▽#02「センちゃんとおなじことをする」
▼Aパート
高峰ちらりは八獣学庵中修部2年の赤銅西洋竜人です。
つい先日しめぶりまほうつかいになりました。
「むー」
「高峰君?」
「むむー」
朝からちらりは悩ましげである。腕組みしてしきりに首を傾げる様子を、クラスメートのキリン獣人、七味箪笥が不思議がる。
「高峰君、だいじょぶ」
「七味君、うん、だいじょぶだよー」
にゃはは、と笑みを浮かべるちらり。安心したのか箪笥も頬を綻ばせる。
「どうしたの」
「難しい名前の食べ物を考えてるの」
「え」
返答を聞いて、キリンもいっしょに難しい顔をする。
「ビーフストロガ……ノフ、って言いにくいよね、言いやすくて難しそうなのを見つけたいなぁ」
「んと、ウエハースってどうかな」
「ウエハース」
「うん、ウエハース」
「な? ほら、こっちのサポーター着ようよ、ユニは好きなの選んでいいから」
放課後、プール脇のシャワー浴びるトコでびしょ濡れになりながら、エビ獣人・鎧焼マヨネーズはスポユニ姿のチーター獣人に詰め寄られている。状況がさっぱり掴めない。
水研(水泳研究会)の活動で最後まで残り、そろそろ帰ろうか、とプールから上がったらチーター獣人がいて、その肩にちっちゃいプレーリードッグ獣人が乗ってて、「水泳用よりコッチのほうが気持ちいいよ?」とアンダーサポーターを手にちらつかせ、追っかけてきたのだ。
プールサイドは走ってはいけないのでトコトコ逃げると、相手もトコトコついてきた。とりあえず更衣室に隠れようとしたけど、チーターがバトンを一振りしたらシャワーの全部の蛇口がひねられて、もとからビショビショな鎧焼もそうじゃなかった向こうも濡れ濡れになって、プレーリードッグはふよふよ浮きながらスポーツユニフォームのカタログ持ってて、チーターは「ほら、ソレ脱いでコレ穿いて」と目の端から口の端にかけての黒いラインに沿って水を滴らせつつ鎧焼に話しかけている。
「あ、あの、言ってる意味がわからないんですけど」
「詳しい話は向こうでするからさ、シャワー浴びちゃってよ」
「先に行ってるよー」
一足先にプレーリードッグは更衣室に向かう。
「きっと気に入ると思うからさ」
そう言ってウインクするチーター。何が何やらさっぱりだが、危害を加えるつもりはなさそうだ。鎧焼はひとまず体を流す。そのあいだチーターはシャワーから外れ、上着を丸めて絞っていた。
「だめー」
甲高い声を挙げながら飛来するしめぶりまほうつかいちらりん。相棒のセンちゃんももちろんいっしょだ。
「来たなワルモノめ」
着地したちらりんに茶化して言い放つはやたん。
「ちらりんワルモノじゃないもんっ」
「俺だってワルモノじゃないもん」
「そ、それじゃ」
「リスカルとセンちゃんが組んで悪巧みしてるのさ」
「セ、センちゃんっ」
「組んでるのは間違いではないが、悪巧みはしてない」
「ほらっ、はやたんのウソつきっ」
「それでいいのかちらりん」
「みんななかよしー」
更衣室にいたリスカルが顔を出し、また扉を閉める。
「それじゃまほうつかいらしくバトルしようか」
チーターの持つバトンが風の渦を作る。
「よっ、よしっ、ちらりん負けないもん」
「民間の者を避難させないと、と書いてある」
息巻くちらりんに、ぽそ、とセンちゃんが告げる。
「避難」
「そう、避難」
2匹の目線の先には、状況をほんの少し掴んだところで登場キャラが倍になったあげく自分の存在を無視され、とりあえずシャワーの蛇口を端から端まで閉め、もう一度きちんと閉じたか確認し、点検ボードの「シャワーの閉じ忘れはないか」のトコロにレ点を入れているエビがいた。
「え、えっと、エビのお兄さんっ」
「はい」
「逃げてくださいっ」
「はぁ」
「こっちー」
更衣室にいたリスカルが顔を出し、鎧焼を招き入れてから、また扉を閉める。
「よしっ」
「それでいいのかちらりん」
「いくよっ、はやたんっ」
「あ、そうそう、今週から『はやくん』」
呼称の変更を告げられる。
「え、えええ」
「もうすぐカブりそうなんだってさ……それじゃ」
困惑するちらりを尻目に、戦闘準備を始めるはやくん。バトンの先端で輪を描くと、小さな渦巻きが形成されバスケットボール大になり、さらにヒトひとりは乗れるくらいのサイズに成長し綿飴よろしく巻かれていく。
「いくぜ竜巻」
はやくんの声が渦に巻き込まれエコーする。腕を振り下げてバトンを前に向けると、円錐型の風の塊が棒からはずれちらりん目がけて飛んでいく。
「はわわっ」
