐を解いて前開きを左右に肌蹴させると、その表面があらわになる。胸部から下腹部にかけて楕円に切り抜かれたように、クリーム色をした鱗状の皮革が配されており、碁盤の目だったり阿弥陀籤文様だったりと、四角い区画を構成している。表面はほどよい硬さで、ニノダテの背部にある、ややもすれば鬼下ろしを彷彿とさせる激しい隆起などは見当たらない。
 いちど天麩羅を喰うときに大根を持っておねだりしたことがある。そのときは腕より肩のほうが目が粗いからと、上着を肩から半分脱いで横になり、下に皿を置いて擦るように促された。なんだか申し訳なくなって中止した記憶がある。
 ちょっぴり冷たい表面に舌を這わせるご主の姿を見つめる。本当はご主は、背と腹を分かつ楕円の軌道、黄味がかった白色と緑色の境目を、ぐるりと弧をえがいて舐めてみたいそうだ。そんなことをすれば、緑側の硬い鱗でご主の舌が擦り切れてしまうかもしれない。
 「ニノダテたん、していい?」
 「ああ」
 許可を求められて承諾を返すと、ご主が笑って甚平の紐を締め直してくれる。
 もし裸になって続きをすれば、行為の最中にご主が強く抱きついてくるかもしれない。昂奮した自分が腕やシッポを不用意に振り上げてしまうかもしれない。そうすれば、無防備なご主の素肌に掻き傷や擦り傷ができてしまう。それが恐くて、ニノダテはご主と格別深く触れ合うときに、服を脱ごうとはしなかった。
 着衣のままの行為に、ご主は不平を言わない。そういうのにも昂奮する、とニノダテは聞いている。とはいえ、ほかの使いはひんぱんにひっぺがされているのだから、ご主に好かれる条件のひとつを自分だけが持っていると考えてもいいかもしれない。
 だとしても、服を脱がないでする、というのは、極度の恥ずかしがりやでもなければプレイとして比較的簡単に導入できる。自分だけを愛してくれる条件にしては簡易すぎるだろう、とニノダテは感じている。
 続いてご主は青緑の玉座から降りると、嬉しそうにニノダテの股間に指を這わせた。ズボンの前開きに潜り込み、褌の前袋を横にのけると、ほんのりと隆起したそこの真ん中を通る、縦の切れ込み。
 「はうー、かわいいなあ、ニノダテたんの」
 「ご主、恥ずかしい」
 四つん這いになって愛しいそこに顔を寄せる。舌でぺろり、と舐めあげると、びくん、とニノダテが小さく跳ねた。腹部よりも濃い、肉の香り。隙間に唾液を浸透させるかのように、切れ込みを上下にねぶり、ときおり舌先を潜り込ませる。濃厚な肉の味に触れると、頭の上から甘い声が聞こえてくる。しばらく続けると、ひくひくと左右の扉が震え、中から赤い尖った肉塊が立ち上がってきた。
 「ニノダテたんのが勃起してきたね」
 「んっ……んん……」
 「こっちも舐めていい?」
 「あ、ああ」
 ご主が顔を上げると、羞恥に頬を赤く染めるニノダテ。そのいつもの反応に満足し、快楽に率直な器官を口に含む。ちゅくちゅくと音を出して吸い上げ、舌と唇で扱いてやる。流れ出す先走りを味わい嚥下して、またそれを促すように舐め続ける。しだいに量を増すニノダテの搾り汁は、とくとくと零れて舌に溢れ、肉塊をぬらぬらと光らせる。ご主はその体液を指に取り、切れ込みにそっと差し入れて奥を刺激する。
 「ふっ、ふぅっ、ふっ……」
 「気持ちいい?」
 「ご、ご主、んっ」
 ニノダテは「気持ちいい」と言うのが苦手だ。行為後ならなんとか話せるが、真っ最中と匹敵するくらい羞恥してからやっと細々と発するといった感じである。もちろんご主がさんざんせがんだ後、だ。
