TSハザード

第2話 戸惑う弟

 父と母が其処までうろたえるのは珍しかった。病室で会話が無く気まずい空気が流れた、とりあえず情報を欲しかったので備え付けの液晶TVをつける事にした。予定された番組編成は全てキャンセルとなりNHKは特番で流し続けている。
「失礼します……私は政府災害対策本部長を務める長崎といいます……この度は眞に申し訳ありません!!!」
 ノックして入ってくるなりに親父と同じ年代の彼は土下座をした彼に唖然とする二人。事故を起こしたF市の地下実験都市は政府が推し進めた計画である……この街は明治以前から炭鉱と石の切り出しで栄えたがエネルギー革命が起き掘りつくされた鉱山跡を利用したのが地下実験都市構想だ。SFみたいな話だが地下空間を居住空間にする事は有効な手段だが色々と問題が起きる……そこでモデルケースを開発して対処しようと言う事になり全国に複数の鉱山跡の一部に建設した訳だ。まあ某半島国家の核攻撃に備えていると言う笑えないジョークも飛び出している。F市は中でも規模が大きく各行政機関も住宅も商工業地区もある訳だ。
「唯は元に戻らないですよ!どうするんですか!」
 将一は長崎に詰め寄る。
「はい、政府としても最大限にサポートさせて頂きます!戸籍の変更も特例で認めるように手続きを進めさせていただきます」
 すると長崎は床にへたり込んだ。
「大丈夫ですか?」
「はい、何せ次から次へと問題来るもんで……」
 近くに親父の同級生の小料理屋がありお座敷が有るのでそこで食べる事にした。
 彼の話しによると商工地区にある製薬会社の研究所にて爆発があったがそこはアメリカ軍の息がかかった所で未知のウィルスを研究していた。
「それを巡って銃撃戦になり弾みで爆発したんです。はあ…調査二部の連中は何をやったんだが……」
 内閣調査室二部……アメリカで言えばCIAと言う事になる。
「じゃあこの都市は閉鎖されるんですか?」
「いえ、ウィルスの特性で空気感染はしませんし爆発事故の高温で死滅したんですが……あの峠道の山頂部分には実験都市の換気口があります其処から噴出して……唯さんは感染してしまったと見てます」
 長崎は冷水を飲み干した。
「生活はどうなるんですか?」
「無論引き離す事はしません、これは総理から厳命されていまして関係各所の根回しは住んでます!」
 後手後手に回る政府にしては手回しがよさすぎだ。

 結局長崎さんは夕食を終えると秘書官と共に別の場所へと向かった。俺達は病院に戻る………報道陣が生中継の為かニュースレポートを読み上げる姿を見える。
「親父もお袋も家に帰れば……今夜は俺が付き添う」
インプレッサのキーを親父に渡す。病室に入ると少女となった唯が眠っていた…医師の話しによれば性転換の作用で相当な肉体的疲労で眠っているだけと言う事だ。
「入るよ」
 中谷医師が病室に来た。
「僕も眠れなくなったね………クマノミを知っているかね?」
「はい…」
「魚の中には集団で過す種が殆どだ……無論敵から身を護ると言うのもあるが生殖にも都合がいい、ある種は全部雄なのだが個体の何匹かは雌になる……クマノミもそうして子孫を増やす訳だ、体が大きいのが雌になっているのは厳しい生存競争し生き残った雄の名残と言う事になる」
 なるほど、将一は頷いてしまった。
「逆のケースがベラで雌が雄になる……一夫多妻であるからメスを沢山確保できると言う事だ。クマノミは一夫一妻だからね……」
 将一はコーヒーを出し中谷医師と話し続けた。

