「うお〜、いいねぇ!」
ベッドの上で寝転びながら、カササギ鳥人のエルがひとりごちた。
それを横目で一瞥し、若干イラつきながら、俺は机の上に広げたノートに視線を戻した。
明日は高校のテストだ。
『一緒にテスト勉強しようぜ』というエルの誘いに乗り、彼を自宅に招いたわけだが、来てからというもの、彼は一向に勉強をする素振りすら見せず、それどころかどこからか調達してきたアダルトな本を読みふけっていた。
「カニン、見てみなよコレ、すっごいよ!」
こちらのイラつきなど知らぬ気に、エルはアダルトな本を広げて俺に見せ付けてきた。
見れば、本の見開き一杯に、俺と同じ兎獣人の女性が全裸で股を広げている写真が載っていた。
「なっ?」
広げた本の後ろから頭を出し、ニヤニヤと笑って同意を求めるエル。
そんなエルに向かって、俺は消しゴムを手に取ると、軽く投げ付けてやった。
「イテッ!」
消しゴムは見事にエルの眉間に命中。
エルは本を閉じてベッドの上に置き、消しゴムが命中した個所をさする。
「ったいなぁ、何だよ急に」
「何だよじゃないだろ何だよじゃ。
お前、テスト勉強するって言ってウチに来たんだろ?
全然してないじゃないか」
少し怒り気味の俺の言葉に、エルは悪びれた様子を示すことも無く、落ちた消しゴムを拾ってこちらに投げてよこす。
「してるじゃん、ちゃんと」
「どこがだよ?」
「ホイ」
言って、エルが広げたのはアダルトな本。
「保健体育の勉強」
「…………」
俺の反応を見て笑い出すエル。
俺は付き合ってられないとばかりにため息をつき、机に向き直った。
それからしばらく、俺が教科書とノートを前に勉強を続けている間中ずっと、エルは横で感嘆の吐息を漏らしながらアダルトな本を読んでいた。
最初は耳触りだったものの、勉強に集中するにつれ、それも気にならなくなっていった。
はずだったのだが、集音声に優れた俺の兎の耳が、エルの呟きの一言をとらえてしまった。
「あ〜、勃ってきちゃった」
無意識のうちに、エルに近い方の片耳がぐるりとエルの方に向く。
「オナニーしたいなぁ」
ノートの上を走るシャーペンが止まる。
「昨日してないから、溜まってるのかなぁ」
チラリと探るようにエルを見る。
エルは片手でアダルトな本を持ちながら、もう片手で股間の辺りを弄っていた。
(こんな所で……)
思いながら俺が見ていると、ふとエルが顔を上げた。
目と目が合い、数秒。
エルがニンマリと笑い、
「いや、溜まっちゃってるみたいでさ。
ここでヤってもいい?」
と、とんでもないことを言い出した。
「はぁ!?」
耳を疑うような発言に、俺は声を大にして聞き返した。
エルはニヤ付いたまま、さらに股間を弄りながら答え返す。
「ここでオナニーしてもいいかって言ってんの」
「おまっ……ダメに決まってるだろ!?」
慌ててとどめるが、エルは首を傾げる。
「何で?」
「何でって……当たり前だろ!?
