数日後の同時刻、僕は顔を緩ませ目を輝かせてマウスを操作していた。スピーカーの音量は最大でそこから漏れるのは軽快な音楽・・・な訳はなく、とてもじゃないが人様には聞かす事の出来ない卑猥な音が盛大に流れている。普通の神経をしている人ならば赤面して部屋にいられない以前に、例えちょっとした出来心で大きく流したとしてもすぐに落とすであろう。しかし僕にとっては無くてはならない舞台設備であった、自らの妄想と興奮を高めて更には今、指先を使ってしている事へより深くのめり込む為に必要不可欠なのだった。
指先を使ってしている事はそのまま画面に反映される、浮んだブラウザの中は薄暗くその中にて何かか蠢いている。正確に言えば絡み合っていると言うべきか、そこでは2つの体が後背位にて絡み合っていた。それは俗に言うエロゲーと言う物、それもこれは一般的な量販店やら専門店で売られているような代物ではない。そう言った販売ルートには乗らない同人ゲームで内容も一般受けする物ではなかった。
その内容はと言えば獣人物、人と人の絡みを見るのではなく獣人同士の絡みがテーマのエロゲーで、プレイヤーは幾つか用意された獣人の中から自分の好みとするのを選び、現実世界をモチーフとした世界にて生活する傍ら相手を見つけて絡み合う・・・と言うのが基本なのだが、進め方によっては一晩限りの行きずりの関係から恋人、果ては結婚にも至れると言う仕様。そしてグラフィックや設定も完全にプロ顔負けで下手な市販ソフトよりもずっと満足度は高い。
もし中身が獣人で無ければ、同人ケームマニアの中でもかなり好評を博した事であろう。しかし獣人である事からマイナーで殆ど知られてはいない・・・そもそも僕が見つけたのもホンの偶然に過ぎなかった。日頃から贔屓にしているダウンロードサイトから気になるサークルのサイトへと移り、そこから如何辿ったのかは分からないがかなり時間を掛けて着いたのは全く見知らぬサイトであった。
そのサイトへとリンクをしていた所は、数週間前に来て以来のそこそこお気に入りなサイトのリンク集からだった。バナーも無いただ文字だけでサイト名だけが記されたそのリンクの、その何も無さと言うシンプルさに魅かれてクリックしてしまったのかも知れない。
しかしその先にあるのは宝の山だった、多くの獣人絵、獣化絵、様々な多岐に渡ったジャンル・・・それらはこの所気に入った物が無くたまりにたまっていた僕の欲情を一気に解消させてくれた。欲情以外の物もやもやと鬱積していた事柄も、これから回る予定のサイトの事と併せてすっかり考えの中から消え去ってしまうほどだった。結果として僕はそのサイトにのめり込み毎晩の様に遅くまで繋いでは、その膨大な数の絵をおかずにしていた。
だがそれもやがては尽きてくる、そろそろ見る絵もなくなるなと実感し始めた僕はそれでも何処かにまだあるのではないかとサイトの探索を始めた。サイトは良くぞここまで広がっていると言うほど広大でブラウザの履歴でメインページへ戻ろうとしても、余りに移動し過ぎたものだからちょっとやそっとではとても出来ない。
だから一度目を付けたルートは最後まで徹底的に探索してから戻ると言う方針に傾いたのは至極当然の事で、結果として僕はその果ての無いかと思われる位に延々と続くリンクの、正に最終ページに隠されていた隠しアドレスを見つける事に成功した。そしてそのアドレスを打ち込んだ先にあったのが、今しているこの獣人エロゲーであった。zipファイルへのリンクの下にかかれた説明文を読んだ際の僕の喜びは書き表し様が無いほどだった。そしてダウンロード、解凍・・・光回線なのでものの数秒で終わるその時間がたまらなく長く感じられてならなかった。
「うん?何だこれ?」
幾度と無く深夜の公園などで持ちキャラを用いて襲ったり襲われたりをして絡み合わせてしばらくした頃、持ちキャラはトイレへと向った。一応、現実世界をモチーフにし現実感を追求したと言うだけはあって生理現象がしっかりと用意されている。余りにもそれがこちらが納得してしまう所に起こってしまうので時には興醒めと感じる事もあるが、基本的にはこれまでにした如何なるゲームにも無い満足感、もしも自分がゲームの中のキャラクターならばこの様な風に見られているのかも等と思わず想像しつつ眺めていた。
そして用を終えたキャラはトイレの外へと再び現れた。そしてそこからは自らの操作によって新たな相手を探すのだが、不思議な事にこれまでとは打って変わって全く見つからない。まるでゲームの中からトイレに行っている間に自分のキャラ以外の全てのキャラが消えてしまった、とでも言えるほどの有様であった。
それでも根気強く探し続けたが夜はもう遅く朝が近い時間、そろそろ切り上げようかと言うその時路地の向こうに人影の様な物が見出された。思わずそれを追わせる様に操作をしたその時、僕は急激な眠気に襲われて訳も分からぬ内に意識を閉ざす・・・。