菱餅の寝起きは悪い。
1つ目の目覚まし時計を止めて、お布団の中で体勢を入れ替えようとしたときに、肌に触れる布地の感触がいつもと違うのに気が付いた。素っ裸である。眠っているまに寝巻が脱げてしまったのかと、ありえなさそうなシミュレーションをしていると、隣であどけない顔のアーウィンが眠っていた。
全部思い出した。
顔面蒼白、ブランケットをまくって起き上がろうとしたけれど、まだ夢の中にいるだろう灰色の獣を気遣って、落ち着きを取り戻すためひとまず寝返る。指折りして数えられるくらいの往復で果ててしまったこと。その先の記憶はさっきの目覚ましの音に直結している。つまり射精後、そのまま寝入ってしまったということだ。
「んあ」
またである。相手に気持ち良くなってほしくて始めたことなのに、自分だけ達してしまう。最初に2匹でしたときは、うまくいかなくて、それでも許してもらえたけど。今回は、ダメかもしれない。耳を垂れさせ、悲嘆にぎゅっと目を閉じる。
「ん」
傍ら甘たるい声で、アーウィンが目を覚ました。上体を起こしてブランケットが持ち上がると、はっとした菱餅が体をねじってこちらを向いた。視線が合う。
考えている。眠たげなアーウィンが菱餅の顔を見て考えている。逐一思い出している。そして目がひときわ大きく開いて、
「もうちょっと」
淡々と。
「欲しかった」
述べた。
ひゅるひゅると菱餅が萎む。
「ご、ごめ、……ゴメン、って謝っても、えーと」
「次は、もっとしてくれる?」
尋ねられた。好奇心と、熱情の籠もった瞳。揺れるギザ耳。物欲しげな様子が、なんだか求めている行為と比べて幼い気がして、よけいに興奮する。
「う、うん、オレ、まだ弱くて、アーウィンのこと、ちゃんと気持ちよくしてあげられないかもだけど、がんばるから。オレ、アーウィンのこと」
「好き」
伝えたい言葉を遮られて。
「俺も、菱餅のこと、好き」
伝えていない告白に同意される。ひくん、と鼻が動く。アーウィンの匂い。好きと言われたこと。その表情はいつもみたいにあまり起伏がないけれど、幽かな笑みが嗅ぎ取れる。
「アーウィン、アーウィンッ、アーウィンッ」
そのままぎゅっと抱きしめれば、首筋をちろりと舐められた。
「ちゃんと、前より、長持ちしてる。効いてる、みたい」
「あうー」
そういう慰めはある種の辱めだ。ああ、肩の上にアーウィンの顔があるせいで見えないけれど、タブン今、彼はそういうときの「してやったり」な笑顔をしているのだろう。
「今日は、昼、ナシでいい」
「ほ、ホントに?」
シャワールームでの会話。そういえば、いつもみたいに朝一の催促がなかった。湯を浴びながら、貪欲ではない相手に拍子抜けする。
「中、じっくり味わえたから、けっこう満腹」
「あうあう」
恥ずかしい。そんな、ゴハンみたいに言われると。
「精液の量、ちゃんと多くなってる。ナシゴレンのゴハンのおかげ」
「あうあうあう」
さらに赤面。それはきっと、「初めて」っていうスパイスが効いてたこともあるのだろう。