 夜が終わり白々と空が明るくなる……将一はソファベッドで寝ていた。机には書類やFDが少々散乱し、ノートPCは待機モードになっていた。
「う…ん……トイレ…」
 ベットに寝ていた唯がもそっとした感じでトイレに行く何時もの通りに可愛らしくも成長著しいペニスを探している手……寝ぼけ眼だがちゃんとトイレはできる…しかし、それは昨日までの話だった…。唯はふと見ると病院着の間から見える見慣れない物が二つにある事に気がつき代わりに十二年間見慣れた股間にある一物は無かった……尿意は迫って来ているとりあえず座るしかない慌てて便座に座ってオシッコをした……。夢ならホッペタをつねって覚める……唯は指で抓ってみるが痛みが襲い完全に眼が覚めた。
「女の子になっている……これって女の子の……」
 唯はマジマジと見る……兄がこっそり見ていた裏の洋物に出てくるような美少女にある花園と遜色が無い……オシッコが終わり迷っているとドアが開き兄はしまったと言う顔になる。なんせ便座にすわり股を開いた病院着を来ている女の子…元男の子と言うPCアダルトゲームの世界が現実に起きている。
「ゴメン!!」
「お兄ちゃん……できれば看護婦さん呼んで来て……何か血が出ているんだけど…」
 兄はハッとした。
「何処から?」
「股間から……」
 顔を赤らめて言う。数分後中谷医師と当直の看護婦数人が来て将一はテーブルにある書類を片つけていた。
「つまり、女の子になったわけ?」
「そうなんだよ……体は正常で異常はまったくなしと言う事だが……医学史上類を見ない症例なんでね、もう大騒ぎなんだ……欧米からは遺伝子学の権威が緊急来日しているし…君を診察したいと申し出ているが精神が落ち着かないだろう…」
 中谷医師は唯に言うと彼は頷く。
「どうしょう……お父さんとかお母さんとか捨てたりしないよね?」
「そんな事はしないぞ……おはよう…」
 父と母が病室を訪れる。
「将一、着替えよ……近所にスーパー銭湯があるからそこに行ってきなさい」
「ああ……」
 将一はリュックサックを受け取り中を確認すると私服とYシャツが入っていた。
「じゃあ行って来る」
 部屋を出て特別室のドアを閉める。
「かあさん……?」
 母親はクスっとわらう……。
「神様ってほんとうに気まぐれね…でも娘が欲しかったし……十二歳でCね……巨乳ね…」
 父親はコメントに迷う瞬間だった。

 対策室に宛がわれた市役所の会議室はタバコの煙で充満していた。
『性転換した子は今の所は彼女しかいません…問題は獣人化した彼らの処遇ですね』
 やや流暢な日本語で喋る男はため息を出す。ラッキーストライクの箱が二個程潰れていた………。
「Mr.レスリート……彼女と一家に関しては日本政府に一任してもらいたい……それに今後バイオハザートを起こしそうな米軍研究施設は即刻本国に移してもらおう……」
『その点は言われなくとも判っている………この事がばれたらペンタゴンやホワイトハウスの住人も引越しする事になるのだからな…』
 二人はため息を付く。
「互いに変人の上役に仕えるのはきついな」
 レスリートは頷く。

 唯はとりあえず母親から基礎体温とか生理用品の使い方とか習っていた。一年前に性についての授業をした時には頭の片隅に置いていたがこうなるとは思いもしなかった……。
「学校どうしよう……」
 唯にとってはこれが当面の問題になるのだ……夏休みに入ってので急な転校でも可能だ。
「橘君じゃなかった…橘さん…」
「先生?どうしてここに?」
 彼女の名前は安土 沙代子……唯が通う学校のクラス担任だ。
「校長から聞いたわ……橘さんは学校とか代わりたくないよね……」
 頷く唯……。
「そこで……唯ちゃんを転校生として迎え入れるよ……書類はでっち上げになるけど日の丸親方文部科学省公認の”許される偽造”だからノープログレム!」
 眼から鱗が落ちる発想に唖然とする唯。
「でも、いるはずも無い本来の僕をどうするんですか?」
 安土はニッとする。
「私の父ってアンドロイド開発の世界的権威でお手伝いアンドロイドの”HS−01 セレナ”を実用化しているのよ…女性型のアンドロイドは単に世間体のウケがいいから……外装さえ代えれば…」
「僕の代わりになると言う事ですか?」
「戸籍も今回は政府公認で捏造できるんだしね………まあ色々と実験できるから悪い話じゃないでしょ」
 すると先生はあるノートを差し出した。”転校生”である橘 唯は伯父さん夫婦の子供であり生まれつき病弱だったが転地療法で体力が戻り街の生活に慣れさせる為に弟夫婦の元に預ける事になると言う事だった。
「よく、考え付きますね…」
「これでも演劇に青春燃やしていたのよ……」
 先生はウィンクした。
「でも、これは……罪ね……」
 先生も唯のCカップの胸を見る。


 第2話 戸惑う弟 終
第三話 モンスターダンション
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