既に夕闇の時は終わり、辺りは夜の帳に包まれていた。
昼間は生徒たちでにぎわう校舎や校庭、そしてその辺りの道路もほとんど人気が無くなっている。そして、職員室の明かりもすでに消えている。
そんな中、良美は静かに教員用の出入り口を通り外に出た。
静かに鍵をかけ、セキュリティを入れたあと、彼女の足は通用門のある方ではなくなぜか校舎の奥の方へと向いていた。
その足は静かだが何かに導かれる様に早く、その顔は緊張と高揚故か少し赤く染まっている様にも見えた。
まるで恋人の元に行くかのように良美はそこに足を運ぶ。激しくなったと息と鼓動をBGMに。
「はぁ…はぁ…着いた…。」
距離こそそんなに長くはないものの、上気した顔と荒い息が良美がそこに行くまでにどれだけの感情を持っていたかを物語っている。
そこまでの思いを持って辿り着いた場所、そこは校舎内の飼育小屋だった。
生徒の情操教育の一環として作られたその場所はそこそこの広さを持つ運動場に雌雄に分けられた部屋とその手前の準備室で構成され、その中には雌雄数匹のウサギが暮らしている。
しばしその全容を見て呼吸を整えた良美は静かにうなずくとそれでも止まらない興奮とともに静かに準備室の扉を開ける。
「…?鍵が開いてる?不用心ね…。」
鍵を開けようとした所既に開いていた事に不審を感じながらも良美はそれ以上意に介さず、扉を閉め、内側から鍵をかける。
「…いよいよ、いよいよね…。」
気を鎮める様に大きく息をしながらなぜか良美は辺りを見回す。
視線の先には金網に囲まれたウサギ達の部屋。本来夜行性であるウサギ達は狭いに関わらず部屋の中で活発に動き回っている。
そんな姿にほんのり顔を赤くした良美の目に不意に交配箱と書かれた箱が飛び込む。
「!」
なぜか良美はそこから目をそらす。
そして、そそくさとカバンを置いて「準備」を始める。荷物をまとめ、そっと部屋の隅に入れた良美は静かにメス兎の部屋に入る。
「ふう…はぁ…入っちゃった…。」
激しくなる胸の鼓動をおさえつつ、
「ウサギ達が…一匹・二匹・三匹、四匹…」
静かに指をさしながらウサギ達を数え、そして最後に…。
「もう一匹。」
そう言いながら「最後の一匹」に指をさす。
そのウサギは他のウサギとは違っていた。
他のウサギに比べるとはるかに大きく、その体にはほとんど体毛がない。他にも本来長く伸びているはずの耳は顔の両端にちょこんと付いているだけであり、顔の形もどこか変わっている。
中でも特徴的なのはその尻には尾は見られずツルンとしており、乳首は小さく一対のみだがそのふもとは異様に大きい。
そしてさらにそのウサギは後足だけで立っているのだ。ウサギと言うには余りにも異様な生物がそこにいた。
「…もう一匹。」
しかし、良美はその存在を自分の中に確かめるように、改めてその最後のウサギのような生物に指をさす。
その指の先は…他ならない全裸の女性―良美自身だった。
彼女が一人夜まで残っていた理由、それはこの飼育小屋で衣服、そして「人間」である事を脱ぎ捨て一匹のウサギとして過ごすためだったのである。彼女が「塀の中の動物」に不思議な共感と感応を覚える様になったのはいつかはわからない。
ただ、学生時代飼育小屋で動物の世話をしている時や金網越しの光景に奇妙な感覚を覚えていたのは確かだが、それが生物的な本能の一つである事を知ったのはその後である。
自立をきっかけに借りたアパートで網目模様のカーテンを選び、自室に張ったその夜からじわじわ高ぶり続けたその本能が目覚めた時、彼女は「檻」の中で自らを解放してしまった。
そして、そんな中着任したこの学校でウサギ小屋を見た時から彼女の中でそこをいつか「自分のもう一つの部屋」にしたいと言う衝動がわき上がっていた。
既に「部屋」の中で寛いだ彼女は即座に部屋の一角に腰を下ろし、「人間」でいた時と同じように自らを解放した余韻の中で地面に体を預けていた。
「ハァ…はぁ…よかった…今までで一番…さいこう…」
あくまでも疑似的に作られた「人間の部屋」とは違い、本物の動物達の小屋、そしてその中で動物の中に混じって…動物に「戻って」自らを解放した喜びは良美にこれ以上の無い興奮と快感をもたらしていた。
「ああ…わたし…ウサギになっちゃった…人間の形をしたメスウサギ…」
その言葉に応えるかのようにウサギ達は新たに入った「異形のウサギ」に警戒しながらもその身を擦り寄らせる。
それがマウンティングと言う行為である事を今日この日の為に覚えていた彼女はけだるい体を起こすとそのうち一匹を「前足」で抱きかかえ、そっと自分の「後足」の間に沿わせ、後足と腰を軽く動かしながら「マウンティング」を行う。
「んっ、んっ、くすぐったい、毛皮と肌がくすぐり合って気持ちいい…!」
まるで本当に交わる様にウサギを両足ではさみ優しくもみあげるうちに兎のふさふさの毛皮が良美の産毛さえ少ない「毛皮のない肌」をこすり、さらに快感をもたらす。
最後の一匹にマウンティングを終えた時、良美は幾度とない絶頂によりほとんど体を動かせない状態にあったが、それでも互いの「獣臭」を交わし、「毛皮」をすり合わせた感触に酔い、自分が限りなくウサギに近い存在になっている喜びが全身を満たしていた。
そんな時、不意に良美を空腹感が襲った。
「…そうだ…今日はお昼から何も食べていないんだ…。」
