「この契約書に名前を書けばいいんだね?」
とある酒場の片隅で、オレはテーブルの上に置かれた契約書に目を通し、相席している竜人の男に向かって尋ねた。
男は、
「ああ」
と、短く答える
「フラルス……と。
はい、これでいいんでしょ?」
オレは契約書にペンを走らせ自分の名前をしたためると、それを男に手渡した。
男は黙ったまま契約書を見つめる。
そして再び短く、
「ああ」
と、答えると、契約書をクルクルと丸め、懐にしまい込んだ。
「これで契約成立だね。
じゃあ、これから首都に着くまでの間、しっかりと護衛を頼むよ」
そう言うと、オレは男に向かって笑いかける。
しかしそれに対し、男は小さく頷き、
「分かった」
と、無愛想に答えただけだった。
次の日の朝早く、オレ達は宿を発ち、首都へと伸びる長い街道を歩き始めた。
現在地から首都までの道のりは、大人の足で2週間程。
その間、いくつかの町や村が点在しているものの、決して楽な道のりではない。
なぜなら昔からこの街道は、野盗やマテリアが頻繁に出現し、治安の悪いということで有名だからだ。
オレが護衛を雇ったわけもそこにあった。
初めは護衛など雇う必要はないと思っていたが、町で街道の治安の悪さを耳にするたびに、しだいに護衛の必要性を感じ、オレは町にあった斡旋所に行って護衛を雇うことにした。
そこで紹介されたのが、今、隣を歩いている男だった。
名前はバンネ。
黒い肌を持つ、陸竜科の竜人だ。
バンネは鋭い眼光を周囲に走らせ、常に辺りを警戒をしているようで、ただ黙々とオレの隣を歩いている。
その様子に、オレは頼もしさと共にわずかながら恐怖も抱いていた。
オレが雇い主だとはいえ、相手は傭兵のようなもの。
紙切れ1枚の契約など反故にして、襲ってこないともかぎらない。
斡旋所の紹介なのだから、その可能性はほとんどないとは思うが。
ともあれ、首都への旅の初日は、野盗に襲われることもマテリアが出現することもなく過ぎていった。
その日の夜、街道を外れた森の中で、オレ達は野宿をすることにした。
小さな焚き火を起こし、暖を取りながら、オレとバンネは思い思いに食事を取る。
パチパチと爆ぜる焚き火を挟み、会話をすることもなく、オレ達はくつろいでいた。
と、突然、干し肉を食んでいたバンネがその手を止め、かたわらに置いてあったロングソードを手に取り、立ち上がった。
その行動に、オレは思わず体を竦ませる。
「な、何?」
身を引きながらバンネに尋ねる。
するとバンネは周囲を見回してオレに背を向け、
「すぐ戻る。 戻るまでここを動くな」
と、言って、ロングソードを携えたまま、森の暗闇に消えていった。
1人取り残されたオレは、途端に心細くなり、辺りを見回す。
とはいえ、焚き火に照らし出されるのは、周囲の景色のごく一部。
揺れる炎は、地面に生えた草、木々の梢とその枝葉、そして豹獣人であるオレ自身の斑点模様の毛皮しか照らし出さない。
今度は耳をそばだて、周囲の音を漏らさず拾おうと、耳をあらゆる方向に動かした。
焚き火の爆ぜる音以外で聞こえてくるのは、虫の鳴く声と、風によって擦れ合う葉の音のみ。
何か怪しい音などは聞こえてくる気配もない。
とりあえず危険がないだろうと判断したオレは、ホッと胸を撫で下ろす。
そして、時間にして3分程だろうか。
やがて前方の森の暗がりから1人の人影が現れた。
「!?」
突然の人影の出現に驚き、オレは思わず身構える。
しかし、その人影が誰か分かると、オレは大きく溜め息をついて、肩の力を抜いた。
現れた人影はバンネだった。
バンネはオレの方を見て、オレがいることを確認すると、焚き火の近くに腰を下ろす。
その様子はここを離れた時とまるで変わっていない。
オレはバンネがどこに行っていたのかが気になり、再び干し肉を食み始めたバンネに向かって尋ねる。
「ねぇ、どこ行ってたの?」
「ああ、この奥で気配がしたんでな。
気になって探ってみたら野盗がいた」
バンネは当たり前のことのように、さらりと言い放った。
「え? 野盗がいたの!?」
「ああ。 もう始末してきたから襲われる心配もないがな」
オレはその言葉に安心したが、ふと疑問が頭をよぎった。
