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しめぶりまほうつかいちらりん#06

▽#06「いせいよくなのりをあげる」

▼Aパート

 「ごーまー!」
「けもー」
「けもー」
「もけー?」
 おまもり山にある洞窟へ入り、地下深くに潜ると、そこは秘密結社「悪の組織胡麻煎餅」の本部であり、支部はとくにない。合言葉は「ごーまー」であるが、戦闘員けものたちは「け」と「も」と「の」としか鳴けないので言えない。
「しめぶりまほうつかいめー!」
 集会場で呻いたのは、種族不明のフード被り。頭を抱えつつ、そわそわ右に行ったり左に行ったり。
 壁一面を埋め尽くす巨大スクリーンに、しめぶりまほうつかいちらりんの姿が映し出されている。こないだの、はやくんに陰部を弄られているシーン。
「すぽゆにまほうつかいはやくんと共倒れになるかと思ったが、しつこいヤツめ」
 シロップと先走りでねとねとになったちらりんの屹立を大映しにする。戦闘員けものたちはおもちゃ箱の中身を浚っている。
「すくみずまほうつかいちみたんなる加勢まで現れおって」
 今度はボックス型スクール水着の股間に寄っていく。戦闘員けものたちは積み木を始めた。
「まとめて血まつ……こほん。やっつけてくれるわー!」
 残虐な言葉を避け、演説を締めくくる総統。戦闘員けものたちはお城と城下町を作った。

 総統のありがたいお話が終わった後の、控室。戦闘員けものたちは世話係から煎餅を振舞われている。
 「……今日は、『はっぱ』の薄焼き胡麻煎餅」
「けもー!」
「けもー!」
「もけー?」
 まとめ売り用の一斗缶からトングを用いて手渡され、輪になって座りぱりぽり食べる、十数匹のけものたち。世話係の淹れた緑茶といっしょに、おやつを嗜む。 
 そんな控室の小上がりには、畳にちゃぶ台。飾り棚には歴代総統の肖像画らしきものが乗せられている。煎餅の代わりに、黒砂糖と小豆の二層羊羹が小皿に乗せられており、1組の湯呑みから湯気が立つ。
 向かい合わせに座るのは、幾何学系黒ドラゴン、ラス・トボスと、同じく白ドラゴン、カク・シボス。
 「出番来ないな」
「……うん」
「再来週くらいだろうか」
「さ、最後の1話くらいでいいよ」
「カクは照れ屋だから、もう少しカメラに慣れたほうがいい」
 淡々と話すラスが、緑茶を啜る。
「い、いいよぼくは。ラスがやっつけてくれれば」
 羊羹を飲み込んでから拒絶する、逃げ腰のカク。
「その羊羹は、俸禄だ。働かなければ食べていけない」
「ぅ」
 ドラゴン2匹と戦闘員けものたちは、総統に3ヶ月契約で雇われている。給与におやつと社宅がついてくる。

