短期バイト・第二章 冬風 狐作
 数分待った時だった。不意に扉が開き1人の眼鏡をかけた顔を突っ込んできた、眼鏡に1つに縛ったボサボサ頭そして色付きのシャツとどこぞのオタクの様な姿をした無精髭を生やしているその人物を訝しげに見る一方、一瞬視線を合わせたその男は先程応対した事務員にこう言葉をかけた。
「彼が今回のバイト君かい?」
「えぇそうですよ、高畑さんですね。」
 事務員も事も無げに言って返した、正直言ってその対応は本当に自然・・・有り触れた処理すべき事柄の1つを処理したそんな感じだった。それを聞いた男は軽く礼を言ってこちらを向いて頷く、そして名前を聞こうともしないでついて来いとだけ言うと扉の向こうへと顔を隠した。支える物が無くなり閉まろうとする扉に手をかけて開かせるとその後に高畑は付いて行く、男は高畑に気にかけている気配を微塵も漂わせる事無しに事務所を出ると裏へと周る。
 スクラップの置かれた一角を通り過ぎるとそこには一軒の二階建ての家があった、その門扉の脇には一枚の表札がかけられており名字の2文字だけが記されていた。それは小早川から渡された書面に書かれていた物と同じでありそれをぼんやり見ながら進んでいくと、玄関の中に入った所でようやく立ち止まり声をかけてきた。
  「高畑・・・秀康君だね?小早川君から話は聞いている、僕が萩田幸一、今回は募集に応じてくれてありがとう。」
 先ほどの事務員に尋ねた時に聞いた声と全く調子は変わらなかったがその口元には薄っすらとした微笑みが漂っていた。それは見方にもよれば薄気味悪く感じられるかもしれない、しかしその時の高畑には不思議とその微笑みから安堵すら感じたものであった。そして差し出された手と自然と握手を交わすと萩田に続いて高畑は靴を脱ぎ、一見すると何気無い普通の民家と変わらないその家の奥へと立ち入ったのであった。

「さてと早速で悪いんだが・・・始めるとしようか。」
 玄関正面にある階段、それを上には上がらずに一見すると物入れにしか見えない扉。中に続く廊下を突き当たりで曲がった先にある階段を下った地下室に2人はいた、地下室の中はそこそこの広さで試験管やらビーカーに怪しげな薬品の入れられた瓶等が所狭しと並べられている。そしてその研究室と思しき空間の一角にある仕切られ、そこだけ畳の敷かれた区画の中に2人の姿はあり言葉を交わしている。
「あの何をですか?まだ具体的には聞いていませんもので・・・。」
「あぁそう言えばそうだった、まぁ具体的に説明すると長くなるから・・・とにかくこれを着てくれたまえ。服は当然脱いで裸になってからだが。」
 そう言って寄越してきたのは、水色と淡い乳白色で構成された薄い人工的な素材で出来た代物だった。裸になってと言う言葉からも分かる様に全身に纏う物らしく、背中にはしっかりと中に入る為の口が付けられており大きさ的にはそう問題がある様にはみられなかった。しかし一見すると不思議なのが尻の辺りから垂れている尻尾上のものと顔の形、そして背中に付いている蝙蝠の翼のような物。
 どうみてもこの3点は明らかに人とは異なる姿形をしており気になって仕方が無い。とは言えこれを着なくては事が始まらない事は容易に窺えたので傍らに置くと早速上着に手をかけ始めた、だがその手は下着のシャツを脱ごうとしたところで止まり視線が一方へと向けられる。その先にいたのは萩田、そう彼はこの期に及んでもこの区画から退出せずにじっと押し黙って脱ぐ様を眺めていたのだ。
「あの・・・。」
「ん?何かね、早く脱いで着たまえ。」
 脱がれる所を異性同性は別として見られるのに矢張り何処か抵抗を感じてならない高畑は、暗に着るまでは外に出て行ってくれないかと直接的に言葉にせずとも漂わせて声を出した。しかし萩田の返した声はその想いには全く応えてはいなかった、むしろ着替えを促そうと言う想いが滲み出ているほどと言えよう。
「着替える時だけは外に出て行ってもらえません・・・?男が男の裸見て・・・。」
 完全に言い切らなかったが若干の苛立ちを混ぜて高畑は促した、しかし返ってきた答えは矢張り期待を裏切る物でむしろ落胆を倍化させる効果すら見せていた。
「別に?良いではないか、裸になったって・・・そもそも人間の本来の姿は裸だぞ?生れ落ちた時、死ぬ時・・・皆裸だ。だから気にせず早くしたまえ、これもバイトの1つだ。」
 自分の思いが完全に伝わっていない、むしろこれからの展開を肯定する言葉に高畑は言い返す気をなくして無言のまま下半身にも手をかけて脱ぎ去ると一時的に全裸となる。そして先程渡された代物を手に取ろうとした時彼は自分を呪った、そうそれを何気無く己の正面を萩田に晒さなければならない場所に置いた己を。これまではまだ背中をそちらに向けて脱いでいたから恥ずかしさはあったが、直接視線を感じる事は無くこなせたのでまだ良かった。
