禁忌の間

〜夢幻の間〜

 

 

「はぁ、姫君ねぇ…。」

「そうです。
 殿もそろそろ、姫君を迎える年齢にございます。
 姫君を迎え、立派な男児を後継者に!!!」

「じ、爺…。
 そんな握り拳しながら語らなくとも良いじゃないか…。」

「いいえ!
 これは大事なことなのですぞ、殿!
 良いですかな?!
 そもそも、貴方様のお父上も、そのまたお父上も」

「ふぅ、分かった分かった。
 少し休憩を取りたい。
 自室で休んでいるから、騒がしくせぬよう頼むぞ。
 …あ、途中で呼びにきても、絶対に反応しないからな!」

「あぁ、殿!
 まだ話の続きが…って行ってしまわれた…。
 どうせまた城下にでも赴くつもりなのじゃな…、はぁ。」

 

今日は夕が休暇を取り、実家である孤児院に戻る日である。
それ故、大抵隣にいるはずの夕は今いない。
余りにもそれが退屈で、御殿にいれば、今度は爺の猛攻。
それがさらに退屈で、こうして嘘を言って城下に出る清将であった。
無論、彼は一切爺には城下に出ていることを知られていないと思っている、
とても平和な頭の持ち主だった。
自室でいつもの城下用の服装に着替え、
軽快な足取りで影に紛れて街に繰り出す。
夕を特務護衛官に任命して以来、全く城下に行かなかったが、
今日だけは特別だ。
暇を持て余した清将が、今日も城下へ気晴らしをしに…。
否、城下の住人の様子を観察しに行くのだった。

城下はいつも通り賑わっている。
飛脚は走り、茶屋娘は客に振る舞い、町人は楽しそうに過ごしている。
変わりは無い。
無かった。
はずだった。
ちらりと見えたのは、以前見たような熊を男三人。
見たような、というか本人らしい。
その中心に見えたのは、若い狐の女性。
彼らに連れられて、一体どこに行こうと言うのか。

 

「……。
 護奉陣の警報部隊はどうしたのだ?
 この時間なら今頃この辺りに…。
 だめか、昼食の時間のようだな…。
 私は面倒ごとはあまり得意ではないのですが…。」

 

ぶつくさ言いながら、熊の後を気配を消して追った。
案の定、人が寄り付かなさそうな川辺まで連れて行こうとしている。
連れて行こうとしているのは分かるが、まだ徹底的な状況証拠を掴んでいるわけではない。
狐の女性も嫌がったそぶりをしているわけではない。
とにかく、今は様子を見ることに専念した。

川辺の橋の下まで来ると、彼らはようやくそこで足を止めた。
そして、何やら話し込んでいる。

 

「ん…?
 もうじき三人来る?
 何の話だ?」

 

勿論盗み聞き。
清将が持っている特別な力、読心を使って。
とにかく、様子と話の限りだと、悪さをするわけではないらしい。
もうしばし、様子を見ていることにしたのだった。

そして数分後。
同じく熊の娘が三人現れた。
熊の男女同士が話を始めると、狐の女性は元来た道を戻っていってしまった。

 

「何だったんだ…?
 …ちょっと待て、何だこの、気持ち悪い程の下心は。」

 

彼の有する能力、読心は言わんとすることを理解するだけのものではない。
少し力の方向を替えれば、その本人の感情の揺れが視えるのだ。
その感情の揺れ、というのは清将独特の表現方法で、
彼に言わせれば、人の感情と言うものは揺れ幅で何を感じているのか分かるという。
そして今感じているのは、彼らの下心、つまり何か企んだ心である。
つまり、清将の能力は言葉や感情を視る力なのだ。
感情だけでは分からないので、感情から言葉へと力の方向を替える。
その瞬間、驚くべきことが発覚した。

 

「な、何ぃっ?!
 ちょ…こんなところで?!」

 

そういうことにほぼ耐性が無い清将には、あまりにも衝撃的なことだった。
興味が湧き、ついにはじーっと見つめることにする、この国のお殿様。

熊の女性が服をはだけさせ、男性陣を誘惑。
その男性陣はいそいそと袴を脱ぎ捨て、それぞれが自慢の一物を突き出す。

 

「ひっひっひ、俺は誰にしようかなぁ…。
 おっぱいの一番でっかい姉ちゃんが良いな♪」

「じゃあおいらは…名器を持ってる子だな!」

「自動的に僕は彼女なんだな。」

 

繰り広げられる、淫猥で凄まじい性交の嵐。
雌は喘ぎ、雄は貫きながら呻く。
生々しく、本能的で、妙に妖艶な姿。
見ているだけで胸がぞわぞわし、体はうずき、不思議な感覚が体を支配する。
目を離そうとしても、そこから目が離れない。
結局その激しく続いた、幾度と無く繰り返される交わりを、
終わりを迎えるまで見続けてしまったのであった。