 キリン獣人、七味箪笥は水泳研究会に属している。
 放課後の練習を終え、更衣室で水着とサポーターを脱ぐ。筋肉質というわけでもないが、日々の鍛練のおかげで少しずつ形作られるカラダ、そぎ落とされていく贅肉。育っていく端整な輪郭にキリン柄の毛皮を纏い、房のついたシッポを縦に振る。
 無防備な格好でロッカーをまさぐり、パンツを取り出そうとしているところに、ふよふよと飛んでくる影。
 「七味」
「うわぁぁぁ!?」
 急に名前を呼ばれて、可愛らしい驚きの声とともに七味の身体が跳ね上がる。素っ裸のまま声のするほうを向けば、こないだ知り合った、鰻マスコットのキネドーが中空にてビクついていた。
「びっくりした」
「ぼ、僕も。キネドーさん、来てたんだ」
「うむ」
 濃灰色の背に白色の腹。耳まで覆う水球用帽子と、水泳研の七味とは生地がちょっと違う水着。腰から流れる尾鰭が宙を泳ぐ。サーフボードは救命用なので長くて広い。
「着替は済んだのか」
「うん、今から帰るとこ。あ、キネドーさんもいっしょに帰ろ? おいしいクレープのお店があるの」
 へにゃーん、とクレープみたいな笑みで、箪笥はネドくんを誘う。バツが悪そうにそっぽ向く鰻。
「俺が七味箪笥の前に現れたということは、プールを守るため変身し戦う必要がある、ということだ。残念だが、クレープは今度」
「あ、そっか。キネドーさんマスコットだもんね」
「そして七味箪笥は、まほうのスイムサポーターを使ってすくみずまほうつかいになる」
「急がなきゃ、ダメかな」
「ダメではないが、急がないとダメということにしておく」
「そっかぁ、それじゃぁ、クレープは今度だね。でもお腹空いちゃうよー」
 激しい練習の後である。カロリー不足を嘆く七味。
「……俺が買ってくるから、七味は変身しておいてくれ」
「ホント!? えへへ、うれしいなぁ。イチゴ生クリームね」
「御意。……クーポン?」
 受け渡された紙片2枚を手にして、箪笥に確認するネドくん。
「とってもおいしいから、ネドくんにも食べてほしくて。1枚はネドくんの分」
 へにゃーん、とクレープみたいに笑うので、キネドーも慣れない愛想笑いでぎこちなく、感謝の意を告げる。

 まほうのスイムサポーターを受け渡し、飛んでいくネドさんを更衣室から見送る七味。
「さてと。ここで変身、……って、えええ」
 かああ。いまさら気がついて赤面する。ネドくんが戻ってくるまでに、学庵の更衣室内で、スイムサポーターに射精するハメになってしまった。
「ま、まだ先輩たち、練習してるのに……うう、いったん帰ればよかった」
 都合良くも、着替えの途中で素っ裸。手早く達してしまおうと、ベンチにタオルを敷いて座る。
 ヒトの気配に注意を払いつつ、行為を始める。足を開けば、しんなりした筒と袋が目につく。
「んっ」
 ほんのり湿ったおちんちんの毛皮に、指を添えて。皮といっしょに上下させる。
「んっ、はぁっ」
 横目でプール側の扉の挙動を探り、誰か来たらすぐにやめられるように。そのうち、先端がじわりと熱くなって、皮と肉棒のあいだに潤滑液が流れ、くちゅくちゅと音を立て始めた。
「んっ、声、ダメっ……」
 ひとりでにいかがわしい鳴き声が挙がってしまうのを防ぐため、ロッカーから帽子を取り出し、マズルに挟む。軽く噛むと、じわり広がる塩素の風味。
「んっ、んっ。んぅっ」
 固くなった器官を愛おしみ、なるべく音が漏れないように手の中に包んで、ゆるゆると刺激を続ける。少し前に、自称まほうつかいに押し倒され、口中に含まれたあの初めての感触を思い出しながら、単純な上下運動を繰り返す。涙目になって、こないだ覚えたばかりの行為に陶酔する。
「ぅくっ……」
 痙攣したおちんちんから、びゅくびゅくと白い粘液が吹き上がる。限界を迎えた七味は、熱を帯びた自身が自分の臍を指すように支え、また上体を前に傾けることで、影響範囲を最小限に狭めた。それでも、元来量が多めな七味の射精は、長さのある陰茎であることも手伝い、胸のあたりから腹筋、太股から零れてベンチのタオルにまで、その濃いめのエキスを振りまいた。
「うー。まほうつかい、たいへん。あのコも忙しそうだったし」
 放出の余韻に浸る暇もなく、体中のべっとりした証をまほうのスイムサポーターで拭きとり、とっぷりと染みこませてから着用する。それから、タオルを片付け、すーはすーはと呼気を整え、呪文を唱える。
「アルゴンカリウムカルシウム!」
 何も起きない。変身用BGMがかからなければ、まほうつかいはヘンシンできない。

