馬の愛好会・第一章後編 冬風 狐作
「・・・一番乗りっ・・・かな?」
 扉を閉めた途端、彼は不意に弾んだかすかな笑いを含んだ言葉を浮かべた。そしておどけた様な、両手をTの字に開いて片足立ちの様な姿勢を一瞬するとまたも微笑み返して室内を見渡す。男子トイレの中は静まり返って消毒臭あるいは埃の落ち着いた物とも言える匂いに満ちており、殆ど暗くかすかなすりガラスを通しての光にのみ包まれていた。
 入って正面にはずらっと横一面に白い壁、そう大便器が並ぶ空間があり左脇の後方から横にかけて床にまで接地した小便器が幾つか並び、右後方にわずかに端の欠けた鏡の埋め込まれた手洗いがある。壁は白と水色のタイル張り、白の方が正方形で水色は小さな丸の組み合わせ・・・まるで鱗の様に中央にある排水溝に向けて円を描く様に斜めに傾いている床を覆っていた。
「珍しいなぁ・・・この時間になってもまだ誰もいないなんてさ・・・ふふ。」
 そう言いつつ少年は作り付けの1つの部屋かの如く大きな用具倉庫の扉を開き、まず肩から提げていた鞄を中にある棚の上に置く。棚の中はこざっぱりとしており使われていない空間にあるにもかかわらず埃が積もったりはしていない、そして鞄を置いた手で彼はブレザーをも脱ぎご丁寧にも本来は別用途で作られていたと見える横に張ったパイプに用意されているハンガー・・・数個ある内の1つに解いたネクタイと共にかけて干す。
 そしてシャツとスラックスだけを纏った姿になって扉を閉じる、そこにあるのは当然の事だが彼のみ。他は相変わらずの空間で何も変わってはいない、ただ彼の持っていた鞄等が無くなっただけである。身軽になった彼は体を拘束している要素を少しずつ弱めているかの様に袖口のボタン、そして首下のボタンを2つほと緩めていく。そしてその間ただ立ち止まる事は無しにゆっくりと大便器の方へと向かうと、その内の1つの扉を開けて個室に収まった。
 閉められた扉に鍵はかけられてない、しかしそれを彼は全く気にせず・・・ズボンを下ろす事も無しにそのまま便座へと腰掛けた。個室の中にある便器は洋式、わずかに構造が一二昔前と言う感じのするどこにでもありがちで意外とお目にかかれない白い便器だった。そこに腰掛けて大きく方から力を抜き一息を吐く、両膝の上にそれぞれの両手を置いて力を抜いてそれこそ落ち着いてまたも大きな一息を吐いた。
「何時もは自分が迎えられる方なのになぁ・・・まぁこう言う事もあるか、その内来るだろうし・・・ね。」
 呟きつつ動くその左手、そのままスラックスの上から股間に添えられた左手は軽く・・・既にもうわずかに硬くなっていたそのイチモツを揉む。途端にその表情には一瞬の閃光が走り軽く張った体はすぐに弱い反動で前屈みに緩み息を吐く、その間も手が休まる事は無い。ただひたすらに揉みに揉み続けてその硬さを確かな物に、硬く膨張させて・・・何時しか上から覆う様に揉むのではなくすっかりスラックスに出来た天幕を支える一本柱と化したイチモツ、その竿に沿う様に横から握る格好となって揉み続けていたのだ。
 素直な反応と言っていいのだろう、そこに至るまでのイチモツの変容振りは年頃を過ぎて以降の男子であるならば誰もが覚えのある馴染のあるもの。いわば残りの生涯で思えば大抵の場合はそれを感じる事の出来るものである、そして揉んでいた竿の先端からはじわりと先走りが漏れ出し皮に包まれた亀頭を湿らし浸らせる。そこまで来ると気持ち良さも段々と極められて軽く息を荒くしつつ、時折目を薄く閉じる等しながら彼は刺激を続け段々と我を忘れて行った。

 ぐちゅ・・・ぐちゅぬちぃっ・・・と響く液体の音、それは水音、但しただ自然にあるだけでは出ない人為的な水音が響く。
「ふぅ・・・ぅ・・・はぁ・・・いい・・・っ。」