終わった時に気が付いて、ようやく清将は逃げるようにして後を去った。
誰にも気付かれないように城まで戻ってくると、
何故かそわそわして落ち着かず、誰とも会う気にはなれなかった。

 

「はぁ…、何であんなの、町外れでやってるんだよ…。」

 

殿は殿でも、やはりまだ年頃。
性に興味を持った、健全な男子である。
そんな彼に、真っ昼間に激しい性交なんてのは、
この上もないほど衝撃的な事故だった。
そのせいで、今でも彼の一部は血流が止まり、
異常なまでの硬さを帯びたままである。
無論、彼は自分自身を慰める方法なぞ知らなかった。
情報の起点も無いし、教えてくれる誰かも居ない。
ただ知識として、この猛りを使って性交をすれば子供ができるということ。
そしてそれにはとんでもないほどの快楽を伴うということ。
それ以外知る由も無かった。
あまりに衝撃が強すぎて、帰って早々服を着替えて布団にもぐりこむ始末。
とても殿様の行為とは思えない。

 

「はっ、そうだ!
 本当に昼寝をして気を落ち着かせよう!
 寝れば治まりましょう!」

 

酷く弾んだ心を押さえつけるように、自分自身を必至で眠りに落とす。
最初は興奮して寝るどころでは無かったのだが、
その興奮状態に慣れてきたのか、
十分もすればついに念願の眠りにつくことができたのだった。
それが、悪夢になるということも知らないで。

 

まどろみの中を彷徨い、降り立った場所。
そこは、名も知らぬ場所。
ただそこにあったのは、柔らかな大地だった。
否、大地ではない、これは何か…布団のようなものだった。

 

「さ、清将様…。
 お召し物を。」

 

何も抵抗することなく、清将は身につけている物を剥がされていく。
気が付けば全裸で、股間には熱を帯びた肉棒がそそり立っていた。

 

「あら、清将様ったら…。
 気がお早いことですね。
 でも大丈夫ですわ。
 私が、ゆっくりと気持ちよくさせて、悦ばせて差し上げますね。」

 

そこでもう一つ気が付く。
彼は、抵抗ができないどころか、声さえ出ない。
ただ、目の前にいる自分と同じ姿をした、しかし雌のされるがままだった。
犬のような耳、顔。
狐のような尻尾。
まさしく自分の特徴。
違うのは、男性を象徴するものが存在しないこと。
その代わりに、何か食い込んだものがある。

その雌を観察しているうちに、どんどん話は進む。
いつの間にか上の羽織だけでも着ていた雌は、それさえも脱いでいた。
優しく微笑み、しなやかな手が清将の性欲の表れを、
慈しむようにして撫でる。
一度だけ、強くびくりと肉棒がはねた。

 

「とても、お元気ですね。
 怖くありませんわ。
 さ、私にその身を委ねてくださいな。
 私に任せてもらえれば良いのですよ。」

 

その一言で、体の強張りは取れ、安らかになる。
自分から動くという意思は、既に取り除かれた。

 

「男性器はですね、この部分の皮が剥けないと一人前ではないのですよ。
 痛いかもしれませんから、丁寧に口でして差し上げますね。」

 

ゆっくりと、優しく包むようにして、雌は熱い竿を頬張った。
清将の一物は、そこまで長くも無いが、そこまで短いわけでもない。
ただ、硬さだけは一級品であろう。
太さは…並以上、と言ったところか。
程なくして、軽い快感から開放されるのと同時に、
遂に亀頭を露にした、本物の男性の陰茎が姿を現した。

 

「雄雄しいですわ…。
 これで、準備できました。
 それでは、これを、私の中に導いて差し上げます。
 大丈夫、痛くないですよ。」

 

いつの間にか、その雌の股からはとろりと液体が流れ出していた。
その様子を見て、艶やかだと、清将は思った。

そして、その時が来る。
清将にまたがった雌は、狙いを定め、
清将に触れずして、肉棒を襞の中へと誘っていく。
にゅぷぷぷ…と、粘り気のある音と共に、清将は呑まれ、
そして溺れていく。
感覚は鋭敏になり、痺れる程の快感が彼を走り抜けていった。

 

「あ、ぁぁ…。」

 

なんとも間抜けな声。
それでも、ようやく出た声だった。
ゆっくりと沈む雌の腰が、遂に清将まで降りてきて、
やがて全てを呑み込んだ。

 

「ふぅ…。
 これはお腹一杯になりますわ…。
 女性はね、ゆっくりでないと受け入れられませんのよ?
 それを、覚えておいてくださいね。
 では、これから上下に動きます。
 お互いを擦るように。
 とても気持ちが良いんですよ。」

 

