産み出す為の病・前編 冬風 狐作
「もう、新年早々・・・っ」
 そこはどこだろう、大きな窓ガラスが特徴的でそれでいて妙に合理的とも寒々とも言える部屋。だがこの部屋が活きている、つまり人の手によって活用されている一室であるのは小奇麗にされた掃除の痕跡と、稼動している石油ヒーターの動作から容易にうかがえる事であった。
「良いだろう?だってしたくて仕方ないんだよ・・・お前だってそうだろう?」
「そりゃそうだけど・・・」
 声の気配から2人がこの部屋にいるのは分かる。どちらも似た様なトーンであるが片方はどこか恥ずかしがっていると言うべきか、その声の一部にほんのりとした湿り気がある。
「大丈夫、ここを使うのはちゃんと申請してあるから何もやましい事はないって・・・んっ」
「ん・・・っ」
 それまで交わされていた言葉は不意に途切れる、そしてしばらくの沈黙と思しき瞬間は微細な音が静かに響く事で辛うじて、音が途切れる事を防いでいた。それは互いの唇を交わす音、しっとりとねっとりとでも評せる様にある程度の時間交わされたそれは、一筋の唾液の架け橋を余韻とでも言うかの様に伸ばして、そして千切れてからもなおしばらく見詰め合う互いの双眸は不思議と潤んでいるようであった。
「ま・・・病気だもんね、分かってるよ」
 ようやくその間を絶ったのは冒頭の言葉、少し恥ずかしさを上乗せした言葉を漏らした側であった。元々なのだろう、ほんのり赤色を帯びた黒髪が妙に目に留まる。
「お互い様な、お前も俺も・・・どうせ今日は殆ど人がいないのさ、だから大丈夫」
 応じた方は白髪交じりの黒髪、と言うところだろう。何れにしても年の頃は似通ったもので、ある程度社会と言うものを知っているそんな気配の漂う2人であると言えよう。
「それで新年最初の病気は何?早く示してよ・・・っ」
 新年最初の病気、その用法はどこかおかしい。そもそも病気と言うのは意図的にかかるものではなく、大抵向こうから予期せずやってくる厄介な存在であるのに違いない。しかしここではまるで望んだ通りに、思い通りになるとでも言わんばかりの響きが含まれていた。
「それはなぁ・・・分かってるくせに尋ねてくるお前をお仕置きする事かな?こんなに現れているのに、分からないなんてありえない」
「あ・・・っ!」
 当然どちらも微笑みの色合いを言葉にも雰囲気にも纏っている。決して何か不穏な気配とかは一切無い内に、ほんのり甲高い呟きが空間に響いた。
「こことここ、さっきからずっと見せ付けといてその問いかけは無いぜ・・・お前?」
 相手を「お前」と呼ぶ男は体を今の間に密着させていた、それだけではないその両手はそれぞれ相手の体の2つの膨らみへと周り、それぞれをしっかりと握っての愛撫をしている。一方は胸、そしてもう一方は股間へとその手は向けられ手の平全体で覆ってわしゃわしゃと動かしているのだ。
「は・・・もう・・・・んっ耳まで・・・っ」
 その呟きに誘われてふと視線を向ければそこには思わず喘ぐ息と顔、更に奇妙なまでにまるで齧り付く獣と言わんばかりに、身を更に密着させて頭の脇へと顔を乗りあがらせた男の姿があった。そして確かに見ればその口はわずかに開き、そしてその中には耳が食まれている。
「くふ・・・何時もの通り、と言うより発症が早いぞ・・・さては溜まってるんだろう・・・?」
 男の舌に伝わってくるのは耳の輪郭、曲線と言うよりも丸みを帯びたそれに沿って走らせる度に伝わってくる感触はどこかざらついていて、そして抵抗感がある。ここで少し耳に触れて見て欲しい、指の皮膚越しに伝わってくるそれはどうであろうか?すくなくとも皮膚の感想の程度によってはざらついてるかもしれないが、撫でると言うのに限ってみれば抵抗感と言うのは殆どあるいは皆無ではなかろうか。
 だが男は咥えながらその舌にざらつきと共に抵抗感、それをはっきりと感じていた。まるで舌先に纏わり付いて来る様であり、更にはどこか刺さってくるとも形容出来る形になったそれ。そこから今咥えている形を脳裏に浮かべつつ、男は口を離して見つめるまで敢えて確証と言うものを持たずに味わい、文字通り余すところ無く湿らせた挙句、ようやく口を外したのだった。

「ああ、ほらやっぱりなってる」
 まるで気付いてなどいなかったかの様な、それはわざとらしい気配をはっきりと漂わせて男はその耳に囁きかけた。
「丸い耳・・・もう出てる」
「う・・・もう出ちゃってる・・・?」
 はっとした様に手を回してその耳を覆い隠す相手は、掌に伝わった湿り気に思わず背筋を振るわせる。
「ああ・・・っと言うよりもこの部屋に入って来た時からそうなってたのに気付いてたけど、知ってた?」
「いや知らないって、ああやっぱり今回だから興奮してたのか・・・普段より」
