第57章 精霊の導き、そして……
クリスと合流して、早数日。
行けでも行けでも平原と森と森と森。
最近寄った村にはここから先は立ち入り禁止区域となっているようだ。
なんでか、だいぶ前、開拓のために兵士とキコリが森の奥へ入っていったとき。
戻ってきた者は血だらけになった一人のキコリだけだった。
何十人ともいた兵士は全滅、そして残ったキコリも村に戻って間もなく死に至った。
そして、キコリが言った最後の言葉。
『この先は魔族に呪われている!呪われているだ!だから、仲間が、みんな……死……』
そこで、意識を失い、そのまま死に至った。
そして俺達はその先に森にいる。
立ち入り禁止区域じゃないのか?って言われたらそうなのだが、実際、門とかあって厳重だったし。
しかし、みんな昼に門の仕事を始め、夜中には寝るそうで、門番とかも誰もいなかったりするのだ。
てかそれなら、門番とか意味ねーじゃんと思ってみたりしたのだが、
いなければいないでそれはそれで好都合と言うものである。
しかも、朝方に出て、早起きしている老人に挨拶を交わしつつ、門を飛行呪文で突破したのだ。
さすが立ち入り禁止区域というだけあって、死屍累々、動物達の死骸があちらこちらに
というわけでもなく、特に害もなさそうなところであった、木も草も、動物も、鳥のさえずりさえまで聞こえてくる。
血だらけになって帰ってきた者がいるというのもガセのも聞こえる。
しかし、油断するのもってのほかである。
今、俺達は魔族に狙われている身、油断したら後ろから刺されたりして負けである。
慎重な空気が……
「今日お弁当作ってきたの〜」
「お?お前、いつもより起きるの早いと思ったらそんなことしてたのか」
「えへ、だって僕だって役に立ちたいし……コウもトキノも手伝ってくれたんだよ!」
『シギャっ!』
「ぉ、これうまそうだな、もらい!」
「あ〜、つまみぐいはいけないんだよー!」
「俺も少しもらっていいか?うまそうなにおいがするから……腹が減ってしまって……」
「うん! ゼロギガはこれね!」
「ありがとう」
……なんかほのぼのな空気が流れてるし。
3人+2匹がピクニック気分で歩いてるし……
「俺もくれよ!」
クリスが不満そうに、弁当箱のなかのおかずをひょいっと食べる。
あぁ、一人増えた。
「やっぱり、このメンバーだと緊張感の欠片も無いな……」
苦笑しながら、他の誰にも聞こえないつぶやくを言う。
「おとりこみ中、悪いんだけどさ……」
突然声をかけられる。視界の端っこに木に身を任せてる者が俺に向かって。
声からして女性ということはすぐにわかった。
次の瞬間、俺はきっぱりこう言った。
「んじゃやめておけば」
そして、すたすたと一向は足を止めないまま、通り過ぎようと……
「ちょ、ちょっと待ちな!」
止められた。
俺は溜息を吐きながら後ろを振り返ると、クリス達も俺の視線の先を見る。
「……なんだよ……もう……」
年代は20代の後半だろうか、切れ長の赤い瞳、ポニーテールにゆんでる赤い髪。
体も意外とスマートにまとまっているが、胸が若干望み薄い。
端から見れば綺麗な人と一言で終わってしまいそうだが、
彼女の服がそれを強調するかのような露出度が高い服。
格闘家、なのだろうか?それにしてはやらと身に着けてるものが薄い。
「たく、こんな美人が声かけてあげてるのに、やっぱり野獣は野獣でしかないのかねぇ」
「……あのね、取り込み中、悪いなぁ、っと思ったんなら声かけないのが普通でしょ」
「逆ナン、ってものを知らないでしょ、あんた……さては女性と付き合ったことが無いんでしょ?」
勝ち誇ったような笑みを浮かべながら胸の谷間を強調したようなポーズをとる。
「俺はパス、胸が……」
「私も爬虫類は嫌いだ!」
エルの言葉に何故か青筋立てて怒りだす。
とゆーか嫌いなんだ、爬虫類。
「あいにく、そのような服の趣味をしている奴には興味ないんでな、俺もパスだ」
その言葉に、女はがっくりと肩を崩す。
「く、なんでさ……なんでみんな私の魅力に気がついてくれないのさ!」
ゼロギガの言葉が止めだったのか……
しかし、新たにポーズをとりながら明後日の方向に言う。
「……てか、ご用件をさっさと進めなさいよ……」
「あ、そうそう、あんたらを案内しないといけないのよ」
笑みを浮かべながらポーズを……以下省き。
「……案内?」
俺の言葉に、頷く彼女。
そして、笑みを浮かべたその口から、とんでもないことを言いやがる。
「私は精霊様にお使いする、神族の一人、ラミアだよ」
「神族っ!?」
全員が驚愕の表情を浮かべる。
「あら、この私が神族だってこと、驚いたのかしら?」
『えぇそりゃもう』
テット以外の全員の声がはもった。
そりゃ、こんなもうすぐ三十路まじかな人が精霊にお使いする者というのは……選び間違えたとしか思えない。
しかし、そんな心境も知らずに、ラミアは笑みを浮かべ。
「ふふ、やはり美女には精霊、美男には神というのがお似合いであろう」
いきなり何を言うのか。
しかし、ハッと思い出したかのように、ラミアが言葉を続ける。
「そうだ、精霊様の片割れをお持ちになっている……
クレス=ファンレッド、炎の精霊様……
エル=ファンシエル、風の精霊様……
テット=フェルザ、月の精霊様……」
一人一人、名前を呼ばれると同時にうなずく。
「ちょっと待て、テットは金じゃないのか?」
その言葉に、ラミアが不思議そうな表情を浮かべ
「精霊に金というものはいませんよ……?貴方達、人が作り出したものじゃないですか?」
「…………」
そして最後にクリスを見て。
「クレスコピー、いや、クリスと言うか……闇の精霊様……」
全員がクリスに振り返る。
クリスは軽く頷くと、ラミアがほっとしたように胸をなでおろしながら。
「我が精霊様方が、貴方達に試練を与えになる、精霊としてのテストだ……」
「だが、今は急がなければ……別の場所へ向かっている時間が無いんだ……」
ゼロギガが声をあげる。
「あいつが現れたんだ、もしかしたら、この進む先に精霊達が待ってるんじゃないか?」
しかし、俺がラミアの変わりに言う。
満足そうにラミアが頷く。
「そのとおりです。第一印象は最悪だったけど、あんたけっこういい男じゃな……」
「結構です」
即答した。
不満そうな表情を浮かべながら、話を続けるラミア。
「ですから、これからあんた達を精霊様のとこへ導きます。
あ、それともう一つ」
ラミアが言う。
「精霊様に残された時間がないのです。おそらく、テストが終わったと同時に、魔王に……」
「!……なんでさ?」
「それは私の口からは言えないよ。精霊様がお話になってくれる」
そう言って、地面に向かって粉を振り掛けるようなしぐさをする。
瞬間、光の扉とも言える光が目の前に現れる。
「さぁ、入りな」
敬語と普段の口調を持ち合わせよとつっこみたいぐらい口調が変わるラミアに
俺達はツッコミを入れず、無言で、その扉に足を踏み入れた。