禁忌の間

〜逆転の間〜

 

 

ある更けた夜のこと。
いつものように寄り添いあって、二人は寝ていた。
ところが突然、片方がもぞもぞと動き出し、何故か目を覚ましてしまった。

 

「うーん…。
 何だ、まだ普通に夜か…。」

 

寝ぼけながらも、少しずつ覚醒していく頭を押さえつけるように、
また寝る体勢に入ろうとする。
…が、何故か寝付けない。

 

「…あれ?
 眠いのに、寝られないぞ…?
 さっきまで寝てたから、寝られるはずなのに…。」

 

頭は眠い。
体は起きたがっている。
そんな矛盾した、不思議な状況で、夕にはそれが何となく不快だった。

 

「何で眠いのに寝られないんだよ…、全く。
 これも、起きると勝手に勃つお前が悪いんだ、多分。」

 

夕の下半身には、既に硬くいきり立った性器があった。
それは健康な男児なら当然だ。
朝勃ちという現象は、誰にでも起こる普通のこと。
ただ、時間帯が朝ではないのは突っ込んではいけない。

 

「ただそれだけのために夜慧起こすのも可哀想だしな…。
 今日は自分で抜くか…、とほほ。
 ただ寝るためだけに出さなきゃいけないとは。
 って、僕はどれだけ欲求不満なんだ?」

 

質問しても、答えなんか返ってくるはずもなかった。
夕くらいの年頃の男子なら、性欲なんか湧いて出ることはよくある。
少しだけ布団から体を抜け出させると、下着の紐をゆっくり解いて、
理由もなく性欲全開になっている赤い肉棒を取り出した。

 

「あらら、立派になっちゃって。
 困った奴だ。」

 

まるで他人のような扱いをしてみるが、触ってみて
やはりそれは自分自身だということがよく分かる。
夜慧と体を重ねることで随分強くなってきて、触るだけでは何も感じない。
それでも、何となく心地の良い感覚だけはしていた。

 

「そういえば…自分でするのは随分久しぶりだな…。」

 

なんて思い出してみたりもしていた。
夜慧とここで暮らすようになって以来、どちらからか求めることが多く、
体を重ねる回数は割と多かったからだ。
自分ですることなんか全くと言って良いほど無かった。
それはとても自然な成り行きだったのである。
ちなみに、今日で夕は一週間ほど溜めている状態だった。
性行為をする回数が多いと言っても、二週間に一度あるかないかである。
普段から仕事で疲れている二人は、床につくとすぐに寝てしまい、
なかなかそういう機会が訪れないのだ。
たまたま翌日の仕事が休みになったり等で、夜中に激しく愛し合うことができるのである。
しかし、今日は明日も仕事が控えている。
夕方までみっちり働く夜慧も、さすがに体力の回復にしっかりと寝ないといけない。
それは夕にも言えることなのだが、この非常事態にそんなことは言ってられなかった。

 

「そうだ、これは寝るためなんだ。
 決して夜慧と次できるのが待ち遠しくて、もう待てないから自分でするわけじゃないんだぞ、うん。」

 

よく分からない言い訳をして、ようやく一物を握り締めた。
さっさと寝たいがために、最初から割りと早めに扱く。
隣で寝てる夜慧に聞こえそうな程、既に準備のため液体が、
聳え立つ塔さながらの夕の性器を濡らし、さらに音を上げている。
ぬちゅぬちゅぬちゅぬちゅ。
一定の速度でなり続けているそれは、夕の興奮度に比例して音を大きくしていた。

 

「何か…やばい。
 何これ。
 酷く興奮する…。」

 

人に隠れての自慰行為。
見られたらまずいとは思わないにしろ、見つからないようにするということが酷く夕を興奮させた。
隣には夜慧が静かな寝息を立てている。
自分の手からは卑猥で粘り気のある音がしている。
その状況が、さらに夕を興奮させた。

 

「はぁ…はぁ…。
 良い…、何か良いぞ…これぇ…。」

 

既に恍惚状態にある夕。
後ろめたさや恥ずかしさが相まって、さらに夕を追い詰める。
赤き猛りはすりあげられるたびにしゃくりを上げ、先端には大きな雫ができて、零れ落ちる。
それが手にまとわりつき、潤滑剤として心地よさを高める。
気持ち良い。
ただその一点が体中に広がり、夕を没頭させる。
そんな時だった。
横から手が伸びてきて、夕の興奮の高まりに触れ、包み込んだのである。

 

「?!」

「夕君…したいの…?」

 

