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しめぶりまほうつかいちらりん#03

▽#03「さきばしってうけわたしてまわす」

▼Aパート
 空中に響く紙雷管の音。舞う砂埃。体育会系の研究会が日替わりで使用する八獣学庵の汎用グラウンド、今日は陸上関係です。
 「くすぐったいよ、ハヤク」
「感じさせてるんじゃないか」
 そしてこちらは更衣室。着たり脱いだり脱がせ合ったりする場所です。重なる2匹。見つめあう瞳。ひとときのロマンス。肌に貼りつく練習着のまま、ちちくりあう陸上選手たち。
 そのとき、ピピピと電子音。リスカの持っている、携帯液晶格闘育成恋愛エアリアル万歩計型バイオメトリクス簡易認識端末が反応しているのだ。
「あ」
「あ」
 そそくさと体を翻して、ロッカーに近づいて鞄を探るリスカ。かたや額から後頭部に向かって毛並みに指を通し、期待外れと予想通りの入り混じった仕草をするハヤク。
「呼ばれた」
「呼ばれたな」
「ごめんハヤク、また今度ー」
 荷物を手早くまとめながらそう言い残し、リスカはさっさと更衣室を出て行った。こんなお預けももう慣れたもので、熱っぽくなった下半身の一部と携帯電話を持て余してしばし待つ。もう15分もすれば連絡が来る。すぽゆにまほうつかいはやくんへの出撃依頼だ。

 「ワッフルゴーフルウエハース!」
 いっぽうちらり自宅では変身ポーズの練習真っ最中である。今日書き留めた変身呪文の候補を試してみるため、ノート見ながらひとつひとつ口にして感度をチェックする。とはいえ、センちゃんが提示した基準は「言いやすくて気にいったもの」という根拠のあまりないものだったので、そんなに固くならずにフィーリングを優先する。
「うん、これがしっくりくる」
「適度な長さと文字数、区切りも4・4・5で言いやすい。良いと思う」
「わーい」
センちゃんからのOKに喜ぶちらり。姿見に向かってポーズを決めつついろんな食べ物の名前を叫ぶのはものすごく恥ずかしかったけど、褒めてもらえると嬉しい。
 「第一段階はクリア。第二段階は、じっさいに変身できるか、だな」
 今度は服をすべて脱ぎ、体を布団に横たえる。変身ブリーフをいちど履いてから改めて太腿まで下ろし、自分の軸を弄ることに専念する。気をやる直前にブリーフをひっぱりあげて、うまく体液を布地に浸みこませないといけない。
「ひとりでできるのが基本だから。俺が手伝うのは急なときに限ったほうがいい、頼ろうとすると心に隙が生まれる。と書いてある」
「う、うん」
 仰向けのまま、開いた足に視線を向ける。ぴくぴくと待ちわびるように震える陰茎と、その根元で待機しているような陰嚢。射精のときに頭が追い付かなくなる感覚を懸念しつつ、ちらりは指先をそっと先端に伸ばし、包み込む。
「んくっ、んくっ、んくっ」
 竜人特有の厚手の皮をリズミカルに上下させ、竿を刺激する。すぐに硬度を増した自身が、手のひらを押し返してより強い圧力を求める。こすれて熱くなる性器、いや増す胸の鼓動と呼吸数が耳につく。しばらく続けると、足の付け根に電気のような感触が流れ、下腹部に溜まっていた澱みが破裂しそうになる。
「で、出ちゃうっ」
 乱暴にブリーフを掴むと、上向きにぐいっとひっぱり熱源を包む。屹立した軸と前につっぱった布地をいっしょにもう2、3度力任せに握り締めると、肉棒の中の細い管を粘液質の流体が駆け抜けると同時に、脳天を突き抜ける淫楽に襲われる。びゅくびゅくと吐き出された白い精液が前閉じの赤いラインを濃く染め上げ、数回の痙攣を終えたちらりの体にはドロドロに湿った魔法のブリーフが貼りつき、その中には任務を果たして眠りにつこうとするもまだ戦えるといった戦士のように、ほどよい硬さを保った肉棒が横たわった。
 「3回目の射精、2回目の自慰としては見事だ。うまくコントロールできたな」
こないだは快楽に流されてブリーフが間に合わず、そのままお腹の上に発射してしまった。そのあとセンちゃんに布地を脱がせられ、丁寧に拭き取られたのが恥ずかしくて、次はぜったいちゃんとしようとちらりは心に決めたのだった。
「はぁっ、はぁっ……センちゃんの教え方が上手だからだよ」
「そんなことない。ちらりのがんばりにブリーフが応えてるんだな、と書いてある」
「へへー」
たっぷりと放出したあとの気だるさと虚脱感になんとか耐えて立ち上がると、ちらりは真上に腕を伸ばす。合図だ。
「ワッフルゴーフルウエハース!」
「るるるーるるー」