 ひと舐めごとに体積を増すニノダテの肉塊は、いまや胡坐の中にびくびくと聳えたつ尖塔となっていた。その先端から絶え間なく滲み出す液体がいまや根元から太腿に達し、ズボンに染みて色を変えている。さっきのお香の匂いと前液の匂いが混ざり、ご主にとって淫靡な刺激となっていた。
 「そろそろ、ご主人様に入れてくれる?」
 「あ、ああ、うん」
 そう言うとご主は一度離れ、下半身を覆うものだけを脱ぎさって、改めてニノダテの胡坐に向かう。迎え入れるニノダテは腕を伸ばし、ご主を抱きしめる。それから、ご主の上着をまくって胸板や乳首を弄ってやる。これは相手の希望である。
 「ん、んん……気持ちい……ニノダテたん、いい?」
 「ああ、ご主……」
 蕩けた瞳のまま、ご主はゆっくりと腰を下ろしていく。そして後孔がニノダテの先端に触れると、体の力をなるべく抜いて、その先細った器官を飲み込んだ。
 「ふっ、ふぅんっ! ニノダテたんっ!」
 「ご主ぅぅ……っ」
 途中までは問題なく滑り込んでも、根元に近づくにつれ太くなるニノダテの肉塊を受け入れるためには段階が必要で、ご主の臀部は半分と少しを収めたところで動きを止めた。
 「ごめんね、ニノダテたん、一気に気持ちよくさせてあげたいのに」
 「ご主、謝らなくていい」
 いつものようにご主が謝るのを、宥めるニノダテ。呼吸を深くしながら体の奥にニノダテ自身を導くご主の上半身を支え、じょじょに熱い肉壁へ自身を沈めていく。しばらくして、抱きしめた相手の雄の袋がニノダテの下腹部に届き、布越しに触れた。
 「はぅぅ……つ、着いたよ、ニノダテたん」
 「ご主、だいじょうぶか……んっ」
 「だいじょぶ、でも、動くのはちょっと待ってね……ふー……」
 途中から緩やかな傾斜になっているとはいえ、突き刺した尖塔の根元がご主の後孔をきつく押し広げているのが、締め付けられる感覚でわかる。先端は奥深くを苛み、こちらも愛しい相手を蝕んでいるのだろう。愛する者同士の行為とはいえ、規格違いな器官を押し込める罪悪感は、ニノダテをいつも躊躇させる。
 その反面、痛みさえも喜びに変えてしまっているご主は、もしかしたら待ってって言ってるのにも構わずニノダテが腰を振り、自分の中を貪り尽くし流し込んだあげく、ごめんと頭を下げるのも見てみたいなぁ、と思っている。その願いが叶うことはいまのところ、ない。太さに馴染んだかの確認のために臀部を少し上下させても、ニノダテの表情はあまり変わらない。
 「うん……そろそろ慣れてきたみたい。ニノダテ、いっぱいしてね」
 「ご主、痛かったら言うんだぞ」
 「ニノダテたん優しいなぁ」
 そうして、ニノダテはゆっくりとご主の体を上下させる。両の腕で持ち上げて、ゆっくりと下ろす。自身の快楽を成就させるより、目の前で貫かれているご主を傷つけないよう、それと、気持ちよくさせるために、じわじわと内壁をこすっていく。
 「はっ……はうん……凄い、いっぱい……」
 「ご主、つらくないか」
 「ううん、ぜんぜんっ。ニノダテが優しくして……んっ」
 会話が中断されたり、ご主の挙動がおかしくなったときは、すぐに動きをとめる。もし抜けと言われれば、迅速にかつ等速に対処する。ニノダテはいつもそう考えており、そのため今も動作をとめた。しかし、ご主の言葉が途切れたのは何か不都合があったからではなく、その逆だった。
 「痛かったか」
 「……気持ちい」
 撓りのある先端が、ご主の尻の敏感なところを掠ったのである。
 「はぁっ、ニノダテたん! ニノダテたぁん!」
 「うっ……ご主、ぅぅっ」
