その数ある国家の1つ、レンディメイタルは機械文明の発展に大きく貢献した超巨大企業「大天下」の本社がある事で有名で、「大天下」は政治と手を結んでいた。
「大天下」はマルチメディア対応の万能会社だが、裏では危険物取引や生体実験等の危ない事も行っている。
上層部(特に社長や収支統率部門)は残酷無情で、収入を得るためならどんなに残忍で非人道的な行いをもやってのけるが、これは民衆には知られていない。
いや、知る事を許させないのである。
残酷非道なやり方に恐れた政治家達は、以前にこの会社との協力を破棄し、この会社の実体を全世界に伝えようとした事があった。
しかし会社側はそれを許さず、政治側が不審な動きを少しでも起こしたら即実力行使で撤退弾圧すると、脅したからである。
当然、このやり方で大切な物や人を失い、会社を打倒する反抗組織が結成されていた。
反大天下を掲げる反抗組織「ジャッジメント」である。
彼等は人知れず暗躍し敵となる企業「大天下」に潜入、情報を得て本部に帰還し、少しづつ会社の内部を暴いて崩壊させると言うもの。
会社側はこの組織を滅ぼさんと躍起になるが、秘密基地の居場所すらつかめない状態であった。
缶ジュースを飲みながらレンディメイタルの街を歩く16歳程の少年が持っている携帯電話がかかった。
「もしもし?」
≪もしもし。お兄ちゃん?私よ。≫
「おっ、ユリか。どうした?」
≪リーダーが話したい事があるって。≫
「リーダーか?分かった。すぐ行く。」
その少年は携帯をポケットにしまうと、缶ジュースの残りを一気に飲み干し走り出した。
少年は地下に建てられた施設の中にあるベッドが沢山ある部屋に入った。
そこに12歳程の少女が少年に駆け寄る。
「あっ、お兄ちゃん!リーダーが会議室に来てって言ってたよ!」
「オッケー。会議室だな。」
妹の言葉を聞いた少年は部屋を出て、「会議室」と書いてある張り紙が張ってある部屋に入った。
様々な張り紙が張られている少し広い部屋で、10人弱の人達が地図を見ながら話し合っていた。
先程の少年が大人達と地図を見ながら話をしている。
「今回の潜入についてだが…。」
「俺達「竜」を呼び出したって事は、相当大掛かりな潜入になる事だな?」
先程の少年が4〜50歳ほどの大男に聞いた。
「その通りだアキラ!これはちぃとお前達「竜」の協力が必要だ!」
アキラと言う少年の問いに答えた男は、その場にいた者達に顔を合わせた。
「いいか!他にも「獅子」「虎」の代表にも来てもらったが、奴等がとんでもねぇ物を手に入れやがったんだ!」
「首領、それは何なのですか?」
3〜40歳ほどの眼鏡をかけた女性が聞いた。
「ドラゴンだ!」
「ドラゴン?伝説に出てくる生き物ですか?」
「そうだ!やつらめ、どういう経緯かは知らねぇが、奴等は手に入れたんだ!前回潜入した「馬」と「狼」が情報を入手した!」
「なーるほど。だから数日前のボスの顔が浮かなかったわけか。」
「とにかく、ドラゴンをやつらから奪うのが今回の任務だ!あいつら絶対に軍事目的に使うはずだ!」
「数は?」
アキラがリーダーの男に聞いた。
「数は分からねぇが、少なくとも3匹以上はいるはずだ!」
「潜入路は?」
人差し指で銃をくるくる回している男性が聞いた。
「潜入路は前と同じ地下鉄だ!潜入は午前1時だ!以上!」
「午前1時までかなり時間があるな。ふぅ…。」
ベッドに寝転がってため息をつくアキラに、妹のユリが刀を持ってきた。
「お兄ちゃん、愛用の刀を此処に置いとくよ。」
「おぉ。……んんー!」
ベッドの上で伸びをしてあくびをかいたアキラはあの時の事を思い出した。
それは彼が10歳だった頃、彼は当時両親と暮らしていた。
決して裕福ではなかったが、それでも毎日が楽しかったあの日々。
このまま続くと思った幸せな生活。
それをあの会社は、あの時の幸せを根こそぎ奪っていった。
会社に反目を抱いているという理由―無論これは嘘―でお隣さんや俺の家は潰され、
友達は散り散りになり、父さんと母さんは俺達を奴等から逃すため囮になった。
父さんと母さんが連れて行かれるところを、俺とユリは奴等に見つからないように隠れ、ただ黙って見守ることしか出来なかった。
厳しい事もあったけど、優しかった父さんは激しい拷問の末に惨殺され、優しくて、俺と妹に母親の愛情を一心に注いでくれた母さんは、性的な暴力を受けた挙句、奴等の実験体にされてその後の消息は不明。
今から1週間ほど前に潜入した時にその情報を得た俺は、否定したかった予測が当たってしまった事にショックを受けた。
それと同時に抑えられない激しい怒りと憎しみが体を突き動かし、エリート警備員20人を含めた100人近くの警備員や研究者を惨殺。
それでも怒りが収まらなかった俺は同じ潜入に駆けつけた仲間に抑えられた。
任務から戻った俺は、父さんと母さんの最後をユリに告げた。
ユリは嘘だよね、と最初は苦笑していたが、やがて俺に抱きついて泣き出した。
それ以来、ユリはの目つきは変わった。
実力で雑用から称号を上げて行き、わずか1週間で、最高の称号「竜」の称号を得た。
今では俺と行動するようになったユリは、社長を討つ事が両親の敵討ちとなった。
思い出すだけで憎しみが体中を駆け巡るが、今は任務の為に休眠を取ろう。
俺は頭を少し振って、眠りについた。
午前1時。
アキラ達「竜」は「虎」と共に会社に潜入していた。
警備室は既に先発の「獅子」が制圧。
彼等は順調に会社の中を進む。
途中で警備員がいたなら、問答無用に攻撃を仕掛ける。
警備員を斬り倒したアキラに、後ろにいるメンバーが感心したように声をかけた。
「やるな!「黒竜」!」
「声が大きいぞ「緑虎」!」
潜入時、彼等はコードネームで相手を呼ぶ。
本名で相手を呼んでいたら、どこかで聞き耳を立てている敵に気付かれかねない。
「大丈夫か?「白竜」。」
「うん、大丈夫!」
ちなみにアキラの妹、ユリのコードネームは「白竜」だ。
今回の任務は「ドラゴン」を奪うのが目的であるため、彼等はドラゴンが保管されている特別保管室へ向かう。
時折、警備室を制圧した「獅子」達が監視カメラに映る映像を「竜」達に伝える。
午前2時。
「竜」達は特別保管室に到着。
周囲を警戒しながら、ドアのロックを解除。
各自武器を構えながら保管室に入る。
ここに伝説に登場した生き物「ドラゴン」が…………いない。
「!?」
いない…!?馬鹿な!
