輝度の高い照明と、音声マイク、そしてカメラが向けられたその先で、

「あっ! あぁ!! イっ…イクぅぅぅ!!!」

狐獣人が叫び、体を震わせて果てた。

その下では、

「んっ! あっ!!!」

ほとんど同時に狸獣人が狐獣人の中で果てた。

ほぼ同時に達した2人は、そのままベッドの上にぐったりとして横たわる。

そこへ、

「はい、カット!」

少々離れた場所から、男の声が掛かった。

同時にぐったりとしていた狐と狸が起き上がる。

そして……

 

 

「いや、相変わらずよかったよ」

目の前に立つ狐と狸に向って、猫獣人の中年男性が笑顔を浮かべて満足気に褒めた。

猫は監督、そして狐と狸は男優。

今さっきまで行われていたのは、主にゲイ向けのAVの撮影だった。

監督である猫に褒められた狐と狸は、

『ありがとうございます』

と、同時に答えた。

その息の合った様子を見て、猫は再び笑顔を浮かべ、

「息が合ってるねぇ。

 2人はホントに付き合ってるんじゃないの?」

と、からかうように言った。

狐と狸は苦笑いを浮かべ、

『とんでもない!』

と、やはり同時に答え、それがさらに猫の顔をほころばせた。

それを見た狐と狸は、やや決まりが悪そうな表情を浮かべ、猫に挨拶をしたあと、別々にスタジオとなった部屋を出て行った。

そして……

 

 

蛍光灯の薄明かりが灯るマンションの廊下を歩き、ある一室のドアの前で狐が足を止めた。

狐はドアに鍵を差すことなく、ドアノブをひねる。

ドアはやや軋んだ音を立てて開いた。

小さな玄関には一対の靴が揃えて置かれており、狐はその横に靴を脱ぐと、室内へと入っていく。

短い廊下を行き、その先のドアを開けると、光量が若干抑えられた電球色の照明に照らし出されたリビングが狐の目に入ってきた。

割と小奇麗に並べられた家具。

一通りリビングとしての機能を果たすに足る家具群の中でもひと際目を引くのは、大人2人がゆったりと座れるくらいの大きさの白いラブソファだった。

さらに目を引くのは、その白いラブソファに座る人物。

「おかえり」

それは、さきほどカメラの前で狐と行為を繰り広げていた狸その人だった。

柔和な笑みを浮かべて、やや遅れて帰宅した狐を迎え入れる狸。

その狸に向って、

「痛いんだよ、バカダヌキ!!」

狐が叫んで蹴りを入れた。

蹴りは狸の肩を直撃し、その勢いで狸がソファから転げ落ちる。

転げ落ちた狸は、

「ご、ごめん! だって監督がもっと激しくって言うから……」

「それにしたって限度があるだろ、バカ!!」

叫びと共に狐が狸に蹴りを連続で入れる。

「あっ! いっ! 痛いっ! ごっ! ごめんてっ! あっ!」

ひたすら謝り倒して丸まる狸を、狐は足で仰向けに転がし、その股間に足を置いた。

そして、置いた足を押し付け、小刻みに震わせ、狸の股間を刺激し始める。

「あああぁぁぁぁぁ!」

股間から伝わる振動に狸が声を上げる。

それを見下ろしながら、狐は呟いた。

「ったく。 こんなことされて喜ぶドМのクセに、どうして仕事の時はタチなのかな〜……」

半ば呆れ気味に呟く狐に、狸が、

「そ、そっちの方が、え、絵になるからって、か、か、監督が」

と律義に答えるも、狐は、

「そんなことは分かってるんだよ、このバカダヌキ!!

