短期バイト・第三章第一日 冬風 狐作
 起こされるまで見ていた夢は何だったのだろうか。あれほど色彩豊かであたかも現実と見違えるほどのリアルな夢であったのに・・・いやそうであった事は分かれども、細部はもうどんな夢であったか皆目分からない。そしてそれは恐るべき速度にてますますぼやけて、結果として夢を見たと言う事実を覚えているにしかならなくなる事をこれまでに一体どれほど、幾度となく見たと言うのだろうか。その記憶を辿るのは最早困難・・・それが悪夢であれ正夢であって欲しいというほどの夢であれ、全ては同じ記憶の中に圧縮されはてるのが常なのだ。
 それに対して現実は・・・何と克明なのだろうか。夢が一度忘れたら極々稀にふと思い出せたとしてもすぐに色あせて今度こそ消えてしまうのに対し、忘れたつもりになっていても記憶の片隅ではしっかりと記録されていて・・・何の前触れもなしに思い出される。所謂フラッシュバックと言えるのだろうか、それは時に人を惑わし弄ぶ。その前には意思など脆くも崩れ去り、ふと正気に戻ったときには変わり果てた己を見る。そこにあるのは歓喜か嘆きか・・・さてはて何なのだろうか。

「よぉ・・・目覚ましたか、バイト君。」
 夢から醒めた高畑の前にあったのは現実だった、寝る前に見たばかりの色つき眼鏡に無精髭が何が面白いのかニヤニヤと笑ってこちらを見つめている。いる場所はあの畳の部屋、そして寝る前と何も変わってはいない。
「・・・この姿・・・。」
 自らの姿は己であって己ではなかった、肌色の代わりにあったのは水色と・・・腹部の乳白色。その表面だけはすべすべとしていた物が何処か硬くなって硬質化し、随所にひび割れが走っていると言う変化を見せていた。そして尻のやや上に感じていた慣れぬ感覚に力を入れると何かが動いた、ふと振り返れば根元は太く円錐状に窄まる尻尾が大きく揺れているのが見えた。そしてその動きは数度もすれば何ら普通の構わぬものに、そして腕を動かすのと同じ様に違和感も何もなくなる。
「君の姿さ・・・それ以外に何がある?わかったならこちらを向け。」
 平然と小さな呟きを聞き漏らさずに反応する男、そして男の呼びかけに従い高畑は顔を前へと向けた。それこそ男と向き合う様に、そして若干な嫌悪感以外には無の心境で視線を節目がちにして相対した。
「さぁ仕事初日・・・一週間されど一週間、短いものだ。しかししなければならない事は沢山ある・・・回して行くからな。」
「はい・・・。」
 そのように言葉を聞くに連れてようやくその頭は覚醒して行った、これはバイトであると言う事、自分は本来はこの姿では無いと言う事、しかしバイトの為にこの姿に一時的になっていること・・・だがそれ以上の事は浮かばない。コントロールでもされていたのだろうか?それはともかくとして第一にその色付き眼鏡の言葉は絶対、それだけは如何なる場面でも脳裏に浮かんでいたという事だけはいえるだろう。
 返事に満足したのかしばらく、またあのニマニマとした笑いを浮かべて男は品評するかのごとく高畑の竜人としての体を見つめた。しかし手では・・・何時の間にやら持ち込んできた冷たい気配の漂う銀色のステンレスの台、その中で薄い皮膜状の手袋をして複数の液体を混ぜ合わせてそれを注射器の中へと吸い上げていく。
「さぁ・・・最初の実験だ、実験と言うよりもある意味そのための仕上げかもしれんが・・・。」
 そして軽く言葉を詰まらせ、台の上に並べた2本の注射器を手にとって再確認する。それは注射器と言うには少しばかり格好が違っていて、どういう訳か注射針が見当たらなかったがそけを深く考え求められるほど高畑の脳みそはまだ冴えてはいなかった。ただ見つめて・・・指示を待つ犬の如くじっと視線だけを合わせている。
「よし・・・じゃあ、尻を向けろ。四つん這いになれ。」
「四つん這い・・・?」
     確認をし終えた男はその内の一本を手にとりつつそう指示した。一瞬その意味が瞬時に分からずに聞き返した高畑に男は少しばかり渋い顔をして肯くのみ、そしてその意味する所を数テンポ遅れて理解した高畑は緩慢な動きで犬がお座りしているような姿勢から体勢を変えようとし・・・痛みを覚え軽く宙を飛ぶ。
「ったく、とっととしろ。給料削るぞっ。」
 それは男が高畑の肩を斜めの角度から蹴り飛ばしたからだった、その根暗的な無力そうな気配を漂わせながら加えられた力は中々の強さをしていて痛みが滲む。
「い・・・痛い・・・。」
「痛いだぁ?何甘えてんだ、俺は気が短いんだ・・・だから早くしろっ。」
「は・・・は・・・うぐっ!」
 片手を前について一瞬固まっていた所を再び蹴られ・・・そのまま後へと転がり、まるで甲羅を背にした亀の様に両手両足を宙に揺らめかせ尻尾はその先端が力なく動く。翼は下敷きになってしまったがそこは想定されているのか、腕を何かの下敷きにしてしまった時の様な痛みや違和感は皆無で自然。
 それが幸いと言えばささやかではあるが幸いの範疇に入るのであろう、そして身を起こし直そうとするその体にまたも男の手が触れる。また何か危害を加えられるのかと思わず身構えるが何も思っていた様な物は加えられなかった、むしろそのままの姿勢であるようにと言わんばかりに動きが封じ込められた。そして言葉がそれに添えられる。
「ふん・・・まぁ良い、このままの姿勢で行こう。」
「は・・・はい・・・。」
 戸惑い気味に応えた高畑に対して何ら一声を発せずに、男はそのまま両脚に両手をつけて左右に押し・・・開脚させた。それは何処かで、いや過去に高畑が女に対してしたのと同じやり方。そう絡む時の体位の一つである正常位を思わせる開脚のさせ方、俗に言うM字開脚であった。
 それを平然とした顔で、何も同ぜずと言った顔をして男は淡々とこなし・・・一方でただそれだけと言うのに高畑は快感すら感じていて、その形のみが浮き上がって見える己のイチモツを内心のわずかに残った羞恥心と共に硬くさせた。