人んち来てオナニーって、お前バカか!?」
「バカでいいからしていい?」
「だから……!」
頭を抑えて俺が罵倒と制止の言葉を選んでいると、エルはアダルトな本をベッドの上に置き、
「よし、やる!」
言って、ベッドの上に立ち上がってズボンのベルトに手を掛けた。
「おい!!」
俺は慌てて立ち上がり、それを制そうと手を伸ばす。
しかし、
「おっと!」
エルは身軽にベッドの上で回避し、俺の手は宙を切った。
「つかまらな〜い!」
からかうように言って翼をはばたかせ、俺に風を当てるエル。
その両手はなおもズボンのベルトを外そうとしていた。
「やめろって!」
再度制そうと手を伸ばすが、これまたエルは身軽にかわす。
それが3度、4度と続き、気が付けば俺の息が上がる程の運動量を必要とするほどに俺とエルの追いかけっこは続いた。
狭いとは言わないが、それほど広いとも言えない部屋の中でよくここまでと思えるほどに縦横無尽に逃げ回るエルに、なかば感心しつつ、俺はついにエルを捕まえることを諦めた。
「もういいよ……好きにしろよ」
大きくため息をついて、俺は椅子に座り、机に向き直った。
「やた!」
主張が通ったエルが声を上げて喜ぶ。
そんなエルに、
「汚すなよ!?」
と、俺は警告を発する。
「アイアイサー!」
エルは、敬礼の姿勢をとっておどけて見せた。
そして、ベッドの上に飛び乗ると、嬉しそうにズボンのベルトを外し始める。
「おい、もっと向こうでやれよ」
机と向き合っていても視界に入ってくる場所でベルトを外し始めたエルに、俺は強い調子で言った。
「お、ゴメンゴメン」
さして悪いと思っている様子もなく謝りながら、エルが視界から外れていく。
準備を整えながらのエルの鼻歌を後ろに、俺は勉強を再開した。
「ん……」
俺が勉強を再開し、エルが『強引』にオナニーを始めてから数分。
後ろからエルのこらえるような息遣いが、断続的に聞こえてきていた。
そのせいで、俺はどうにも勉強に集中できない。
途中、何度か『うるさい』と言ったのだが、エルはその直後は返事と共に黙るものの、10秒も経てばまた吐息を漏らす始末で、非常に耳に悪い。
ただ、耳触りか、と聞かれれば、必ずしもそうではなく、どちらかといえば気になると言った方が心情的には正しい。
エルの漏らす吐息は妙に艶めかしかった。
それが俺の頭や耳ではなく、別の部分に刺激を与えており、そのせいで勉強に身が入らない。
遮蔽物も何もない同じ室内のすぐ後ろ、振り向けばすべてが見えてしまうその場所で、友人が自慰行為にふけっているかと思うと、そういう趣味はないのだが、どうしても気になってしまう。
実際、『うるさい』と注意するたびに、それを口実に振り向いてやろうかという衝動にかられたりもした。
これも思春期の性なのだろうか。
座り心地をよくする為に、俺は椅子の上でモゾモゾと動き、座りを正す。
「んっ……はぁ……!」
タイミングを同じくして、エルが一層大きな吐息を漏らした。
俺は奥歯を噛み締め、机に向かう。
頭をガシガシと掻きながら目を走らせる教科書の内容は、すでにまったく頭に入ってこなくなっていた。
数秒後。
「あっ、出るっ!」
後ろのエルが宣言した。
その言葉を聞いて、俺はもはや勉強どころではなくなってしまった。
そして、ついに衝動を抑え切れず、俺はゆっくりと首を後ろに向け、肩越しにエルを盗み見た。
「!?」
肩越しに見えた光景に、俺は驚いて体をビクリと振るわせた。
わずか1mも離れていない場所に、下半身を露出どころか、全裸になったエルが立っていたのだ。
羽毛に覆われた股間に、しかし慰めていたはずのペニスは確認できない。
「お前……オナニーしてたんじゃ……」
「へへ〜、カニン、結構ムッツリだよね。
いつ振り向くかな〜って思って、一生懸命演技してたんだけどさ、全然振り向かないだもん」