 速度を上げることを催促され、ニノダテはご主に激しく肉塊を突きつける。奥まで潜り込んで、また引き抜く。そのたびに後孔が竿を締め付け、欲しがっているように纏わりついてくる。摩擦のたびに嬌声を上げるご主の、足のあいだで屹立する器官も、びくびくと震え先走りを垂らして袋から鼠蹊部を伝い結合部まで届き、抱擁によって腹を密着させるとその熱と湿り気が甚平ごしに伝わってくる。
 ニノダテは手でご主の器官を擦ることはしない。万が一、指の鱗で先端なんかを傷つけてしまっては、申し訳が立たないと考えているからだ。ご主もそんなニノダテの気持ちを慮り、ムリなお願いをすることはない。ただ、入れられているときに自分で自分のをいじるのはちょっとさみしいので、その腹部になすりつけることを許させた。そのときにはご主がニノダテの甚平を捲り上げて、四角い凸凹をめいっぱい堪能するのだ。抱きしめられるたび、滑らかな鱗に透明な線を残す。とはいえ、最後に至るときにはどうしても自分の指の助けが必要になる。達する刺激には、すこし圧力が足りないからだ。
 「んっ、んっ!」
 「んん……ご主、そろそろか……」
 「うんっ、ニノダテたん、来てぇっ!」
 ご主の細い指が器官に伸びた。恥ずかしげもなく先端の膨らみをこすり、前液を絡ませ、尻と同調させるようなリズムで自らを弄る。それに合わせてニノダテの肉塊を締め付ける内奥にもさらなる脈動が生じ、ときおりきゅっと切なく締まるのがたまらない。ニノダテは往復をぎりぎりまで速める。自分が交接の快楽に従い、思うままに動こうとしてしまう、その速度の直前まで。それをもし越えてしまったら、もうご主の声が聞こえなくなるから。
 「はぅっ……ふぁ! ニノダテたん!」
 腹の上に、さらに熱い粘液が降りかかる。ご主の指のあいだから解放された欲望が、同じ色の皮革に打ちつけられ、合間の浅い溝を伝っていく。射精の律動とともに、ニノダテを締め付けている肉壁も波打ち、まるで減らしてしまった分を補給してほしいように蠕動する。
 ご主が達したことを、外の放出と中の収縮で確認してから、ニノダテは二、三度浅く差し込んでは抜き、自らを昂ぶらせる。
 「んっ」
 そして、愛しい相手を最奥まで貫き、ぎゅっと抱きしめた。肉塊を震え上がらせて注ぎ込む。よりいっそう膨らんだ器官は、びゅくびゅくと白濁の粘液を、肉壁に叩きつけるように噴出した。
 体の中で弾ける熱に、ご主は嬉しさでいっぱいになる。
 「あつ……ニノダテたんの、いっぱい……」
 さっきご主が出した分の10倍くらいの量を補填し、ニノダテは自らを引き抜く。真っ白い粘液がまだ萎えない肉塊を伝って流れ、ぽたぽたと甚平を濡らしていった。

 互いの乱れた呼吸が落ち着いてきたころ、ご主はニノダテの胡坐から降り、その太腿を枕にして横たわった。
 「ニノダテたん愛してるよー」
 「私も、愛している」
 仲睦まじさに互いの目を細め、ニノダテはご主の頭に手を伸ばす。するとご主は、白くぬちゃぬちゃになっている切れ込みに指を伸ばし、さっきまで自分の中にあった肉塊の根元、そのよりシッポの付け根に近いところを丹念に撫ではじめた。甘い刺激に声を上げるニノダテ。
 「ご主……ソコは」
 「ニノダテたん、もっかいしようよっ」
 心地良い性感と誘惑に、切れ込みからもうひとつの肉塊が顔を出した。しばらく愛撫を続けられ、上のと同じくらいの大きさになって、縦に並ぶ。
 「ニノダテたんの下のオチンチンとも、気持ちよくなりたいから」

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