天、地、どちらが下だろう?
遠くを凝らして見ても、ただ広がる闇。
しかし、天と呼ぶ方からは光のスジが辺りを照らす。
そして、地と呼ぶ方からは果ての無い闇の塊。
俺達が立ってるとこは、太い水色に似た柱が、道を作るように立っていた。
俺達はそんなところに足を踏み入れた。
ラミアがこつ、こつ、と足音を立てながら、いや、どんなに慎重に動いても、ここでは音が響いてしまう。
その背中について行く。
そして一つの広い空間、色違いの板がそこには並べられていた。
「精霊様、クレス=ファンレッド、エル=ファンシエル、テット=フェルザ、そしてクリスを連れてまいりました」
ひざまづいて言う声は、虚空へと響いて消える。
突如、炎が天から渦巻き、赤い板の上に凝縮され、形となっていく。
トカゲを連想されるその容姿に、足はなく、翼が生えており時折その翼を揺らす。
槍のようなものを持ちいるその者は、雄大な者と思われる。
おそらく炎の精霊、サラマンダーがその姿を現す。
「やあ、クレス」
「え……あれ?」
俺は周りを見回すと、俺だけ、いや、空間全体が止まっていた。
俺とサラマンダーのみ、色を持ってるかのように周りの景色の色が、黒く染まる。
「今は君の中で話をしている。君は俺、俺は君、俺の力の一片が君の中に宿っている」
子供のような口調で、なおも話を続ける。
「時間が無いんだ、これから君の強さを確かめる。がっかりさせないでしょ?」
「ちょっと待ってくれ、魔王……魔王はなんなんだ?」
俺の言葉に、サラマンダーが口を開く。
「あれは世界を封印する最後の魔王、憎しみ、妬み、絶望、苦しみ……人の弱い部分が作り出した巨大な存在」
そして唐突に、サラマンダーが言う。
「何故世界は封印されたと思う?」
意外な問いだった。
封印した本人じゃなく、対等しあう精霊が言う言葉なのだろうか?
「世界のバランスをよくするためにね、魔族が張ったものなんだよ。人が死なず、だけど、苦しみながら生きていかせる篭。そんな理由さ。
戦争なんて起きたら、確かに魔族にとっては豪華な食事。しかしそれは大量の食料を失うことになる。
だからこそ、世界を封印し、国々の戦争を止め、バランスを保っていたんだ」
「………何故」
「ん?」
「何故、精霊が……魔族のやったことを詳しく知ってるんだ……?」
「それは後に分る。君がこの試練を終えたすぐ後にね。俺は消えちゃうんだ。
だから早く試練を終わらせ、魔王を倒して欲しいんだ。それが我らの神が望んでいる」
表情は変わらなかったが、おそらく笑みを浮かべながら言ったのだろう。
「君は頭がいいね、とゆーより周りがバカなだけなんだかわからないけど。
君を選んでよかったよ、本当に」
そして、サラマンダーは槍を構えて。
「行くよ!」
構えながら飛んでくる。
しかし、自分は剣をしまったまま、魔法も唱えるのに時間が無い!
身構えた時、サラマンダーが通りぬける。
そして、元の板の上へ戻る。
何が起こったのかわからなかった、しかし、サラマンダーは満足したような笑みを浮かべて。
「やっぱり君は強いね。君の記憶を見させてもらったよ。
怒り、憎しみ、恨み……だけど、それに負けないくらい強い力を持っている」
そして、俺に向かって槍を振ると、槍の先から赤く煌くものが俺を包むようにして消えていく。
「これは……?」
「俺が合格っていう証さ、まあ、最初から合格にしても良かったんだけどね。
やっぱりやることはちゃんとしないと。
それにしても……」
首をかしげながら言う。
「女性と付き合ったことないんだね」
「言うな……」
笑いながら言うサラマンダーに、俺は小さな声でつっこむ。
「それじゃあ、俺の試練は終り、後の人の試練を待つといいよ……」
そして、縛られていた空間が動き出した。
今度は闇の奥から、風が渦巻きながら緑色の板の上で凝縮される。
人型の形をとり、なおかつ女性の容姿をしている。
一言で言うなら妖精のようであった。
緑色の髪と瞳は淡く煌く。
ローブのようなものを身にまといながら浮遊する。
その後すぐ、だった。
天の光の筋から、煌きながら飛んでくる。
煌きは板の上で更に増し、やがて形となる。
動物のような四足の形で、顔を狼の姿に……
体全体に金色の毛並みを持ち、その瞳には少年のような無邪気な表情を見せる。
前足と後ろ足の先からは、オーラのようなものがにじみでている。
おそらく、時間をとめて、それぞれの試練を受けさせているのだろう。
テットの表情が真剣であるが、少し嬉しそうな笑みを浮かべている。
そして、闇そのものが動いた。
闇の奥から闇が動き、板の上で闇は更に凝縮される。
しかし、その者は見たことある容姿だった、漆黒とも見せる黒い長髪、闇の篭っている瞳。
黒い魔道士風のローブを羽織り、周りには黒い球体が狼の顔を持つ精霊を中心に動く。
「クリス……?」
俺はクリスのほうを振り返った、しかし、クリスはそこにいる。
「どうなってるんだ……?」
「俺は、闇の精霊を取り込んでいるんだ……大きな部分をな……
だからこそ、正式に選ばれたってわけじゃないが……シャドウが俺を認めてくれた……」
もう試練という名目のテストは受けたらしく、嬉しそうに笑みを浮かべる。
そして何が起こったかわからないゼロギガは混乱していた。
「え、何が起こったんだ?」
「秘密だ」
苦笑しながらクリスが言う。
「精霊様、もう、時間がございませんか?」
精霊たちは、暗い表情を浮かべていた。
「やつが俺達を喰らうのは時間の問題だ」
「けれど、最後に私達の力で、魔王の場所まで送りましょう……」
「最後って言っても、もしかしたらまた会えるかもしれないけどね!」
サラマンダー、ジン、ルナが次々に言う。
「最後、じゃないが、俺達はお前達が魔王と倒してくれることを祈る」
シャドウが言う、声はクリスとは違った声をしていて、少しくぐもった声であった。
『我が神の願い、聞き入れてくれ……人の子よ、頼む……』
全員が同時にそう言うと、天に手を挙げ、俺達を光に包み込む。
「わっ!」
「ラミア、ラミアは大丈夫なのか?」
俺の声に、ラミアが振り返ったように見えた。
さっき出会ったばかりだというのに、その表情は強がっている笑みにしか見えない。
「私の役割は、精霊様に仕えることだ、精霊様がいなくなれば、私はここで尽きるのみ」
「そんなの悲しいよ!」
テットを手で遮って、俺が続ける。
「……いいのか……?」
光が強くなる、ラミアが見えなくなるくらい。
しかし、俺には見えた……ラミアが笑みを浮かべながら涙を浮かべていたのが。
「あぁ、さようなら、最後の最後に楽しかっ……」
ラミアの声は最後まで聞こえなかった。