 まったくあのバ監督は!!」

と語気を荒げ、さらに激しく狸の股間を刺激し始めた。

「やぁぁああぁぁぁ!!!」 

激しくなった責めに、狸が大声で喘ぐ。

と、そこで狐が足を止めた。

「……風呂は?」

「ま、まだ……帰ってきてから一緒に入ろうと思って……」

「ん」

狸の答えに、短く狐が答えると、狐は狸の股間から足をどけた。

「じゃ、先に入ってるから」

それだけ言い残し、狐はリビングから出ていった。

そして……

 

 

「ん……」

シャワーの音が満ちるバスルーム。

男2人で入るには少々窮屈なその場所で、狐と狸は体を絡ませながら口付けを交わしていた。

口を塞ぎ合い、どちらともなく小さく呻く。

しかし、その呻きは息のできない苦しみからくるものではなく、興奮からくるものであることは、2人の恍惚とした表情からも明らかだった。

シャワーの湯から発せられた湯気がバスルームをくまなく覆うほどになるまで、2人の口付けは続いた。

その長い口付けに区切りが付き、2人は絡め合った口を離す。

口内で絡め合った舌同士が離れると、わずかな間、その間に唾液の糸が引く。

2人は長い口付けで高め合った興奮を維持したまま、お互いの体をまさぐり合った。

頭を、肩を、腕を、背中を、胸を、腹を、腿を、尻を、そして股間を。

お互いがその手で触れ合うたびに、2人の興奮はさらに高まっていく。

2人の興奮具合を示すかのように、双方の股間のモノは屹立し、シャワーから出た湯とは質の違う液体でじっとりと濡れていた。

2人はお互いのモノを見つめ、そして見つめ合う。

どちらからともなく、自然と2人は口付けを交わすが、それは先の長い口付けとは違い、ただ口先を重ねるだけのごく短いものだった。

しかし、それは2人にとって、これから起こる行為の始まりの合図だった。

「行くよ?」

「ん」

狸の言葉に、狐がうなずいて答える。

すると、狸はその場に跪き、ちょうど目線の高さにきた狐のモノを手に取った。

ピクリと狐のモノが狸の手の中で跳ねる。

狸はゆっくりと狐のモノを前後に刺激し、先端から滴る液体を舌先で舐め取る。

まるで溶け掛けたアイスから滴る雫を舐め取るように、舌に液体を乗せ、下から舐め上げた。

その行為によって狐のモノの先端に溜まっていた雫は消えたが、逆にその刺激は、狐の内部からさらなる液体を溢れさせることになった。

溢れては舐め、舐めては溢れ、またそれを舐める。

そんなことを繰り返しているうちに、やがて狸は興奮に耐えきれなくなり、自らのモノに手を伸ばし、触れた。

しかし、

「ダメ」

狐がやや強めの口調でそれを制する。

狸は上目遣いに訴えかけるが、狐は見下ろしながら小さく首を横に振る。

そして、

「手、どけて」

と、狐は指示を出した。

言われるがまま、狸は手を離し、元の位置に戻す。

狸の手から解放された彼自身のモノが狐の前に再びあらわになると、狐は足先でそれをつついた。

「ぁっ……!」

狸の口から小さな嬌声が漏れる。

狐がモノをつつくたび、狸は恍惚とした表情でその刺激を喜んでいた。

その様子を見ながら、狐は狸の口元に自らのモノを付き付ける。

「止めないで、続けて」

そう言って、狸に続きを催促しながら、自らは狸のモノを足で刺激し続ける。

つつく刺激と舐める刺激。

狐と狸、どちらにとっても達するほどの刺激ではないが、それでも興奮は高まる。

2人の体温は上がり、吐き出す息も荒くなっていった。

互いに頃合いと思ったのか、狐はつつくのをやめ、狸は舐めるのをやめた。

そして狸は上目遣いで狐を見て、懇願するような声で言う。

「ね……そろそろ……」

「ん……」

答えると、狐は狸を立たせ、自らの粘液をまとわりつかせたその口に、自らの口を重ねた。

そして……

 

 

