乗っている車が赤信号で止まる。

窓から雪の積もった歩道を見ると、スーツや振袖を着た若い男女の姿がちらほらと目に入った。

今、オレは成人式の会場に向かっている。

といっても、オレ1人ではない。

オレが座っているのは助手席。

車を運転しているのは、同じく成人式に出る、幼馴染の黒豹の獣人ガレア。

成人式の会場がそれなりに離れている場所だったから、彼の母親の勧めで一緒に行くことになったのだが。

「…………」

「…………」

幼馴染だというのに、オレ達の間にはまったく会話がなかった。

狭い車内で2人きりという状況で、会話がない状態というのはかなり気まずい。

それも相手は子供の頃、ほとんど毎日のように遊んでいた幼馴染だからなおさらだ。

目だけを横にやると、ガレアはジッと前を見つめて信号が青に変わるのを待っていた。

その横顔からは感情までは読み取れない。

ただ無表情に前を見ているだけだった。

目的の会場まではあと10分程かかる。

それまで会話がないというのは正直ツラい。

だが、オレ達の間で会話がなくなったのは今に始まったことではなかった。

会話が少なくなり始めたのは中学に入学してから。

同じクラスになったオレ達は、最初のうちはそれでも仲良くしていたのだが、お互いが別々の部活に入り、そこで新しい友達ができ始めると、一緒にいる時間が目に見えて少なくなっていった。

部活が始まる時間も終わる時間も違うので、登下校も一緒にしなくなった。

それに加え、教室内でもお互いが別のグループの友達の輪に入っていたから、同じクラスでも、まるで別のクラスにいるように感じていた。

1年が終わる頃には、ほとんど挨拶程度の会話しかしないようになっていた。

2年に上がるとクラス替えがあり、オレ達は別々のクラスになった。

教室も離れていたせいもあり、顔を合わせる回数もめっきり減った。

しかし、その頃には違うクラスだからということもあって、オレはガレアのことを1年の時のように気にすることはなくなっていた。

3年生の時、オレ達はまた同じクラスになった。

オレの記憶が正しければ、3年生の一年間、ガレアとは1度も会話をしていない。

そのうえ目を合わせることさえなかったような気がする。

そして中学を卒業し、別々の高校に進学してからは、ガレアが側にいないことが当たり前になっていた。

過去を思い出し、物思いにふけっていたオレは、動き出した車の振動で現実に引き戻された。

オレは少し窓を開けてみる。

窓の隙間から冷たい風が車内に入り込み、狼獣人であるオレの体毛を揺らす。

せっかく暖房の効いた車内に冷たい風を入れたことで、何かしらの反応がガレアからあるかもしれないと期待したのだが、ガレアは相変わらずの無表情で運転を続けていた。

気付かれないように小さく溜め息をつき、窓を閉める。

そして、オレは窓の外を見たまま、ガレアは黙々と運転したまま、何度か信号につかまりつつも、10分程して車は目的地に着いた。

 

 

会場では懐かしい面々に会えた。

小学校・中学校の時に親しかった友達の多くは違う高校に入ってしまったから、久しぶりに会って話ができたのが嬉しかった。

大学はどうだ、とか、彼女はできたのか、とか、たわいもない話題で盛り上がる。

そんな風にして友達とおしゃべりを楽しんでいると、ふと視界にガレアの姿が飛び込んできた。

彼も彼で、彼の友達と何やらおしゃべりをしている。

その時、オレの頭に不思議な気分が浮かんできた。

(昔はオレが、ああやってガレアと話してたんだよな……)

なんとなく郷愁めいた感傷に浸っていると、側にいた友達が、

「どうした?」

と尋ねてきた。

オレはハッとして、慌てて笑って取り繕い、

「あ、ちょっとトイレ」

と言って、会場を出てきてしまった。

会場の扉を閉めて溜め息をつく。

(別に慌てる必要なんてなかったよな……

 トイレなんて別に行きたくもねぇし)

といっても、すぐに入っていったら馬鹿みたいだ。

オレは仕方なしに、行きたくもないトイレに向かって寒い廊下を歩きだした。

 

 

