バビログラード、蒼の聖殿。

その最奥で、ある生物が目を覚ました。

獣のような顔、龍にも似た長くつるりとした体、1対の手と3対のヒレ、頭部から背にかけて伸びた長いタテガミ、二股に分かれた角、尾の先にはふさふさとした飾り毛、首には体の長さ以上もあるマフラーらしきものが巻き付いている。

一見、モンスターととれなくもない姿をしているが、眠りから覚めたその瞳には、モンスターとは一線を画す知性の煌めきが宿っていた。

(ん〜……よく寝た)

青と白の体をグンと伸ばしたその生物、水の力を司り、この聖殿の主でもある聖獣シャオルーンは、少年のような声で呟いた。

寝起きの伸びを終えたシャオルーンは、両手を体の前に持ち上げる。

するとそこに、自身の頭程の大きさの、青く澄んだ水晶玉が現れた。

(さて、と)

シャオルーンは呟き、目に見えない不思議な力で体を浮き上がらせる。

そして、そのまま聖殿の最奥から、ものの数秒で聖殿の外へと飛び出ると、空高く上昇した。

陽の光が燦々と降り注ぐ空中で、目一杯深呼吸をすると、眼下を見下ろす。

真下には、連なる山々と、その山頂付近に建てられた蒼の聖殿、さらにその下にはバビログラードの町が広がっている。

(さ、今日はどうしようかな?)

眼下、というより、バビログラードの町並みを見下ろしながら呟くシャオルーン。

バビログラードは大きく2つの区画に分かれている。

1つは蒼の聖殿に続く山頂付近の区画、もう1つは山の麓の港がある区画だ。

シャオルーンは品定めをするように両区画を見比べると、

(……よし、決めた!)

一気に急降下を開始した。

向かったのは、港のある区画。

聖殿へと続く区画と比べると規模は小さいものの、港というだけあって活気に溢れている。

シャオルーンは、港に程近い宿の真上で急停止すると、宿の2階にある展望台に腰掛け、乗り出すようにして港を見下ろした。

下からはシャオルーンの姿が丸見えなはずなのだが、通常、シャオルーンの姿はヒトには見えないので、騒ぎが起こることはまったくなかった。

港には定期船が入ってきたばかりらしく、大勢の観光客らしいヒューマとガジュマが港へと降りてきていた。

一方で、船員と思しき男達が、積み荷の上げ下げをしている。

積み荷の多くは食糧や衣服がほとんどだが、時折遠く離れた土地から珍しいものが運ばれてくることもある。

逆に、ここ、バビログラードからも、世界各地へと、この土地特産の品物が運ばれていくことがある。

この土地、というより、この町の特産といえば、蒼獣クッキーや蒼獣グミ等がそれだ。

蒼獣とはシャオルーンのことを指し、この町では蒼獣神として祀られている。

その祀られている場所が、彼が目を覚ました蒼の聖殿であり、定期船から降りた観光客達が真っ先に向かう場所でもあった。

山頂へと登るリフトに、列をなして並んでいる観光客達を見下ろしながら、

(ボクはここにいるのにねぇ)

などと、シャオルーンは思っていた。

シャオルーンが飽きることなく観光客達の様子を眺めている間にも、リフトは次々に彼等を山頂へと運んでいく。

リフトの上で、リフトを待つ列で、観光客の男女が楽しげに話していた。

(この町じゃありえない光景だね)

そう思いながら、シャオルーンは楽しげに話す男女の様子を観察していた。

彼を神と崇める蒼獣信仰は、家族以外の男女間での会話を戒律により固く禁じている。

別に彼がそうと定めたわけではないのだが、なぜか昔からそういうことになっていた。

そのため、町中で男女の住民同士が楽しげに会話をする様子など、見たことがなかった。

(そんな戒律なくしちゃえばいいのに)

無責任にもそんなことを思い、ため息をつくシャオルーン。

とはいえ、シャオルーンの預かり知らぬところで決められたことなのだから、彼がそう思っても無責任とは言えないのかもしれないが。

(さて、これからどうしようかな?)