「!」
当たらずとも遠からずの指摘を受け、狼狽する俺。
慌てている俺を見下ろしていたエルが、顔を近付けて俺の目を覗き込んでくる。
「見たかった? 俺の」
「べ、別にそういうんじゃ……」
「じゃ、これは?」
目をそらした答えた俺の股間に手を伸ばし、触れるエル。
「あふ!」
エルの手が股間に触れた途端、俺は奇妙な声を漏らして腰を引いた。
「勃ってるじゃん、カニン」
「これは……」
答え澱む俺に向かって、エルは淫猥な笑みを浮かべた。
「見たいなら見たいって言えばいいのにさ」
言うと、エルは手を自らの股間に導き、羽毛の間をまさぐり始めた。
すぐに羽毛の間からペニスが露出する。
露出した、熟れたリンゴのように赤いペニスが、ダラリと股の間で揺れた。
俺の目は、無意識のうちにエルのペニスに釘付けになっていた。
「ホント、ムッツリだな、カニンは。
結構、毎日欠かさずオナニーしてたりして」
「う……」
図星を突かれ、俺は言葉に詰まった。
「図星?」
エルはニヤニヤと笑ったまま、俺を観察するように覗き見てくる。
反対に、俺はエルを正視できずに目をそらした。
エルが小さく笑うのが聞こえる。
と、エルが耳元で囁いた。
「カニンのも見せてよ」
「…………はぁ!?」
一呼吸置いて言われた意味を理解し、俺は素っ頓狂な声を上げた。
「俺の見たんだからさ、いいじゃん?」
「いいじゃんて、お前が勝手に見せたんだろ!?」
「でも見たかったんでしょ?」
「べ、別にそんなこと一言も言ってないだろ!?」
反論するも、内心ではその通りだと思う俺。
エルは、そんな俺の心情を見透かすように目を細めて俺の顔を覗き込む。
そうして黙って俺の顔を見つめることしばらく。
重い沈黙を破ったのは俺の方だった。
「…………分かった、見せるよ」
俺が答えた瞬間、エルが嘴の端をニンマリと引き上げた。
「見せるだけだからな」
ベッドの上に座った俺は、俺の股間の前でしゃがみ込んだエルに向かって言った。
エルは俺の股間を凝視したまま、俺の方を見もせずにうなずいて応えた。
「……そんなに見たいのかよ」
エルの様子に半ば呆れながら、俺はベルトに手を掛ける。
これからする露出に対する羞恥心なのか、心臓が早鐘を打ち、その音がまるで外から聞こえるかのように鼓動が耳を刺激する。
鼓動を落ち着かせようと、大きく深呼吸したが、まったくと言っていいほど効果がなかった。
人前で露出することなど、中学の修学旅行以来だ。
それにしたって、タオルで隠していたから、他人に見られることそのものは初めてだと思う。
まして、それが勃起状態など。
「早くしてよ」
エルが非難の色を帯びた目で俺の見上げ、うながす。
俺はもう1つ深呼吸をすると、覚悟を決め、ベルトを外した。
カチャカチャと音を鳴らしてベルトが外れると、次いでズボンのボタンを外してファスナーを下ろし、最後の砦とも言えるボクサーブリーフに手を掛ける。
が、やはりためらう。
勃起したペニスがすでにボクサーブリーフを押し上げており、くっきりとまではいかずとも、それとなくペニスの形状が分かるのだが、布一枚隔てるのとそうでないのとでは、羞恥心は段違いだ。
『本当に見るのか』という思いを込めて、助けを求めるようにエルを見れば、エルは手を止めた俺のことを、相変わらず非難するような目で見つめていた。
もう後戻りはできないと意を決し、俺はボクサーブリーフの前を下げた。
途端、ボクサーブリーフのゴム紐に引っ掛かったペニスが勢いよく飛び出し、服の上から腹をペチンと打った。
「おお〜」
笑みを浮かべて歓声を上げるエル。
当然、その視線は俺のペニスに釘付けだ。
たまらない羞恥心に、俺の顔の毛皮の下は、きっと真っ赤になっているだろう。
視線の置き先に困り、何とはなしにエルに釣られるように自分のペニスに視線を置く。
