閉め切られた部屋で、隙間風が吹いてくるというわけではないというのに、ずいぶんと寒く感じる。
まだ12月も半ばだというのに、今夜は真冬のような寒さだ。
毛皮や羽毛を持たないボクには、身を切るようなこの寒さはこたえる。
ボクはあまりの寒さに、肩まで掛かっていた毛布をさらに頭の方まで手繰り寄せた。
そして、その中で、自分のぬくもりで温まろうと、体を縮こまらせる。
そうしながら、体を二転三転、温かい位置を探る為に動かした。
ようやく最適な位置に着いたものの、やはりそれでも寒さはさほど変わらず、もう眠りたいはずなのに目が冴えてしまう。
仕方なく目を開けて前方を見るが、そこには窓から射す薄い月明かりに照らし出された無人のベッドが1つあるだけ。
ベッドの主のシーザーは、今日はケルカの部屋に泊まりに行っている。
ボクはしばらくシーザーのベッドを眺めたあと、今度は180°体を反転させ、反対側のベッドに視線を移した。
ベッドはこんもりとした山を作り、わずかに上下していた。
ようやく確認ができるくらいの明るさしかない室内だったが、ベッドの主のアーサーが目をつむっているのが分かる。
起きているのか眠っているのかまでは分からないが。
そんなアーサーの寝顔を見ることしばらく。
ある考えがボクの頭に浮かんだ。
それはアーサーにはとても迷惑かもしれないことだが、寒さに耐えかねたボクは、その考えを実行することにした。
「……コホンッ」
わざとらしくならないように注意しながら咳払いを1つ。
「…………」
目をつむっているアーサーに変化はない。
少し時を置いて、ボクはもう1つ咳払い。
「コホンッ!」
わざとらしいかなと思いつつも、1度目よりもやや強めに咳を払う。
すると、こちらの思惑通り、パチッとアーサーが目を開けた。
交わる視線。
アーサーは睡眠を邪魔されたことにイラついている様子もなく、ジッとこちらを見ている。
そんなアーサーに向かって、ボクは言った。
「……ねぇ。 そっちのベッドで一緒に寝てもいい?」
「……え?」
少々目を見開いてアーサーが聞き返してきた。
「なんかさ、寒くて……」
ボクがそう答えると、アーサーは少し考え、
「いいですよ」
と、体を後ろにずらし、毛布を片手で持ち上げ、ボクが入れるように招いた。
「ありがと」
礼を述べ、ボクは枕を掴むと、急いでアーサーのベッドにもぐりこんだ。
ボクの体の上に、フワリと毛布が覆い被さる。
アーサーの体温を吸収した毛布は、自分の体温を吸収した毛布よりも温かく感じ、ボクは一気に寒さが薄らいでいくのを感じた。
枕の位置を整え、アーサーと向き合う。
「ごめんね、急に。
ボクほら、体毛ないからさ、寒さが苦手で……」
言い訳のような説明のようなことを言って、謝るボク。
アーサーはニコリと笑い、
「いいですよ別に。
ジークに比べて僕は羽毛がある分、寒さには強いですからね。
……あったかいですか?」
「うん、すごく」
「じゃあ、こうすればもっと……」
言って、アーサーは片翼を毛布とボクの体の間に広げた。
翼はボクの上半身を覆うような形でボクを包んでいる。
「うわぁ、あったかい!」
毛布を被った時とはまた違う、格別な温かさを感じ、ボクはにわかに興奮して感激の声を発した。
それを見て、アーサーはさらに笑顔を作る。
「天然の羽毛100%だね」
「そうですね」
ボクの言葉に2人で笑い合う。
そうして、しばしアーサーの翼を堪能したあと、
「……シーザー、もう寝たかな?」
と、なんとはなしにボクは小さく呟いた。
