開発〜前編〜冬風 狐作
 ある所に広大な原野が広がっていた。そこは名の知れていない山々に囲まれた場所で、人工的な物と言えば唯一その片隅を登山道が横切っている以外は自然そのままの環境が残っていた。そして、それはこれからも受け継がれて行く筈であった・・・。
 ある日の事、数名の見慣れぬ男達が姿を現した。作業服にヘルメットと言う出で立ちの彼らは、登山道の脇にコンテナハウスを置くと、そこを拠点として数日の間熱心に測量を行い、杭を立てて再びその場から立ち去った。
 杭が立てられてから数年が経過したある日、突然これまでに無い数の人々がその原野へと姿を現した。彼らはまずは拠点となる仮の宿舎を設置すると原野を掘り始めた。等間隔に設けられた等しい大きさの穴の中には、鉄筋が立てられてコンクリートが流し込まれた。そして、数ヵ月後には立派な橋脚が無数に原野を横切り、その周りにはトラックや建設機械が行き交う為の臨時の道路が敷かれて、未舗装のその箇所は原野の豊富な自然の大元である表土を剥ぎ取られた無残な土色をさらけ出していた。
 何故、突然この原野で工事が始まったのか?簡単である、高速道路の建設が決まったからだ。主要都市間を結ぶ飽和状態の、既存の高速道路を救済する為のバイパスとして整備の急がれているこの高速道路は、もう既に都市部や他の区間の建設は終わり、一部は供用開始されていた。部分開通でも効果は絶大であり、既存の高速道路の混雑は緩和されて、大気汚染の数値も減少していた。

"早急な全線開通を!"
 利用者や業界団体、そして沿線自治体は国に対して猛烈な全線開通を求める陳情を展開した。その結果かは知らないが、所管省庁の大臣より施行命令が下り、予算が付いた事でとうとうこの原野を含んだ最後の未開通区間の整備が始められたのである。橋脚の整備と共に今度は原野の周囲を取り囲む山々を貫くトンネルの建設も始まった、かなりの長大トンネルである事から建設には迅速さと共に慎重さが求められ、橋脚の上に橋桁が載り、舗装された頃はまだ建設の途上であった。
 5年の歳月をかけて全てのトンネルが開通すると、一旦は僅かに静けさを取り戻していた原野に再び人々が戻ってきた。とは言え、橋脚工事の時と比べると大分少なく、彼らが最後の工事、配線や照明、区画線引き、標識の設置をやり終えると検査が行われ、基準を満たしている事が確認された。工事は完成、そして数ヵ月後、ようやくこの区間の共用が開始された。
 里を走る既存の高速道路とその周辺では、これまで以上な騒音と大気汚染の軽減が認められたが、その一方で永遠なる静けさを保障されていた筈の原野には24時間休む事無く騒音が鳴り響き、盆地状の地形をしている事から排気ガスなどが溜まり空気もまた次第に汚染されていった。
 大気汚染や騒音と言ったものが拡大していく中で、何とか往時の姿を止めていた原野その物にも危機が迫っていた。開発業者や地元自治体からの請願を受け入れた運営会社がここへインターチェンジの建設を決めたのである。それを見込んで原野の土地の取得合戦が始まり、何時しか原野には見えない線が無数に引かれ始めたそんなある日の事、1人の女が工事の際に整備された県道を原野へと向けて車を走らせていた。
 女の名前は加藤美根子、27才の若手実業家である。彼女は部下の中島秀信とこれから向う目的地の所有者である山上俊三と共にその現場のある原野へ向っていたのであった。大型トラックが走りながら余裕で擦れ違える規格で設計されたその道は、時折見られる急カーブと急坂にさえ注意すれば後は走り易い事この上なく、車は快調に飛ばし麓から30分程度で登り切り原野へと乗り込んだ。
「社長、結構皆さん来てますねぇ・・・。」
 中島が車窓に映る路肩に止められた車や背広を着た人々を見てそう呟いた。
「そうだな・・・話には聞いていたけど予想以上ね・・・山上さん、ここからはどの様に行けばよろしいですか?」 「この先の交差点を左へ曲がって下さい、そうすると5分ほどで入口に到着しますよ。」
「わかりました・・・この交差点でよろしいですね?」
「はい、そうです。」
 美根子は山上の指示通りにハンドルを左へと回した。左折した車はこれまでよりも真新しい2車線の道路を走っていった。