"こいつ・・・興奮してやがる・・・。"
 男がそれに気がつかないでいるだろうか、当然それは有り得ない。男は気配でそれを察し押せば押すほど形を増してその輪郭を露とするのを見つめていた、そしてわずかな高畑の呼気の変化さえも感じて分からない程度にニヤリと口元を歪めて一気に開き切ると・・・慣れた手付きでその感覚を維持したままにさせる器具、鎖の代わりに溶接された固定棒を仲立ちとした足枷をその脹脛の辺りに取り付けて固定する。
"・・・こいつ相当変態だなぁ・・・ここまで興奮するのもそうはいないぜ。"
 男の内心での笑み・・・それは止まる所は無かった、それと共に芽生えるのは虐げたいと言う気持ちか。その現われかは分からないが硬く足枷を締め上げて固定化させると、自らの口の唾液を手に染みさせて軽く開脚した影響でヒクヒクとしている高畑の、竜人としてのアナルに塗りつけその周辺を静かに解す。その度に軽く見られる反応が全く以ってその心をますます刺激する、わずかな痙攣に喘ぎ・・・その全てが養分となる。
「どうだぁ・・・気持ちいいんだろ、びんびんじゃねぇか。」
 溜めていた気持ちを堰切らせるように言葉にして投げつける、対して高畑はその様な事は無いと強がりを見せるのだが・・・どうしても悲しい事に体は反応し忠実に素の反応を見せる。だがわずかに残る羞恥心、そして矜持は素直になろうとするその体に刃向い・・・余計に弱みを男に露とする。
「クゥ・・・んぐ・・・いゃ・・・あ・・・あああ・・・っ。」
 その喘ぎが見せるいや示すのは何の思いか・・・抵抗と拒否かそれとも素直になれない事を悔やむものなのかは分からない。しかし言えるのはその喘ぎと痙攣が呼び水となって、前述した通りに男をますます興奮させるという事。そしてそのアナルを解す指に付けられる唾液の量は次第に増え、頂点を・・・迎える。