「でも、戦ってた音なんて聞こえなかったけど……」
オレが疑問をぶつけると、バンネは少しの間、沈黙し、
「……クセなんだ、昔からの。
音を立てずに敵を始末したりするのは」
と、含みのある言い方をして、押し黙ってしまった。
オレはその物言いにちょっとした好奇心を抱き、失礼かもしれないとは思いつつも、干し肉を食べ終えたバンネに向かって尋ねた。
「どういうこと? 昔からのクセって」
「……昔の仕事のクセだ」
「昔の仕事? 何してたの?」
「……アサシン」
「え……?」
思わぬ答えに、オレは自分の耳を疑った。
「えっと……アサシンって暗殺者のことだよね?」
「ああ」
おそるおそる尋ねるオレに対し、バンネは落ち着き払った口調で答える。
オレは身をこわばらせ、バンネの目を見つめた。
バンネもオレを見つめ返す。
2人の間に流れる沈黙。
その沈黙を破ったのは、以外にもバンネの方だった。
「契約は絶対だ。
主であるお前を害するようなことはしない」
「ほ、ホントに……?」
「ああ。 昔、アサシンをしていた頃、契約は絶対だと教えられた。
契約を破ることは信用を失うことになる。
そうなれば依頼も減る。
だから契約を破ることは固く禁じられていた。
それはアサシンをやめた今でも変わりない。
依頼主であるお前の命令ならば、なんでも聞こう」
「なんでもって……」
思いもよらなかった返答に、オレは戸惑った。
そして安心したと同時に、ちょっとしたイタズラ心もわき上がる。
「……じゃあ、例えば、今ここで素っ裸になれって言ったら?」
笑みを浮かべ、冗談で尋ねるオレに、バンネは何も答えず、無言無表情でその場に立ち上がった。
(やばっ! 怒らせた!?)
そう思ったオレは慌てて謝ろうとしたが、バンネが取った行動を見た途端、喉元まで来ていた謝罪の言葉が途中で飲み込まれた。
バンネはオレが言った冗談に応え、目の前で服を脱ぎ始めたのだ。
身に着けている物を1つ1つ脱いでいき、無造作に下生えの上に投げ捨てていく。
次第にあらわになってくる、バンネの肢体。
それは昔、アサシンとして生きていた時についたものだろう、しなやかでありながら強靭さを感じさせる筋肉と、鱗のない滑らかな黒い皮膚をまとっていた。
体の内側に見える部分は、外側の黒い皮膚とは色が異なり、黒っぽい灰色を呈してる。
衣擦れの音も静かに、流れるような動作で服を脱いでいくバンネを食い入るように見つめるオレ。
やがてバンネの手が下着に伸びた時、オレはゴクリと生唾を飲み込んだ。
音も立てずに、バンネは下着を脱ぎ捨てる。
オレが冗談で命じたとおり、バンネは一糸まとわぬ姿でオレの前に立っていた。
焚き火の光に、黒と暗灰色の体色のコントラストが映える。
不要な筋肉や贅肉を完全に取り払ったような体つきは、それだけで美しかった。
オレは口を半開きにし、思わずその姿に見とれていた。
そして、オレの視線は徐々に体の一点に向かっていく。
両足の付け根、太い尻尾の付け根に縦に入ったスリットに。
オレは自分の心拍数が速くなっているのを感じた。
同時に、自分の中の欲望に火がつき、股間のモノが熱くなってくる。
「……ホントに裸になるなんて思わなかった……
こんな変な命令出したのに、腹立たないの?」
興奮のあまり震える声で、バンネに尋ねる。
「別に……さっきも言ったが、依頼主の命令は絶対だ。
それに、こんな命令を出したのは、今までにも何人かいた」
感情のない声で説明するバンネ。
バンネが怒っていないと分かった安心感が、さらにオレの欲望をかき立てる。
「……触ってもいい?」
「…………」
オレの質問の意味が分かったのかどうかは分からないが、バンネはなんの感情の起伏も見せず、静かに首を縦に振った。
オレは再び生唾を飲み込むと、仁王立ちをしているバンネに近付いていく。
目前にバンネのスリットが近付く。
手を伸ばし、そのスリットに指を滑らせると、思いのほか柔らかな感触と温かさが指に伝わる。
見上げると、バンネはオレを見下ろしたまま、オレのすることを見つめていた。
オレはバンネを見上げたまま、スリットの中に指を挿し入れる。
熱いモノが指に触れる。
それでもバンネの顔は無表情のまま。
ソレを強引に撫で回す。
