アフリカの悲劇〜正明編〜
 雨宮正明は助手として越野綾子と共にアフリカの動物の現状を調査するために、とあるアフリカの国へとやってきた。
 ガイドと空港で待ち合わせ数日間車でサバンナの奥地まで移動した。早朝から調査をしていたメンバーたちはシマウマを見つけたが、突然綾子は一人行動を始めてしまった。いつまでたっても戻ってこない綾子に正明はしびれを切らせていた。
「う〜ん、いつになったら帰ってくるんだ?まったく研究熱心なんだから・・・。」
 正明は少し綾子を皮肉った。綾子はスタイルがよく顔立ちもしっかりしているなかに不思議な可愛さを持っていて初めは可愛いかと思い緊張したが、いざ付き合ってみると二人は同い年ということもあり打ち解けたのもつかの間で、どうもあの気の強い性格が正明は気に入らなかった。むしろもともと引っ込み思案な正明はあのハキハキした性格がそういう風に見えたのだろう。
「可愛いところがあるんだけど、あの性格がどうもなぁ〜。」
「それよりも、どうします。一緒に探しましょうか?」
 ガイドが不安そうに尋ねた。
「あぁぁ、それもそうだね。さすがにもう2時間も経ってるし。」
 そういうと二人は車を降りて辺りを探し始めた。
「お〜い、どこにいるんだ〜。いるなら返事してくれ〜。」
 二人のそんな声がただ虚しく広大なサバンナに響いているだけだった。
「そうだ、なぁ、この近くに集落か何かないのか。もしかしたらそこで保護されてるかもしれない。」
 正明が思いついたように言った。
「あぁ、ここの近くに確か"神に選ばれし者たち"がいる集落がある。そこなら多分彼女を保護しているだろう。」
 ガイドが少し安心したように言った。
「よし、じゃぁそこまでいってみよう。」
 二人は急いで車に飛び乗り猛スピードで集落の方角へと車を走らせた。しばらく車を走らせていると集落が見えた。
「あれがそうか?」
「あぁ、間違いない。あそこが"神に選ばれた者たち"がいる集落だ。何度か行ったことがある。」
 二人は思っていたより村人からはあまりいい歓迎をうけなかったが、とりあえず長老のいる家へと向かった。
「お前、もしかしてまた乱獲か。だとしたらさっさと帰ってくれ!」
 妖しい雰囲気の長老らしき年老いた男が強い口調で言った。
「いえ、乱獲にしに来たわけではありません。ただ・・・。」
「黙れ!そんなことをいってわしらを誤魔化そうたってそうはいかんぞ!お前らも私に逆らったことを後悔させてやるぞ。」
 長老はさらに妖しい雰囲気を漂わせながら何やら呪文をかけているようだった。呪文を掛けている間は村人が二人を囲み、外へ逃げれないようにしていた。二人は急いで村を後にした。
「まったく、何なんだあの村は!」
 正明はガイドに愚痴をこぼした。
「あそこの人たちは昔からかなり閉鎖的だ。彼らは最近ここら辺で乱獲されているのを目の当たりにしたのだろう。そのせいで一層閉鎖的になっている。噂によると変な魔術を使って乱獲された動物を復活させているらしい。」
「乱獲された動物を?それなら閉鎖的になるのも無理はないな。あっ、そういえばさっき、あいつら変な呪文唱えてたよな。もしかしてそれなのか?」
 正明は不安そうにガイドに聞いた。
「わからない。僕もあの村には何度もいっているが、未だにわかっていないことが多すぎるんだ。」
 顔をしかめてそう答えた。
「とにかく、今は綾子を探さないと。」
「そうですね。」
 二人は急いで車に乗り込んだ。

 二人は数十分車を走らせているが、一向に綾子を見つけられないでいた。
「もしかして、ライオンかハイエナに喰われたとか・・・?」
 ボソッと正明が言った。
「そうでなければいいのですが・・・。」
 ガイドの声もどこか暗かった。しばらくすると、数百メートル先でライオンがトムソンガゼルを追いかけている光景を目にした。
「おおっ、これはラッキーだ!もっとあれに近づいてくれないか。」
 正明は少し興奮しながらガイドにそう言った。ガイドがアクセルをおもいっきり踏み込んだその時だった。未舗装の道路に結構大きな石が飛び出していて、そこにちょうどタイヤが乗っかり車体が大きく跳ね上がったのだ。車は激しく転倒し数十メートル先まで転がった。正明は逆さになっている車から何とか這い出てきた。ガイドは激しくフトントガラスに頭を打ち付けていたようで、もはや絶望的だった。
 "くそっ、もしかしてあのジジイの呪いか何かなのか?"
 正明はそう疑った。正明は額に変な感覚を覚えた。さっきの事故のせいで正明の額から血が出ていた。正明はやりきれない怒りと困惑に発狂しそうだった。すると血をみたせいもあるのか、体がいきなり熱く燃え上がってきた。初めは怒りのせいかと気にとめていなかったのだが、やがて珠のような汗を吹き出すほどになった。
"あつい・・・。こんなにあついはずは・・・。"
 熱さに耐えきれなくなった正明はその場に四つんばえになった。するとさらに正明の体は勢いを増して燃え上がった。どこからともなく正明の体にうっすらと白い毛が生えだした。続いて黒い毛が生えだし、それは段々と縞模様に浮かび上がってきた。
ゴキゴキ・・・ゴリゴリゴリッ・・・
 骨が砕けるような音とともに骨格も人のものからある物へと変わっていった。肩や足の付け根はサバンナを駆け抜けるのにふさわしい草食動物の物へと変わっていき、手や足の爪が段々と黒くなり蹄と形へと変わっていった。全体的にだらしなかった正明の体は骨格の変化に伴い体脂肪が燃焼され大きく筋肉質なものになっていった。
 首が伸びたかと思うと、顔も徐々に前へと突き出していった。鼻と口周りは黒くなり、耳は細長くなり顔の上の方へと移動していった。目は黒目の割合が多くなりつぶらになると視界が今までとは格段に違うほど広くなった。尾てい骨周辺に肉が盛り上がったかと思うと細く伸びてやがて尻尾になった。首の後ろからは毛が一気に生えだしそれは鬣になった。
ハァ、ハァ、ハァ・・・
 そこには一頭の息を切らしたシマウマがいた。
"ん?なんか視界が広くなった感じだな・・・。"
 少し後ろをみるとなぜかシマウマの体がすぐ近くにあった。そのさらに後ろで尻尾が規則的に揺れていた。自分の体にその規則的な揺れが伝わっていた。自分の足下にはシマウマの足が・・・。え、シマウマ!?
"も、もしかして俺・・・!?"
 正明はようやく自分の体がどうなっているのかを理解した。
"今はあのクソジジイを恨んでいる暇はない。今は一刻も早く綾子を捜さないと・・・。"
 正明は勢いよく4本足で地面を蹴り走りだした。こうしてまた一頭のシマウマが広大なサバンナへと舞い戻った。


 アフリカの悲劇〜正明編〜終
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