今日読むつもりだった頁まで目を通したオカルト本を閉じると、菱餅はナシゴレンを残し帰路に就いた。寮住まいのため、学庵からさほど遠くない寄宿舎まで歩いてゆく。
校門を抜けたところで、少し先をアーウィンが歩いていくのが見えた。街のほうに向かっているらしい。近寄って声をかけようか、しかし迷惑がられたらイヤだなぁ、とモヤモヤした気持ちを抱えつつ、離れたところから付いてゆく。つけ回しているといってもいい。
いくつかの曲がり角を抜けて、アーウィンと菱餅の視界の先に現れたのは、暖簾に染め抜かれた文字が眩しい「褌屋『禅』」。ややあって片方の歩みが止まる。なにを隠そう、そこはクラスメイトの高峰禅裸が切り盛りしている店だ。
さて、菱餅は禅裸がニガテである。言葉を選ばなくていいのならばキライなのだろう、と認識している。勉強より運動が好き。クラス内では人気も人望もある。性格は豪気でいい加減で勢い任せ。自分と正反対の素質と気質を持っている相手に、嫉妬混じりの嫌悪感を覚えている。クラス内で会話を交わすことはほとんどない。
はたして、どうしたものかとためらっていると、アーウィンはすたすたと建物の裏手に回ってしまった。見失っては困ると慌てて追いかけるも、すでにその愛しい姿は見つからず。短時間で姿を眩ますことのできるような場所が、この近くにあることは間違いないのに。
「うあ」
しかしここで足を止めていては仕方ない。手掛かりはこの場所付近であるということだけ。それならば、詳しい者に尋ねるのがいちばんだろう。
「いらっしゃー、おお、菱餅さん」
「あ、うん」
付き合いというものがけして得意ではない菱餅が、勇気を振り絞って暖簾をくぐると、陽気なクラスメイトに声をかけられた。店内に他の客が皆無だったことが救いだ。目立つのは好きじゃない。
「来るのは初めてだろ、見立ててやろうか」
「え、あ」
言葉を濁しているあいだに更衣室に連れこまれる。土足厳禁だと思い靴を脱ぐと、巻き尺を手にした高峰が菱餅の腰に手を添えてきた。
「細いなぁ、それじゃ脱いでいいぜ」
「あ、あの、違う」
「違うって言われても、初回はちゃんと計っておかないとサイズわかんないぞ」
「そうじゃなくて、聞きたいことがあって」
「色とか形とかはあとから説明してやるから」
「違うよっ!」
つい語気を荒立ててしまった。怪訝な顔をしていた禅裸だが、ややあって口元を緩めて笑う。
「なんだ、俺のサイズが聞きたいのか、俺のは」
そして脱ぎ始めた。
「違う違う違う、聞いてない聞いてない」
「聞かなくても触ったほうが一発だもんな、参考にしてくれ」
「触らないし参考にしないっ、オレが訊きたいのはこの店の裏の」
「裏」
目の色が変わる。禅裸の瞳に淫靡な光が宿り、口元がにやついた。
「なるほど、そのためのおめかしか。いいぜ、ぴったりなの選んでやる」
「オレっ、オレじゃなくて、アーウィンさんが」
「ああ? アーウィンだって」
また驚いて、禅裸が首を傾げた。
「訊きたいのはっ、さっきアーウィンさんがこの店の裏手で消えちゃってっ、どこに行ったのか教えてほしいんだ」
吐き出すようになんとか要件を伝えると、赤銅色の竜人はやっと、この菱形耳尻尾が褌を求めてやってきたのでないと得心した。それから、コトを教えていいものかどうか迷っているときの独特のトーンで、話し始める。
「そりゃあ、えーと、うーん。そういうのは直接訊いたほうがいいんじゃないのか」
「だって、今日この近くに来るのを初めて見たんだし、そもそもどこに行ったのかがわからない。だから、このあたりで出入り口の目立ちにくい店があったら教えてほしい」
