Sweet Scar・中編 宮尾作
 私立栗城高等学校、通称「栗高」は所謂男子校で、当然生徒は全員男子である。各学年ともに80人程度2クラスで編成されている。原則として生徒は寮で生活する事になっているが、その寮は学校で大きなものを完備しておらず、周辺に無数にある寮の中から生徒が自分で選ぶという格好になっている。崎谷、宮島、重田、近松がいる寮は現在では彼ら4人だけが住んでいる小さな寮である。4人ともにやはり栗高の同じ学年の生徒であり、クラスが少ないせいもあってか4人ともに同じクラスに在籍している。
   ・・・喧嘩するほど仲がいいと呼べばいいのか、或いは類は友を呼ぶとでも言うのか、クラスの中でもひときわ濃い4人はクラスでも注目を浴びる存在だった。特に崎谷と宮島の関係は、薄々ながらも宮島の積極的過ぎるアプローチのせいで、彼らと深く親しくないクラスメイトにもその関係が言われているほどだった。崎谷はこういう性格だったから、人前で宮島に対する思いを口にしたりはしなかったし、先の通りその関係を否定する事も無い。
 むしろ、崎谷は周りが自分たちのそういう関係に注目してくれていたのは好都合だった。そうすれば、勿論目立つというリスクも背負うものの、宮島の秘密をカムフラージュできる点があったからだった。

「やっぱり、ドラゴンに変身するって変かな?」

 昼食の時間、流石に食パンだけでは腹が持たない育ち盛りの高校生である崎谷と宮島は、弁当におにぎりにパンにスナック、とりあえず公売に売ってるもので食えそうなものを買い漁り並べていた。2人がそれらを好きなものから順にとり食べている中で、ふと宮島が唐突に切り出した。しかし崎谷はそれに動じる事も無く淡々と喰い続けている。そしてしばらくしてから言葉を返した。

「安心しろ、変だ」
「フォローになってない!」
「・・・そんな事は無いさ」

 崎谷は次にメロンパンに眼をつけその袋を破り一口食べ、いちご牛乳でのどに詰まりそうなメロンパンを押し流す。

「・・・イチゴメロンって豪華な組み合わせだよね?」
「豪華かどうか知らねぇけど、まぁ俺は甘いの好きだしな」
「うん、知ってる」
「・・・安心しろっていうのは、変なのはお前だけじゃないってことさ」
「崎谷くん・・・」

 宮島は食べ終えたカツカレーの容器を置くと、生姜焼き弁当へと手を伸ばす。 「そんな顔するな。仕方ねぇだろ、そういう体質なんだ」
「・・・この体質、僕はむしろ好きだけどさ・・・でも、やっぱり自信失くしちゃう時も有るんだよね」
「宮島・・・」

 崎谷は食べ終えたメロンパンの袋をくしゃっと丸めると、マンゴープリンのふたを開ける。

「・・・別に体質がどうだろうが・・・お前はお前だろ」
「うん・・・やっぱ、だからなんだろうなぁ」
「・・・何が?」
「僕が崎谷くんを好きな理由」
「・・・いや、どういう理由か意味が分からねぇけど?」
「崎谷くんは、僕を僕として見てくれているから」

 宮島は食べ終えた生姜焼き弁当の空き容器を置くと、ステーキ重へと手を伸ばす。

「・・・だって宮島は宮島だろ?」
「うん・・・でも、ドラゴンの姿・・・見られて・・・前にちょっとトラウマあって・・・」
「・・・そう・・・か・・・」

 崎谷は食べ終えたマンゴープリンの空き容器を置くと、パパイヤヨーグルトのふたを開ける。

「・・・悪かったな、何か重い話させちまって」
「ううん、やっぱ崎谷くんには僕のこともっと知ってほしいし」
「そうか・・・。ところで・・・1つ聞いていいか?」
「何?」
「・・・肉、食べすぎじゃね!?」
「フルーツデザートばっかり食べている崎谷くんに言われたくない!」

 その時2人の間を強い風が吹きぬけた。その風で放置していたゴミが舞いそうになり、二人は慌ててそれらを抑える。そして一通り、風が収まった瞬間、今度に二人の間を抜けていったのは沈黙だったが、すぐにそれはかき消される。静寂をかき消すように二人の笑い声が屋上に響き渡る。お互いの心のどこかにある不安を消そうとするかのように、二人は大声で笑い続けた。二人で同じ時をすごすことが何より楽しく、幸せだった。



 人を愛する事の難しさは知っているつもりだ。崎谷も今年で18歳。もし万が一のことがあれば責任をとらなければならない年齢になった。勿論、宮島との関係に万が一の事は当然ありえはしないが、だからこそこの関係に虚しさを感じずにいられなかったのは否めない。
 そもそも何故自分が宮島に惹かれているのか、よく分かってもいなかった。何せ顔をあわせれば今日のような調子で自分のペースを狂わせる、そんな宮島のことを怒鳴ることだって有るし、感情的に彼に苛立ちを感じる事すらある。でも、それでも彼を突き放さないのは、きっと突き放せないからだろう。もし自分が突き放せば、きっと宮島はドラゴンとしての自分にまた自信を失ってしまうだろう。彼の無邪気で自己中心的なほどに奔放なさまは、時々垣間見える自分の弱さを見せたくないためだと、崎谷も理解していた。彼の苦しみは先谷にもよく理解できていたからだ。

「崎谷くーん、まだー?」
「あぁ、待ってろ。すぐに出るから」

 崎谷はそう言って自分が浴びていたシャワーを止め、バスルームのドアを少し開けて棚に置いてあったバスタオルで身体を拭き、それをすっと身体に巻きつけた。学校が終わった後、適当に道草を食って夜になったのを待った後、2人は寮へと帰ってきた。そして今、崎谷は自分の部屋のバスルームから出て、宮島が待っているベッドの方へと歩いていった。その周りを見ると、今朝散らかしたままだった部屋がすっかり片付けられていた。
 続
Sweet Scar・後編
小説一覧へ
感想は通常掲示板までお願いします。