せっかくの恍惚なひと時を遮断された事に不満を感じながらも彼女はだるさの残る体を起こし、準備室へと戻る。
「ええと…あ、あったあった。」
カバンの中をまさぐってとりだしたもの、それは一個の保冷バッグだった。
これも「この日」の為に用意しておいたものの一つであり、良美はその中からあるものを取り出すと再び「自室」に戻る。
「うふふっ、みんなお待たせ…ご飯の時間よ。」
そう言いながら再度腰を下ろすと、良美は手にしていたものを取り出す。それはラップにくるまれた野菜だった。
どれも棒サイズに細長くカットされているそれを良美はウサギ達に見せびらかす様に弄ぶと、静かにそれを股間に這わせ、それを自分の「中」に沈める。
「んっ…。」
あくまでも食べやすさを考えたゆえそんなに太くも固くもないのだが、興奮に高鳴るがゆえ引き締まるそこを通すにはわずかながらにきつかったらしく、良美は軽く声を上げる。
「…まずは誰に食べてもらおうかな…。」
きょろきょろとあたりを見渡すと、ふとウサギの一団と距離を置いていてうずくまる一匹の黒ウサギを見つける。
他のウサギとは少し雰囲気が違う様に見えるのは良美の感覚がウサギに近づいているせいなのだろうか。
迷う事無く良美は体を起して四つん這いのままそのウサギの元に歩み寄ると、静かにウサギに手を伸ばす。
そしてまざまざとウサギと見つめ合う。一応メスらしく、他のウサギに比べると抱き上げてもじたばたする事無くじっと良美を見つめている。
それに応える様に良美もまたウサギの目をじっと見つめる。まるで互いの瞳が合わせ鏡となって無限の空間へといざなわれる様な感覚と時間が良美の中で流れる。
ウサギを見つめる良美の眼はいつしか種を越えて愛すべき存在、生涯をささげたい存在を見つめる様な眼になっている。
ウサギも表情こそわからないけど何か意味ありげな眼で良美を見つめて、鼻をひくひくさせている。
どれだけの時間がたったのだろうか、良美は静かに腰を下ろすといまだに自分の足の間に、その奥に「生えている」カット野菜にウサギを導く。
ウサギは即座にそのカット野菜を口に咥えるとハムハムと口を動かし、かじりとってゆく。
「あ…あん…あん…」
じわじわと迫るウサギを見つめながらまだ触れてもいないウサギの口の感触に期待を膨らませて良美は声を上げる。
それがカット野菜にさらなる味付けを施したのかウサギはさらにペースを上げて野菜をかじり出す。
そしてついに彼女から「生えていた」分の野菜をかじりとり、さらに奥に刺さっていた分まで引き抜くとウサギはまだ足りないかのように良美のそこをしゃぶる様に口を動かす。
「あっ…あんっ…そこ…もっと…」
ウサギの毛皮に覆われた口元がしゃぶる度良美は声を上げる。
自分以外誰もそれを聞く人間はいないものの、それでも思わず声を上げまいとするが理性のささやかな抵抗はウサギの責めと彼女の「求めていた世界」への満足感にもろくも打ち消されてゆく。
それを加速させる様にウサギはさらに良美のそこをしゃぶりたてる。
既に野菜の味は消え、一匹のメスの味だけがウサギの口を通ってゆく。
「あぅっ!ああっ、もっと、もっと…ああんっ!」
彼女の「中」をこじ開けるほどのモノではなく、ただ周りをしゃぶっているだけのウサギの行為に良美はまるで全身を貫かれている様な快感に喘ぐ。
背もたれにしている壁が軽く震える。もし金網を背にしていたなら金網は破れる様に激しくきしんでいたであろう。
胸を震わせ、背中をそらし、激しく息をもらしながら良美はウサギの行為を受ける。
今の彼女がほんの数時間前までこぎれいなスーツを着て教壇に立っていた教師だと誰が想像できよう。そこにいたのはそれら全てを脱ぎ捨て全裸の人間の形をかろうじてとどめながらも獣の発情に酔う一匹のメスウサギであった。
しかし、それでもまだ彼女が人間を捨て、ウサギ達とまじりあうにはまだ何かが足りなかった。何かが…。
「ひぃぃーっ!」
その瞬間、良美が甲高い声―声にならない声を上げた。
それはウサギが彼女の秘部―その上に掲げられた突起をしゃぶるうちに起きた。
そこをしゃぶられるうちに快感でとろけ弛緩状態になっていた意識と体を突き抜けた電撃のような感覚。ウサギが彼女の突起をその上の歯で噛んだ時、一瞬の苦痛に対応する間もなく良美の体はビクッと音を立てた。
「いい…いたい…いた…いたい…いたい…」
苦痛と絶頂の余韻の中で彼女の肌がびくびく震え、口元がだらしなく開いている中から舌が出るかでないかで姿を見せる。
大きく見開いた眼は空を見つめ、既に理性の輝きはない。
「あっ、ああっ、あぁっ」
不意に彼女の声が震える。快感の余韻にとろけた体が激しく震え始めるのに合わせて声もまた激しいリズムを帯びたものに代わっていく。
まるで再び行為に走っている、むしろ今度は自ら行為に臨んでいるかのように彼女は体を震わせ、声を上げる。
「あっ、ああっ、あぅ、ひゃっ」
胸をつかむ必要はない。股間に手を伸ばす必要はない。
ただそうしているだけで彼女は快感と刺激の中にいる。
あられもなく壁をつかむように両腕を伸ばし、足を乱れる様に動かしながら全身をそらし、良美は立ちあがる事無く震える。
いつしかその光景を先ほどのウサギも、他のウサギ達も静かに見つめている。まるでそれが何かの儀式であるかのように。