誤報だったのか?それとも別の場所に移されたのか?
彼等に考える暇を与えないように、背後の扉が音を立てて閉まりだした!
「!!」
「竜」と「虎」達は扉の近くにいたから抜ける事が出来たが、途中でユリがつまづく。
アキラは急いで引き返してユリを起こしたが、結果として扉は閉まり2人は閉じ込められた!
「あっ!!」
「開けてくれ!早く!」
「ちょっと待ってくれ!」
外側が急いでドアロックを解除しようとするが、室内からは煙が立ち込める!
「えっ、これ…何!?」
「おい、早くしろ!」
「…くそっ!ロックの解除が出来ない!」
「何だって!?」
何と解除が出来ないのである!
2人は必死に扉を開けようとするが開かない。
そして部屋の中にガスが充満する。
「あっ…うっ…。」
「くっ!こん…なと…ころ…で……。」
扉の向こうから聞こえた2人の声はやがて聞こえなくなった。
「…。」
「俺達を誘き寄せる罠だったのか…。」
警報装置が鳴り響き、社内が騒々しくなっている。
「くっ…、一旦引き上げるぞ…!」
「畜生!…悔しいけど許してくれ、「黒竜」、「白竜」……!」
「…博士、準備出来ました。」
「よし…。」
「竜」達が脱走してから30分後、10人強の研究者達が実験室と思しき場所でなにやら実験を始めようとしていた。
その中にあの2人の兄妹がいた。
2人は薄い水色をした培養液と思しき巨大な円柱型ビーカーに全裸で入れられている。
「だがその前にこの2人を起こしてくれ。教えておきたい事があるのでね。」
「了解しました。」
女性がパソコンのキーボードを打つと、培養液の中に別の色の液体が入り、2人はゆっくりと目を覚ました。
2人とも寝ぼけたような顔をしたが、今いる場所や自分達が置かれている状況に驚いた。
「驚かなくても良いんだよ。」
ビーカーに入れられた2人の口からは泡が発せられるだけで、言葉が全然出てこない。
「君達は我々「大天下」が、伝説に出てくるドラゴンを我が者にしたと言う情報を得て此処まで来たのであろう。結論を言うと…。」
「我々はドラゴンを手に入れたのだよ。」
2人はビーカー越しに顔を見合わせた。
やっぱり手に入れてたんだ。
「とはいっても…。」
研究員の中で偉いと思われる男の言葉に反応した2人は男を見た。
「ドラゴンの「遺伝子」だけどね。我々はあえて嘘の情報を流したのだよ。」
遺伝子の単語に反応した2人は嫌な予感を感じた……。
「さて、君達には面白いものを見せてあげよう。始めろ。」
「はい。」
研究員は再びパソコンのキーボードを打つ。
すると2人は急にめまいが起こったような感覚に襲われたが、すぐに戻った。
2人は頭に疑問符を浮かべるような顔をしたが、体に視線を向けると、2人の表情は驚愕に変わった。
まずアキラの体からの僅かにわずかに青っぽい緑じみた毛、ユリの体から黄色じみた毛が生えてきた。
その毛は少しづつ伸びて適度な長さで止まった。
次に手足に違和感を感じ、2人は恐る恐る自分の手足を見た。
手の指が4本になり、足は指が前に3本、後ろに1本と変形していく。
顔は口と鼻が前に突き出し、背中から翼が生えてくる。
更に2人の四肢は少し太くなってヘソの穴は消滅し、2人の腹は少し肥満気味に膨らんだ。
アキラのペニスは体の中に入り込んでいき、ペニスのあったところはヘソの穴のようなものが出来た。
髪の毛の色も代わりを見せ、アキラは水色、ユリは桃色に変色する。
最後に尾てい骨から尻尾が生えて変化は終わった。
巨大ビーカーの中にいた2人は―いや、2匹と言った方がいいのだろうか―変化してしまった自分の姿に驚愕して口が塞がらなかった。
ドラゴンに人間を合わせたような生き物…、2人は「竜人」になってしまったのだ。
そして突如襲ってくる強烈な眠気。
2人はそれに抗う事無く体を丸めて眠りについた。
「ドラゴンの遺伝子、投与完了しました。」
「ご苦労。いやぁ、しかしこのようになるとは…。」
「博士、この2匹はどうしますか?」
「そうだな…。まずは最初の実験としてあの部屋に連れていけ。この2人はまだ年が若いが、なに、問題は無い。」
博士は邪な微笑を浮かべ、部下数名とある部屋へ向かった。
そして竜人となった2人の兄妹は、ある部屋に運ばれた…。