 紙袋を抱えて戻ってきたネドくんの唄に合わせてもっかい、衣装替え。
 降ってきた紺色のボックス型スクール水着を穿き、サポーターとの位置関係が気になってわたわた直すうちに、ぽふん、と頭の上にビート板が当たる。
「しっぱい」
 気を取り直し、道具を拾って、決めポーズ。
「すくみずまほうつかいちみたん!」

▼Bパート

 スク水穿いた魔法使いは空を飛ぶ。口の周りを生クリームでぺとぺとにしながら。
「フルーツ1種類のがシンプルで好き。ネドくんは?」
「カフェゼリー生クリーム」
「ニガいの?」
「ニガいゼリーと甘い生クリームのコラボがなかなか」
「えへへ、おいしいよねー」
 並んで飛ぶネドくんの口の周りも適宜ぺとぺとである。
「ちみたんー」
 そこへ下から追いついてきた、しめぶりまほうつかいちらりんと相方のセンちゃん。
「ちらりん! こんにちはー」
 最後のひとかけらをぺろりと平らげて、ちみたんが挨拶する。
「何か食べてたの?」
「うん」
 ネドくんが差し出したティッシュで、口の周りを拭うちみたん。
「あ、いいの?」
「処分しておく」
 クリーム塗れの使用済ティッシュをちみたんから受け取り、水球用水着の中にしまうネドくん。
「あのね、おいしいクレープ屋さんができたの! ちらりんさんも今度いっしょに」
「到着した」
 話半ばで、センちゃんが到着を告げる。今日の舞台は、遊園地のイベント広場である。

 「来たね、ちんちん」
「ちんちん!?」
 2匹の声がシンクロする。地上に降り立ったとたん、見慣れた宿敵、すぽゆにまほうつかいはやくんから投げかけられたのは、そんな淫語。
「ちらりんと、ちみたん。2匹併せてちんちん」
「やっ」
「やめてください、そんなの」
「ぴったりじゃない、ちんちんあってのものだねだよ。君らも、俺も」
 びゅるる、とバトンで風を巻き起こし、はやくんが告げる。
「2匹まとめて、かかってきていいよ。あ、登場シーンがまだだったか」
 余裕の構え。
「しめぶりまほうつかいちらりん!」
「すくみずまほうつかいちみたん!」
「併せてちんち」
「じゃない!」
「じゃないもん!」
 2匹の声に中断される、はやくんの合いの手。
「まぁ、いいけど。すぽゆにまほうつかいはやくん、出撃だね。それっ」
「うー。くれーむぶりゅれ!」
「プールで拾う多面体あたーっく!」
 はやくんの突風と、ちらりんが器ごと放ったお菓子と、ちみたんのカラフルな散弾が、
「まほうつかいどもめー……あががががが」
 広場の真ん中に突如現れた、謎の影にちょうど全部当たった。
「不意打ちとは上等な」
「だ、だって急に出てくるから」
「まぁよいわ。けものたち!」
「けもー!」
「けもー!」
 そのあたりの遊具で遊んでいたけものたちが寄ってきた。
「けも!」
「けもー」
「もけけもー」
 多面体を拾っている。
「けものたちよ、いまこそ悪の巨龍を召喚し、まほうつかいどもを一網打尽にしてくれるのだ!」
「けもー!」
「もけー?」
「けもー」
 1匹のけものが、拾った棒切れで地面に大きな丸を描いた。
「うむ」
 ほかのけものたちは、集めた多面体をひとまとめにしてビニール袋に入れ、フード装備のヒトに託した。それから、
「けもけもー」
「けもけもー」
 輪になって集まったり広がったり、かと思えば点在して手を振ったりと、踊るけものたち。
「けもー!」
「けもー!」
「けもー!」
 今度は3匹1組に並んで立ち、手を繋いで左右に広がる。組体操の扇である。
 しばし停止。
 点在するけものたちの真上に魔法陣が描かれたかと思えば、ぴりぴりとマンガみたいな可視電撃を纏う。その中心からじょじょに姿を現す、黒い竜。
「な、なんかすごい」
「かっこいい」
「たいくつ」
 暇潰しに小さな竜巻を作っては、コマのようにぶつけあうはやくん。
「クレープ食べに行こうよ、はやくん」
 ふよふよと宙を浮いていたリスカルが、スポユニの耳元に囁いた。手には「期間限定フルーツカクテル」のチラシ。
「そうだね、しばらく催し物は終わりそうもないし、ちんちんも遊んでくれなさそうだし」
 謎の展開に釘づけとなっている2匹を置いて、はやくんが早々に戦線離脱した。

