森のお手伝い・前編 黒ヤギ作
 ようやく春になり若葉や花が生え人々がいきいきしてきた頃、とある地域を支配している王国のお姫様であるジュリアは退屈していた。城の中にも色々な季節のしきたりがあるが、もう何年も変わらず行ってきたことであり、道化師を呼んだりするのも、城の中の敷地で遊ぶのにもいい加減退屈してきたので、そこで思い切って城の北の方にある森へ行ってみることにしたのだった。大抵は昔から慣れ親しんでいる教育係やメイドや城を守る衛兵と遊んでいたので、あまり城の外に出て行ったことのないジュリアは久しぶりに興奮しながら翌日の準備を済ませてベッドに入った。
 翌日の朝早くにジュリアは淡いピンクのネグリジェから普段の格好とは少し違う動きやすい服装に着替えると、それでもブラウスの胸元には誕生日に女王である母からもたった翡翠のブローチをつけたりとお姫様らしい可愛い格好をして、城の門番に一言出かけてくることを言って、北の方角へと歩き出した。
 始めは陽気な気分で入ったが、森は想像以上に深く、昼に作ってもらったサンドイッチを食べてからもうかれこれ数時間彷徨っただろうか、普段からこんなに歩くことがないジュリアはもうヘトヘトだった。岩に腰掛けて休んでる自分が迷っていることにようやく気付いた。
 水や食べ物はランチの時に念を入れて少しだけ残しておいたが、これからのことを考えるとさすがに今食べるとまずいと思った。はじめの陽気な気分はどこへいったのやら、まだ昼さがりなのにこんなに暗いこの深い森はジュリアのなかにある不安な思いを膨らませていた。再び歩きはじめてしばらく歩いているとしゃがみ込んでいる人影が見えた。近寄ってみると、長い垂れたウサギの耳を持つ見た目からしておそらくラビ族だろうか、籠を片手にかけて野草を拾っているところだった。肩より少し長さある鮮やかな紫色の髪の毛と、シャツから少し覗かせている大きな胸が印象的だった。
「すみませ〜ん。」
 そういえば人間とウサギを混ぜたような容姿のラビ族は森の命を育む心やさしい人たちだ、とこの国の王である自分の父の言葉を思い出した。
「あ、あの私道に迷っちゃって、それで、どうしていいかわからないの。お願い、ここの森から出る方法を教えて。」
 疲れ切ったジュリアは泣きそうになりながら必死に懇願した。
「ちょうどよかった、教えてもいいよ。でも一つだけ条件があるんだ」
 黒白のまだら模様のラビ族の返答は思ったよりあっさりしたものだったが、どうやら何か条件をのまなければいけないようだった。しかし無事に帰るならどんな条件でものむ覚悟だった。
「いいわよ、私が無事に帰れるなら。」
「ちょっと手伝ってほしいことがあるんだよね。正直僕だけじゃ大変だからさ。」
「何を手伝えばいいの?」
「それは僕についてくればわかるよ。」
 そう言ってラビ族の女の子は森の奥深くへと歩き出した。ジュリアは森から出たいのにさらに奥深くに歩いて行くのが不安に思えて仕方なかったが、一方で思ったより軽い条件でこのときはほっとしていた。後でとんでもないことになるともしらずに。
「ところで名前何て言うの?」
「僕はピットっていうんだ。もしかして、ジュリア姫でしょ?」
「何で知ってるのよ!?」
「こんなに可愛いのはジュリア姫しかいないでしょ。この森でももっぱらジュリア姫は相当に可愛いって噂だからさ。」
 スカートも穿いてる女の子なのに僕と言っているピットを少しかわいらしいと感じながらジュリアは驚いたが、確かに赤毛に縦ロールの髪の毛で動きやすい服とはいえ、こんなにきれいな服を着ていてなおかつ可愛いとなれば、誰でもお姫様と思うだろう。こうして話しているうちに、ジュリアとピットは、案内されるところに着くころにはすっかり打ち解けあっていた。