 変身用BGMを歌い終えたセンちゃんの前には、フライ返しを手に衣装をはためかすしめぶりまほうつかいちらりん。エプロンの隙間から覗くその奥には、しっかりと精液で染め上げた赤いラインの映える、魔法のブリーフが座を占めている。
「えと、次は技の練習を」
じりりりりり。センちゃんの体が震えて音が鳴っている。履いているボクサーブリーフの中に原因があるらしい。
「街の平和が乱されたようだ」
「ええ」
 驚くちらりを尻目に、センちゃんが取り出すはゼンマイ式のキッチンタイマー。
「しめぶりまほうつかいの出番が来そうになると、感応して鳴るようにできている、と書いてある」
「ま、まだ練習途中なのにぃっ」
 こうして2匹は戸締りを確認してから、夕暮れの空に飛んでいく。

▼Bパート

 マスコットの変身はまほうつかいに比べると地味なもので、ポンという音と煙だけ、といったコンパクト仕様だ。さっきも液晶なんとかから連絡を受け、すぽゆにまほうつかいといっしょに現地へ向かうよう促され、通信が切れたらポンだ。そのあと、適当に誰も来なさそうな部屋を選び、ハヤクの携帯電話にメールを送信する。
 「ハヤク、変身ー」
「んー」
 呼ばれたハヤクは乗り気でない。より厳密には、乗り気でない素振りを見せている。
「さっきまで相方といっしょだったんだよね」
「うん」
「ロッカールームでいい雰囲気。手出そうとしてたとこでさ、というか舐めかけ」
「うー」
 感触を思い出したのだろう、小さな耳に手を運び、赤くなって俯く。
「最近行為に及ぼうとするタイミングで呼ばれてない」
と尋ねられたので、
「そ、そんなことない、だってリスカルにはいつ呼ばれるかわからないもん」
 焦って反論する。嘘偽りはないようだ。ハヤクはぐーっと背伸びをし、リスカルから魔法のアンダーサポーターを受け取る。指にひっかけてくるくる回し、それからにいっと笑いかけた。
「魔法のアンダーサポーターには精液が必要。まほうつかいはお預けを喰らって溜まってる。
少しは気の利いたコトしてくれないとマスコット失格だよね」