トイレには誰もいなかった。

別に尿意があったわけじゃないが、なんとなく便器の前に立ち、チャックを下ろして中のモノを取り出す。

しばらくそうやって待っていたが、案の定、何も出ない。

何も出ないのにいつまでもこうやっていても仕方がないから、オレはモノをしまおうと、1歩後ろに下がった。

ギュッ

「!?」

後ろに下げた足が何かを踏みつける。

驚いて後ろを振り向くと、そこにはいつの間に来たのか、ガレアが立っていた。

「あっ……わりぃ……」

慌てて1歩前に出ようとするオレ。

が、そのオレの体を、後ろからガレアが抱き締めてきた。

「なっ!? ちょっ……!」

「誰も来ないから平気」

焦るオレの首元で、ボソッとガレアが言う。

ひさしぶりに聞いたガレアの声は、オレの知っている声とは違っていて、大人びた感じがした。

だが、そんなことよりも今オレは焦っていた。

両手の上からガッチリとガレアに押さえつけられているために、ズボンからモノが出しっぱなしなのだ。

ガレアが少し頭を傾ければ、目に入る状態だ。

そう思うと、恥ずかしさで全身が熱くなり、心臓の鼓動が早くなる。

確かに昔はよく見せ合いとかしていたが、それはあくまで子供の頃だからできたことであって、今は見られることが恥ずかしくてたまらない。

ドキドキしてどうしようかと迷っていると、不意にガレアの手がオレの手を伝って、下に下りてきた。

「ちょっと待て!

 ……オイ!」

オレは慌てて抗議するが、すでに遅かった。

ダラリとチャックから顔を覗かせたモノを、ガレアの手がしっかりと握っていた。

「止めろよ……なぁ……」

「…………」

モノから手を離すように懇願するが、ガレアはモノを握ったまま、何も答えない。

それどころか、握っていた手を動かし始めた。

「ッ……!?」

オレは何がなんだか分からず、完全に頭が混乱していた。

だがそんなオレの混乱をよそに、ガレアは手を動かし続け、モノを刺激し続ける。

「……あ……ん……!」

確実に来る快感に、オレの口から甘い声が漏れ出す。

同時に、ガレアの手に包まれたオレのモノは確実に熱を集め、大きくなっていった。

ソレを見て、ガレアがボソッと呟く。

「いやらしいね……」

その言葉にオレは気分を昂ぶらせる。

モノはいっそう容積を増し、痛いほどに勃起する。

押し寄せる快感に、膝を曲げ、腰を突き出す。

快感に溺れ、モノを突き出したオレの姿は、ガレアの言葉どおりいやらしく見えただろう。

他の誰かが来るかもしれないトイレで、オレはガレアに扱かれて快感を感じていた。

そして、先走りが出始め、ソレがガレアの手を汚すよりも早く、

「んんああ……!

 やべ…ぇ………イ…くぅ…ぅぅ…!!」

 ビュッビュルッビュルッ

前の便器に向けて、オレは白濁とした液体を吐き出した。

「ふぅ……ふぅ……」

荒く息を吐き出しながら、射精の快感のせいで腰砕けになったオレは、そのままガレアに体を預けた。

しばらくそうしてガレアに体をもたれかけていると、ガレアがグッとオレの体を前に押し出した。

振り返ると、なんとも言い難い表情で、ガレアが口を開く。

「気持ちよかった?」

その言葉に、オレは正直に答えた。

「……あぁ……」

それを聞いたガレアは、満足そうに微笑むと、

「よかった。

 ……ソレ、早くしまった方がいいかもよ?」

そう言って、垂れ下がって糸を引くオレのモノを指差す。

「!!!」

慌ててモノを隠すオレを見て、ガレアはクスクスと笑い、そのまま何も言わずにトイレを出て行った。

後に残されたオレは、呆然としてその後姿を見送り、個室に入って後処理をしてトイレを出た。

 

 

会場に戻り、ガレアを探したが、どこにも姿が見当たらなかった。

それから1時間程して式が終わり、駐車場に行くと、ガレアが車に乗ってエンジンをかけて待っていた。

オレはドアを開け、車に乗り込む。

「…………」

「…………」

相変わらずの無言。

オレはなんであんなことをしたのか聞きたかったが、気恥ずかしくて聞けなかった。

車がゆっくりと動き出し、そのまま帰路に着く。

何も話さず、何も起こらず、安心したような、期待はずれのような気分で、オレは窓の外を眺めながら帰り道を揺られていた。

ほどなくして車は家に着いた。

そして車を降りる時、

「またね」

ガレアがそう言って微笑んだ。

オレはちょっと戸惑ったが、微笑んでこちらを見ているガレアの目を見つめて、

「…おう、またな。」

と、少し笑いながら答え、ドアを閉めた。

そのまま走り去っていく車を見ながら、オレは、

「……また……」

と、小さく呟き、家へと戻った。

トイレでの出来事を思い出すと、少しだけ股間が疼いた。