「シッドさん、どうぞ」

夕日の射す、とある病院の待合室に、僕の名前を呼ぶ声が響いた。

あまり広くもない待合室に、ただ1人座っていた僕は、声に従って診察室とプレートの掛けられた扉を開ける。

診察室の中に入ると、そこには白衣を着た40歳半ばぐらいの熊獣人の医師が座っていた。

熊獣人の先生は椅子に座り、入ってきた僕を上から下へと観察するように見ている。

「お願いします」

僕はそう言うと、先生の向かいの椅子に座った。

「はい、こんにちは。

 え〜と、名前はシッドさん。 24歳。 狼獣人の男性ね。

 今日はどうしました?」

先生がカルテに目を通しながら僕のプロフィールを読み上げ、用件を聞く。

「え〜と……」

聞かれた僕は口ごもる。

風邪をこじらせたりして病院に訪れたことは何度かあったが、この病院、泌尿器科の病院を訪れるのは初めてだった。

僕は自分の体に起きた異変を告げるのを、恥ずかしさのためにためらった。

そのことに気付いたらしい先生がニッコリと笑い、

「恥ずかしがらなくてもいいですよ。

 ここに来る患者さんは、皆同じような所を悪くしているんですから」

と、僕を安心させるように優しい口調で言った。

それを聞いた僕は小さく深呼吸すると、いまだにニッコリと笑っている先生に、自分の体に起きた異変を告げる。

「実は、せ、精液が変なんです」

「変、ですか……どんな風に変なんですか?」

「はい……なんだか精液がピンクっぽい感じになるんです」

「ああ、それは血精液症ですね」

「ケツセエキショウ?」

聞きなれない言葉に僕はオウム返しに聞き返した。

先生は頷くと、カルテに何か書き込みながら説明する。

「精液の中に血が混じる症状のことです」

「血ですか?」

「ええ。 まぁ少量ですけどね。

 中高年の男性を中心に見られる症状なんですが、若い人でこの症状が出るのは珍しいですね。

 中高年の方の場合、前立腺ガンの疑いもありますが、シッドさんは若いからその心配はまずないでしょう。

 放っておいても数週間で治りますよ」

「そうですか……」

一通り説明を聞いて、僕はホッと胸を撫で下ろす。

しかし、ホッとしたのは束の間だった。

「でも、一応検査はしておきましょう」

「え、検査?」

先生の発した意外な言葉に、僕は戸惑った。

先生は僕の戸惑いに構わず、言葉を続ける。

「ええ、検査です。

 ガンの心配はないとはいえ、万が一ということもありますしね。 念のためですよ」

「でも、検査ってどうやって……」

「ちょっとした触診と精液の検査です。

 大丈夫、そんなに大した検査じゃないですよ」

沈んだ口調の僕とは対照的に、気軽な口調で先生が言う。

「そんなに時間もかからない検査ですから、サクサクッとやっちゃいましょう。

 じゃあ、下を全部脱いで、そこの診察台に四つん這いになってください」

「ええ!? 今やるんですか!?」

「そりゃそうですよ。 触診もするんですから。

 私がいなければできないでしょう?」

驚きの声を上げる僕に、先生は当然のことのように言い放った。

すでに用意を始めた先生に、僕はおそるおそる尋ねる。

「触診って、何をするんですか?」

「肛門に指を入れて、前立腺を調べます」

僕の質問に対し、先生はゴム手袋をはめながら言った。

「その時についでに精液も採取しましょう」

「ええ!?」

「さ、早く脱いでください」

先生は僕をせかすと、診察台の横に移動し、近くの椅子に、脱いだ服を入れる籠を置く。

それを見た僕は拒否できそうにないと観念し、恥ずかしさで顔を赤らめながらも、靴を脱ぎ、ズボンに手をかけ、意を決して脱ぎ始めた。

その様子を、先生は診察台の横で黙って見ている。

僕は先生の視線を感じつつも、脱いだズボンを用意された籠に入れ、下着に手をかけた。

一息つくと、僕は下着を一気に下ろした。

弛緩したモノが、外気と先生の視線に晒される。

「じゃあ、ここに四つん這いになってください」

他人の性器など見慣れているのか、先生は何も言わずに診察台を指差して僕に指示した。

言われるがまま、僕は診察台に上って四つん這いになり、尻を先生の方に突き出す。

傍目から見たらどんなに恥ずかしい格好だろうと思うと、僕は羞恥のあまり消えてしまいそうだった。

しかし、僕の思いをよそに、先生は検査を始める。

「指を入れやすいように、ジェルを垂らしますね。

 ちょっと冷たいですよ」

先生の言ったその言葉通り、僕は肛門の周囲に冷たい感覚を覚える。

「!」

ひんやりとしたその感覚に、思わず声を出しそうになったが、なんとか耐える。

すると今度は、尻に先生の手が添えられたのを感じた。

「それじゃあ、いきますよ。

 トイレで踏ん張るようにしてお尻の穴を広げてください。

 最初はちょっと痛いかもしれませんが、我慢してくださいね」

僕は言われたとおりに、肛門を開くように力を入れる。

そして、

ズブ……

「いっ!」