そして竜巻に飲まれたちらりんは地上から1メートルくらいのところにくるくる巻き上げられ、定位置でびゅんびゅんとブリーフを乾かされてしまう。
「やーんっ」
「ちらりん、何か出して」
「目が回ああああああ」
「困ったな」
事態を静観する黒山羊はちっとも困った様子を見せない。はやくんはリスカルと鎧焼の待つ更衣室の扉を開けた。
「はやくん、鎧焼さんは水泳好きだって」
「リスカル、説得とか強要とか脅迫とかしようよ」
「でも再来週は大会あるって」
「すみません、はやくんさん」
「謝られたからって引き下がるワケには」
中では押し問答が繰り広げられている。
かたやちらりんは乾燥機のごとく空中で転がされ、術者がほかのことに気を取られているうちに竜巻が威力を失いちっちゃなつむじ風になったころにはすっかりブリーフをぱりぱりにしていた。先端に密着していた部分がかろうじてまだ湿り気を保っており、冷たくなっている。
「変身が解けてしまうな」
はだけたエプロンの中の状況を把握したセンちゃんが呟く。
「はわわわわ」
目を回したちらりんは体勢を立て直せずにその場にくってりと崩れ落ちた。
「この様子では、ちらりんからさらに搾るのは体力消費が激しいな」
そう判断すると、黒山羊はちらりんの頭近くまで飛んでいって呟く。
「ちらりん、飛べるか」
「はうはうはうはうはう、うん」
まだめまいが少し治まらないが、なんとか応答くらいはできている。
「まっすぐとべないとおもうけど」
「いったん退くことにする。ちょっとがんばれ」
センちゃんに励まされ、ちらりんはふらふらしながらフライ返しと空を飛ぶ。
「どこまでいくの」
「しめぶりまほうつかいが魔法のブリーフに浸みこませる精液は、術者の発現させたモノでなければならないとは限らない、と書いてある」
▼Bパート
キリン獣人・七味箪笥はさきほど水泳の練習を終え、最後に残った鎧焼センパイに鍵閉めなどを頼み、プールから自宅に戻ってきたトコロだ。ひとまずグラスに麦茶を入れて、自室に持ってきて一息ついていると、窓の向こうに誰かいた。
「こ、こんにち、じゃなくてこんばんはー」
「こんばんは、あの、どちら様ですか」
「しめぶりまほうつかいちらりん。街の平和を守ってます」
「お邪魔してもいいだろうか」
「は、はい」
目の前に現れた赤銅色の西洋竜人と黒色の山羊獣人(コンパクトサイズ)。片方は魔法使いなのだがもう片方は何なのだろう。あまりそういうモノを知らない箪笥はエプロンやフライ返しに気を取られながらも、窓を開けて部屋の中に招き入れた。
「麦茶飲みますか」
「あ、ううん、急いでるから、ありがと」
「街の平和を守るために君の協力が必要なのだ、と書いてある」
「はぁ」
「ご、ごめんねっ」
と突然謝られてベッドに押し倒される箪笥。仰向けになった目の前には頬を紅潮させたちらりんが覆いかぶさってきていて、四つん這いの体を足のほうに後退させたかと思うとそのズボンに手をかけた。
「あ、あのっ。何を」
「ごめんなさいっ」
再度謝った自称まほうつかいが箪笥のズボンを引き下げると、薄紫色のトランクスが露わとなった。黄色と栗色の太腿に色味が映える。さっきまでプールに入っていたせいか、ほんのりと塩素の匂いが部屋に広がった。
「ちょ、ちょっ」
「センちゃん説明しててっ」
「七味箪笥。街の平和を守るために君の精液が必要なのだ、と書いてある」
「なっ」
赤面する箪笥とちらり。
「も、もっと包んで説明してよっ」
「すまない」
「あ、あのその、せいえきって」
ひくん、と布地の中で箪笥のモチモノが反応した。もうちらりは後先を考えない。こないだ聞いたところによると魔法使いが絡む行為はノーカウントとのことだから、自分がセンちゃんにされた分、そして今回のちらりんと箪笥の分もお互い気兼ねすることはないらしい。そう言われても躊躇するのはしごく当たり前だが、センちゃんがさっき直接言い渡しちゃったので引き返せない。どうにでもなれ。前開きに指を入れた。
「はうっ」
しばらくまさぐって、柔らかい肉棒を取り出した。ふあふあの毛並みに包まれた薄皮で半分ほど覆われた肉色の軸の先には、ふくよかな貯蔵庫につながる小さな孔がある。空気に触れてほんのりと熱を増したその根元を指で摘み、直立させる。
「僕のより細くて長い」
同い年くらいの少年の屹立を、こんなにまじまじと見るのは初めてだ。しかし自分のとの違いを分析している時間はあまりない。今の彼はしめぶりまほうつかいちらりんで、変身するために精液が必要なのである。
