俺はこの性欲を抑えようと自慰をした。そしたらすぐに精液がペニスから溢れてきた。床が汚れる。いつもなら床が汚れたらすぐに掃除するが、今はそんなこと言ってられない。
瞬間、ある言葉がよぎった。
――血。
そうだ、血が見たい。欲しい。俺はどうしようもないくらいに血を渇望している。血があれば性欲が抑えられる気がした。しかし、血が俺を狼男にする最大の引き金となった。
荒い呼吸を感じながら、マナの薄汚れたバラバラ死体のある寝室へ向かう。足取りが不安定だ。それでもなんとか寝室に着くと、吸い寄せられるように床に付着した血を舐める。そして飲む。途端に快感が俺を優しく包み込む。興奮して射精してしまう。これじゃあまるで快楽殺人者だ。でも構わない。俺は血を飲み続ける。
最後にはマナの死体を喰っていた。血肉を貪れば収まると思っていた性欲は、さらに興奮して増殖していく。もう――どうにでもなっちまえ。
そう思った。
いつの間にか、俺は夢の世界へと入っていた。何だか宙を浮いているような心地よい浮遊感を夢の中の俺は感じる。夢の世界の俺は、ゆっくりと瞼を上げる。前には、マナがいた。
俺がまだバラしていなくて、原型を持っているマナ。マナは彼岸花に囲まれていた。一面赤色の世界。何故だか愛しく感じた。俺はマナを好きだったのだ。本当に、どうしようもないくらい好きだったんだ。
「ねえ」
マナが苺のように華やかさを持った唇を開く。マナは白いワンピースを着ていた。よく似合っていると思う。
「……」
俺は口を固く結んだまま、何も答えない。いや、何を答えていいのかわからない。
「私ね、あなたに殺されて幸せだよ」
「――――」
嘘だ。絶対嘘だ。例え夢でもそんなこと思うなんて異常だ。おかしすぎる。
「本当だよ? 私が嘘つくなんて思ってるの?」
「いや」
俺はここで初めて口を開く。
「私、あなたならこんな惨い殺され方されても平気だよ。むしろ嬉しいよ」
「何で……」
何でそんなことが言えるんだ。
「私ね、あなたが狼――」
そこで、夢は唐突に切れた。
起きれば、まだ夜だった。ほとんど寝ないで覚醒したらしい。時計を見れば真夜中の二時だ。俺は床で寝ていたようだ。背中が痛い。それより何より、俺は夢の中のマナのことで頭が一杯だった。頭が思考の渦を巻いている。
思考の渦は止まらない。俺をどんどんと暗澹たる世界へと思考は導く。パステルカラーのホラーを彷徨っている感覚がした。そこでマナの最後の台詞を思い出す。
『私ね、あなたが狼――』
あの台詞の続きはなんだったのだろう。
俺はまだ全裸だったから、服を着ようと思った。俺はもう一度自分の肉体を見る。筋肉質のままだ。間違いない。これは現実なんだ。と、確信を抱いた。そのときだった。
心臓が縄で締め付けられるような痛みに捕われる。 激痛が全身に及ぶ。俺の大きなペニスは勃起する。こんな一日に勃起したのは久しぶりだ。
「う……ぉぉおおおおおお!」
激痛のあまり叫ぶ。瞬間、不快な音を立てながら俺の肉体は変化しようとしている。身長が跳ね上がるように伸び、190にまで達する。筋肉もさらに付いていく。そして毛穴が沸騰したみたいに熱さを感じる。全身から茶色々の綺麗な毛が一気に生えてくる。顔の骨格も狼のそれになっていく。
そして全身あますところ無く逞しい筋肉と茶色の毛で覆われた。爪は鷹のように鋭くなり、歯も鋭くなる。これはまるで、狼男だった。
いや、違う。
絶対狼男だ。