「ここだよ。さあ、入って。」
 そう言ってピットは扉を開けてジュリアを先に入れた。外見は洞窟を改造して造ったような感じだった。自分の住んでいる城と比べるのは普通に考えればおかしいが、見た感じ狭そうだった。しかし中に入ってジュリアは驚いた。
「この卵・・・。」
 ジュリアは案内された部屋にある卵の存在とその量に驚いた。しかも卵はニワトリが産むような茶色や白の卵ではなく、カラフルに彩られたいわゆるイースターエッグだったのだ。大きさも普通の卵に比べてダチョウの卵の大きさくらいだろうか、かなり大きかった。
「人間の世界では復活祭とか何とか言ってるんでしょ?何かの神様が復活したのを祝うお祭りみたいだけど、こっちでは生命を育む目的でこの卵を産んでるんだ。産んだ卵は森の神様が現れると言われているところに持って行って、神様に捧げるんだ。この神様が森のあらゆる生き物を創り出すんだけど、この卵が神様にとって生き物を創り出す時のエネルギーになるんだ。つまり僕たちは神様のお手伝いをしているってわけ。」
「産んでる?」
 ジュリアはその言葉に疑問を覚えた。
「そう、僕達はこの卵を産む仕事をこの時期にしてるんだよ。君にはその卵を産む手伝いをしてもらうよ。」
 ニコニコしながらピットは言った。卵なんて人間は産めないし、ありえるはずがない。ジュリアは動揺した。手伝いはそこまで大したことではないものだろうとタカをくくってたジュリアにはまた大きな衝撃だった。それにジュリアはまだ処女だったため、これからされること、城の教育係に最近教わったことだが、であろうことを想像すると顔を赤らめながら反論した。
「む、無理にきまってるでしょ、人間がどうやって生まれるか知ってるの!?」
「大丈夫だよ、それはこっちでできるようにするから。心配しないで。それにこの森から出たいんでしょ?はじめに約束したじゃん。」
 今更もう遅い、とでもいうような感じでニコニコと含み笑いを浮かべながらピットは言った。その時ジュリアは背筋が凍るような感覚を覚えた。

 将来はかっこいい王子様と結婚するまで純潔ですごして、そして処女を捧げるつもりだったのに、このままだとラビ族に処女を奪われてしまう。まさに貞操の危機だった。しかし条件を安易に飲んでしまった自分にも悪いところはあった。とにかくこれから起こることが早く終わって自分の住居となっている城へ帰りたかった。ピットから服を脱いで体を洗うように言われたので、ジュリアはピットの誘導に従ってシャワー室に入った。
「じゃあ、僕もシャワー浴びるから終わったらそこにあるバスローブを着て待っててね。自分の服はそこの籠に入れてね。」
 ウキウキした調子でピットは言い、さっさと服を脱いで別のシャワー室へと入っていった。それを見たジュリアはさすがに服を脱ぐ気分にはなれなかった。しかし帰るためにはこれから指示されることにはすべて従わなくてはいけないのだろうとジュリアは思った。
 そして意を決して服に手をかけ、一気にブラウスやショーツといった服を脱ぎ服を籠へ入れると、さっとシャワー室へと入っていった。シャワー室には丁寧にシャンプーとリンスと石鹸といった体を洗うためのものがあらかじめ用意されていたが、それらが置いてある棚の横に淡いピンク色の妖しげな液体がガラスのコップに入っていた。その横には紙が置いてあり、『シャワーを浴びる前にのんで。』と書かれていた。
 これから自分はどうなるのだろう。そう考えると不安の二文字しか出てこないが、震える手でコップを掴むと目をつむってその液体を一気飲みした。口当たりはなぜか爽やかで花のような甘い香りが鼻を突きぬけた。その香りを嗅ぐとなぜか気分が落ち着いてきてとろけるような感覚に襲われた。
 その気分のまま髪の毛や体を洗い始める。洗うたびに体が火照りだし全身がやさしく撫でまわされているような気がして、それだけで気持ちいい気分になっていった。シャワー室を出て髪の毛を乾かしバスローブを羽織ると、すでに体を洗え終えたピットが待っていた。
「どう、気持ちよかった?」
 嬉しそうな表情でジュリアを見た。その時のジュリアは火照りのせいかぼおっとしていて目が虚ろだった。その表情を読み取ったピットはジュリアの手を引いてまた別な部屋へと案内した。


 続
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