 数ヵ月後、現地視察を終えた美根子は役員達と共に入念な議論を重ねて土地の購入を決定した。早速その事は所有者の山上へと伝えられ、数日後にその5haの土地はそれなりの額で購入される旨の契約が結ばれた。土地を手にすると彼らが次に始めたのは土地の詳細な調査、地質、地下水、地下構造などを綿密に調査して簡単な資料を基に作った購入前の計画と照らし合わせてその不整合な点を一つ一つ消していき、完璧な計画をまとめ上げた。
 彼女らがその土地に計画していたのは大規模なリゾート施設、インターチェンジの新設により大都市圏から車で1時間余りと現状の3時間から大きく短縮される事で、集客力のある施設を少ない資金で建設出来、元が取れると踏んでいたからである。無論、美根子等だけがそれに気が付いていたのではない、同業他社もその利点に注目して競って進出しており、かつての自然溢れる原野には土地を求める資金と欲望が乱舞していた。
 土地と計画を我が物にした担当者は早速役所に対して、建設認可を申請し認可の下るのを待った。幾つかの指摘を受けて数回計画を手直しした事でようやく認可を得ると、事前に確保していた業者を送り込んで建設を開始した。ようやく、計画が形になり始めたのである。起工式での美根子の表情はこれまで見た事の無いほど良いものであったと、古参の会社創業時から彼女と共に会社を成長させてきたとある幹部は後に語った。
 しかしながら、半年ほど経った時唐突に建設は中断の憂き目にあった。会社側は理由として環境保護団体から抗議があり、その対策として話し合いを行う間は建設を中断する事で合意したと発表したが、今一判然とした理由ではなかった事は確かだった。そして、最終的には2年程で計画の完全なる破棄が決定し、建設は完全に中断、会社側は契約に基づいて業者側に違約金を支払う事で事を収め、以後その土地には見向きもしなくなった。放置された土地はその後、周囲が発展する中で唯一取り残され、今となってはその周囲を覆う工事用の遮蔽壁の奥は叢生し、建設途上で放棄されたコンクリートの柱や鉄筋、そして基礎の巨大な穴が無残な姿を曝け出し、一部では雑木林に帰りつつあった。
 どうしてこの様な結末に終わってしまったのだろうか、どうしてこの計画を熱心に進めた社長である美根子が建設中止を決めたのか。その理由としてただ環境保護団体との協議の結果と会社側は繰り返し述べていたが、事情を知る人は、その会社は抗議程度で一度始めた事を止める会社でない事を知っていた。ではどう言う訳があったのだろう、裏がある・・・この認識は次第に広まっていたが、その裏とは何なのかは誰も答えられずじまいにあった。
 ただ興味深い事に最初の計画中止が発表されてから数週間後、何の前触れも無しに社長が美根子から副社長の本井へと変更されていた上に、彼女と計画担当部長の中島の両者の姿を発表の行われた数日前から、誰一人として目撃しないまま今日まで来たと言う歴然とした事実が存在する。これを知った僅かな人は社内クーデターでも起きて、追放されたのかと勘繰ったが、それではどうして姿を誰も見ていないのか説明出来ず、また次第に誰もが黙るようになった。そして、時間は更に経ち誰も話題にする者は居なくなった。
 どうして誰もが黙ってしまったのか?実を言うと美根子と中島は原因不明の失踪を遂げており、その事実を知った会社側が警察に通報した事でによる捜査の結果、自発的失踪の線は薄く何者かによって誘拐されたか、それとも何らかの事件事故に巻き込まれた可能性が高いと結論付けられていたからだ。また、それを裏付ける証拠として通報から数日後に会社宛に届けられた脅迫状めいた手紙があり、これは重要証拠として警察が押収してたが、不思議な事に保管されていた筈の倉庫から忽然と姿を消した事が後に明らかになった。そして、2人の行方は一向に知れず何時しか未解決事件として葬り去られてしまったのだった。