 そのうち、黒い竜の全身があらわになる。幾何学系のデザインで固めた、シャープな頭部と首、しなやかな体躯にシッポ。手足にはツメ、あと各所にツノとトゲとギザギザと、
「……けものたち。召喚の儀が終わったら、陣の外に出ていないと危ない」
「けもー!」
 反響がかった声で促すと、けものたちは慌てて陣形を崩し、ばらばらと離れていく。
「もけー?」
 状況が把握できずに留まり首を傾げている数匹のけものを、前足で掴んでは除けていく。
「けもー」
「けもー」
「けもー」
 それから、改めて陣のなかに誰も残っていないことを確認し、ゆっくり着地する。砂埃が軽く舞い、
「我は、黒竜ラス・トボス。託された使命はまほうつかいの殲滅である」
 自己紹介。
「僕はしめぶりまほうつかいちらりん。使命は街の平和を守ること」
「ボクはすくみずまほうつかいちみたん。使命はプールをたくさん作ること」
「ふむ。2匹併せてちんち……いや、なんでもない」
 さっきのはやくんと同じフレーズを思いついてしまったらしい。顔を背けて赤くなる黒竜。
「そちらの2匹は、まほうつかいではないのか」
 向き直り、視線を向けた先。
「ちらりんの相方、センちゃん」
「ちみたんの相方、キネドー」
 マスコットも自己紹介。
「まほうつかいの相方を殲滅することは、契約には含まれていなかった。もっとも、邪魔立てするようならば容赦はできない」
 牙を剥き、紅い目で鋭く睨みつける。
「離れていることをお勧めする」
 息を吸うモーション。マズルの周りにいくつもの光の輪が発生する。次の瞬間、吐き出されるのは焔か光線か、ともあれ避けておくべき代物だろう。
「ちらりん、こっち」
「ちみたん、逃げるぞ」
 それぞれのパートナーが、まほうつかいに逃げるよう促す。
「さあ、黒竜ラス・トボス! そのまほうつかいどもの着衣をひっぺがしてしまうのだ!」
 右手で指差し、左手を腰に、声高々と命令するフード。
「え」
「え」
 困惑するちんちん。
「……え」
 きゅぃぃん、と光の輪っかをしまい、疑念を覚える黒竜。真紅の瞳をしばたたかせ、視線を翻す。
「総統。まほうつかいたちの服を脱がすように命令されたと見受けられるが」
「その通り!」
「契約書には殲滅とあったが」
「そんな血腥、こほん。生易しい扱いでは、我ら積年の恨みは果たされぬ!」
 後半、振り上げた拳に力の入る総統と、きょとんとしたラス。
「積年、ねぇ」
「半年くらいだよねー」
 バナナ生クリームにかぶりつくはやくんと、期間限定フルーツカクテルを満喫するリスカルが戻ってきて、ベンチに腰かけた。
「魔力の源である変身用アイテムを奪い、さらに公共の空間で裸体を晒させ辱めとする。まさにわるものてんぷれ!」
「御意」
 あまり気の進まない様子で、ラス・トボスは上昇する。間髪入れず斜めに滑空し、手近なしめぶりまほうつかいちらりんを標的に定め急接近。
「わああ!」
「ちらりん!」
 驚いたちらりんは、体勢を崩し腹這いになってしまう。その背に圧しかかる黒竜の前肢。
「動くな。動けばこのちらりんなるしめぶりまほうつかいを潰す」
 紅い瞳がちみたん、センちゃん、キネドー、はやくん、リスカルを巡り、また戻る。言葉を紡ぐ。
「すくみずまほうつかいちみたん。その水着とスイムサポーターを脱いで、こちらに寄越すがよい。そうすれば痛い真似はしない」
「そ、そんなあ」
「おー、いかにもわるものっぽい」
「ほんものっぽい」
 困惑するちみたんと、ラスの挙動を褒めている口調のはやくんにリスカル。
「ネ、ネドくん、どうしよう」
「悔しいが、従うしかない」
 やるせなさに俯くキネドー。
「まほうは解けてしまうし、ちみたんの正体がちらりんにバレてしまう」
「でも、ちらりんが踏まれちゃう」
 羞恥に苛まれながらも、腰の水着に手をかける。
「待つがよい」
「え」
 毛皮を赤面させたキリン少年を、黒竜が制止する。
「……けものたちがいる」
「けもけもー」
「もけもけー」
「けももけー」
 視界の端には、けもの踊りを練習するけものたち。喜びの踊りらしい。勝ったあとに踊りたいらしい。
「総統。すまないが、けものたちを連れ帰ってほしい。戦果はのちほどお伝えする」
「ふはははははは! 黒竜ラス・トボスよ、よい知らせを期待しているぞ!」
「御意」
「もけー?」
「さあ帰るぞけものたち」
「のののー」
「ののののー」
 帰りたくないらしい。
「のののー」
「ののののー」
 2、3匹がラスの体にひっつくと、残りの獣たちもそれに続く。鈴生りである。黒竜は嘆息し、告げた。
「けものたち。一足先に帰って、煎餅を食べるとよい」
「もけもけ!」
「もけもけ!」
「もけもけけー!」
 竜よりも煎餅が好きなけものたちは、1匹残らず総統についていき、長い列を作る。
「ふははははははははは!」
 総統の高笑いとともに、けものたちは去って行った。
「……待たせた。ちみたん、ちらりん」
「あ、うん」
「ま、待ってない! うー、ぐー」
 けものたちの挙動に見とれていたちらりんが、いまさら思い出したように重圧から抜け出そうともがく。
「無理に動くと、そのエプロンが破れてしまうし、素肌に傷がつく。おとなしく、ちみたんの脱衣を見守っているとよい」
「ち、ちみたん」
「あの、恥ずかしいから、見ないでね、ちらりん」
「う、うん」
 センちゃんが近くまで飛んでいき、ちらりんの視界をその体で覆う。
「まほうつかいにとって、元の姿を知られてしまうのはあまり望ましくない。見ないでいてやれ、ちらりん」
「うん。でもこのままじゃ、ちみたんの変身が解けちゃう」
「それ自体は、構わない。誰かに見られない限り」
「そうなの?」
「うん。あと、まほうのスイムサポーターが敵方に持ち去られたとしても、スペアは幾らかある」
「そっか。それじゃ僕が知らないふりをしていればいいんだね」
「おそらく、総統と呼ばれたあのわるものは、まほうつかいの倒し方を知らない」
「倒し方? 僕も知らない」
「変身用アイテムの強奪はあくまで羞恥を煽るだけ。次はもう片足でちみたんを踏みつけ、ちみたんをだしにちらりんを脱がせ、そして裸の2匹を往来に並べるつもりだろう。それは負けではない」
「負けてないけどヤダよー」
「ヒドいことを考えるものだな」
 イヤイヤするしめぶりまほうつかいと、あきれるラス・トボス。
「我々はあくまでまほうつかいを殲滅するのが使命。それは物理的消滅でもかまわないが、できれば変身解除というかたちをとりたい」
「うむ」
「教えてくれないか?」
「わるものがマスコットに訊いてはいけない」
「それは、そうか。悪かった」
 黒竜が黒山羊に謝った。
「それでは、我は総統の命令に従うしかない。たとい2匹分の変身用アイテムを持ち帰っても詮無し、としても」