しばらくして、観光客を観察するのにも飽きたのか、シャオルーンが呟く。

(いったん聖殿に戻ろうかな? それとも…………ん?)

その時、思案していたシャオルーンは、後方、展望台から続いている部屋に何者かの気配を感じた。

固く閉じられたドアと窓。

しかし、窓にはカーテンが閉まっておらず、部屋の中の様子をうかがうことができた。

好奇心に駆られたシャオルーンは、窓から部屋の中を覗き込む。

そこでガラス越しに、シャオルーンは硬直せざるを得ないようなものを見てしまった。

部屋の壁際に置かれたベッドの上。

そこに1人のガジュマの男が寝そべっていた。

だが、ただ寝そべっていたわけではない。

衣服をまったく身に着けていなかったのだ。

しかも、それだけではなく、男は一心不乱に自らのペニスを弄り回していた。

虚ろな目をペニスに向け、片手でペニスを、もう片方の手で毛で覆われた胸の辺りをまさぐっている。

ペニスを弄る手は、激しく上下に動き、時には逆手で、時には赤く膨れた先端部分をこね回すようにといったふうに、動きに変化をつけていた。

胸をまさぐっていた手は、ペニスの下に付いている毛皮で覆われた袋に伸びていき、優しく包み込むようにして袋を揉みしだき、あるいは下へと引っ張ったりしていた。

男は、息遣い荒くそれらの行為を繰り返し、時が経つにつれて、手の動きはいっそう速まり、息遣いも荒くなっていく。

ベッドの上で苦しげにも見える男の姿に、シャオルーンは息をのんだ。

今までにヒューマ、ガジュマ、男女を問わず、その裸体を見たことはあった。

体の違いはもちろん、男性に付いているペニスの用途、子供が誕生するまでのプロセスも理解している。

その理解の中では、男性のペニスは、排泄と女性との性行為の時にのみ使われるもののはずだった。

それだけに、今、目の前にいる男がしているような行為は、シャオルーンの理解の範疇を超えていた。

苦しげにベッドの上で荒々しい息遣いを見せ、体を揺する男。

(なんでこのヒトは、こんなに苦しそうなのにやめないんだろう……?)

男の理解できない行動に戸惑うシャオルーン。

しかし、よくよく見ていると、どうやら男は苦しんでいないようにも見えてきた。

考えてみれば、女性との性行為の際、男性は苦しんではいなかったように思える。

どちらかといえば、快感を得ているような。

(じゃあ、あれは……)

と、シャオルーンの考えがまとまるかまとまらないかの刹那、

「んぐぁっ!!!」

閉ざされた窓から、男のくぐもった声が漏れ聞こえた。

それと同期して、男のペニスから白濁した液体が中空に放出された。

(!?)

男から放出された白濁液を見たシャオルーンの体が硬直する。

この液体が精液だということは理解していたが、こういった形で見るのは初めてのことだった。

男のペニスはなおも脈動し、先端からは2度3度と精液が放出されている。

男は体を反らし、歯を食いしばって、ペニスが脈動するに身を任せているようだった。

やがてペニスから精液の放出が終わると、男の息遣いが落ち着き、ペニスもその体積を減じていく。

その様子を凝視していたシャオルーンは、自分の中に今まで感じたことのない『何か』を感じ、いてもたってもいられず、蒼の聖殿の最奥に向かってすさまじいスピードで飛び込んでいった。

聖殿の最奥につくまでの10秒かかるかかからないかの狭間、シャオルーンの頭は真っ白になっていた。

そして、聖殿最奥にまで到達すると、気持ちを落ち着かせるために、深呼吸を繰り返す。

数度の深呼吸を終えたのち、シャオルーンはゆっくりと視線を下腹部に下ろした。

白い腹の下にうっすらとスリットが見える。

ヒトのペニスとは違う形をした、シャオルーンのペニスが収納されているスリットだ。

そのスリットが、今、わずかに盛り上がり、左右に開いていた。

シャオルーンは、両手で抱えていた水晶玉を下ろすと、恐る恐る両手でスリットの淵を撫でてみた。

(んっ……!)