今度はさすがに顔をゆがませる。
それが嫌悪のためか快楽のためかは分からない。
オレはソレをつかむと、スリットから外に引きずり出した。
目を向けると、想像していたとおりの大きなモノが、その全体をあらわにしていた。
赤い肉の色をした熱いソレは、オレの手の中で力なく垂れ下がり、わずかな脈打ちもしない。
ソレから手を離し、オレは少し後ろにさがる。
不思議そうな顔をしてオレを見つめるバンネ。
「……オナニーしてみせて」
オレは少しさがった位置でバンネを見つめて言う。
変態的な命令だが、バンネは嫌な顔も抗議の声も上げずに、即座に言葉に反応して行動を起こした。
右手で垂れ下がったモノを握り、ゆっくりと扱く。
スリットの中は意外にも乾燥していたために、外に引き出されて間もないソレは音1つ立てない。
バンネが扱く様子を、オレはじっと見つめる。
ひたすら単純な手の動き。
徐々に体積を増していくソレに、オレは再びにじり寄っていく。
そして、完全に勃起したソレに口を近付け、舌で舐め上げた。
「ッ……」
一瞬、バンネの息が荒くなったのが分かった。
上下動を繰り返すバンネの手の邪魔にならないよう、モノの付け根の方をひたすら舐め続けるオレ。
片手はバンネの太腿をつかみ、空いたもう一方の手で尻尾の付け根辺りにあるもう1つの穴を刺激する。
「……っは……!」
息を吐き出すバンネ。
それと共に、膝がカクンと揺れる。
明らかに感じていることを察したオレは、さらに激しくバンネを責める。
緩急をつけてモノを舐め、ヒクついてきた穴を押し開き、指を1本入れる。
ビクンと揺れるバンネの体。
上を見れば、バンネは目を固く閉じ、口を開けて荒い息遣いをしていた。
扱かれているモノの先からは透明な液体が溢れ、モノを伝ってオレの口まで流れてくる。
潤滑油を得たモノはグチュグチュと湿った音を立て、焚き火の光を受けてヌラヌラと光っていた。
オレはモノを舐めるのをやめ、今度は穴の中に入れた指を動かす。
「くぅ……!」
バンネが小さく呻いた。
暖かな腸壁に包まれた指を縦横無尽に動かし、穴の入り口と中を十分にほぐす。
腸壁はバンネがモノを扱くたびに蠢き、オレの指を咥え込んでいった。
オレは、2本3本と、入れる指の数を増やしていく。
意外なことに、バンネの穴は難なく指を飲み込んでいった。
「後ろの穴、使ったことあるの?」
指で内部を刺激しながらオレはバンネに尋ねる。
するとバンネは、喘ぎ喘ぎ答えた。
「…ぅ…ある……はぁ……!
今までに…くぅ……こういうことを、求めた依頼人が…ぁ…何人かいた……ん…」
「じゃあ、オレのやつをココに入れても大丈夫ってこと?」
「……あぁ」
「なら、入れるね」
そう言うと、オレは穴から指を抜き取り、自分の服を脱いだ。
夜気にさらされ、冷たさを感じるオレのモノ。
なんの前戯もなしに挿入できるほど、ソレはグチャグチャに濡れていた。
立ったままモノを扱くバンネを下生えの上に寝かせ、オレは覆い被さるようにしてバンネに密着する。
オレは硬くなったモノを手で押さえつけると、先端をバンネの穴の入り口に押し付け、擦り合わせる。
「う……ん」
柔らかい刺激に思わず声を上げるオレ。
「じゃ、入れるよ……」
そう宣言すると、オレはバンネの中にモノを挿入した。
ネットリとした感触と温かさがオレのモノを包む。
オレは結合部と扱かれているバンネのモノを見ながら、ゆっくりとスライドを開始した。
「ぐぅぅぅ……!」
オレのモノの先端が、バンネの中をえぐるたびに、バンネが唸るように喘ぐ。
快感を感じているのか、それとも痛みを感じているのか、それはオレには分からなかったが、1度スライドを開始したオレは、もう止められなかった。
快楽に溺れ、無言のまま、狂ったように腰を打ちつける。
粘液が擦れるグチュッグチュッという音と、パンッパンッという肉同士が打ちつけ合う音だけが、辺りに木霊する。
オレの指示通り、懸命にモノを扱き続け、口の端から涎を垂れ流すバンネの姿は、昔アサシンをしていたとは思えないほど淫乱で浅ましかった。
オレはさらに激しく腰を動かし、浅ましい姿のバンネを責める。
そしてついに。
「ゥゥゥゥゥ!!」
ビビュッ!! ビュクゥ! ビュルル!!