 「で、俺のサポーターはどうやって脱がすのさ?」
 一旋。巨大な風量がトボスの足首を掬う。巨体がわずかにぐらつき、ちらりんにかかる圧力がなくなったところで、別の小さな竜巻がちらりんを斜め上に運び、ドラゴンの足元から抜け出させた。
「うぐ」
 どすん、と足を踏み鳴らし、トボスが体を安定させる。
 ちらりんの体躯はいったんふわりと上空へ、そして横抱きの姿勢ではやくんの腕の中へ。
「おかえり、ちらりん」
「ありがとう、はやくん。かっこいい」
 助けられたことに感謝し、その勇姿に感動するちらりん。
「ぬかった」
 ギリギリと奥歯を咬むトボス。
「いったん停戦、ってやつだね。はやくんとちらりんで腹チラ、ってのはどうだろう」
「“ら”が多いからだめー」
「あそ」
 言葉遊びをリスカルに咎められ、苦笑するはやくん。
「ドラゴンを相手にするのは初めてだけど、なんとかするよ」
「すぽゆにまほうつかいはやくん。ちんちんの敵ではないのか」
「俺はちんちんと敵対するつもりはないよ」
「しかし、我の敵であるちらりんを助けたということは、我の敵」
「そうかも」
「うむ。風使いか」
「あー、それそれ。そう呼ばれてみたかった」
 ぐるんぐるんとバトンを振って、はやくんはようやくノってきたようだ。