 男は不意に指を動かすのを止めた、そして沈黙・・・全く刺激が送られてこない。それに対して高畑は物足りなさを覚える、充足感・・・葛藤から不満、不足感へ心は簡単に転んだ。途端に羞恥心やらと言った彼を彼として引き止めていた諸々の内心が跡形も無く溶け去る。その鮮やかさと言ったらもし目に見える物なら目を見張ったのは言うまでも無い事だろう、しかし見えずに・・・恐らく男にとっては残念だろうが高畠家の心は表面上は静かに推移したのだった。
「・・・っと、俺とした事が・・・実験なんだよ、これは。」
 自らを戒めるように呟くと忌々しいと言った感じに自らの唾液で汚れた指を拭いて・・・代わりにあの針の無い注射器を取り出す。そして先端にはめていたキャップを外し斜め上に先端を持ち上げてアナルへと宛がう、ひくひくと前にもまして露骨に揺れているそのアナルに宛がうのだ。
「ん・・・あ・・・ほし・・・っ。」
 内心の障害が消えた高畑は次第に体の求める欲求が素直になり始めた、喘ぎに混じる言葉はもう求めるもので・・・体の痙攣すら何処か妖艶にして色艶が走る。もしその体にふくよかな胸と盛り上がりの無い自然な曲線の恥丘とがあれば、女にも見えかねないその光景に惑わされるものかと言わんばかりに大きく息を吐くと男は、その注射器の様な筒を水平にして先端を構わず突き挿した。
  「・・・!?・・・ひぐ・・・あ゛・・・っ。」
 幾ら解されていたとは言えそうも無理やり入れられては敵わない、それがまだ先ほどまでアナル周りを唾液にて潤し解していた指であるならいざ知らず今挿入されたのは人口の異物。恐らくはプラスチック製の丸い角のある物、そして続いて奥からピストンされて内容されていた液状の薬物がそのまま直腸内に注ぎ込まれるのだからその異質感と言ったらキリが無い。
 高畑はこれまでに無い位高い喘ぎ声を上げていきり立たせて・・・大量に放つ。しかし定着してしまった中にあるイチモツ故に先ほどの様に広がりは出来ない、ただ圧力でその部分のみが大きく膨れ上がっているのが分かる。前立腺を直に刺激されたが故の反応であった、そして1分ほどかけて中身を全て注ぎ込むとそっと抜き去られる。それは先ほど挿入した時とは違う丁寧さを伴ったものであった、まだ興奮冷めやらぬか反応を見せている高畑に空になった容器を片付けると新たな容器を手にし・・・男は口を開く。
「これもバイトだ・・・ああ仕事の一環だ、してもらわなくては困るよ・・・くく。」
 愉快そうに笑い言葉には澱みは無い。
「どうしてアナルに注いだか・・・それは直腸からの吸収が一番速くて確実からさ。解熱剤がそうだろう・・・?急激な高熱を下げる為の、今回も似たようなものだ。限られた時間内でしなくてはならない事をする・・・だからしたんだよ。」
 そこに浮かべていた微笑は・・・一種の悪魔だろう、だがその様な事を思う余裕が高畑にある筈が無い。ただ空ろにようやく落ち着いてきた事に胸を落ち着けつつ、あのM字開脚の姿勢のままその軽く薬品を漏らしているアナルを男に見せつけている恥ずかしい姿のままなのだから。そして男は又も無言で・・・用意していたもう1本の筒を挿入する、先ほどよりも敏感になっていた高畑が反応したのは言うまでも無い。

「さて・・・これで半日だ、夜になったら再開するからな・・・心待ちにしてろよ。くく。」
 そしてそのままの姿勢にして男は使い終わった器具を手に持ってその部屋を去った。残されたのはアナルに蓋をされ心電図で使うような器具を全身に取り付けられたあられもない姿の竜人・・・その姿は当然M字開脚のままであった。


 続

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