 彼は先ほどからのイチモツ弄り・・・自慰をまだ飽く事無く続けていた、まだスラックスは穿かれたままでチャックも閉められたまま。しかしその下に、スラックスとパンツの二層生地によって外界とは隔てられている勃起しきったイチモツはすっかり熟れて熱く何よりも先ほどからしとどに先走る液を漏らしては漏らし、亀頭は愚か竿そしてパンツの生地をもすっかり湿らし濡らしてその中の空気は真に湿度の高い濃厚な物となっていた。
 その彼の顔の何と幸せそうな事か、いや幸せと言うよりも悦楽に浸り切ってふやけた顔と言った方が良いかも知れない。とにかく心底全てをその・・・自慰に注いで貪っている顔であった、全身には薄っすらと汗が浮かび次第にまるでお漏らしでもしているかのように先走りの汁は浸透に浸透を重ねてスラックスの色を静かに変えていた。最早手は縦に扱いていると言って良い勢い、生地を巻き込んで激しく限界まで揉み扱いて・・・唐突に動きを止め全身から力が抜けた。
「はぁ・・・ぁ・・・。」
 まるで鯉の如くぽっかりと口を開けての全身脱力、つい数秒前までの動きが嘘であるかのように静かで自然体で何かを成し終えたその気配。手はそのままで掴み続けるも少しばかりイチモツは力を失いわずかに収縮、しばらくそのままの姿勢で構えていた彼は目を数回瞬きさせると軽く我に返り・・・熱がすっかり冷えた中で、唯一まだ熱さの残っているスラックスの中を開放し様とでも言うかのごとき手付きでベルトを座ったまま解いた。
 そしてそのまま器用に体をわずかばかりに浮かせつつスラックスだけを踵の辺りに突き落とす、座っていたが為にその形は半ば崩れていたとは言え完全にその整った姿を失いだらしなく、そしてわずかに秩序を見せる蛇腹にも近い形となって物言う事無く今はその役目を終えて果てていた。スラックス無き後残る下半身に穿かれた物はパンツ・・・トランクスだけ、幾つもの皺が寄って湿り気特有の重さを持ったトランクスは力無く、そこにあるからその覆える限りを覆っているだけとでも言わんかのごとく見るからにやる気が見られなかった。
  「ふう・・・出しちゃった・・・ドロドロだ・・・。」
 熱に犯されたかのように抑揚に欠ける口調で呟きつつ・・・やる気の無いトランクスの中でも特に内側へ向かって軽く弛み色を暗くしている箇所に手を当てて離し、そのまま鼻へと運んで匂いを嗅いで見せるはまたも恍惚の顔。しばらくそれを繰り返していた彼は今度は手を中へと突っ込ませ、半分穿いたまま中を抉り出すかの様にゴムの部分に手をやって見て目を輝かせる。そう射精した精液によって、何よりもそれ以前からの先走り液によって白く暗く濡れ汚れたトランクスの中の様相にすっかり喜びを見せていたのだった。
 その喜びに包まれたまま彼は何ら躊躇う事無く、むしろ習慣付いていて当然とでも言えるほど手馴れた自然さを強く発揮して指先で掬い取り口の中へと運び丁寧に舐め尽くす。さも極上の甘味を味わっているかの如き丁寧さを発揮して舐め掬い舐め掬い・・・ふとこれは錯覚なのだろうか、抜き去る時の強く口を窄ませる度に彼の口元が伸びている様に見えるのは。全体として下の方向に向かって顎が伸びている様に見えるのは気のせいなのだろうか。
 しかし見る側の疑問もよそにしばらく堪能し尽くし嘗め尽くした彼は、再びイチモツを・・・先ほどよりも舐めていた事で興奮した為か勢いをわずかばかりに取り戻して硬くなっているイチモツを弄り始めた。自慰が再開されたのだ、今度は生地越しにではなく直接触れての弄り。肌と肌が、熱と熱が、そして鋭敏な感覚器官同士が直に触れ合い互いを伝え合う。
 何事も百聞は一見に如かずと言う様にそれはたまらない絶好の機会、先ほどとしている事はほぼ似通っていると言うのに感じ方も激しさもより上向きでありもう何も気にはしていないようだった。喘ぎ声も水音も既にトイレ中に響いているその激しさ、廊下にも軽くくぐもって伝わっている事であろう。もし聞く者がいたらトイレの中に様子を見る事は無くとも、何事かと思う事は恐らく間違いは無い。