 小さな体では服を脱がさせることもままならないので、みずから着ていたタンプトップと短パンを脱ぎ捨てる。先端の露出した細めのハヤク自身がぶらさがっている。
「もう萎えちゃったから、固くしてくれないとね」
「恥ずかしいよ」
「べつに恥ずかしがらずに頬張ってくれてもいいよ」
 語尾を上げてにゃはにゃはと邪気なく微笑まれると、何も言えなくなる。リスカルは椅子に凭れたチーターの前にしゃがみこんで、太腿のあいだに顔を寄せた。汗の匂いはだいぶ引いている。さっきの空いた時間にシャワーを浴びたらしい。
 おずおずと舌を伸ばす。ただでさえ体形に合わせてマズルも舌も小さくなっているから、舐めあげようとすると鼻がこすれたりで難しいのに、
「んっ、気持ちいい」
ハヤクは口の中に入れてもらうのを楽しみにしているのだ。
「ちょっとだけだからね」
「ふふ、うん」
「あむ……」
 けっこうな大きさになったハヤクの肉茎は咥えにくい。先端を重点的に攻めて、袋を軽く揉んでやり、苦しくならないうちに口から出す。粘液の糸が肉棒と口吻をつなぐ。
「もういいでしょ」
「えー、まだ序の口だろ」
「あとは自分でやるのー」
 そう言ってリスカルはハヤクに魔法のアンダーサポーターを穿かせようとする。臀部を覆わないタイプである。イヤだ足りないと足をばたつかせるのを宥め、腰まで引き上げると、いきり立つ肉棒が布地に隆起を作る。
「はやくー」
「布越しだとあんまり気持ち良くないから、せめてリスカルが握ってよ」
「もー」
 迷惑ついでもはなはだしい勢いで要求と欲望を突きつけてくるまほうつかいに、リスカはあきれながら希望通りにする。こないだは申し出を断って、サポーターの横から引っ張り出したのを自分で扱かせていたら、布地で覆う前に射精してしまった。おそらくわざとだろう。そのときはサポーターをいちど脱がせ、胸筋や腹筋に散った飛沫を拭き取って染み込ませることで難を凌いだが、そんな事態が頻発されては充分な魔力の保証ができない。多少のわがままを容認し、まほうつかいのコンディションを整えるのもマスコットの役目だ。
「んんっ! んっ!」
 しばらくしてハヤクの押し殺した嬌声が漏れ、布地が躍動する。みるみるうちに精液の染みが広がっていき、先端が押し付けられていたところは外側にまで白く滴っていた。濃い匂いにしぜんと鼻が動き、意識がぼおっとなってしまい、慌てて首を振る。
「へへー、今嗅いでたでしょ、やらしいなあ」
息切れて胸を上下させながらハヤクがまた笑う。こんなふうに笑いかけられるとリスカは弱い。見つめていたい気持ちを抑えこんで、準備を進める。
「呪文唱えてー」
「はいはい、せっかちだね……よっと」
 さきほど達したばかりだというのに、体力を持て余すかのように椅子からひらりと立ち上がる。地力の強さは陸上で鍛えているだけあってぴかいちである。斑点のある長いシッポがふわりと揺れた。
 ハヤクの呪文にリスカル口ずさむBGM。中空から降ってくるランニングシャツとランニングパンツ。風のイメージカラーである青を基調とし、白や黒のラインがアクセントだ。ときおりデザインが変化するのはスポンサーの都合だろう。緑のバトンを携えて、準備はオッケである。今日のターゲットを見つけるため学庵探索に赴く。

