ある晩の事、蝋燭を炊いて満月の光が波間に輝く夜の海を眺めていると、軋んだ音と共に彼女の背中へ空気が流れてきた。同時に聞こえる足音と息遣い、気が付いた彼女がそっと振り向くと部屋の中にもう一脚ある椅子にコクがすました顔で、彼女を見ながら腰掛けていた。
「やぁ久し振り・・・ちょっと色々と立て込んでしまってね。待たせてしまってすまない。」
「あっそうだったのですか・・・大丈夫ですよ、はい気にはしてませんから。」
「そうかい、それなら良かった。安心したよ・・・ククク・・・。」
「あの何か・・・。」
「いや、何でもない。気にする必要は無い・・・さてと、早速してもらおうか。」
コクの微笑に対するDGの反応を適当にあしらうと、彼は胸元からヨレヨレになった皮袋を取り出し、机の上へと置いた。中からは黒い丸薬が1つ取り出され、それをコクは自らの手の平の上に置いた。
「まず君にしてもらう事、それはこの薬を飲む事だ・・・手を出したまえ、口に含んだら噛み砕いて飲み込みなさい。」
「はい・・・。」
手渡された丸薬を抓んでしばし眺めると、意を決した様に口の中へと放り込み、目を瞑って強く噛み砕くと体内へと押し入れた。味はとてもじゃないが苦く、不快な臭いが鼻へと逆流してくる。顔を顰めつつ何とか胃の中へと収めると、ホッと顔を緩ませて深く息を吐いた。
「どうだ、味の方は?」
「・・・美味しかったです。」
そう言わなくてはならないと1人勝手に思い込んでいたDGはそう小さく呟いた。だが、その顔にはまだ若干のしかめっ面が残っており、簡単にその未熟な嘘はばれてしまった。
「嘘を言うな・・・不味かったって事はお見通しだ。何、嘘を言ったからって何をするわけじゃない・・・次は君の名前を教えてもらおうか。」
「名前ですか・・・。」
「そうだ、名前だ。言えないのかね?・・・後ついでに年齢も。」
言うのに躊躇するDGに対してコクは馬鹿にする様な目付きと口調を向けた、プライドは高く自分自身に強い自信を抱いているDGにとってその僅かな挑発は、決して無視出来はしなかった。彼女は急に真顔になると口を開いた。
「私の名前は大橋理沙・・・19才です。」
凛としたその言葉の後に続くしばしの沈黙、品定めをするかの様な目付きでその間ずっと彼女を見つめていたコクは、スッと顔を上げて呟いた。
「オオハシリサか・・・ふむ、ならリサと呼ぼう。そして私の事はご主人様と呼ぶ様に・・・異論は無いな?」
「はい、ご主人様。」
「そうかなら良い・・・それでは、と言う前にリサよ。何だか違和感を感じないかい?どうだ?」
「違和感・・・ですか・・・特には・・・アハァッ!?」
「ほら、また否定しようとして・・・リサ、我慢は体に毒だぞ。感じているんだろう?何かを・・・。」
薄ら笑いを浮かべたコクの指摘は確かに正しかった。先程から、と言っても数分ほど前から彼女はどこかしらその体が疼くのを感じていた。次第に高まる疼きと共に、体の節々には悪寒が走ると言う、これまで経験した事の無い不可思議な感覚に彼女は内心、すっかり当惑していた。ここで大抵の人なら、観念して素直にその事を吐いてしまうだろう、しかし前述した様に矜持の高い彼女にとってそれは無理な話であった。それも人では無いとは言え、男相手にそんな事が出来るほど彼女の心は広くなかった。
"こんなの・・・すぐに収まるわ・・・我慢、我慢よ・・・。"
「いいえ、何も感じてはいません。」
そう体に言い聞かせながら、またも彼女は事実を否定した。だが、最早全てを見通しているコクにとって、その一連の行動は茶番に過ぎず、むしろ奴隷である理沙が反抗している・・・と彼は密かに受け取っていた。
"全く・・・強情な奴だ・・・そこまで感じていないというのなら、感じさせてやろうじゃないか・・・。"
コクの心のどこかで小さな火が燃え始めたのであった。
「そうか・・・では、ちょっと私の後に着いて来てくれ。見せたい物がある。」
「わかりました、ご主人様。」
一拍置いて口を開いたコクの言に理沙は素直に言葉を返した。とは言えそれは自ら望んだものではなかった。今の状況では歩くのも、立つのも出来るだけ避けていたい理沙ではあったが、特に断れる理由も無く、ここは素直に従うしか道はなかった。ゆっくりと部屋を出た理沙はコクを先頭にして、静かに松明の焚かれた窓1つ無い通路を進んで行く。適当な感覚で配置されている松明を物珍しそうに眺めつつ、歩く事数十分、そろそろ歩くに連れ更なる高まりを見せてきた疼きに耐えるのが限界に近い・・・と悟り、猛烈な昂りによってやや朦朧としていると、その様な事を知らないコクはふと足を止め、声をかけてきた。
「おい、リサ聞いているのか?」
「あっ・・・あっはい聞いています。申し訳ありません!」
何度かの呼びかけの後、急に我を取り戻した理沙は大慌てで返答した。すっかり慌てたその様を見ながら、何やっているのだと言う呆れた表情と軽い溜息を1つ、コクは彼女に対してあからさまにぶつけていた。
「全く・・・私の言う事を無視するとはとんでもない奴だな・・・まぁ、いい、今回ばかりは水に流そう・・・ではリサ、この中にしばらく入っていてもらおう。ちょっと準備しなくてはならない事があるからな。さぁ、入れ。」
"準備・・・何を準備すると言うの・・・でも、今は・・・ダメだわ・・・そろそろ限界・・・。"
コクの述べた言葉の中にある"準備"と言う言葉に、彼女は少なからずの疑問を覚えた。しかし、それを追求する事は体が許しはしなかった、先程から歩くのさえ辛く刺激になってしまうほど反応していた肉体の疼きは、今や疼きと言うレベルではなく熱を持っているという段階に来ていたのだから。その様な状態となった理沙は、何とか表面上はそれを隠す事に努めつつ頼りない足取りで軽く肯くと、その薄暗い扉の奥へと入っていった。裸足であるので、そのひんやりと冷えた部屋の床から直に伝わる冷たさが何とも心地よく、少しだけ気を落ち着かせた彼女が腰を下ろすと、無言のまま後に付いて来たコクは何かを手に持っていた物を首へと巻いた。
カチャリ・・・
微かな金属音が辺りに響く。
「よし・・・では、しばらくここで静かにしていろ。いいな。」
「はい・・・。」
彼女の首に小さな首輪をはめたコクは満足げな声をしてそう言い付けると、素直にやや力無げに首を振った理沙を見て、鼻歌を歌いつつ外に出て扉を閉めた。鈍い金属音とと共に扉が閉められると、ろくに明かり等無いその部屋は一瞬暗闇に覆われた。とは言え、そんな事はすっかり燃え上がっている彼女には関係ない、彼女は大きくその身を冷たい床の上へと投げ出すと息を荒らくし、そして意識せずにその手は股間のワギナへと伸び行き、気が付けば吐息と共に水音が静かに響いていた。