あろうことか、勃起し、半分まで顔を出した亀頭の先端は、うっすらと先走りで滲んでいた。
「先走り、出てる」
指摘され、さらに顔面が充血するのが分かった。
「も、もういいだろ?」
見せていた時間はほんの数秒だっただろうが、羞恥心に負けた俺はそそくさとペニスをしまおうとした。
しかし、エルはそれを両手で押しとどめた。
「な、何だよ……」
抗議の声を上げる俺。
「もう少し、いいでしょ?」
俺の両手を抑えて上目遣いに俺の覗き見るエル。
同性だというのはもちろん分かっているのだが、その仕種や表情にはドキリとさせられるものがあった。
「……勝手にしろよ」
俺が了承の意を告げると、エルは俺の両手から手を離し、1つ注文を付けてきた。
「ね、ズボンとパンツ、膝まで下ろして。
下の方が見づらいから」
「…………」
言われるまま、俺は無言で言われた通りにズボンとボクサーブリーフを膝まで下ろす。
これで上は亀頭から、下は玉袋の底面までエルに丸見えだ。
「ありがと」
言って、エルはより顔を近付けて俺のペニスを観察し始めた。
「皮被ってるね。
剥けるの?」
「手でやれば」
「じゃあ剥くね」
「はっ!?」
意表を突くようなエルの言葉に、俺は体を硬直させた。
そのわずか1、2秒の間にエルは素早く手を伸ばし、俺のペニスをしっかりと掴んでしまっていた。
「ちょっ!?」
声を上げ、弾かれたように腰を引く俺。
ペニスからエルの手が剥がされる。
「見せるだけだって言っただろ!?」
怒って抗議する俺に、エルは動じる様子も悪びれる様子もなく、
「だって、剥かないと全部見えないじゃん」
と、言い放ち、俺が腰を引いた分だけ身を乗り出した。
エルは身を乗り出したついでに、両手で俺の両足をしっかりと押さえ、動けないように、そしてズボンを上げられないように固定する。
引きそうにないエルの様子に、俺は観念してため息を1つ。
「……じゃあ、自分で剥くから。
それでいいだろ?」
「うん」
俺の提案に、エルは素直にうなずき、再び俺のペニスを注視し始めた。
「あ、先走り溢れそう」
からかうようなエルの呟きに、俺は顔を上気させながら自らのペニスに手を添える。
そして、エルの見守る前で、亀頭の半ばまで被った包皮を後退させた。
「お〜、真っ赤っか」
露わになった亀頭を見て、エルが感想を述べる。
その言葉通り、包皮を剥き上げられて現れた亀頭は、赤みを帯びた肉の色をしていた。
獣人の体で数少ない皮膚の露出したその部分は、先走りに濡れていることもあり、それがいっそう赤味を際立たせていた。
「……もういい?」
消え入りそうになるほどの羞恥心に、早くそれから逃れようとエルに尋ねる。
しかし、エルは無情にも、
「もう少し」
と、それを断った。
そうして数秒程経った頃、俺の羞恥心はついに限界を超え、もはや開き直りとでも言うべき心理状態へと変わっていった。
正確には、羞恥心が麻痺してしまったのかもしれない。
が、そんな麻痺した心理状態でさえ、さらに驚くような行動をエルが取った。
エルは、俺のペニスに顔を近付けると、まるきり鳥がエサをついばむように、俺のペニスを咥え込んでしまったのだ。
「っ!?」
予想だにしなかったエルの行動に、心臓が飛び出るかのような衝撃が胸に走った。
と同時に、今まで味わったこともないような感触、快感が、ペニスを覆った。
「なっ、なっ!?」
あまりにも驚き過ぎて、まともな思考もまともな言葉も出てこない。
混乱している頭を落ち着かせようにも、目の前で行われている光景がそれを阻んだ。
エルは口に俺のペニスを含んだまま、頭を前後に動かしている。
まるでいつか見たアダルトな映像で、女優が男優にしていることを模倣しているかのような動きだ。
上目遣いで俺を見るエルのその姿は、紛れも無くアダルトな映像そのままだった。
