野盗の頭領を倒し、少年を治療したあと、オレは散り散りになった野盗達を一掃し、気絶している少年と頭領だけを連れて町へと戻ってきた。

そして少年をベッドに寝かせると、少年とジークを部屋に残し、頭領を連れて自警団の詰め所へと向かった。

自警団に野盗団が壊滅したことを説明し、頭領を引き渡す。

オレはそこで感謝の言葉といくばくかの礼金を受け取る。

そのあと宿に戻ると、気絶していた少年が目を覚ましていた。

ベッドに体を横たえたまま、天井を見つめている。

オレが部屋に入ってきた時にわずかにこちらを見たが、すぐに視線を天井に戻してしまった。

「目を覚ましたか」

そう言って、オレは椅子を引き寄せて座る。

少年は無反応。

オレが小さく溜め息をつくと、少年の寝ていないもう1つの方のベッドに座っていたジークが、険のある声で少年に話しかけた。

「あのさ、お前、危ない所をクーアに助けてもらったんだから、お礼ぐらい言ったら?」

「……助けてくれなんて言ってねぇだろ……」

「なんだそれ!? クーアがいなければ、お前、殺されてたかもしれないんだぞ!?」

「ジーク」

身を起こしながら冷ややかに答える少年に腹を立て、ジークが食ってかかるが、オレがそれを制すると、ジークは面白くなさそうに少年を睨みつけ、小さく舌打ちをした。

「別に感謝されようと思ってやったわけじゃないから構わないさ。

 ……ところで、お前、名前は?」

「……シーザー……」

答えてくれないと思っていたが、意外にも答えは返ってきた。

もっとも、不機嫌そうな答え方ではあったが。

「そうか……シーザー、お前のいた野盗団はもうなくなったぞ。

 さっき、野盗団の頭領を自警団に引き渡してきた。

 町に入り込んだ連中が捕まるのも時間の問題だろうし、外にいた連中も今頃自警団が身柄を確保してるだろう。」

シーザーは視線を下に落とし、黙って話を聞いている。

オレもジークも何も話さないので重苦しい沈黙だけが続く。

聞こえてくるのは、宿の外からの自警団員達や傭兵達のやり取りだけ。

しばらく続いた沈黙のあと、シーザーが話しかけてきた。

「……オレをどうするんだ?

 あいつ等に突き出すのか?」

あいつ等というのは自警団のことだろう。

オレは少し考え、ジークの方に目をやり、

「どうするんだ?」

と尋ねる。

「えぇ!? なんでボクに振るの!?」

ジークは突然話題を振られ、目を丸くしながらこちらを見る。

シーザーはというと、伏せていた目を上げてジークを見ている。

「いや、だってお前、この子のことを随分と気にかけてたじゃないか。

 この子が寝てる間、ずっとそばを離れなかっただろ?」

「そりゃだって、1人にしておくわけにはいかないし……」

言いながら、チラチラとシーザーの方を見るジーク。

「そう言えばお前、広場でこの子を見た時、オレより先に助けようって言ったよな?」

「言ってないよ!!」

「でも言おうとしてただろ?」

「う……もう! 揚げ足取らないでよ!」

オレが意地悪く問い詰めると、ジークは言葉に詰まって顔を赤らめ、かなり照れくさそうにして怒った。

「怒るなよ。 ……で、どうするんだ?」

「だから、どうしてボクに……」

「お前が言いにくいなら、オレが代わりに言ってやろうか?」

ジークが抗議の声をオレが遮る。

ドキッとしたような顔でオレを見るジーク。

一方、シーザーはわけが分からないといった表情で、オレとジークを交互に見ている。

「どうする? 自分で言うか?」

「…………」

再びジークに問いかけると、ジークは黙ったまま答えなかった。

赤らんだ顔がさらに赤くなっている。

「……仕方ないな」

オレは溜め息をついてシーザーの方に向き直り、ジークの気持ちを代弁する。

「ジークはお前と友達になりたいんだよ。」

「……友……達……?」

思っても見なかった答えに戸惑うように、シーザーがジークの方を見つめる。

ジークはシーザーと目を合わせないように横を向いている。

「そう、友達。 ジークは今まで――」

「ボク、今まで友達がいなかったんだ……」

オレが説明しようとした時、それを遮って、横を向いたままジークが話し始めた。

「ボク、クーアに逢うまで……奴隷だったから……

 だから、友達なんていなかったんだ。

 広場で傷ついたお前を見てさ、なんか、自分に似てるなって思った。

 ボクも毎日のように傷つけられたてたから……

 だから……もしかしたら友達になれるかなって、思ったんだ……」

そこまで話すと、ジークはうつむいたまま黙り込んでしまった。

シーザーはそんなジークをジッと見つめている。

オレはなんとなくそうではないかと思っていた。

ジークくらいの年代の子供にしてみれば、自分と同年代の友達を欲しがるのは無理のないことだろう。

ジークにしてみれば、オレは年の離れた兄か父のような存在であり、友達と呼べるような存在ではないだろうから。

少しの間、不思議な、なんとも形容し難い静寂に、部屋が包まれる。

ジークはうつむいたままで、シーザーもジークから視線を外してうつむいている。

これ以上待っても、ジークが本題を言うことはないだろうと踏んで、オレはシーザーに話しかける。

「まぁ、アレだ。 要はオレ達と一緒に来ないかってことだ。

 そうだろ、ジーク?」

「……うん……」

ジークは消え入りそうな声で答え、うなずく。

シーザーが再びジークの方を見る。

その表情は少し嬉しそうでもあり、少し照れくさそうでもあった。

「どうする? 一緒に来るか?

 嫌だって言うなら、無理にとは言わないけど?」

オレが話し掛けると、ハッとしたように表情を変え、少し考えたあと、

「……いいぜ。 一緒に行ってやるよ」

と答え、顔を上げたジークを見すえて言う。

「ジークとか言ったっけ? お前、勘違いすんなよ。

 オレは仕方なくお前の友達になってやるんだからな!」

なっ……! ふざけるなよ!

 ボクだってお前が可哀想に見えたから、仕方なく友達になってやるんだからな!!」

「なんだと、この野郎!」

負けじと言い返すジークに、同じく言い返すシーザー。

やがて取っ組み合いが始まるが、2人とも怒っているわけではなく、その表情は嬉しそうに笑っている。

その様子を見ていると、自然と口元がほころび、思った。

(旅が賑やかになりそうだな。)