くぐもった獣の唸り声と共に、バンネが射精した。
白濁液はバンネの頭上を遙かに越え、四散したものはオレとバンネの胸と腹を白く染める。
バンネが射精したことによって穴が収縮し、オレのモノを強烈な締めつける。
「あ! ダメ、もう……うあぁぁぅぅ!!」
ドクン! ドクン!
モノをバンネの最奥に突き刺し、そこでオレは射精した。
入りきれなかった白濁液が逆流し、結合部から溢れ出る。
オレは結合を解かぬまま、バンネの上に倒れ込み、バンネの体温を感じながら、充足感に浸っていた。
そのオレの背に、バンネがそっと手を回し、優しく抱いてくれた。
オレはバンネを見つめると、涎にまみれたその口に、静かに口付けをした。
それから首都に着くまでの間、オレは夜2人きりになるたびにバンネを求め、バンネもそれに応えてくれた。
そして、いつしかオレは、バンネに淡い恋心を抱くようになっていた。
本来なら2週間もあれば着く首都までの道程を、予定よりも3日多い17日間かけてゆっくり進んだのも、バンネと別れたくない、という想いからきたものだった。
しかし、それも今日で終わる。
オレ達は首都にある酒場で、2人での最後の食事を取っていた。
相変わらずバンネは無言のまま、静かに料理を口に運んでいる。
オレはあまり食欲がわかずに、料理を突付きながらその様子を眺めていた。
と、不意に食事の手を止め、バンネが口を開いた。
「契約通り、無事に首都まで辿り着いた。
これで契約は終了だな」
「え……ああ、そうだね……」
オレは気のない口調で答え、バンネの顔を見ないようにうつむく。
バンネはそれ以上何も言わなかった。
再び沈黙が訪れる。
酒場の喧騒がやけに耳についた。
「……ここでお別れ、ということになるな」
静かにバンネが呟く。
「…………」
オレは何も答えない。
「……旅は……なかなか楽しかった」
意外なバンネの言葉に反応し、オレはバンネの顔を見つめた。
バンネは変わらぬ無表情で、オレを見つめ返す。
「もう2度と会えなくなるわけじゃない。
そんなに暗い顔をするな」
その言葉からは、彼なりにオレを気遣ってくれているのだろうことがうかがえた。
「…………」
また、オレは何も答えない。
「オレは……このまま町に戻るつもりだ」
バンネが呟く。
それを聞いたオレは意を決し、ここ数日思っていたある考えを口にした。
「……あのさ……もしこのまま一緒にいよう、って言ったら、ダメかな?」
「え……?」
オレの提案に、バンネが驚いた表情でオレを見つめた。
その表情は返答に困っているように見える。
バンネからの返答を待つ間、オレは体が小刻みに振るえ、心臓は張り裂けそうなほど速く脈打っていた。
長いような短いような沈黙。
その間、オレはまともにバンネの顔を見ることができず、ずっと顔を伏せていた。
酒場の喧騒は、もうオレの耳には届いていなかった。
そして、バンネが口を開き、静かに言い放った。
「……契約は切れた。
だからこれ以上、お前と一緒にいる必要はオレにはない」
絶望的な言葉だった。
暗い思いが、重くオレにのしかかる。
「だが」
「?」
「新たに契約し直すと言うなら、一緒にいても構わない」
どこか照れくさそうに言ったバンネの言葉は、オレの暗い思いを一気に打ち消した。
オレは顔を上げ、口調と同じく照れくさそうな表情を浮かべ、横を向いたバンネの顔を見る。
「どうする?」
オレの方を見ようとはせず、バンネがぶっきらぼうに言う。
オレは顔を輝かせ、
「契約する!」
と、即答した。
バンネはオレの方に向き直り、再び尋ねてくる。
「期間は? 報酬は?」
「期間はずっと。 一生、死ぬまでずっと。
報酬は……」
報酬についてオレが言いよどんでいると、バンネが先に口を開いた。
「報酬はお前自身でいい。
そうすれば、一生、毎日オレは報酬を受け取ることができるからな」
バンネの言葉にオレは目を丸くし、ニッと笑ってつっこんだ。
「……そのセリフ。 すっごいクサいよ」
つっこまれたバンネは顔を赤くし、
「放っておけ」
と恥ずかしそうに言い返した。
オレはその様子を見て笑う。
バンネはコホンと1つ咳払いをすると、
「では、契約成立ということでいいか?」
オレを見つめながら聞いてきた。
「もちろん!」
オレは笑いながら答える。
「そうか。 なら契約成立。
よろしくな、フラルス」
そう言うと、バンネは優しく微笑み、テーブルの上のオレの手に、手を重ねてきた。
バンネの手のぬくもりを感じながら、オレは大きくうなずいた。