別にアーサーに答えを求めたわけではなく、独り言のつもりだったのだが、アーサーは少し考え、律義に独り言を拾って答えてくれた。
「ケルカが一緒ですからね。
たぶん、まだ起きてるんじゃないでしょうか?」
「明日も勉強頑張らなきゃいけないのに、夜更かししちゃマズいよね?」
「そうですね。 でも、さすがに夜更かしっていうほど夜更かしはしないんじゃないですかね?」
「だといいけど……」
小さくため息をつくボク。
と、
「あ、夜更かしといえば……」
アーサーが思い出したかのように尋ねてきた。
「? 何?」
「この間、夜中に目が覚めた時に見たんですけど、なんだかシーザーが夜中に呻いてたんですよ」
「……呻いてた?」
「ええ。 何か毛布をしきりにモゾモゾさせて呻いてたんです」
「毛布を? …………」
何やら心当たりがあり、ボクは考える。
アーサーが続ける。
「声を掛けようかと思ったんですけど、しばらくしたら呻き声がやんで、毛布の動きも止まったんで、声は掛けませんでした。
アレはどうしたんでしょうね?」
「それは……」
シーザーの呻き声と毛布の動きの謎に心当たりがあったボクは、答えていいものかどうか迷う。
(まさか、ボク達が一緒の部屋にいるのにそんなことしてるなんて……)
内心ではかなりシーザーの行動に呆れつつも、同性として理解ができる面もあり、ボクは戸惑った。
そんなボクの様子を見て、アーサーが不思議そうに尋ねてくる。
「何か心当たりがあるんですか?」
「あ〜……え〜っと……」
答え淀むボク。
部屋が暗いから気付かれてはいないだろうが、明るかったならば間違いなく頬が紅潮していることに気付かれていただろう。
シーザーのしていたことは、十中八九、自慰行為だ。
そういえばいつだったか、朝の洗濯の時に、精液が固まった物と思しき付着物のあったシーザーの下着を目撃している。
その時は夢精したものだとばかり思っていたのだが、まさかその原因だと思われることをアーサーの口から聞くことになるとは思わなかった。
それにしても、
(普通は洗うとかしてから洗濯に出すよね……
っていうか、わざわざこの部屋でしなくても……)
心底呆れ、同性としても理解できないシーザーの行動に、ため息をついた。
それを見たアーサーが、何かシーザーの身に重大な異変が起きたと勘違いしたのか、深刻そうな表情で尋ねてきた。
「もしかして……病気とか、ですか?」
「いや。 病気とかじゃないんだけど……さ」
説明していいものやらどうやら悩み、ボクは言葉を濁した。
実際、病気ではなく、健全な男子ならば取り立てて問題にするようなことではないのだが、この場合、相手がそういったことに疎いアーサーなだけに、どう説明していいものか迷う。
正直に答えてもいいのだが、シーザーが知らないところでそういう話をするのも本人の名誉の為にどうかと思う。
(まぁ、他人がいる部屋でオナニーするシーザーに名誉があるのかどうかは疑わしいけど)
やはり、この場は答えずにはぐらかすのが吉だろうか。
しかし、そう考えているうちの沈黙は、アーサーにとってはシーザーの一大事的なことだととらえてしまったのか、アーサーの表情はさらに深刻そうに変化していった。
「ならいったい…………もし大変なことなら、アルファス達に相談した方がいいんじゃ……?」
うろたえた様子で言うアーサー。
このままだと、話があらぬ方向に流れそうなうえ、アルファスやミラにまで波及して、シーザーの耳に入り、巡り巡ってボクにとばっちりがきそうだ。
