その男、父親が折りしも浮かべていた子供・・・そう息子は部屋の窓を開けて、雨が降る様子をじっと眺めて、草の香りの乗った風を受けていた。
(ああ雨なんだなぁ・・・)
息子、その名を光夫と言う。光夫は最近ぼんやりとこうして雨を眺めている事が多い、と感じていた。雨が降るとどれだけ好きな本やゲームをしていても、途中で投げ出してこの様にして見るのにひたすら時間を費やす時間、それはここに引っ越してくる前では有り得なかった。下校時に雨に降られた時は幾ら傘を持っていても開かずに全身を濡らすまで歩き回るほどで、明らかに変わっていた。
だが流石にここまで暗くなってしまうと、雨に染みていく光景を見る事は出来ない。まだ薄っすらとした明るさはあるのだが満足に見渡す事が出来なくなった、と感じた彼は窓は閉める事無く、静かにその場を離れてベットに寝転ぶか、と床に降りた、その時だった。
「・・・!」
何かを踏んだ、冷たい液体と咄嗟に浮かべるその感触に思わず身構えた。そしてさっと足をどけて足の裏を触ると確かに濡れていた、それは水としか思えない物で試しに手先についたその水を鼻先に持っていたが特に匂いは感じられない。
「何だよもう・・・驚いた」
恐らく見ているのに夢中で雨が吹き込んだのに気がつかなかった、と思って頭の中で処理した彼は濡れてしまった手を軽く舐めて、折りしも喉が乾いていた事もあってそうした後、ベットの上へと身を横たえた。今日は両親共に遅い帰りだと言う、その朝に言われた言葉を思い出して電気もつけずに転がって、何時しかその瞳を閉じた。そして雨の音に混じっての寝息が響いていた。
それからまた日々は流れる、何時しか梅雨も終わりすっかり夏めいて、それを強調する様な南の土地らしい湿度の強い空気が島を覆う様になっていた。一家の島への定着、つまり馴染みは一層進行していたと言えるだろう。夫こそ島の外の情報に触れる機会が多いからかそこまでではなかったが、妻、そして息子はすっかり進んでいて、当初まとっていた外物と言う気配はいまや皆無になっていた。一番の変化は言葉だろうか、独特の訛りがそこかしこに含まれる様になっていたのだ。
残念ながらそれは文字で示すのは難しい、だが島内でこそ問題ないが島外ではもしかすると通じないかもしれない、と言うレベルに近付いていたのは難くない。少なくともそれは日本語である、だから家族の間での会話は成り立つし時折する電話でも話は通じる訳である。
だが電話も、ここに来た事情が事情であるからそう出来る訳ではない。何かに勘付かれたらそれは大事なのだから時たまであるし、元々そうしょっちゅうしていた訳ではないからまず無い、と言った方が良い。だからこそ外部と触れぬ内に、本人達もそうと気付かぬ間にこの島の流儀が身に染みて・・・定着していく。
そんな矢先のある日の事だった、あと数日で夏祭りを迎えると言うその晩もまた激しい雨に島は包まれていた。
夏祭りの準備は1年以上、この島に住む者がしなくてはならない。そう言う事情から何時もの様に事務所に出かけた男、つまり夫以外は家の中に閉じこもっていた。妻は1階に、息子は2階にそれぞれ分かれて。それはかつて、およそ半年ほど前まで中学受験突破を目指して大騒ぎであった光景が嘘であったかの様な静まりだった。
息子、光夫は部屋に朝から閉じこもったままだった。朝食を食べてからずっと、母親が呼びに来る事も無い、だからこそ彼は部屋に閉じこもって数日前から不思議と脳裏にあった事のままに動いていた。
彼が身に纏っていた衣服、それは今はすっかりベットの上に脱ぎ捨てられていた。即ち、そのまだしなやかで肉付にも幼さの残る成熟途中の肉体が、雨の中でもある薄い光に照らされて暗い部屋の中に浮かび上がっている。
その姿勢はぴんと背筋を伸ばして膝立ち、机を前にしてそうして向き合っている姿はそのまま手を伸ばして寄りかかれば、ようやく歩く事を覚えたばかりの子供のような錯覚すら感じてしまう。しかし彼はもうその様な子供、幼子ではない。少なくとも思春期の入口に差し掛かっている、今、正に少年から青年へと移行せんとする、その段階の存在である。
何よりもこの部屋に漂う臭気、青臭いとも言われるこの香り・・・あちらこちらに飛散したその、精液。それが何よりもの象徴だろう、そして彼は片手をその竿をつかむのに当てて朝からひたすらに、息を荒く扱いては感じ、空いている胸を片手にて揉んではその年齢以上の快感を既に知ってしまっていた。
「はあ・・・あ・・・っ」
そして喘ぐ、ただその喘ぎには一定のリズムがあった。まるで何かを口にしている様な、であるが明瞭には聞き取れない。そもそもどうしてそうと解釈出来ようか?それは机の上を見ればおおよその推測が着いてしまうからである。
それは置かれている物だった、サイズは手の平サイズ。一見すると紙コップを逆さにした様な形をしているが、薄っすらとした光の中に浮かぶその姿は白い、無垢と言う言葉が似合う代物で、彼と向き合っている面が何か開いていた。
開いている中に何があるのか?それははっきりとは分からないが何か細かい網の目の様な物があるのだけは見えた、開いている窓からはまた雨の匂い、即ち湿気を多分に含んだ風が吹き込んでくる。それを一身に受けつつ彼は、舌を垂らしながら自慰を続けていた。そしてもう幾度目か分からないほどの到達を向かえる、ぴくぴくと脈打つも流石に一部の透明な液体しかもう出てこなかった。
「アハァ・・・あっ・・・もっと・・・オンッ!」
しかしそれでも満足出来ない、光夫は思わず胸を・・・舐める。首を限界まで垂らして舌先で、それがまた新たな快感を生み、また彼の理性を、もう殆ど残ってなかったが溶かしていった。