 荒涼とした赤茶けた大地に点在する灌木と苔むした巨石、空は醜く濁った雲に覆われて薄暗く、動きある物と言えば時折吹く錆びた匂いを乗せた風のみ・・・まるで地獄の様なその空間の一角に、何とも不釣合いなものがあった。それは家、土壁に囲まれ立派な門を持った純和風の平屋建ての屋敷がその大地に存在していたのである。そして、その一角にある粗末な茅葺屋根の小屋の中からは女の嬌声と男の唸り声が漏れ響いていた。
「アッアァァッアハァハッ・・・ハウッ・・・ハアアアーアッ!」
「おらおら、もっと鳴かんかい!お前の仕事だろーが!」
「ウッヒッヒッ、兄者・・・こっちのメスも中々良いですぜ・・・締りが最高ですよっ!」
「そうか、そりゃ楽しみだ・・・おらおらもっと啼け、喚け喚け!ハッハッハッ!」
「ハフゥーッ・・・ハァッアッアァァッ・・・フアァッアゥウゥゥ・・・。」
 2人の男に2人の女、そこでは男にとっては天国、女にとってはある意味の地獄と天国が先程から延々と展開されていた。しかしながら、通常と異なるのはその激しさもともかく男女の姿である。男の姿はと言えば、1人は赤い、もう1人は青色の肌をして頭には二本角を立ててパンチパーマという出で立ちをした話に聞く"鬼"その物であった。角と肌の色、そして2メートルは有にあろうかと言う巨体に井出達の2人の鬼は、その極太のペニスを目の前で四つん這いにさせた女のワギナに突き刺し、激しく腰を動かしてはその快感を貪っていた。
 一方の女の姿もまた奇怪な物であった、まず全体的な姿形と言うのは人と変わりは無い。しかし、その体には尻尾、それもそれぞれ別の獣の尻尾が生えて、全身は獣毛で覆われ顔もまたそれに沿った形を取っていたのであった。一方は純白の兎女、そしてもう一方は鹿毛の馬女がそれぞれ、盛大な喘ぎ声と愛液を漏らしつつそのワギナへと鬼のペニスを受け入れていた。体は前後に激しく揺さぶられて、その豊満な特に馬女の乳房は大きくたわみ、その息遣いや尻尾の動きと共に淫靡な世界を演出していた。
「じゃあな、今日は楽しかったからまた来るぞ。」
「兄者、次来る時はもっと大人数で来ません?」
「おぉ、いい事言うじゃないかお前・・・よし、そうするか・・・たまには大勢のやるのも楽しみなものだしな、ハハハッ。」
 数時間後、ワギナから始まってフェラ、アナル、パイズリと楽しみに楽しみを重ねた鬼達はすっかり満足した面持ちで、勝手気ままに喋りつつ壁際に置いた金棒を担ぎ、パンツを穿いて自分達の住処へと戻っていった。
ガラガラガラッガシャンッ!
 乱暴に扉が閉められた音が消えた後に残されたのは全身を精液塗れとし、その大きく開いたワギナとアナルから注ぎに注がれた精液と自らの体液の混合された液体を流して、その場に敷かれた同じく精液と汗と涎によって湿った藁の上に横たわる兎女と馬女の姿があった。興奮未だ醒め止まずに息を吐いている彼女らであったが、その瞳からは一筋の流れが静かに流れ落ちていた。

ガラガラガラ・・・
 しばらくすると今度は扉が静かに開けられた、馬女と兎女がそちらへ注目する中で入って来たのは黒い服を全身に纏った1人の人間、胸の膨らみからすると女であろうか。彼女は無言のまま2人に接近し、そしてその前で膝を折って口を開いた。
「社長・・・大丈夫でしたか・・・?今日の客は大分激しい者でしたが・・・。」
 その女が話し掛けた先にあるのは馬の頭、白紋を持ち栗栃毛の獣毛の馬の頭であった。その馬は口を開く、何とか大丈夫と・・・。そう、これでわかった事だろう。この馬女と兎女は数ヶ月前忽然と姿を消した、開発会社社長加藤と担当部長の中島の変わり果てた姿だったのである。そして話し掛けた女は失踪の時、偶然その場に居合わせた取引先の営業担当の河島早季子その人であった。
「さぁ、厩舎へ戻りましょう・・・いいですか?」
 早季子が立ち上がりつつそう言うと、美根子と中島はフラフラとした足取りで立ち上がりその後をついて行った。2人が出たのを見た早季子が扉を閉め鍵をかける、そしてその小屋を含めた建物に囲まれた庭を横切り斜め向い側にあるこれまでいた小屋に負けるとも劣らない、同様な感じの建物の中へと姿を消して行った。
 小屋の中はまっすぐ続く土のままの廊下を挟んで幾つかに区分けされており、全く対称な区画が並んでいる様は、各区画の前に鉄格子がはめられているのを除いて正しく厩舎そのものであった。美根子である馬女はその中の入口から3区画ほど入った藁敷きの区画へ、中島である兎女はその斜向かいの4区画目の半ば藁の敷かれた区画へ入ると、早季子は入口の鍵を閉めてバケツ等を手にしてやってきた。
