いつの間に、眠っていたのだろうか。目が覚めると、俺はまだ友恵さんの膝の上で
抱かれていた。友恵さんは、俺より先に目が覚めていたのだろうか。俺に気付くなり
微笑ながら頭を優しく撫でてきてくれた。それに対し、俺は頬を赤らめながらも微笑返す。
「おはよう。龍夜」
「おはよう、お母さん」
おはよう。何気ない挨拶。毎日互いに交わした挨拶。でも、今日は違う。何処か、新しく生まれた
言葉のような感じがした。窓の外に目をやると、外はまだ薄暗く。日も昇っていなかった。
ふと、自分の体を見るとお腹に見慣れない巻物が巻かれていた。
「それはね。私の息子が寝るときに寝巻きとして使っていた布よ」
「でも、何故?」
「お守りに持って行きなさい」
友恵さんの顔は、少し悲しそうな表情をしていた。やはり、別れは辛い。ただの別れならいい。
いつか会えるだろうから・・・。でも、この別れは死別。二度と会えないのだ・・・
でも、そんな事誰が決めた。俺は龍桜の隊員だ。必ず、必ず桜となって再び戻ってくる。
「それから、これを頭に巻いていきなさい」
手渡された鉢巻には、(必撃)の文字が刺繍され。裏には、俺の名前が刺繍されていた。
時計を見ると、時計の針は集合時間30分前をさしていた。まだ、時間がある。
そう思った瞬間。再び、涙が溢れてきた。再び、甘えるかのように友恵さんの胸に顔を埋める。
それに答えるかのように、友恵さんも抱きしめながら頭を撫で涙を流した。
「そろそろ・・・行かなきゃ」
「そうね。遅れたら、大変だもんね」
友恵さんの膝の上から降り、自室の出口へと足を進ませる。玄関には、ピカピカに磨かれた軍靴が
置かれていた。たぶん、上官が置いていったのだろう。
軍靴を履き靴紐を締めドアを開く。廊下に出ると、両端に一列に獣人・龍人の兵士及び民間人が
ずらりと並び、兵士は敬礼し民間人は旗を振っていた。
廊下を、俺と友恵さんで歩き。格納庫へと足を進ませる。兵寮を出てもなお、龍人獣人で作られた道は
続き。途中途中で会う兵士に敬礼され答礼し、同じ部隊の隊員にも敬礼をし進んでいく。
格納庫前まで来ると、桜が花を咲かせ俺達の門出を見送っていた。
「お母さん・・・ここから先は・・・」
「滑走路で待っているわ。いってらっしゃい」
「うん・・・」
格納庫のドアを開き中へ入る。中に入るとまず目に付くのは、白色の機体の龍桜攻撃機と
それを囲むように佇む整備兵。龍桜隊員が全員揃い出撃の時間がどんどん近づいてくる。
「諸君、出撃の時間が迫ってきた。各隊員、準備を始めてくれ」
上官が命令を出すと、俺達はそれぞれの攻撃機へと近づく。近づくと各機の担当である
整備兵が、各隊員の体に龍桜の機体を装着していく。顔以外全部に機体を装着し、
体を少し動かす。予想以上に、動きは制限されない。いや、逆に動きやすい。
顔面を覆うヘルメットを装着する前に、友恵さんから貰った鉢巻を頭に巻き。
整備兵からヘルメットを受け取り、頭に装着する。最初は、暗く何も写っていなかった
顔面のレンズには各部位の情報・武装状態・健康状態などが表示される。
そして、手渡されたベルとリンク式の機関銃を受け取った瞬間。間の前のモニターに
(龍桜攻撃機始動。攻撃可能)と表示される。
全隊員が装着し終えると、上官が壇上の上に上がり
「龍桜、万歳!!」
「龍桜、万歳!!!」
万歳三唱をする。上官が叫ぶと同時に、俺達と整備兵が雄叫びを上げる。
その声は、格納庫中に響き渡り外まで聞こえていた。
出撃10分前となり、俺達は外にある滑走路へと足を進ませた。
滑走路では、沢山の人で埋め尽くされ負傷した兵士・民間人の姿もあった。
その中に、心配そうな目で俺を探している友恵さんの姿があった。
すぐさま、駆け寄りヘルメットを脱ぐ。
「龍夜・・・。こんなに、逞しい姿になって・・・」
「お母さん・・・。必ず、この場所とお母さんを守るよ。それから、俺が死んでも悲しまないで
桜の咲く次期。咲いてまた戻ってくるよ」
友恵さんが涙を流しながら、俺に抱きついてくる。俺も受け止め、抱き返す。機体を着ているため
人体の熱は感じないはずだが、何故か友恵さんの体温を直に感じた。
ウゥー!!
出撃を知らせるサイレンが鳴り響き。他の隊員が集合し始める。そんな中、仲が良かった4人と集合写真を
取る事になり近くにいた獣人の整備兵を巻き込み集合写真を取り。出来た写真の出来に全員で笑いながら、
メッセージを書き込む。不思議に全員同じ言葉だったため、全員で一文字ずつ書き込む。
(龍桜・桜の如く散りぬ)と・・・
その写真を整備兵に預け出撃体勢に移る。
「全員、出撃準備!!」
背中に固定された推進器の出力を徐々に上げ始め、体が少し浮き始める。
ふと、周囲を見渡すと見送りに来た人達が帽子や布を振りながら出撃する者を
見送っていた。
出力が安定し始め、徐々に体が浮き始める。
「龍桜・出撃!!!」
出撃の合図と共に、次々と飛びだって行く。上空まで上がり、滑走路上空を二周し地平線を見つめる。
下では、沢山の人が手を振りながら俺達を見送っている。みなの期待を一身に背負い、地平線の彼方にいる
敵の駆逐艦を目指す。
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