八つ当たりとしての意味で。
(っていうことは、ちゃんと説明した方がいいかな……)
結論し、ボクは深刻な表情をしているアーサーに向って、意を決して告げた。
「アーサー」
「……はい?」
「シーザーは病気じゃないんだ」
「……とすると、アレは?」
「…………オナニー」
「…………え?」
「オ・ナ・ニ・イ」
「……………………」
強調して答えた瞬間、アーサーが沈黙し、目を丸くした。
確かにアーサーはこういったことに疎いが、今の言葉の意味を知らないはずがない。
なぜなら、ほんの1ヶ月程前、アーサーは他ならぬシーザーから自慰行為を教えられていたのだから。
アーサーは目を丸くしたまま問い返してくる。
「オナニーって……あの?」
「そう」
「…………」
「…………」
沈黙するボク達。
アーサーはやや決まりが悪そうに、
「病気じゃなくてよかったですけど……」
と、言葉を濁した。
「シーザーには言わないであげてね。
たぶん、気付かれてないと思ってるだろうから」
余計なことを言わないように釘を刺すボク。
「あ……はい」
と、やや間の抜けた答えを返すアーサー。
『……………………』
そして何とも言えない、気まずい沈黙が流れる。
その沈黙に耐えかね、ボクは眠って逃げようと目を閉じ、アーサーに声を掛けた。
「それじゃ、おやすみ……」
「…………」
しかし、アーサーからの返事はない。
いつもなら必ず返事を返してくれるはずなのだが。
聞こえてないはずはないと、目を開けてアーサーを確認する。
「…………」
目の前のアーサーは、やや決まり悪げにモゾモゾと体を動かしていた。
アーサーが動くたびに、ボクの体を包んだアーサーの翼が服に擦れる。
「どうしたの?」
アーサーの動きを不思議に思ったボクは尋ねた。
するとアーサーは、しばし考え、尋ね返してきた。
「ジークはどれくらいオナニーします?」
「……え?」
思わず聞き返すボク。
アーサーはいたって真面目な表情で、もう1度尋ねてくる。
「どれくらいオナニーします?」
「え〜と……」
唐突で、あまりにも突っ込んだ質問をしてくるアーサーに、ボクは答えられなかった。
かなりデリケートな質問で、本来なら仲間内でも報告し合うようなことでもないはずなのだが、こういったことに疎い、というより、羞恥心が薄いように思えるアーサーは、真剣に尋ねてきているようだった。
さすがにこれだけ真剣な表情で聞かれるとはぐらかすわけにもいかず、ボクは恥ずかしく思いながらも答えた。
「週に2回か3回くらい……かな」
「え、それだけ、ですか?」
驚いたようにアーサーが言った。
こちらも驚いて聞き返す。
「それだけって……じゃあ、アーサーは?」
「僕はほとんど毎日……ですけど」
「毎日!?」
思わず声を大にしてオウム返しに言うボク。
アーサーは小首をかしげ、聞いてくる。
「変……ですか?」
「いや、変っていうか……」
驚きながらも、ボクは呟くように言った。
そもそも一般における平均的な自慰回数など知らないのだから、どちらが変かなどとは言えない。
ボクが少ないのかもしれないし、アーサーが多いのかもしれない。
今考えてみれば、昔はボクも毎日のように射精させられていたのだから、案外アーサーの方が健全な男子なのかもしれない。
(……その考え方はおかしいか)
ともあれ、答えが出せない質問に、ボクは答えられずに黙り込んだ。
「……少し減らした方がいいんでしょうか?」
「あ〜……う〜ん……」
「どうしてもこう……なんていうか、我慢ができなくて……」