「ラス!」
 と思ったら、中空に浮いたままだった魔法陣から、白ドラゴンが顔を出した。
「お茶の時間だよ」
「そうか」
 頷いた黒ドラゴンの周りに、ばちばちと可視電撃。
「今日のところは、帰るとする。まほうつかいをまほうつかいたらしめない方法に関する情報が足りない」
 ふわり魔法陣の向こうに飛ぶ。シッポまで残すことなく立ち消えると、魔法陣も雷撃も色を薄くして消え、いつもの遊園地に戻った。
「ちらりんー」
「あ、ちみたん」
 忘れていた。すくみずまほうつかいちみたんは、水着脱衣の最中だった。
「だいじょうぶ?」
「うん。いっかい脱いで変身解けちゃったけど、はやくんの大技のどさくさにもっかい着たの」
「そっか」
 けっきょく、ちみたんの正体は誰にも知られずに済んだのである。
「かーえろ」
「帰ろー。ちらりんにセンちゃん、ちみたんにネドくん、またねー」
 そしてはやくんとリスカルは飛び去っていった。
「僕たちも帰ろうか」
「うん」
 夕焼けのイベント広場をあとにして、まほうつかいたちが帰路に就く。
「動いたらおナカすいたね。クレープ食べてこっか」
「ちみたん、甘いの好きなんだね」
「しょっぱいのもあるよー。コロッケとかソーセージとか包むの」

▼次回予告

 謎が謎を呼びー、さらなる謎が煎餅を呼ぶー。「謎の組織胡麻煎餅」の目的は何なのかー。そしてこれまで敵のようだったはやくんとの仲はどうなってしまうのかー。次回「みずぎかいがいみをなさない」お楽しみにー。

▼Cパート

 ネドくんの水球用水着は、マスコットにとって道具入れとなっている。ふしぎな収納機能により、どんなに巨大で凸凹なものを入れていても、履き心地に影響はない。なお、センちゃんの場合はボクサーブリーフがその役目を果たす。
 着替えを終えたネドくんがもとの姿に戻り、水着を革めていると、ちみたんが口周りを拭いたティッシュが出てきた。中身は生クリーム。
 「……」
 なんだか、処理後のそれみたいだな、などと考え、その考えに赤面し、ネドくんはくしゃくしゃをゴミ箱に捨てた。

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