「はい、頑張って。

 もう少し我慢してくださいね」

呻く僕を励ますように先生が声をかける。

僕は不快感を覚えながらも、徐々に不思議な感覚を覚え始めた。

体の下でダラリとぶら下がっていたペニスが、段々と大きくなり始めたのだ。

初めてのその感覚に戸惑いながらも、僕は先生に身を任せた。

僕の中に入った指は、僕の中を探るようにして動いている。

そしてその指が、僕の体内の一点をとらえた。

「ひゃっ!?」

いきなりやってきた、今まで感じたこともないような快感に、僕は情けない悲鳴を上げ、ビクンと全身を跳ねさせてしまった。

「おっと! 元気がいいですね。

 今触れたのが前立腺です。

 もうちょっと我慢してくださいね」

快感に頭を支配された僕を見透かすかのように先生はそう告げると、指を動かしてさらに前立腺を刺激する。

「ウゥゥゥ……!!」

獣のような呻き声を上げ、僕は押し寄せる快感に必死に耐え続けた。

「ふむ、特に問題はなさそうですね。

 では、ついでにこのまま精液を採取しますね。

 ちょっと失礼しますよ」

先生はそう言って、完全に勃起した僕のペニスの先端に何かを当てた。

股の方をのぞくと、亀頭の先端にシャーレがあてがわれている。

亀頭の先端からは透明な粘液が溢れており、診察台を見ると、シーツが滴ったらしい粘液で濡れているのが分かる。

「はい、力を抜いてくださいね。

 すぐに出しますから」

先生が慣れた様子で声をかけ、前立腺を優しくマッサージする。

「あ……ふぅ…ん……」

艶かしい声が、僕の口から漏れる。

僕は、そんな声を出したことが恥ずかしくなり、慌てて歯を食いしばって、声を漏らすまいとした。

「気にしなくてもいいですよ。

 前立腺マッサージで声を出してしまう患者さんは多いですからね」

1人快感に耐えている僕を見て、先生が諭すように言う。

だがそれでも僕は恥ずかしさを感じ、ただひたすら歯を食いしばっていた。

そしてそれからわずか数秒後。

「あっ!!?」

食いしばっていた僕の口から、診察室に響く、短い叫びが漏れた。

ペニスから何かが溢れたような感覚に驚き、再び股の方に目をやると、亀頭の先端からドロッとした精液がシャーレの中に垂れ流されていた。

普通の射精とは異なり、精液は勢いよく飛び出すこともせず、漏れ出したような感じで鈴口から溢れ出している。

初めて見るその光景に呆然としている僕に、先生から声がかかる。

「はい、終わりましたよ。

 じゃあ指を抜きますね」

ズポッ

「……ウッ……ふぅ……!」

今まで感じていた肛門の中の快感と不快感が一気に消え、僕は安心したような残念なような溜め息を漏らした。

先生の方を見ると、先生はゴム手袋を外し、僕の精液の入ったシャーレに蓋をしていた。

シャーレの中の精液は、わずかにピンク色を帯びている。

先生はシャーレを机の上に置くと、タオルを持ってきて僕の肛門とペニスを拭き始めた。

「確かに血液が混ざっていましたね。

 ただ前立腺にはまったく問題がないようなので、そう気にしなくてもいいでしょう。

 一応、採取した精液を顕微鏡で調べてみますが」

僕の体を拭きながら、先生が優しく言う。

尻とペニスを這い回るタオルの感触に、僕の萎えかけていたペニスが反応し、意に反してペニスがムクムクと頭を持ち上げ始める。

「おや? 元気ですね。

 まぁ、若いからそれぐらい元気があった方がいいでしょう」

再び勃起してしまったペニスを拭きながら、先生が笑う。

僕は作り笑いを浮かべつつも、恥ずかしさのあまり消え入りそうだった。

「はい、拭き終わりましたよ。

 もう服を着て頂いて結構です」

「……はい」

僕は短く答えると、診察台を下り、籠に入れてあった服を身に着け始める。

その最中、先生が説明を始めた。

「検査の結果が分かるまでしばらく時間がかかります。

 3日後にまた来てください。

 まぁ、なんの問題もないと思いますがね」

「……分かりました」

服を着終えた僕は、先生の方を見ずに答える。

「はい、ではまた3日後に来てください」

先生はそう言うと、ニッコリと笑い、僕を診察室から送り出した。

「はい、ありがとうございました」

礼を言って、僕は診察室を出る。

そして待合室の椅子に腰掛け、先程先生にされたことを思い出した。

ズボンの中で痛いほどに勃起しているペニスが、先生にしてもらったことをより鮮明に思い出させる。

恥ずかしさと快楽の中で、他人の手で、しかも前立腺を刺激されての射精。

今までに経験したこともなかったその圧倒的な快感を思い出すと、再びペニスの先端から先走りが溢れ、下着を濡らしてしまった。

 

 

その日、病院から帰ってきた僕は、病院でされたことを思い出し、ただひたすら自らを慰めた。

 

 

 

 

 

なお、検査の結果、血液が混ざっている以外、なんの異常もなかったこと、それから数週間して血液が混じらなくなったことを追記しておく。