 だが幸か不幸かここにいるのは彼だけ・・・もう好き放題に出来る大いに貴重な場所にいるのだからもう思うが侭に、その侭に尽くしやり切る。再びの射精、一度もう出しているとは思えないほど豊富な量が噴出し大きく飛び散りつつ、放物線を半ば描いた所で個室の壁にぶつかって再び飛沫を散らしつつ下へと壁に沿って垂れていく。しかし彼の手は止まない、ただ一際大きい快感を得られただけと言うかのごとく瞬く間に貪り消費しては弄るのに間断を設けなかった。
 弄り扱き揉み・・・またも射精、そしてまた・・・その繰り返し。常人ならばもう果てているだろうと言うのに彼の勢いは文字通り留まるところを知らず、それどころかむしろ量勢い共に強まって最早天井無しと言う有様だった。それと共にその姿には少しずつの変異が生じていた、それは姿勢などが変わったと言うのではなく彼の体その物についてであった。

 前述した顔の顎が下・・・と言うよりも下斜めに向かって伸びている様に見えると言う表現、更にここに加えなくてはいけないのは肝心の貪る対象であるイチモツ自体が心なしか余計に勃起していると言う事であろう。いや勃起と言うのが果たして相応しいのかどうか、とにかく元々最初にトランクスの中より姿を現した時から人としては中々に太く長いといえる部類の大きさをしていたそのイチモツは、今やそれを通り越して人では有り得ないほどに大きくなりつつある。
 それは彼がその掌を含めた全体で、なおかつダンベル運動をするかの如く肘から下を上下させ、イチモツを揉み扱き揺れ動く度にその先端から相変わらず漏れ・・・こちらも最早漏れているよりも溢れ出ていると言った方が適切な位に出ている先走りが、個室中に飛び散ってはその熱と湿気に匂いを空気へと還元させていた。
 そして亀頭に雁そして竿と言う構造が崩れ、先端が扁平かつ軽く雁と言える程度に外側へ向かって反り返った上にあるその姿。それは最早人のものではない、明らかなる異形の物・・・太さそして長さ、その姿はある生き物のイチモツの姿に共通する所があったがとにかく変貌しているとだけは確実に言えよう。そしてその掌に持て余さんばかりに長くそして伸びきった太いイチモツ、当然それに合わせてその睾丸は野球ボールの様に丸く膨らんみまだだらしなく腰からずれて纏わり付いていたトランクスを下の方向へ向けて圧迫していた。
 それでは顔に戻ろう・・・そうその顔、顔もまたすっかりあの元の形はどこへやら崩れて表向きは斜めに扁平の長い鼻筋が出来、大まかに言えば先端の切れた三角錐。横から見た形は台形とも言える格好で当然鼻腔や口に当たるのがその先端に当たる。その先端ではもう鼻は鼻として口は口として明らかに別の形をして独立はしていなく、1つの塊の中に上顎の端の方に2つの黒ずんだ大きな横倒しに近い形の鼻腔があってその円錐の規模に比しては小振りな切れ込みかつ窪み、つまり口がその下にあった。
 鼻筋の、顔として正面から見て額に当たる付近には白い縦長の斑があり他は暗い。その瞳は鼻筋を峰とするならその中腹に分かれてほぼ対称な位置にあり・・・気忙しく瞬きを見せていた。とにかく巨大な台形型の円錐と顔は化したと言えるだろう、そしてその太さに迎合するかのように首周りも太くなりやや伸びている。
 そして汗が噴出している、何時の間にやら暗く沈んだ肌から噴出す汗の暑さに染みるワイシャツのボタンを空いていた右手が、一目散と言う表現に似合う勢いで一気に外していきワイシャツの下からすっかり汗だくになった白いシャツが露出した。元々そう剛健な体では無い、比較的ただ細いだけと言う決して立派な体躯で無い彼とは思えないほどの鳩胸でシャツは下から張られて・・・その乳首もまた薄っすらと写し出ていた。そして気が付けば露出している肌の全てに・・・顔の一部を除いてもう暗闇にて薄い光に当たっている時の青白さは見られず、全てが暗く沈んでいた。
「ああ・・・ふ・・・ふく・・・い・・・っ。」