「う〜ん、まぁいいんじゃない、かなぁ?」
無責任な答えを返すボク。
それにしても意外だった。
3人の中で一番真面目そうに見えるアーサーが、まさか毎日のように自慰行為をしているなど、想像だにしていなかったからだ。
ボクは興味本位で聞いてみる。
「でも、毎日って、どこでしてるの?」
「トイレとか……あとは1人で入った時のお風呂とかですね」
さすがに人前で自慰行為をすることには恥じらいがあるのか、割とまともな答えが返ってきた。
どこかの誰かに聞かせてやりたい答えだ。
「そういうジークはどこで?」
同じ質問をアーサーが返す。
ボクは少し照れくさかったが、質問に答えてもらった以上、こちらが言わないわけにはいかないので、正直に答えた。
「ボクもアーサーと同じ。
トイレかお風呂だよ」
そう答えて、ふと気付いた。
先程から猥談めいた話をしていたせいか、知らぬ間に股間に血液が集まってきてしまっていたことに。
1度集まってしまった血液は、性器が膨張しきるまで治まる気配はなく、治めようと思えば思うほど、性器は膨張していった。
頭を出した性器が、息苦しそうに下着を押し上げる。
股間周りの気持ちが悪くなったボクは、できるだけ自然に、ただ単に寝返りを打つようにして体をモゾモゾと動かした。
その折、狭いベッドの上で、ただでさえ密着していたアーサーの体に、ボクの体が触れ合う。
しかも、触れ合ったその場所は、あろうことかボクの股間とアーサーの手と思しき場所。
そして、ボクの手とアーサーの股間と思しき場所。
『あ……』
2人同時に声を上げた。
ボクは恥ずかしさで、アーサーは驚きで。
ボク達は触れ合ったまま動かなかった。
ほとんど同時に視線を下ろし、ほとんど同時に視線を上げ、見つめ合う。
「……立っちゃった」
恥ずかしさをごまかすように、ボクはふざけた素振りで言った。
「僕もです」
アーサーも苦笑いを浮かべてそれに応えた。
ボクは手に触れたアーサーの性器の感触を確かめるように、少しだけ、そっと手を動かした。
「ッ……」
呻きにも聞こえないほどの小さな反応がアーサーから漏れた。
同様に、アーサーもボクの股間に触れた手を少しだけ動かしてくる。
その瞬間、背筋にゾクリとしたものが走り、ボクの本能を直撃した。
心臓の鼓動が痛いほどに早く強くなり、頭がボーッと湯立つような気分になった。
喉の奥がひりつき、口の中がカラカラになった。
ゴクリと音がするのではないかというように生唾を飲み込み、ボクはアーサーに囁きかけた。
「ねぇ……今日は、したの?」
「…………」
アーサーは沈黙したまま、首を横に振って応える。
そして、静かにボクの股間に触れた手を動かし、ボクの性器をズボン越しに優しく握った。
その刺激に、ボクの本能からくる劣情は、もう止まらないところにまで達してしまった。
ボクは劣情の命じるままに行動を始めた。
体をベッドの下方に滑らせ、毛布にもぐり込むと、ちょうど眼前にアーサーの股間が来るような位置まで移動し、ズボン越しにアーサーの股間に顔をうずめた。
「あっ……ジーク……」
頭の上でアーサーの驚きのこもった声が聞こえた。
しかし、ボクはそれを意に介すこともなく、行動を続けた。
ズボン越しに、形の浮き出た性器を鼻先でこね回し、口を開いて優しく甘噛みする。
わずかに香る雄の匂いは、ボクの劣情をさらにかき立てた。
ズボン越しの愛撫を続けるうち、アーサーの発する雄の匂いに耐え切れなくなったボクは、両手をアーサーのズボンと下着に掛け、力任せに押し下げる。
パチンッ!