「んっ! あっ! いいぃっ!!」

狭い浴室内に狸の嬌声がこだまする。

浴槽の縁に片手を乗せ、もう片手を浴室の壁に添えて自らの体を支えながら、狸は後ろからくる衝撃を感じていた。

狸の後ろでは、狐が狸の尻尾を持ち上げながら、激しく腰を打ち付けている。

数時間前の光景とは真逆の光景が、そこに展開していた。

狐は前屈みになった狸の背に覆いかぶさると、腰の動きはそのままに、器用に狸の顔を自分の方に向かせる。

顔だけ向き合った2人は、少々しづらそうに口を重ね、ねっとりと舌を絡ませ、唾液を交換し合う。

口付けによって、2人の興奮は最高潮に達した。

狐は鼻息荒くリズミカルに腰を振り、肉と肉が激しくぶつかり合う音が浴室に甲高く響く。

狸はそのリズムに合わせて声を上げ、悲鳴のようにも聞こえるその声は浴室にけたたましく反響した。

ともすれば、隣の部屋に聞こえてしまいかねないその声を、狐も狸も止めようとはしない。

2人は完全に2人の世界に入り込み、それ以外のことなどどうでもいいとでもいうかのように行為に夢中になっていた。

床を流れるシャワーからの湯に、狸のモノから、そして狸と狐の結合部から滴った粘液が垂れる。

透明なその粘液は、シャワーの湯と混じり、排水溝へと吸い込まれていった。

そうしてシャワーとも粘液ともつかぬ透明な液体の中に、やがて白濁した液体が交じる。

白濁した液体は湯の中に落ちると固まり、排水溝へと流れていく。

「ッ! ……ッ!!」

それは、目を見開き、口を大きく開け、涎を垂らしながら、声を上げることもできないほどの快感に襲われた狸の溢れさせた精液だった。

激しく突く狐のモノが狸の前立腺を刺激した結果、通常の刺激よりもはるかに強烈な刺激が狸を襲い、狸のモノから押し出すように精液を垂れ流させた。

「かっ…は……!!」

狂ってしまうかのような凄まじい快感は、狸の呼吸すらままならなくさせる。

そんなことに気付かない狐は、さらに腰を激しく打ち振るう。

それが起爆剤となり、ついに狸が狂った。

「あああああああああああああああ!!!」

絶叫、という形容がふさわしい大音声を上げ、狸が泣き叫ぶ。

平時ならば、狐でなくとも驚きのあまり委縮してしまうほどの大音声だ。

しかし、興奮が最高潮に達している狐には、その狸の絶叫でさえ、興奮をさらに高める興奮剤の役目しかなさない。

泣き叫ぶ狸をさらに鳴かせようと、本能に従って狐を腰を振る。

「ああああああっ! あああ!! あああっああっあ!!!」

息も絶え絶えに叫ぶ狸。

声もなく、一心不乱に腰を振るう狐。

全身が性感帯になったような、そんな錯覚すら覚えた狂った2匹の獣が、狭い浴室内で本能のままに欲望をぶつけ合う。

やがて、終着が見えないような、そんなこの行為にもクライマックスが訪れた。

『うぉあああああああぁぁぁぁぁ!!!』

絶叫を重ね、狸が、そして狐が果てた。

途端、狸も狐も、繋がったままその場に崩れ落ちる。

そして……

 

 

「……今日の、凄かったね」

シャワーを浴び、さっぱりした狸が、ソファの上でくつろいだ態勢で言う。

その隣の狐は、狸によりかかったまま何も答えない。

「声、隣に聞こえちゃったかな?」

「……まず間違いなく」

狐が答えた。

やや不機嫌そうだ。

「……大声出したこと、怒ってる?」

狸が狐を覗き込みながら言うと、狐は勢いよく体を起こし、

「当たりま――」

怒鳴ろうとしたが、その瞬間、

「ンンッ!?」

狸の口が、それを封じた。

驚きのあまり目を丸くした狐を、きつく抱き締める狸。

しばらくして、口を離す。

「ごめんね?」

笑顔で狸が謝る。

突然の狸の行動に、すっかり怒りを霧散させてしまった狐は、深いため息をつき、言った。

「……今度からはもうちょっと静かにしなよ?」

「うん!」

そして2人は再び口付けを交わした。