 まず彼女が入ったのは美根子のいる区画、ここでも無言のまま早季子は美根子の体を洗い毛並みを整えて、外に止めてあったカートの中から夕食である餌の入った籠を中へと置き鍵をかける。次に入った中島の所でも同様の事をし、そして一礼をすると小屋の中から彼女は立ち去って行った。そして2人以外には何者もいない室内には食べ物を口に清水を啜る音がしばらく開いたかと思うと、何時の間にやら静まり返り寝息と共に現状を嘆いているのだろう、涙声が微かに響き渡っていた。

 このような事になったきっかけは数ヶ月前、あの土地の下見に言った時まで遡る。あの時、地権者であった山上は、その土地に関する正確かつ全ての情報の提供を求めていた美根子と中島に対して、その求め通りに話をしたもののある事を伝えるのを忘れていた。正確さを記すならば地権者たる山上自身もその事を知らなかったからだと書くべきであろうが、とにかく彼は彼女等にある事を伝えなかった事には変わりは無い。ではその伝えなかった事とは・・・それはその所有する区画にはかつて社が立っており、その聖域であったと言う事を。かつて彼の一族が代々護ってきた社のあった土地である事を、彼はすっかり忘れていたのである。
 それが故意でない事の証拠に彼にはその事は伝えられていなかった、当然ながら彼の父親もその事を知らず、彼から数えて五代前の者が廃絶した社の守護者と言う彼の一族の本来の使命の存在など知る由もなかった。だがその役目から逃れる時、五代前の先祖は社に祀り上げられている者に対してこう誓っていた。曰く、守護者たる使命を終えようともその本分を忘るる事無く、仮に何らかの故あってその事を忘れたとしても末代にまで渡ってその土地を有し続け、御伺いを立て許されない限り手放す事は無し。と誓っていたのだ。
 そして記憶は彼から数えて三代前の先祖である祖父から父へと継承されず、祖父の死を以って忘れ去られた。しかし父はその土地は絶対に売ってはならないと言う言い付けを護って売る事も無く、最も余りにも辺鄙な土地でありすぎて買い手がいなかった事もその一員だが、とにかく売らずにそのまま山上へと引き継がれた。だがその引継ぎはある悲劇的な出来事によって成されたものであり、実を言うと彼の父親はある日突然、何の前触れも無く脳内出血を就寝中に起こしそのまま死んでしまったので。ある。
 その為、今度は記憶ばかりかその言い付けすらも引き継がれる事は無く、何も知らない1人息子の彼は高い相続税を払って遺産を引き継ぎ、活用出来る物権は活用して利益を得ていたがただ税金を生み出すだけのその土地に対しては厄介者としか見ておらず、機会あれば原野商法でも何でもいいから売り飛ばそうと画策していたのだった。
「誰でも良い、買ってくれる何らナンボでも売る。」
 そう言いつつ買い手を捜し始めた頃の事、彼の元にある情報が飛び込んできた。その土地のある高台に高速道路のインターが設置されるという情報が、彼はそこでそれまでわずかに進めていた作業を中止しその情報を信じて土地を保有し続けた。そしてその事が正式に公表された際のその喜び様は、これまでに見た事の無いほど激しいものであったと長年の付き合いのある知人の1人は、日記にそう書き記している。
 待つ事10年余り、ようやくインターの工事が始まった。最初は公団に買わないかと持ちかけた山上だが、予定地から外れているので当然の事ながら買ってもらえる筈が無く、様々な方面へ探りを入れていると複数の反応が返って来た為それぞれと交渉し、その結果最も有利な条件案を示した美根子率いる開発会社へと売却する事にしたのであった。そして土地は契約通り売却され、多額の資金を得た山上はそれを元手に悠々自適の余生を過ごそうとしたそんな矢先・・・彼は自宅にて急死し、買い取った美根子と中島そして早季子は現実から忽然と姿を消してしまったのだった。
 続


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