「あっ!」
ボクの下顎を打つ高い音と、アーサーの声が重なった。
勢いよく下ろされたズボンと下着の反動で、アーサーの性器がボクの下顎を打ったのだ。
下顎にわずかに濡れた感覚。
興奮のあまり、アーサーが溢れさせた先走りだろうことは、暗闇で見えずとも明白だった。
「ジーク……」
小声でアーサーが囁く。
と、同時に目の前がほんの少し明るくなった。
上目遣いにアーサーを見れば、アーサーは毛布を少し上げ、心配そうな表情でボクを見下ろしていた。
ボクはアーサーの囁きに答えることなく、次の行動に移った。
目の前で熱を発するアーサーの性器を手に取り、先端を、竿を、玉をさするようにして愛撫する。
先端に触れたせいで手に付いた先走りは、ヌルリとした感触を掌に感じさせ、それが潤滑剤となってスムーズに愛撫を行わせた。
軽い愛撫に過ぎないのだが、それでもアーサーには強い刺激なのか、
「あっ…はっ……ぁ……」
囁くような嬌声を、愛撫のたびに発していた。
その声をBGMに、ボクは愛撫を続けた。
手から伝わる感触、鼻を刺激する雄の匂い、耳に残る矯正。
それを感じ、嗅ぎ、聞くごとに、ボクの劣情は天井知らずに高まっていった。
やがて、ボクはほとんど無意識に、アーサーの性器を口の中に導いていた。
「あうっ!?」
頭上でアーサーが一際大きく鳴いた。
おそらく、口での刺激は、アーサーにとっては初めてのことだろう。
体の構造上、自分の舌で刺激したことくらいはあるかもしれないが、少なくとも他人からの口での刺激は初めてだと思う。
「ジー…ク……」
堪えるような声に視線を上げると、アーサーは今にも泣き出しそうな、そんな表情でこちらを見下ろしていた。
その表情が、今のボクにはとても愛おしく見え、ボクは早くアーサーを楽にしてやりたいと感じ、一心不乱にアーサーの性器を愛撫した。
付け根にある2つの睾丸を包む皮膜に舌を這わせ、上下の顎でそっと噛む。
そのまま口を上に滑らせ、舌全体で竿を、先端までくると舌先で先走りの溢れ出る鈴口を割り裂き、尿道の奥へ届けとばかりに舌先を動かす。
そのあとは再び口を下に戻し、口全体で竿を掴み、頭を左右に振って竿を扱き上げた。
溢れ出た先走りが頬を濡らせば、今度は竿全体を口内に導き入れ、前後に顔を動かして扱いた。
口内では亀頭部を頬の内側に擦り付けるようにし、舌は竿に巻き付けて這わせる。
そのうちに、竿全体を喉の奥にまで進ませ、飲み物を飲み込むように吸い上げる。
「あ…ああぁぁぁ……!!」
真空に近くなった口内で、アーサーの性器は膨れ、脈打った。
そして一際アーサーの性器が大きく膨れたと感じた瞬間、
「いっ……!!!」
息を詰まらせるような喘ぎと共に、アーサーが射精を果たした。
性器の脈動と共に何度も口内に送り込まれるアーサーの精液を、ボクはこぼすことなく、すべて飲み下す。
精液の溢れを感じなくなったあとも、尿道内に残る精液を吸い出そうと、ボクはアーサーの性器を吸い続けた。
「ひぁっ! ジ…−クッ……もう……はなし…て…!!」
悲鳴を上げ、懇願するアーサー。
ボクは萎え始めてきたアーサーの性器を、名残惜しみつつも口から解放した。
口内にアーサーの熱を感じつつ、ボクはベッドの上をすべり、元の位置に戻る。
目の前では、アーサーが肩で息をして、潤んだ瞳でボクを見つめていた。
そんなアーサーに、ボクは、
「気持ち良かった?」
と、悪戯っぽく尋ねる。
アーサーは、大きく深呼吸し、少しはにかんだように一言。
「……すごく」
「よかった。 ひょっとして、舐められるの、初めて?」
「自分では何度か…………人からは初めてでした」
素直に答えたアーサーの答えは、予想通りのものだった。
今度は反対にアーサーが尋ねてきた。
「ジークはあるんですか?」
「……うん、まぁ、ね」
ボクも素直に答えた。
しかし、ボクの場合、それは思い出すにはいい気分のしない記憶だった。
それを知らないアーサーは、
「そうですか」
とだけ答え、少し何かを考えているような素振りを見せた。
「……? どうしたの?」
ボクが尋ねると、
