「・・・!?」
「さぁ始めよう・・・。」
分かっている事とは言え、夢の中でもう幾度と無くされてきた事とは言え実際に・・・実際の圧力、気配そして熱に匂いを交えては受ける気持ちが異なる。顔を埋めさせられたのは狐の股間、薄い一枚の素材を間に置いて向こうには熱い気配をむんむんと滾らせ漂わせた狐の陽根。それと薄い素材を挟んで密着させられているのはなんとも言い難い・・・それでいて複雑な素直になれない気持ちだ。
それを知ってか狐は俺の後頭部を軽く掴むと自らの腰を縦に上下させて擦り付けさせる。本人もその感覚に酔っているのか上機嫌でなおますます続け、一擦りすることに陽根の熱は高まり匂いも・・・硬さも強まっていく。
「くふぅ・・・どうだい?夢とは違って・・・。」
「き・・・。」
「ん?はっきりと言わないと・・・折角の機会なんだから。」
嬉しげに口走る狐、思わずそれにつれられて・・・口走りたくなるがほんの少し最初を漏らしただけで口を噤む。しかしそれはこの聡い狐の前では幼戯に過ぎなかった、当然耳に届いて聞かれており尋ね返される。その言葉を分かっていて敢えて言ってくるであろうのが何とも心憎い、しかし言わねばならない、嫌、言わないでいる事など素材を挟んで陽根を前に接している俺には到底出来ない相談なのだから。
「・・・き・・・気持ちいい・・・。」
「そうでしょう・・・ふふ、でもまだ序の口なのはお互い承知だろ・・・?」
「く・・・。」
陽根の魅力、いや魔力・・・・そしてこの妖しい、何時終わるとも分からぬ夢より漏れ出でた時間と空間そして存在の前には抵抗する必要性すら俺は感じなくなっていた。完全に抵抗する気持ちを失った訳ではない、それは狐からの質問に明確に肯かなかった事が示しているだろう。しかし今ではそれに飲まれ様と自ら望む自分がいる事に驚きを・・・いや感じるまでも無い、もう"夢"の中で何度も味わいその中の己がすっかり覚えこんでいるのだから。この楽しさを。
そして俺は手馴れた調子で舌を出すと素材越しに陽根に舌を走らせた・・・この狐はこれで感じるのだ、狐の人とは異なる形をした陽根が舌を通じて感じ取れる。俺はそれに酔い、今一度そしてもう一度と舐め続ける。後頭部を掴む狐の手はただそのままとなり力もやや弛緩しては強まるの繰り返し、そう狐は感じているのだ。素材越しに走らせられる陽根を舐める人の舌の感触に・・・俺は舐める感触に。
舐めに舐められ、感じに感じ、酔いに酔い・・・奉仕するとされる側、この相反している立場は同じにすっかり熟れていた。一舐めは千金、いや無上の快楽。今や異なる感情は消え心は同じに・・・快楽に酔い耽る同志になり得た2人はそれを証明する様に果てるのだった。
最高潮に達した熱はやや冷めるもまだまだ熱く濃厚な匂いと共にそこにあった。すっかり唾液で濡れ果てた服の生地には、新たなる唾液とは異なる匂いと味とが内から染み出でて直接俺の脳と鼻腔とを刺激する・・・余りにも危険な刺激。それは王水の如く俺の中にある何者をも・・・当然、俺自身を含めた全ての物を浸しては犯し溶かしていく。まるでそれはつい先ほどの部屋の様相と同じであろう、だがあの時の様に俺は恐れの気持ちを抱く事無かった。むしろ今をありのままに受け入れつつ、受身ではなく自ら動くに変わっていた。
「ん・・・狐・・・ぇ。」
そう漏らすと俺は立ち上がりそのまま狐に抱きついた、自らの・・・狐より一足遅れて興奮し怒張した陽根を狐の陽根に擦り付ける様にして。狐はそれを拒まない、むしろようやくと言った風に嬉しげに抱き付かれては自らも腰を押し付け尻尾を巻きつけてくる有様。器用に薄く羽織ったシャツを背中の側から持ち上げて背筋と腰周りを撫でてくるのは全く気持ちが良く、思わず擦り付ける腰が震えて想定外の動きを双方に加えるのだった。
「水彦・・・やっと会えたね・・・ぇ。」
狐の漏らす声・・・そこにある水彦と言う言葉・・・。
「ああ・・・田彦・・・本当に・・・。」
そして俺の漏らす言葉には田彦・・・。
"あぁ思い出した・・・。"
かつてこの狐・・・田彦と共にいた事を。もうあの時から一体どれほど経過したのだろう・・・最後にこうした時から今まで。
「元気にしていたのか・・・?」
「ああ勿論・・・それより水彦を追うのが大変だったよ・・・ふふ。」
「それはまぁ・・・な。」
この世にある物、人獣自然・・・それらは皆うつろい二度と同じ形である事は無い。しかしこの世でなければ常に同じ姿と言うことは有り得るかもしれない、この場合はそうであった。この世で無き所を拠点とする田彦、その姿は蘇って来た水彦の記憶にあるのと寸分違わず全く違和感は無い。しかし当の水彦は田彦の記憶、つまり田彦と水彦として常に居合った頃の記憶にある姿とは程遠い人の姿。そしてそれは移ろいに移ろったこの世にある者としての水彦の今の限りの姿に過ぎない。
「久しぶりに見たいよ・・・水彦が。」
抱きつきながらその人の耳に囁く様にそのマズルを動かして田彦は言い、無言のまま首を縦に振る形で水彦はうなずく。抱きしめる腕の力を緩め、体を後ろへと動かし・・・それは田彦も同時に行う。そして互いの口を、水彦の唇と田彦のマズルの先端を付け合せ舌を絡める。それはまるで互いを引き合う様であった、濃厚に絡め合わされた舌は唾液を伴いそれこそ濃い空間を互いの口腔の中にて演出し・・・体が引かれた。
そう互いに体を今度は引き合ったのだ、緩めるのではなく力を加えて・・・ある部分を密着させつつ全体を引く。当然それは密着させている箇所に負荷をかける事となり、引き合おうとする力と離れ合おうとする相反した方向性の力が同時に作用し合い対立する。そして対立から生まれたのは相反しあう双方の力の協調、そうと言えるのかはとにかく双方とも損なわない中立的な物だった。
そうどちらの力も損なわれてはいない、引く力は引く力として離れる力は離れる力として忠実に自らの本分を全うしている。ただそれでは明らかに不自然だ、何かの力が働いたからには結果が出なければならない。
そしてそれが先にも書いた"中立的な物"である、相反する力両方を立てた中立的な結果・・・見れば俺・・・水彦の顔が変わっていた。その顔にはなだらかな傾斜が出来、あの唇は無くなり変わりにその傾斜のある突部には横に割れ目が走り皮膚はその箇所から質感が異なっている。一言で言えば硬質化、そしてそれは滑らかでありながら硬質な箇所と、明らかにそうである事がうかがえる割れ目等を持った滑らかではない箇所とに分かれてはいる。
しかし一様に人の弾力のある柔らかく傷付き易い皮膚とは別物になりつつある、それは確実なことであった。如何にも丈夫で・・・場所によっては見るからに丈夫と言うよりも頑丈と言った方が相応しい、そう見て取れるまでに成り果てていた。そしてやがてそれらは広がっていく・・・唇の変わりに出来た突部・・・マズルに限らず、マズルの伸長にあわせて形を滑らかかつ自然な物とした顔全体、そして首筋を経由して全身へと広がっていく・・・鱗の波が。