第56章 遅い再登場
炸裂する爆発。轟く音。
木々がうねり、間を風が通り抜ける。
辺りが一瞬にして平野と化した。
「さすが、魔族、苦戦を強いられるのは必須ってか……」
つぶやくように言う俺。
風が髪を乱暴に揺れ動かす。
緊張の一瞬に、俺の他3人が同時に唾を呑む。
爆発の中心には一人の人物。
異形に見えるほど棘が体全身に生え、人の頭らしき場所には角が一つ。
そして胸には大きな穴が開いており、先に見える景色がまだ穏やかに移す。
レインの道案内により、旅は順調に進んでるかに見えた。
しかし、突拍子にこんな事態もあったりする。
今や魔族に命を狙われる側、いや、もしかしたら命なんてものに興味は無いのかもしれない。
そんな突然のイベントが起こること、3人目。
最初は偵察なのか、俺達でも多少苦戦をしながらも、なんとか倒すことができた。
しかし2人目からどうだろうか、もしかしたらレインの助けがなければそこで終わっていたかもしれない。
俺は目の前にただずむ影をにらむ。
「あのねぇ、こう何回もサプライズパーティーみたいなことが続くとこっちも迷惑なんだよ!」
『そんなことはこちらはしらぬ』
俺が目でエルとゼロギガに合図をすると、同時に魔族と間合いを詰める。
ゼロギガが横になぎ払うように剣を振るう。
だが、その剣は虚空を斬り、むなしく、ぶぉんと言う音が響くだけ。
一瞬だけである、魔族が当たるか当たらないかの時に一瞬だけ姿を消したのだ。
ゼロギガが間合いをとるために構えながらも後ろへ飛ぶ。
そこにエルが両手に携えた鎌にも似た武器を振るう。
だが、それも同じようにかわされてしまう。
しかし、おかしいことに魔族は一度も攻撃を加えようともしないまま立ったままである。
それでも攻撃を恐れ、エルも後ろへ飛ぶ。
そこへ唱えていた魔法を解き放つ。
「ドラゴン・スレイヤー!」
赤い閃光が魔族に向かって、魔族を包むように爆発する。
ある種のアレンジを加え、山ほど破壊するドラゴン・スレイヤーを力をそのままに、範囲を凝縮して放つようにしたのだ。
いつか役に立つかなぁととっておいた大技中の大技だったりするのだが……
そんな攻撃もつゆ知らず、魔族はただずんだままだった。
「なっ……」
「クレス、強いよ……」
後ろにいるテットがコウとトキノを抱きかかえながら弱音を吐く。
正直、勝つ見込みは薄い、とゆーか0に等しい。
『こちらからいくぞ……』
急に、魔族が左右についている腕を高く上げてそこへ力を込めるかのような動作をした。
そして、そこにできた小さな黒い玉、だがそれは徐々に大きくなっていく。
「くっ、防御結界!」
俺はテットを守るように、エルはゼロギガの盾になるように、互いの魔力の盾を張る。
黒く濁った玉はすでにエルの身長をゆうにこしていた。
これで耐えれなかったら辛い……
魔族は、魔力の玉を両手に割り俺とエルに向かって投げつける。
半分にしても、かなりの大きさの魔力。
その魔力の塊が、俺の魔力の盾と、ぶつかる!
「うぅっ!」
巨大な力が結界を押しながら、俺の体を後ろへのけぞらせる。
しかし、塊は消えることなく、結界をぐいぐいと押す。
防ぎきれない!
その時、横から同じような魔力の塊がぶつかり、塊同士消滅する。
「…………」
『貴様……』
魔族はその存在に気づいたようだ。
俺は塊が飛んできたほうへと視線を移す。
漆黒とも見えてしまう長髪、その瞳の奥には闇しか広がらない。
容姿は俺と同じ、それは当たり前だろう。
別行動を取ってる間にか、服も、魔道士が好んで着るといわれる黒いローブを羽織う。
クリス、と、そいつは言った。
『裏切り者が……』
「……なんのことやら」
クリスは魔族の言葉を軽く流して、俺のほうへ歩み寄る。
すると、魔族と同じような黒球を片手で出して、俺のほう……いや、エルたちのほうへと飛ばす。
思ったとおり、押されて今にも結界が破りそうだった魔力の塊がともども消滅する。
「な……?」
一瞬わけ分らないといった表情を取ると、こちらを見て、納得したような笑みを浮かべる。
「おい、遅い登場だな!」
「しかたないだろ、待ち合わせ場所に行ってもお前らがいなかったんだから……」
そう、クリスは別行動を取るということで、次の街、俺がとっ捕まってた城のある街で待ち合わせだったのだ。
「説明は後だ、あの魔族、倒せるか?」
「弱いじゃねーか、ま、オリジナルのお前には苦戦してるだろうがな……」
自嘲した笑みを浮かべながら言う。
そして、真剣な目つきで魔族を見て。
「お前らは邪魔だ、俺一人でも奴を倒せる」
『ほざくな、出来損ないが!』
「んじゃ、その出来損ないにやられてもらおうかね!」
クリスが空にむかって円を切ると、黒い輪が切った部分にできる。
それを手に取ると、魔族に向かって走り出し、輪を投げつける。
輪は弧を描きながら魔族に向かって的確に飛んでいくが、エルたちをかわしたように魔族がそれをかわす。
「あいつは、お前の弟なのか?」
ゼロギガが俺のほうにかけよって、魔族に剣を構えながら聞いてくる。
「いや、俺の……ん、弟でもいいか……」
「………?」
多少あいまいなことを言い、ゼロギガの表情は疑問の色に染まる。
クリスは、横に走りながら、また新たに輪を生み出し、それを投げつける。
今度のは弧を描くと同時に、それが分裂し、意思を持つかのように動き始める。
「弟みたいなもの、かな?」
苦笑しながらもその戦いを見る。
輪は、魔族を囲むようにして空中に止まる。
「チェックメイト……終りだな」
突如、輪が魔族を包むように、黒い部分をふやしていく。
そして一つの球体になると、小さくなって消滅する。
魔族の悲鳴はなかった。
あっけなかった、その勝負は。
これが人と、魔族の差……
「ふぅ、終わったぞ」
まだ疲れすら見せてない顔をこちらに向ける。