 言葉はこれまでにも増して震えていた、しかしその一方で言葉として吐き出して気持ちとして少し落ち着いたのだろうか。ふっと耳を覆っていた手は外されて、再びあの丸い耳が空気に晒される。それは確かに丸かった、そして位置がおかしかった、そこは本来耳のあるべきこめかみの後ろではない頭の中腹とでも言うべき場所。当然髪の毛がそこから生えている場所であり、あの白髪交じりの中から姿を見せているそれはアジサイの花びらの半分、とでも言うべきかの様に平たい格好をした形になっている。
 そう人の耳の形ではない。そしてその事実を補強するかの様、に唾液に包まれた事をはっきりと濡れそぼった白と灰色、そして鮮やかな赤銅色とでも言うべき毛並みが生え揃っている。それは決して長い毛ではなく薄い絨毯の様とでも言うべきだろうか、とにかく前者は内側に後者は外側にと、耳の輪郭の縁を境と宣言しているかの様に棲み分けて生えそろっていた。
「ま、どこからなったのかは知らないけど、この服装は家からしてきたんだろう?」
 そこでいきなり男は話の対象を変えた、体はその場に留めて密着させたまま擦り付けて、相手の身にまとっている衣服について尋ねかけた。
「うん・・・おかしい?」
 その服装は一見して特におかしいところは無い。少なくとも色の組み合わせが悪いとか季節、今は冬なのに夏服を着ているとかその様なおかしさは全く見当たらない、どこにでもある様な服装。
「んー相変わらずセンスは良いよね・・・でもこんな立派なモノがあるのに着てるなんて、おかしいかもっ」
「ん・・・それは・・・ぁっ」
 次に男が力を込めたのは股間を当てている手の平であった。そして呼応するかの様に喘ぎ声を相手が漏らした後は、ひたすらそれを揉みそして掴んでいく。
「一応ズボンにしたのは良いけど、どちらも膨らましたまま来たでしょ・・・おかしいよね?」
 続いては胸だった。決して大きいとは言えない、しかし服の形として見える膨らみの上に置いた手を改めて動かすなり、再び喘ぎ声が響く。そして再び耳を口に食まれての男からの囁きに従って、自らそれらが何であるかを、そして何がおかしいのかを口にしてしまう。
「ああ・・・おかしいです、僕・・・お胸におちんちん・・・あります・・・っ」
「そうだよなぁ・・・ほら、もっと」
 今や喘ぎ声は一定のリズムを持つに至っていた。そして男が手を当ててそれぞれを弄る行為も弄る、では表現し足りない域に達している。
「あーあ、こんな勢いよく出てきちゃって・・・フック外してチャック下げたらさ」
「あうっ服の上から舐めないで・・・っ」
 服の上、フックにチャック、それらの単語を発した口は異なるとは言え一方の、1つの体に起きている事を示しているのは同じだった。まずフックにチャック、それらを有する衣服と言うのはそうズボンである。そのズボンを縫製とか関係無しに着用する時に人が操るのがフックとチャックであって、それらが外れていると言うのは着用されていない時か、着用されていない時であれば様を足すとかそう言う必要性に迫られて、しかも滅多な場合、人目の無い場所、あるいはそれがされていて当然と考えられるトイレだとかそう言う場所に限られよう。
 だが今、そこは解き放たれているばかりか大腿部の半ばまで引き摺り下ろされている。そして何にも増しての大きな竿、言わばイチモツが軽く反り返ってぴんっと天を突いている。
「おまけに何も履いてないしねぇ」
「だって慣れないから・・・」
「慣れてない?俺は慣れているけど・・・っ」
 そのイチモツ、その竿に何を言わん、とばかりに言葉を発した時には男は手をかけていた。掴み扱いては時として亀頭に手を回して撫で回し、その度に声を上ずらせる相手の胸は服越しに舐め回す男の唾液ですっかり湿っていた。
「だって僕・・・女の子だから、持ってるのだと収まりきらないの・・・っ」
 女の子、と自ら述べる言葉とその股間の怒張振りは如何ほどのものだろう?だが改めて視線を胸へと向ければ、なるほど確かに胸はある。しかし股間とあわせてみれば何とも混乱させられる、どちらかは紛い物なのではないか?それとも幻でも見せ付けられているのではないか?とすら思えよう。
「ふん、どこが女の子だよ。こんな立派なの持っちゃって・・・胸はパッドでも入れてるんだろ?」
「ああ、そんなのぉない・・・っ」
 にやっとした笑みを増して強く胸をなぞると、相手は、その股間の怒張と胸のふくらみのアンバランスな彼は否定の嬌声を漏らす。すると意を決したと出来ようか、そこまで決意的なものではなくともではそこまで言うならと言う調子で、男の手は服のチャックに手をかける。そうその服は前のチャックで止めている構造であったから、それさえ外してしまえば一気に服は体を包み隠すと言う果たしている役割を失うのだから。



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