 喘ぎ声はそして頂点に・・・体の変化に合わせるかのごとく、最早喘ぎと言うよりも叫びと言うほうが良い位の絶叫となって個室はおろかこの校舎のこの階に響いていた。すっかり変貌した・・・何やら2つの物が合わさった体にて彼はもう人ではなかった、離れた瞳の目蓋は閉じられ一気に加速を。その手は動き体は仰け反りそして・・・噴出す音が響いた。イチモツの先端からはこれが仕上げと宣言でもするかの如き白濁が撒き散らされあの独特の匂いが充満する。
「ひう・・・ア・・・い・・・で・・・た・・・ア・・・ぁ・・・ひ・・・ひい・・・・んっ。」
 その射精はまた一際長い、余りの快楽に彼の体は軽く痙攣していたそしてその語尾にはこれまで彼の出していた声とは明らかに波長の違う声が混じっていた。それはまるで巨大な蕾が割れて大輪の花が今ここに出現したかの様、そして長い放出と余韻の果てに・・・軽く体を斜めにして瞳を空けたその瞬間、暗闇が飛んだ。
「・・・!?」
 当然ゆっくり開き始めていた目蓋は一挙に押し広げられて全開、驚きの余りその異形の口からは泡が軽く漏れている。そうトイレに電気が点いたのだ、しかし彼には大きな影が彼を覆うかのようにかかりその視線はその影の方向へと向けられている。
「うん・・・元気だね、山崎君・・・すっかりなっちゃったね。」
「忠利・・・。」
 同時に交わされる2つの言葉、前者は影から後者は彼から・・・影の姿も彼の異形の姿と同じだった。とにかく顔は巨大な台形型の円錐・・・馬顔でラッパ耳はぴくぴくとその上で動く、そして鼻息は荒く不自然さの無い美しいとも言えるほど体に馴染んだ筋肉が全身にある。影は全裸だった、そして影の股間からも長いイチモツが軽く垂れて勃って姿を露わにし尾てい骨の付近からは黒い細い毛の束の様な尻尾が長く垂れてあり、その手の指先にはそれぞれの指の第一間接から先に黒光りした硬質の物体・・・馬だからこそそれは蹄、蹄が指同士分離しているとは言え存在していた。
 薄っすらと笑う影・・・忠利と彼・・・山崎、忠利の体には大きく白いどこか黄色かかったし砕くが大きくかかりその美しい宝石かと見間違う青味かかった黒、青黒毛を対象的に汚していた。そして山崎の体は明るい焦げ茶色、馬と言うと良くイメージされる鹿毛でありただ唯一額に白い斑がある毛色であった。
「良く出てたね・・・すっかりかかっちゃった。」
 そう言いつつ忠利はその白濁を軽く指で掬って口に含む。
「ごめん・・・ついつい夢中になっちゃって・・・さ。」
 少しばかり気まずそうに応える山崎、その様子は矢張り馬らしくその巨躯に似合わぬおどおどとした動揺が見て取れるのがどこか面白い。そんな山崎にそっと手を差し伸べると忠利はその下顎に手を添えてその指先を、1本だけだが山崎の白濁の付着していたその指を含ませ本人にその本人の精液を含ませたのだ。しかし臆する事無く・・・むしろ嬉しそうに薄く瞳を閉じると心なしか股間もまた勃たせてその長い舌と口で指を赤子の如く吸っていた。
「良いから・・・さ、気にするなよ。見事な姿だったな、僕がトイレに入ってきたのも服を脱ぐのもそして・・・個室の扉を開けて眺めていても気が付かないで耽っていたんだから。気持ち良かったんだろう?」
「・・・うん。」
 少しだけの躊躇いの間をおいて気恥ずかしそうに山崎は小声で応えた。それを今一度嬉しそうに微笑んで見つめ顎の下を忠利は撫でるのであった、そう青黒毛の馬人と鹿毛の馬人は青黒毛に鹿毛が懐く様にしてそこにあった。
「さて・・・もうしたりた・・・とかはないよね?ふふ。」
 意地悪そうな含み笑いを込めて忠利は山崎に問うた。それに対して山崎は無言でふるふると言う効果音を付けるなら付けられるであろう勢いで首を横に振り、そのまま立ち上がると忠利に抱きついたのであった。それはまだ深夜になる前の・・・21時かその辺りの出来事であった。


 続
馬の愛好会・第二章前編
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