 しかしここからは違う、全てを萩田に見せなくては次の段階へと進めないのである。高畑は軽く息をはいて呪うと共に心を決めて向きを向き返えると数歩歩いてその代物を手に取った。その際に体が軽く斜めになり股間から下がっている物が軽く縦に体から離れて宙に浮く・・・それを見た萩田の言葉を聞いた時高畑は熱くなり、飛び上がりそうになったのは言うまでもない。
「ふむ中々立派な物を持っているね・・・。」
 その本当の意図が何処にあるのか高畑にはわからない、だが女にではなく男にそう言われたという事実が驚きの余り彼を熱くさせたと言うのは否定しようの無いことだろう。彼は忌々しげに振り返ると軽く睨み付け、そして急いでその代物の中に足を通し腕を入れ全身を沈めようとした。  だがこの様なものは初めて身に付けるので中々上手く行かず体がこんがらがってならない。相当な苦戦の末に身を沈める事に成功した時何時の間にやら背後に萩田が立っていたらしく、彼は無言のまま背中に手をかけると入る為に用いた穴をジッパーか何かで締め上げそうして完了した。高畑の全身はそのいまいち良く分からない素材の中に包み込まれ、そこには明らかに人と異なる外貌が存在していた。
「見えるかい、これが今の姿だ。」
 そう言ってカーテンをかけてあった向こうにある鏡に高畑の姿を映す萩田、そこに映るのはあの水色と乳白色によって覆われた人外なる姿をした己である事を初めて高畑は認識した。
「あぁ・・・この姿は・・・?そして何をするんだ?」
 目を見え声も若干曇りながらだがしっかり漏れる。それに対して萩田は軽く頷きながら続けた。
「この姿で君は一週間生活してもらう事になる、まぁ何の姿かと言うと・・・竜人だな。竜の人と書く架空の生物だよ。」
「竜人・・・?」
「そうだ、竜人だ・・・そして今君の着ている物はスウツと我々は呼んでいる。まぁ今回のはある人の依頼を受けてなのだが・・・。」
 そう言ってそっと萩田は近寄ってきた、思わず後退りしようとするが思いのほか早い歩調で接近してきた萩田の前にそれは叶わなかった。そして極めて接近した関係で向かい合う形となってすぐに萩田は行動に移る、そう肩に手をかけると首や顔を眺め回す様に見渡しそして呟く。
「ん・・・いい出来だ、しっかりとこれなら定着するな・・・そして。」
「んっ・・・!?」
「ここもいい感じだ・・・ふふ感謝するよ、これは良いデータが得られそうだ。」
 次に開いている手が伸びたのはその股間に出来ていた膨らみ、そう不思議と勃起していた高畑のペニスをスウツの生地の上から擦り掴んだのである。いきなりの、そしてどこかツボを突いたその感触に男相手だと言うのにまるで上手い女に揉まれた時の様な甘い喘ぎ声を漏らしてしまう。それで良い思いになったのか二度三度とその後も萩田は刺激を加えまたも口を開く。
「感度が中々良い様だし・・・くく、全く楽しみだよ高畑君・・・。」
「ん・・・んぅ・・・そんな事は・・・。」
 ないと否定しようとするが余りにも上手い手つきと揉み具合で言葉がすんなりと出ず、声量も満足に行かず酔いただ喘ぎ声が漏れるのみ。そんな様を楽しもうとするかの様に萩田は刺激を止めずなおも続ける。
「ある・・・んだな、そうかそうか・・・では定着と行こう・・・気持ちいいぞ。」
「て・・・ていちゃ・・・っ!?」
 次の瞬間、揉まれ絶えずツボに感じるポイントに刺激を受け続けていたモノは破裂した。破裂と言うに相応しく大量の精液がスウツの中へと漏れ出たのである・・・それは言葉を失うには相応しいものだった。溢れ出て噴出した精液は生地と肌の間を伝い広がる、それとともに全身に軽いむず痒さと接着感が沸き起こったのは言うまでも無い。
 それは堪らない快感で腰が震えてならなかった、ある意味相手が男とは言えいるとは言えども言ってしまえば壮大な自慰。恥ずかしさよりも気持ちよさを強く感じつつむず痒さが落ち着いていくのを感じていた、それは全身が包み込まれると言った具合。折り紙を折る際の折り目の付け方、それの如く全身がスウツの中に織り込まれ一体化して行くのが不思議と意識されイメージとして脳裏に浮かびあがる。
 正に天にも昇る圧倒的な気持ち良さを彼は感じ、そして再び果てる・・・今度は先程とは一風違った刺激が彼を包み込んだ。それは単なる気持ちよさと共に新たなる刺激、それは全身を鞭打たれたような感触だった。言って見れば電撃とでも言えようか、その感触と共に全身から違和感は全く無くなった。全てが元から自然とその形で存在していたかの様に違和感無い体、そしてそれに全く疑問を抱かない高畑がそこにはいた。
「なぁ・・・気持ちよかっただろう?これで定着した君は一週間過ごす、色々と頼むよ。ふふふ・・・。」
 そう言うとすっかり消耗した高畑・・・竜人の口に萩田は軽く口付けをすると畳の上に寝かせてその空間を後にした。何か思おうとしても消耗しきった高畑は何も思えずに、まだ正確に今の自分がどうなっているのか分からないまま不思議と違和感の無い体の中で目を閉じた。


 続
短期バイト・第三章第一日
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