夜慧が起きてしまった。
しかも声がはっきりと出ていることから、さっきから気が付いていたようだ。

 

「こんなに濡れて…。
 何?
 私が横にいて、興奮しちゃった?」

「べ、別にそんな…!」

 

悪戯っぽく問う夜慧の言葉に、若干焦りを感じつつもとりあえず否定。
だけれど、その濡れ方は尋常ではない。
興奮してます、しっかり感じてます。
言わずとも見て取れるほど、それは脈動していたのだから。

 

「でも、おっきいね…。」

「ぅぅ…。」

「したい?」

「…うん。」

「明日も仕事なのに?」

「うぅ…。
 夜慧が無理って言うならぁ、諦めて自分でするから良いけど…。」

「ごめんね、私も眠いから〜。
 これで、許してね。」

「うぁっ?!
 ちょ…っと…」

 

淫らな粘液を掬い、手に取り、それを潤滑剤として扱きあげる。
上下に動かすたびに、びくりびくりと痙攣し、さらに淫液を流し続ける。
尽きることなく出続ける先走りに、夜慧も少なからず興奮を覚えていた。
そんな夜慧のことなど知らず、夕はただ夜慧に弄られ、喘ぐことしかできなかった。

 

「うぅー…。
 あぅー…!」

「あはは♪
 何か可愛いなぁ、夕君。
 夕君を弄ると、こんなにも面白いのかー。
 覚えておくね♪」

「そ、そんなこと…ぁ…覚え…られても…ぉっ!」

 

最近はいつも攻める側に立っていた夕は、久々に自らが攻められる快感と興奮に溺れていた。
そう、初めて交わったあの時以来。
あれ以来は、夕が夜慧を攻め、夜慧に喘がせることに興奮していた。
だが、今は違う。
それが逆転し、夜慧に攻められ、それを心地良いとさえ思っている。
ただ優しく扱かれるだけで、性交時より気持ち良いと思えるような強い快感が押し寄せてくる。
激しい射精感が何度もやってきては、夜慧の絶妙な技巧によって妨げられた。
丁度良く誘われたり、阻まれたりを繰り返すうちに、夕はどんどん快楽に呑まれていった。
その顔は恍惚とし、口からは涎が垂れ、体は走る快感のたびに痙攣している。
そんな夕の姿に興奮し、夜慧も自分の秘部へと手を伸ばしていた。

 

「ん…。」

「夜慧ぇ…や…えぇぇ…。
 もう…出したいよ…。」

「だめ…。
 私と一緒に…ね…?」

「うぅ…ぁっ…」

 

卑猥な音が、室内を支配する。
淫らな音、薄暗い部屋、溺れそうな強いにおい。
この環境が、さらに二人を快楽へと誘っていた。
気持ち良い以外の感覚が無い。
ただとろけてしまう様な、甘く熱い世界。
その中で、ついに絶頂が見え始めた。

 

「や、や…え!
 ぼ、ぼく、もう、出ちゃうよっ!」

「わ、たしも…もう…!
 一緒に、一緒に…!」

「うぅ…っん、出ちゃう!
 出ちゃうよぉおぉっ!」

「あっああんっ!」

 

夕の方が一瞬だけ、早く快楽の高みに至った。
それに続き、夜慧も後を追う。
夕から吐き出される白濁は、勢いよく自身の腹を、顔を染め上げていく。
夜慧は夜慧で、顔を高潮させ、自らの浴衣を粘液で汚していく。
二人がほぼ同じように痙攣し、体の内に秘めた欲望を吐き出していった。
何度も、何度も、びくんびくんとはねながら。
落ち着いた頃には、夕は上半身がぐっしょりと精液にまみれ、
夜慧は汗と愛液で着替えが必要な程浴衣を濡らしてしまっていた。

 

「は…ははは…♪
 ごめんね、夜慧。
 こんな夜遅くに…。」

「んー…。
 たまには、こういうのも良いかな、なんて。
 お兄ちゃん、可愛かったしね♪
 こういうのも覚えておくよ〜。」

「うぅ…、かなり良かっただけに、嫌だと言えないなぁ…。」

「ふふふっ。
 また、今度やってあげるね♪」

「なはは、楽しみにしてるよ。
 んじゃ、おやすみ〜。」

「おやすみ、夕君。」

 

まどろみに落ちてゆくのもほぼ同時。
まさに兄妹、と言ったような感じだった。
こうして、時々攻めが逆転するようになったのは、
これが元になったようだ。

 

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