なんともいえぬ、快感にも似た感覚が全身を駆け巡る。

一擦り、二擦りと撫で続けるうちに、全身を駆け巡る感覚は強くなり、同時にスリットから赤い色を呈したペニスがムクムクと姿を現し始めた。

粘液で濡れ、妖しい光沢を放つペニスを、シャオルーンは両手で挟むように握る。

(あっ!)

途端に、シャオルーンの全身がビクンッと震え、ペニスが完全にスリットから飛び出した。

それは赤く脈打ち、先程見たガジュマの男のペニスとは違い、先端は細く、根元に行くほど太くなっていた。

先端からは透明で暖かな粘液が溢れ、それがペニスの表面を伝って、スリットへと流れ落ちていく。

シャオルーンは、両手に粘液とペニス本体の熱を感じながら、ガジュマの男がしていたのと同じことを、見よう見まねで行ってみた。

といっても、胸に突起も、ペニスの下に袋もないシャオルーンが真似ることができるのはペニスを扱くことしかないのだが。

ぎこちない手付きでペニスを上下に扱くシャオルーン。

粘性の水音が聖殿最奥の部屋に響くたび、シャオルーンはいまだかつて味わったことのない快感を感じていた。

ペニスを中心に広がるその快感は、やがてシャオルーンの理性を薄れさせ、1匹の獣のように、欲望の赴くままの行動に走らせた。

ペニスを左右から両手で扱き、片手で先端をこね回す。

傷付かない程度に爪を立て、ペニスの表面を引っ掻き、尾の先の飾り毛で全体をくすぐる。

溢れ出た粘液の付いた手を口に運んで舐め取り、それが無害だと分かると、長い体を曲げ、ペニスを口に含むことまでした。

滑らかな舌でペニスを包み、舌先で先端の穴を割り裂くようにいじり、とめどなくペニス内部から溢れ出てくる粘液を涸らすかのようにペニスを吸い上げる様は、もはや蒼獣神としての威厳の欠片もない。

聖殿最奥には当然、誰もいないのだが、もし仮にここに誰かがいたとしても、シャオルーンはこの行為をやめることはなかっただろう。

それほどまでに、シャオルーンは自らのペニスを弄ぶことに没頭していた。

そして、粘着質な音と、荒い息遣いのなか、

(うあぅ!!!)

突如として体の芯に響いた激烈な快感に、思わずシャオルーンがペニスから口を放し、身をのけ反らせて叫んだ。

その刹那、外気にさらされた赤いペニスが激しく上下に暴れ、先細ったその先端から大量の白濁した精液をまき散らした。

それの量は、先程のガジュマの男のソレとは比べ物にならないほど多かった。

何度もしゃくりあげられるペニスから噴出される精液は、まるで噴水のように高々とシャオルーンの真上に打ち上げられ、シャワーのようにシャオルーンの全身に降り注ぐ。

激烈な快感に襲われ囚われているシャオルーンは、降り注ぐ精液のシャワーをその身に浴び、恍惚と虚ろが混ざったような表情を浮かべていた。

やがて精液の噴射が収まると、グッタリとしな垂れたペニスはスリットの中へと納まっていった。

初めての射精の快感に酔いしれ、その余韻に浸りながら、精液にまみれた体を見回すシャオルーン。

(……気持ちよかった……)

顔にかかった精液を舌で舐め取り、淫靡で恍惚とした瞳をたたえたその表情は、聖獣や蒼獣神と呼ばれるには程遠い、まさに1匹の獣の表情だった。