「だ、だめっ、やめてっ……んっ」
抗議を申し立てる声とともに上半身を起こそうとした箪笥は、下腹部を襲う温かい感触に囚われて別の嬌声を上げた。見れば西洋竜人の硬い口吻が布越しに袋に触れている。つまり敏感な細長い部分がすっぽりと、竿の先端から付け根までちらりんの口中に含まれているのだ。
「んっ、んっ、やぁっ」
甘い喘ぎ声に注意が削がれるけれど、ちらりんはひたむきに箪笥の肉棒を愛撫する。舌で舐めあげて、ときおり吸い上げる。塩素とそれから別の匂い、先端からとめどなく溢れるぬめった塩味が気になる。こないだセンちゃんにしてもらった仕方をおぼろげに思い出して、敏感な部分を頬の内側にすりつけたり、唇で上下したりして刺激する。
最初からしゃぶりつくように指南したのはセンちゃんである。経験の浅いちらりんには、手で扱いてからどこかの中で達させるような手練手管は見込めない。誤って腹や顔射で受けてしまっては元も子もない。それならば、最初から口の中に出させたほうが安心だし、万が一飲み込んでしまってもまぁなんとかなる。2匹の獣が絡むのを眺めながら、センちゃんは次の段階、はやくんの風攻撃をどう防ぐかを考えていた。
不器用な刺激だったが、経験の少ない箪笥にとっては未踏の境地であり、あっという間に最大まで硬化させてちらりんの喉を苛んだ。初めての誰かの体内の温かさと卑猥さに耐えかねて、ひときわ大きく腰を振ったかと思うと、びゅくびゅくと欲望を放出し始める。
「んわぁっ、んっ、んっくっ」
「ふわっ、うぅっ」
喉に当たる熱い奔流。なんとか口内で受け止めようとするも、量が多くて苦しい。しかし嚥下するわけにもいかない。ちらりんは喉に絡む澱みに翻弄されながら、白いプールの中で何度も痙攣する箪笥の肉棒、水嵩を増す精液に侵されつつ、なんとかそのほとんどを口内に溜め込んだ。
「はんっ」
ようやく出し切ったらしい箪笥はくってりとベッドに身を投げた。胸板が上下して酸素を求めているのがわかる。かたやちらりんも早く呼吸を取り戻したい。手筈の通り、両膝を付いた姿勢になって身を起こし、自身のブリーフを前に引っ張り、口を開く。目の前で射精後の余韻に浸るキリン獣人の搾りたて精液が、ちらりんの口からブリーフに注がれる。うまく溢せずに下腹部に流れて白い跡が残ってしまったが、だいたいは染み込んでくれた。その中で硬度を増している自分の肉棒が気がかりでそわそわするが、とにかくパンツを元に戻し、少し冷めた精液がくちゃっと体に密着する違和感に包まれて、ちらりんは向きなおる。
「七味く……じゃなくて、キリンさんっ、ごめんねっ」
「んん……」
「じゃ、僕行くからっ」
「ありがとう、これで街の平和は守られたかもしれない」
虚脱感に覆われた意識の中で、萎えた性器を露出させたまま、七味箪笥は窓から飛んでいく獣二匹を見送った。
「しめぶりまほうつかいちらりんっ、相方はセンちゃんっ」
勢いづいて元気よく、真っ暗なプールに降り立ったちらりん。誰もいない。
「セ、センちゃんっ、エビのお兄さんは」
「ボードの『鍵をちゃんと締めたか』のトコロにサインがあるから、戸締りして帰ったらしいな」
「そんなぁ」
▼次回予告
はやくんはまたスポユニの獣を増やせなくてがっかりです。陸上研なので走ります。リスカも陸上研なので走るよー。
次回「さきばしってうけわたしてまわす」お楽しみにー
▼Cパート
「精液が付着した布地を洗うときは出したてがいちばんきれいになるが、気をやってしまいなかなか行動に移せないことも多い」
「はい」
「こんなふうに乾いてしまうのもざらだ」
「せ、センちゃん、そんなにまじまじ見ないでよ」
頭身の伸びた黒山羊を、真っ赤になって咎めるちらり。高峰家の風呂場にて、さっきの戦いで部分的に乾燥してしまった魔法のブリーフを素材に、洗い方を教わっているのだ。
「熱で固まるため、水で洗うのが好ましいかもしれないが、乾いてしまってからはある程度手入れに時間がかかるためお湯でも構わないと考えている。暑い季節でなければ冷水は手の血行に良くないから」
「はーいっ」
「揉み洗いは根気よく、10分間は洗っていたい。洗剤はボディソープが楽でいい。洗濯用洗剤の場合はできればゴム手袋をすること」
そういうと、湯を張った洗面器に乾いたちらりの精液付きブリーフを浸し、ボディソープのポンプから白濁液を取って含ませる。
「こうやってやさしく洗う。なるべく布地にダメージを与えないように」
白い泡の中で黒い手がくちゅくちゅと動く。