「目立ちにくい、か」
躊躇があったのか、しばし手を頭に当てて悩んでから、高峰はレジに向かう。小さな紙切れを1枚持ってきて、差し出した。
「共通のお得意様が多いから、お互いの店のチラシを、それぞれ置いてるんだけどな」
面喰らいつつ、高峰にありがとうとうわの空で伝えてから、菱餅は広告を手に店の裏側へ回る。住所は「褌屋『禅』」と同じ、ただし地下1階。改めて辺りを捜索すれば、「会員制」と書かれた扉が見つかった。和風なたたずまいの褌屋とはぜんぜん違う、重苦しい金属製の扉。手元を見れば、菱餅の今立っている地点が入口だと示している地図、それとカレンダー。今日は複数乱交デー。クルージングスペース、と銘打たれたその場所は、菱餅が想像さえしなかった、秘密の楽園だった。
「んぅっ、ぬぅっ」
「アーちゃん、今日もアレかい、例のセンパイ」
「そう」
律儀にブツから口を離して答えると、再度咥えて吸い上げる。
「そんな欲求不満な、相手なら、切っちゃえばいいのに」
背後から打ちつけられる肉棒に反応して、太腿が痙攣する。
「大きさと量がハンパないからヤミツキなんだって? 俺たちじゃだめかぁ」
「テクニックじゃ負けてないぜ、どうだ」
「そうでもない」
唾液と先走りの混ざった、透明な橋が、アーウィンのマズルと剣歯虎の獣人のブツを伝う。
「くーっ、厳しいなぁ、これでも研究して、るん、だぜっ」
3回リズミカルに押しこんで、それからねじるように腰を動かす。アーウィンの中に収められた、麒麟の獣人の硬く熱い肉棒が、ぐりぐりと前立腺を攻め立てる。
「好くしてやるよ」
アーウィンの腹の下に潜り込んで、さっきの刺激で先走りを垂らしたその軸を舐めとり、そのままむしゃぶりつく。牙の硬い感触が鼠蹊部に当たった。目の前にそそり立つ虎の欲望を咥えれば、シックスナインの体勢ができあがる。
膨らんだ玉袋に指を這わせ、焦らすように転がしたり、竿を口中にすりつけたかと思えば舌で優しく撫でたり。緩急のある攻めに目の前のブツは辛抱たまらないといった様子で淫液を溢れさせる。下腹部に挿入しているほうも、押しこもうとすれば腰を引かれ、高速往復を企んでは締め付けに屈して動けなくなり、内部を味わいつくそうとするも思い通りにいかず、もどかしい快楽に弄ばれているというていである。2匹がかりで落としてやろうと思った灰色の獣、その性技に圧倒されながら、それでもなんとか刺激を加えて優位に立とうと、虎の指が胸の突起をまさぐり、麒麟の指がゆるく勃った軸に絡むも、それほどアーウィンは感じていない。冗長な2人分の愛撫でようやく気持ち良くなってきたところで、前後の欲望を解き放つため、仕上げにかかる。軽く咬み、腰を揺らす。
「うっ、ううっ」
「うわぁぁっ」
どくん、と体の両端で体積が跳ねた。口中を満たす白濁の粘液を、送りこまれるたびに嚥下しつつ、射精に合わせて吸い尽くす。もう片方、下腹部に送りこまれる奔流も、きっちり出し尽くさせるために腰を前後して催促する。アーウィンの腰を押さえて、ゆっくり注ぎ込んでやろうと思っていた麒麟が、快楽に流され手の力を緩めたとたん、ピストン運動で肉棒を絞り取られたのだからたまらない。情けない声を挙げて、数回に分けて溜まっていたすべてを放出した。剣歯虎も、細管を流れる粘液の制御をアーウィンに受け渡し、意思とは無関係に射精する自らの器官から頭に突き抜ける快楽に目を回して、ようやく解放されたときには両者へとへとになって倒れこんでしまった。
「それじゃまた」
仰向けになった2匹の萎えた肉棒にちらりと目をやって、アーウィンは次の相手を物色するために移動する。