「お…い……!」
俺は抗議の声を上げるも、言葉とは真逆に、体はエルの行動を受け入れていた。
それどころか、もっともっとと求めるような有様だ。
エルの頭に伸ばした両手は、突き放す為ではなく、撫で付ける為に。
筋肉を強張らせて伸ばした両足は、エルを突き飛ばす為ではなく、快楽を享受する為に。
そんな俺の変化に気付いたのか、エルはますます動きを過激にする。
エルの口内で嬲られるペニスからの快感は、脳天を突き抜けんばかりの強烈さで俺に理性を失わせ、肉の欲求を呼び起こさせた。
つい先程までの羞恥心は嘘のように消えていた。
「ぁ……は…ん……」
自分でも思ってしまうほどの艶のある喘ぎに、上目遣いのエルがニヤリと笑った気がした。
それからほどなく、腰が痺れるような感覚と共に、快楽がペニスの内奥に集中する。
絶頂がすぐそこまで来ている。
そう感じ、俺はエルに告げる。
「はっ…もぅ……イく……ぅ!」
絶え絶え吐き出された言葉はエルに伝わり、絶頂すんでのところでエルが俺のペニスから口を離した。
刹那、解放された俺のペニスが暴れるように上下して、精液を撒き散らした。
撒き散らされた精液のほとんどは、目の前のエルに降り掛かる。
結果、頭から胸元まで黒い羽毛で覆われたエルの体の所々に、精液による白い斑点ができた。
これまでに味わったことのない快感を伴った射精が終わると、俺は脱力しきってベッドの上に仰向けに倒れ込んでしまった。
「すっごい出た……」
呆然としたような声で呟くエルの声が聞こえる。
荒く上下する胸越しにエルを見れば、エルは自分に付いた俺の精液を指ですくい取り、口に運んでいるところだった。
「……変な味ぃ」
顔をしかめて言うエル。
そして、すぐさま表情を笑みに替え、仰向けの俺に跨るような姿勢で尋ねてきた。
「すっごい出たけど、気持ちよかった?」
「…………」
分かりきっているだろうことを悪戯っぽく尋ねてくるエルから目をそらし、俺はうなずいて応える。
「そう。 んじゃあ……」
そう言って、エルがさらに俺の上で動く。
柔らかいベッドの上でのそのそと動き、その動きが完了すると、俺の目の前にはエルのはち切れんばかりに勃起したペニスがあった。
「お……」
何事か言葉を発し、目を丸くしてエルのペニスを見つめ、その遥か上にあるエルの顔を見る俺。
エルは淫猥な表情で、自らのペニスをさらに俺に突き付けた。
(咥えろってことか……)
エルの行動の意図を察し、心の中で呟いた俺は、すべきかせざるべきか少し迷う。
しかし、望んだわけではないにしろ、エルに咥えられたことは事実であり、一方でそれを受け入れ、それどころか催促するような行動を俺が取ったこともまた事実だ。
ここで断るのはアンフェアだと感じ、また、断ったところでエルに強要されるだけだろうと思い、俺はエルのペニスを受け入れた。
口に含んだエルのペニスは熱く、やや生臭く感じた。
部位が部位なだけに、もっときついアンモニア臭でもするのかと思ったがそうでもなく、どちらかといえばそれはわずかで、それも自らの唾液と呼気に混ざっていつしか消えていった。
「うわぁ……すっごい…な……コレ……」
上でエルが快感を伝えてくるが、俺はエルのペニスを味わうようにねぶる。
初めて味わうペニスは無味で、例えるなら味のない温かいウィンナーのようだ。
舌先で亀頭の先端をつつけば、溢れた先走りが少々塩味を帯びているのが分かる。
決して美味いものではないが、不味い、というよりも不快なものでもない。
もっとも、今のこの状況のせいでまともな判断を下せないから、そう感じているのかもしれないが。
ともあれ、不快でないエルのペニスを、俺は自身がされたように愛撫してやった。
頭を前後に振ったり、舌でそこかしこをつついたり舐め回したり、亀頭の先端にわざと牙の先を当ててみたり、喉の奥までとはいかないが、えづきかねないその一歩手前まで飲み込んでみたり。