 鞍胴メタルは馬獣人である。下半身は無限軌道である。より正確にメタリックでメカニカルな部分を指摘すれば、胴の部分と大腿付け根から下までがサイボーグであり、廊下を移動中にチーターとプレーリードッグの陸ユニコンビに捕まってしまった。
 「そんなあなたにファウルカップを進呈」
「意味がわからない」
「スライディングパンツもー」
「履けないから要らない」
「んじゃファウルカップ用サポーターを装着しよう、うにょーって伸ばせばなんとかなるよ」
「うにょー」
「うにょー、じゃなくてな、趣旨が掴めんぞ」
 サポーターの端を持ってはやくんが背中側に回りこむ。ゴムが思うほど伸びなかったため、もう一方の端を持っていたリスカルがひっぱられていく。そのままメタルの胴に打ちつけられそうになったところで、抱きとめられた。
「だいじょうぶか、リスカル」
「ありがとー」
「長さが足りないな……面ファスナーでくっつくやつを用意しておくべきだった」
リスカルはメタルに脇腹を撫でられてくすぐったいようだ。はやくんは首を傾げて良い対処法を考える。
 「だめー」
そしてしめぶりまほうつかいちらりんが街の平和を守るためにやってきたが、
「竜巻」
「ひゃああああああ」
「むぅうううううう」
間髪入れずに吹っ飛ばされた。センちゃんごと。
「今はバトルのこととか考えたくないの。どうしたらファウルカップを鞍胴メタルの股間に当てられるか真剣に考えてるんだから」
「珍しくまじめー」
「俺はいつも真面目だよ」
「限りなく不真面目な発想だと思うがな」
 眼前でよくわからない展開が展開されているのに、動じないメタル。苦笑いを浮かべているのは貫録だろうか。
 「センちゃんっ、たいへんっ、馬のお兄さんがファウルカップをむりやりされちゃうっ」
「それをくいとめるのがしめぶりまほうつかいちらりんの役目だからな」
「んと、魔法使うね、クリームシ」
「待て」
「え」
「ここでそれを使うと鞍胴までべしゃべしゃになるぞ」
 フライ返しの先からクリームシチューを出して相手まほうつかいの布地にぶっかける技は、第三者を考慮して却下となった。もっとも、鞍胴のサイボーグな部分はしっかり耐水・耐油・耐熱コーティングされているので、ショートするようなことはまずないのだが。
「民間の者を巻きこんではいけない、と書いてある」
「ど、どうしよう」
 フライ返しを手にちらりんが動揺する。目の前では馬のお兄さんがはやくんとリスカルにひっぺがされようとしているのに。
「サイズ合わせをしたいので脱いでくれ」
「脱がない脱がない」
「脱いでよー」
 迫るはやくんと促すリスカル、たしなめて場を凌ごうとする鞍胴。センちゃんは状況を見渡しつつ、どうしていつもいつもこんなに緊迫感がないんだろうと少し考えて、諦める。
 「まず馬のお兄さんとはやくんたちを離れさせないと」
「難しいと思う、リスカルは鞍胴の肩の上に寝転んで幸せそうだしな」
「それじゃ、はやくんだけに当たる攻撃をしなきゃ」
「ホワイトシチューは広範囲に影響するからな、局所攻撃のイメージを膨らませるんだ」
「んと、えと、型抜きクッキーっ」
 ころん。
 ちらりが局所攻撃のイメージを膨らませた結果は型抜きクッキー。それもクッキーではなく抜き型のほうである。星型とハート型と月型の金属がフライ返しの先端に出現、それぞれはやくん、リスカル、鞍胴のシッポめがけて飛んでいく。
「う」
「え」
「お」
 シッポの先にすっぽりと嵌まり、いちばん効果があったのははやくん。星のギザギザが軽く食いこむ。リスカルのシッポは小さくてハートがひっかからず、落ちそうになったところでキャッチされ、王冠代わりに遊ばれている。鞍胴の馬シッポにはすうっと通っていき、中ごろくらいまで辿り着いてぶら下がる。
「この攻撃は俺に当たっても良かったのかい、正義のまほうつかいさん」
「ち、違うの、間違えちゃったのっ、馬のお兄さんは違うの」
 わたわたと弁明するちらりんに、やっぱりそうか、と笑みを溢す鞍胴。
「まあいいさ、それより悪のまほうつかいさんが怒っているから気をつけて」
「え」
 なんて会話をしているうちに、はやくんがちらりんの後ろに回り込み、片腕で胸を押さえこんだ。ちらりんびっくり。
「はわわわわ」
「ちょっと痛かったからね、お仕置きしちゃおっかな」
 笑顔と耳への甘噛みが効いているのか、足が竦んで身動きが取れない。
「シッポに嵌めちゃおうと思ったけど、前にしようかな」
 そういうとはやくんはもう一方の腕をエプロンの中に突っ込み、くちゃくちゃのブリーフの前開きに指を入れ、ちらりのほんのり温かい軸を取り出した。
「やだやだやだ」
「あんまり動くと直接風送っちゃうよ、そしたら負け決定」
 恥ずかしくて身じろぐも、もしこの近距離で魔法が発動され、ブリーフを乾かされたら勝てない。びくっと震えてから、はやくんが何をするのかわからないのでおとなしくする。
「そうそう。いい子にしてれば恥ずかしいだけで済むからね」
 自分のシッポから抜き型を外すと、ちらりの恥ずかしい先端に嵌めこむ。生乾きの皮の上から金属の冷たさが伝わり、ギザギザの圧迫感がくすぐったい。反応した分身が硬度を増すと、鈍い痛みが先っぽを襲う。
「ぬう、や、やあっ」
 涙声になりうずくまるちらりん。
「あらあら、興奮すると抜けなくなっちゃうよ」
 しゃがんだ竜人を後ろから抱きすくめて、首筋をそっと舐める。硬質な竜のシッポにチーターのふわふわシッポを絡ませて、よけいに神経を高ぶらせてやる。密着する体温と甘ったるい声に、素直に反応するちらりんの肉棒。エプロンに隠れているため、露出してはいないことが幸いか。
「かーわいい」
「やめてよお、はやくん」
「今日は俺の勝ち……じゃないか、ファウルカップ装備させられなかったから引き分け。また来るよ」
 鞍胴に視線を投げる。
「楽しかったが、次も要らないぞ」
「次は貰ってもらうのー」
ファウルカップとハート型の型抜きを持ったリスカルが飛んでいき、はやくんの肩に乗る。2匹はとことことその場をあとにした。
 「外そうか」
「いいの、自分でできるっ」
センちゃんの申し出を断り、体の熱が収まるのを待ってから、ちらりんはそおっと型を外した。跡が残っていないかも心配だが、はやくんにやりこめられたのが悔しくて、ぐずぐずと泣きはじめる。
「ふぇーん、せっかく新しい技出せたのに」
「よしよし」
なでなでして宥めるセンちゃん。
 「まほうつかいごっこもたいへんなんだな」
声のするほうを向けば、少しあきれた様子でこちらを見ている鞍胴。
「次も付き合うよ、だけどあんまりむちゃしちゃダメだよ」
そう言ってきゅるきゅると音を立てて去っていく。無限軌道で。
「優しいな」
「まほうつかいごっこじゃないのにい」