「…………」
アーサーは何も答えず、モゾモゾと毛布の中にもぐり込んだ。
そして、毛布の中で一言。
「お返しです」
その次の瞬間、
「ひゃっ!?」
一気にズボンと下着が引き摺り下ろされる感覚とほとんど同時に、ボクの性器を熱くぬめった感触が包み込んだ。
覚えのある感触に、ボクはすぐにアーサーがボクの性器をしゃぶり込んでいるのだと理解した。
ボクは毛布をめくり、その様子を視認する。
「アーサー……っ!」
「む…ん……」
ボクの声に、アーサーが上目遣いでボクを見て呻いた。
慣れていない為に稚拙な愛撫。
しかしながら、硬い嘴でボクの性器を傷付けないよう、注意して咥えてくれているのが分かる。
「無理して……はぁ……舐めてくれなくてもいい……よ……っ!」
「ん……」
呻き、ボクの性器を咥えたまま、首を横に振るアーサー。
ボクの動きを思い出しての模倣か、ボクと同じような愛撫をボクに施す。
慣れないながらも懸命に性器を愛撫してくれるその姿に、ボクは胸に迫るものがあった。
アーサーによる稚拙な愛撫。
しかし、それは今までにされてきた口によるどの愛撫よりもはるかに勝る快感を感じた。
精神的に相手を受け入れるか否かが、ここまで肉体的な快感に影響を与えるなど、ボクは想像もしていなかった。
ボクは息を荒げながら、その一生懸命なアーサーの姿を眺めていた。
そして、ほどなくその時が訪れた。
「アーサーっ…! もう、出そう……!」
「んん……!」
さすがに口内で射精してはまずいと、アーサーの頭を掴んで性器を引き抜こうとするが、アーサーはボクの腰に手を回して離さない。
「ダメ……! 出ちゃうよ!」
力を入れて突き放そうとしたが、それでも無駄だった。
それどころか、アーサーはより一層腰に回した手に力を込め、さらには激しくボクの性器を吸い上げた。
それが最終的な引き金となり、
「んっあぁぁぁぁ!!!」
ボクはアーサーの頭を逆に股間に押し付け、その口内に精液を吐き出した。
「っ……! んぅ……!!」
脈打つたびに吐き出される精液を、鼻で荒く息をしながら飲み込んでいくアーサー。
何度目かの吐精を終え、ボクの精液が枯れたのを確認すると、アーサーはようやく口を離した。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
「ん……」
肩で息をするボクと、小さく声を漏らすアーサー。
ゴクリとアーサーの喉が鳴った。
「だ、大丈夫……?」
尋ねると、アーサーはうなずき、
「……でも、変な味がします」
と、はにかむような笑みを浮かべた。
それを見たボクも同じように苦笑いを浮かべる。
「そりゃ、本来は飲む物じゃないからね」
「そうなんですか?」
「うん」
「じゃあ、以降は気を付けます」
言って、アーサーは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
その言葉にボクは驚きの声を上げた。
「以降って……またするつもり!?」
「する機会があれば、です。
僕、ジークのことが好きですから」
体を上に滑らせ、アーサーはボクの目の前で再びはにかんだ笑みを浮かべた。
「好き……って……」
爆弾発言ともとれるその言葉に、ボクはさらに驚いた。
そんな驚いたままのボクを尻目に、アーサーは自らのズボンを上げ、さらにはボクのズボンも上げると、ボクがめくった毛布をかけ直し、再びボクの体の上に片翼を乗せて一言、
「おやすみなさい」
という言葉を残し、目を閉じた。
驚きを持たされたままのボクは、しばらくの間アーサーの寝顔を見つめ、アーサーの言葉の真意を考える。
しかし、『好き』の語句に込められた真意を導き出そうとしたが結局は分からず、最終的にはもっとも確率が高いであろう『好き』の意味、
(好きって言っても、友達として好きってことだよね)
ということで帰結し、ボクも眠ることにした。
「おやすみ」
目を閉じ、ボクがそう言葉を掛けると、ボクの体の上に被さった翼が、かすかに動いた。
そしてボクは、アーサーの温もりを感じながら、眠りに落ちた。