様々な愛撫の中でも、とりわけ、頬の内側に亀頭を擦り付けられるのがエルは気に入ったようだ。
それは見上げたエルの表情から分かった。
顔の筋肉が弛緩し、涎を垂らしかねないほど、快楽に溺れたような表情を見せる。
状況が状況でなければギャグになるだろうというくらいの壊れた表情だ。
連続で頬の内側で亀頭を擦ってやると、
「ああ…ああぁぁっ……!」
と、言葉にならない嬌声を漏らした。
意地悪くそれをやめると、切なそうに俺を見つめ、催促するように腰を振るエル。
やはり状況のせいか、その表情や行動が可愛く感じてしまう。
そうやってしばらくの間、エルを責めてやると、急にエルが荒々しい動作で俺の頭を掴んだ。
「――!?」
ガッチリと両手で頭を掴まれ、さらに両膝でも頭を押さえ込まれている俺は頭を微動だにさせることができない。
エルの様子の豹変に、俺はピンと来るものがあった。
(まさか……)
心で呟く間もあらばこそ。
「――っ!! んぁっ、あっ!!」
声を殺しながらエルが叫んだ。
途端、口内に流れ込んでくる熱い液体。
それは紛れもなく精液だった。
俺の予感したとおり、エルは絶頂を迎えたようだ。
わずかに早く予感できたのが幸いしたのか、俺は流し込まれるエルの精液にパニックを起こすこともなかった。
しかし、ネバネバとしたその感触は、お世辞にも気味の良いものではなかった。
吐き出してしまいたかったが、両膝で顎の付け根を圧迫されてそれもできず、かといってそのまま口内に溜めておくこともできず、俺は進退極まって、自然とそれを飲み下してしまっていた。
喉の奥にまとわりつくようなその感触に負けじと嚥下を繰り返し、やがてエルが射精を終えて余韻に浸る頃には、口の中にエルの精液は残っていなかった。
そうしたところで、ようやくエルが俺の頭を解放してくれた。
エルも先程の俺同様、脱力しきったようにベッドの上に体を投げ出す。
「ゲホッ、ゲホッ!」
喉の奥に精液がこびりついているような気がして、俺が咳き込む。
ひとしきり咳を終えて、まだ若干喉の奥に違和感を感じる程度にまで回復すると、俺は未だに荒く息をしているエルを睨んで抗議した。
「お前、最悪だな。
人の口の中で出すなよ」
対してエルは、
「ごめん……でもあんまり気持ちよくてさ、我慢できなかったんだ」
と、申し訳なさそうに言い訳をした。
「ったく……」
「ホントごめん。 でも、気持ちよかった〜……」
不機嫌な俺とは正反対に、エルは晴れ晴れとした表情で呟いた。
そんなエルをため息をついて見る。
所々に付着した精液が、少し乾き始めていた。
俺はベッドのそばに置いてあるティッシュに手を伸ばし、何枚か手に取ってそれを拭き取ってやる。
「おっ? ありがと」
エルは俺の行動を見て礼を言うと、自分もティッシュを数枚取り、体を拭き始めた。
しばらくしてエルの体がキレイになり、さあズボンを履こうとした時、エルがそれを押しとどめた。
「? 何?」
俺が尋ねると、エルは淫猥な笑みを浮かべ、
「あのさ、もう1回、しない?」
と、誘ってきた。
「お前な……」
今したばかりなのに、と呆れ、俺はため息をつく。
が、俺は少し考え、その脳裏にエルに咥えられた時の感覚がよみがえると、
「…………まぁでも、あと1回くらいなら」
と、自分の肉欲に正直に答えた。
そんな俺を見て、
「へへへ……」
含みのある笑いをするエル。
「……何だよ?」
ムッとして俺が尋ねると、エルは、
「や〜、やっぱりカニンはムッツリだなと思ってさ」
と、ニヤニヤと小馬鹿にしたように笑った。
「――っ! うるさい!」
俺は恥ずかしくなってエルを怒鳴り付けた。
しかし、エルの言葉を裏付けるように、俺のペニスは言葉とは裏腹に再び勃起を始めていた。