 「ただいまー」
「お兄ちゃん、おかえりー」
高峰兄弟、3時間ぶりの再会。放課後まっすぐ家に帰ろうと教室を出たちらりは禅裸に捕まえられ、「今日はゴハン食べて帰るから夕飯は要らない、ごめんっ」と謝られた。そのおかげで、家に帰ってきてから隣の部屋を気にすることなく呪文の練習をすることができたのである。それからさっきの顛末があって学庵に戻り、再度帰宅。お風呂に入ってゴハンを食べて、兄が帰ってきたのを玄関で出迎えた。
 「こんばんは」
「おじゃまします」
と、いっしょに玄関を上がった2匹。ひとりは黒山羊獣人でひとりはチーター獣人。
「纏綿さん、お久しぶりです」
「ああ」
律儀に頭を下げるちらり。纏綿は禅裸のおさななじみであり、ちらりとも顔見知りだ。そういえばここ最近はあんまり会わなかったな、とほんのり思い返す。
「こっちは初めてだな、早駆ハヤク。足が速いし手も早い」
「今後ともよろしく、ちらりさん」
「は、はい」
また律儀に頭を下げるちらり。すらっとした腕と足、シッポの斑点がとても綺麗だ。ぴくぴく動く耳が愛らしい。
「あと1匹なんだけど、おーい、はいれるか」
 まだ玄関の外にいる誰かを禅裸が呼ぶと、聞き覚えのある声が返ってきた。
「室内用に切り替える、しばし」
そう言って現れたのは、下半身が一回り小さくなった馬獣人サイボーグ。シッポには月型。変身が解けたとき、ちらりの星型はフライ返しといっしょに消えたのに。
「鞍胴さん」
 驚くちらりに驚く鞍胴、ついでに驚く禅裸に苦笑する早駆。
「あー、こんばんは。ちらりくんだね、どこかで会ったんだったか。俺は初対面だと思ってたんだが、違ってたらすまん」
「えっと、あの、はい」
 返答に困り口籠もったところで、話が遮られた。
「禅裸ぁ、冷たい物何か貰ってもいいかな」
「お茶くらいしかないぞ」
そのままみんなを奥に追いやったハヤクが、すれ違いざまにちらりにウインクする。

▼次回予告

 差し迫るすぽゆにまほうつかいの脅威に対抗するため修行の山へ。次回「ごはんのじかんにへんなきょくがかかる」お楽しみに。 

▼Cパート

 水色のパジャマに袖とシッポを通して、布団に潜り込む。兄を含めた4匹が居間でくつろいでいるとき、ちらりは枕を抱いて寝入ろうとしていた。さっきはうっかり鞍胴さんに正体がバレるところだった、注意しなきゃ。早駆さんが困ってた僕のことかばってくれたみたいだけど、初対面なのになんでだろ。
「ね、センちゃん」
そう呟いてからセンちゃんがいないことに改めて気が付く。こないだはいっしょにお風呂に入ってくれたのに、今日はちらりを家に送ると「用事があるから」と飛んで行ってしまった。いったいどこに住んでるのかなぁ、そんなことを考えているうちに意識は眠気に攫われてゆく。

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