さかのぼれば数日前の夜の事。形のない存在となった自分が何かの閉ざされた空間の中で激しく湧き上がり駆け巡る夢を見て以来彼の股間のものは固く立ち続けていた。
最初はただの『朝立ち』だろうと思っていたが、それは昼を過ぎ夜を回っても治まる事はなく、その夜に再び同じ夢を見て目覚めた時には自分のものはさらに固さと太さを得ていた。
幸い外出は上着を羽織り怒張をごまかす事が出来たがさすがに人前でズボン越しにそり立つものをさらしながら歩くのは抵抗があり、最低限の外出以外は自分の部屋に閉じこもっていた。
何せそのものはどうしても萎える事を知らず、その中では激しい高ぶりがみなぎっている。
その次の夜、不本意ながらその怒張をつかみ少しでも高ぶりをはきだそうと試みるもののいくらさすってもつかんでも内なる高ぶりは噴火どころか漏れもしなかった。
不毛な行為に自嘲しながら床に入った彼の股間はまたも例の夢を見た時間を境に内にも外にも高ぶっている。
一体自分のものはどうなってしまったのか。もしかしてこのまま破裂するまで巨大化するのではないか。
トイレで見たものはまだ人並みに大きい位だがもう一晩眠れば今度は巨根・ウマナミとなり、さらには…。
色々不謹慎だが危険な妄想におののきながら彼は大晦日を迎えていた。
不安とあきらめの混じったため息をつきながら彼がインスタントのカップそばの用意をしていた時、不意に呼び鈴が鳴った。
何とか今の自分をごまかしながら対応しようとした弘樹だったが、ドアの向こうから聞こえてきたのが聞き覚えのある声、今の自分が一番聞きたくない声であった事に思わず居留守を使おうとして…なぜかドアを開けていた。
「あ…弘樹君、やっぱりいたんだ」
「…和菜…」
ドアの向こうにいたのは彼の知人の1人である水本和菜であった。
知人の1人、と言うのは少し違うかもしれない。弘樹と和菜は一応恋愛関係にある身でありときどきデートなるものもしているが悲しきかなまだ体を許し合った事はない。
もっとも、以前「吐き出し」を行った際思い浮かべたのも彼女だが。
まして実はまだ部屋の住所も教えていなかったという彼女がどうしてここに…。
そんな疑問を抱きながらも弘樹は和菜を部屋に入れた。
お邪魔します、と一声言って和菜はその中に入る。
その手に握られたエコバッグ、そして背負っている大きめのバッグが弘樹の目に止まった時、弘樹の中で何かの予感がした。
静かにドアが閉じる。まるで何かを予感する様な動きで…。
それから数時間後、和菜が持ってきた材料でインスタントではない年越しそばを食べて二人は何をするでなく居間でテレビを見ていた。
何を思ったのか転がり込んできた思い人。本当ならまさに年越しを背景に結ばれる絶好の機会でありながら弘樹はどうにも動きにくかった。
それだけ彼がその筋ではウブであり、そして股間でたぎる怒張を彼女に見られることへの不安もあった。
実際ここまで彼が自分のものを彼女の視界に入れない様に悪戦苦闘したかについては話せば長くなるだろう。
しかし、二人で初詣に行くにしろこのまま部屋で過ごすにしろ何か行動を起こさないといけない。
ふと和菜の方に目が行く。和菜も何を思ったのか自分の・男の部屋に入り込んで夜を迎えている事に戸惑いと照れを感じているのだろうか。
その顔は赤くほてり、目もどこか視線をそらしながらもうるんでいるように見える。
「…風呂…入るか?」
思わず尋ねてみる。和菜はふと我に返ったように、
「お、お風呂…うん、入るね…」
と言いながらそそくさと廊下に出る。
思わぬ声かけ―これではまるで本当に誘っているではないか。
もしかするとこの自分のものの高ぶりは和菜と結ばれる為のものなのか、まだ男性を知らないであろう和菜の中でそれが一気にはじけるのだろうか…。
そんな事を思いながらも今なおにじむ事すらしない怒張に手を触れる事無く―触れる必要もない位高ぶってはいるのだが―高ぶりを感じながら弘樹はしばしテレビを見ていた。
「…お風呂上がったよ…弘樹君、上がったら…部屋に…来てね…」
ドアの向こうで和菜の声がした。
「!?」
和菜が誘っている。あの今時の女子にしてはうぶな所の強い彼女があんな事を…。
やはりそうなのか。そう思いながら弘樹はドアを開ける。和菜の姿はもうなかった。
そして、弘樹も意を決したように風呂場に入り、全身を―特にそそりたったそこを―シャワーで洗い流すとタオル1枚の姿で風呂場を出た。