最初はゆっくりと、上下運動が開始される。
直に亀頭を擦られる感覚に、清将は悶え苦しむ。
苦しい、それでもその奥には凄まじい程の快感が潜んでいる。
雌が上に動けば暖かく、優しい快感が体にじんわりと響く。
雌が下に動けば鋭く、驚異的な強さの快感が痺れ渡る。
何と言う快感。
これが性行為。
何故かその快感に溺れるのに恐怖して、いつの間にか動くようになった手で
雌の手を握り、さらには目をぐっと閉じていた。

 

「怖いですか?
 はぁ…大丈夫、です。
 怖がってたら、もっと気持ち良くなれないですよ?
 ほら、心を解き放ってください。
 全てに正直に。
 ただ、快感を受け入れさえすれば良いのです。」

 

上に乗った雌が、額から顎へと清将の顔を撫でた。
まるで、母親に撫でられたように安心できる、不思議なものだった。
安心したと同時に、何度も何度も襲い来る快感の嵐に、
清将はただ悶え、喘ぐばかりであった。
息遣いは荒くなり、快感は激しくなり、肉棒は襞に擦られその大きさを増していく。
それに気が付いたのか、雌は腰の運動を少しずつ速く、深くしていく。

 

「はぁ、はぁっぁ…!」

「気持ちが良いですか、清将様ぁ…。
 私は…とても、気持ちい、いです…ぅ。」

 

にゅぷっ、にゅぷっ。
順番に大きくなる卑猥な音は、さらに彼らを快感の頂点へと追い詰めようとする。
興奮が興奮を呼び、それが性器に更なる力を与える。
肉襞は、肉棒を締め付けながら、絞るように、慰めるように、
優しく包み込むかのように、吐き出される何かを待つ。
絶頂はもう遠くは無い。

 

「はぁぁ…っ!
 何かぁ…が、来るっ!
 で、出そう…だっ!」

「分かり、ましたぁ…。
 速度を上げて、最高に…気持ちよく、して差し上げますね…!
 出したい時に、出して、ください…。」

 

腰の動きの速度が、極端に上がる。
音はもう腰と腰がぶつかっているだけなのに、弾けるような音になっている。
襞が絡み、猛りから放出されるのを欲していた。
絡み、締め付け、絞る。
そんな感覚を秘めた肉襞が、速度を上げて清将を攻め立てる。
逃れようの無い、雷のような快感に溺れ、
ついに絶頂が見えてきた。
本人は気付いていないが、彼自身の体にまで落ちてくる程の量の
先走りが放たれていた。

 

「くぅ…っ!
 も、もう出るぅっ!」

「はいぃっ!
 出して、くださいぃっ!」

 

絶頂に達し、次から次へと熱い流動が放出されていく。
血脈に合わせた放出は、一回一回が力強かった。
どくん、どくん、どくん、どくん、どくん。
何度も弾け、何度も雌の中を白く染め上げる。
絶頂の快感に終わりが無いかのように、何度も何度も放たれていった。

 

 

「わ、わあぁぁぁぁぁあっ?!」

 

そこで、目覚める。

 

「え、え?!
 今のは、何?!」

 

未だ夢と現実が区別できず、何が何だか分からない清将。
しかし、目の前に雌がいないことから、
ゆっくりと現状を飲み込んでいったのだった。

 

「そ、そうか…。
 今のは…夢か。
 昼間にあんなの見たから、変に現実的な夢を見てしまったじゃないですか…。
 感覚だって、本物みたいに…。
 今でも何故か、暖かい感覚が…。
 感覚?
 いや、これは実感だけど…。」

 

不審に思い、ゆっくりと股間に手を触れてみる。
するとそこは確かに熱を帯びていた。
粘り気のある、臭いの強い液体が纏わりついていた。

 

「えぇっ?!
 な、何で…!
 ま、まさかあの夢のせいで…。」

「どうされました、殿!!!」

 

と、混乱している間に爺が到着。
起きたばかりの清将は汗だくで、明らかに上気している。

 

「と、殿!
 一体どうされ」

「ちょ、ちょっと爺!
 お願いだからそこから近くに寄らないでくれ!」

 

本能的に見られたくないと感じ、爺に制止をかける。
が、お構い無しに近寄ってくる爺。

 

「そんな!
 爺は殿のご様子がおかしいから心配で心配で!
 ほら、こんなに汗ばんでしまって…。
 布団を脱いでしまわないとなりません!」

「あ、あぁっ?!
 い、今はだ」

 

制止をさらにかけようとし、実力行使で排除される掛け布団。
爺の目に飛び込んできたのは、股間を熱気だった液体が濡らし、
さらにそこに苦しそうに勃起している清将の性欲の表れ。
それに加え、ひどく若々しい精液の臭い。

 

「あ…。」

「こ、こらぁぁぁぁぁぁぁ!
 爺!
 だ…だから…近寄るなと…。」

「お、おおおお…。」

「…?
 爺?」

 

爺の様子がおかしい。
わなわなと震えているのは、一体何故か。

 

「おめでとうございます!!!」

 

と思った瞬間に、次に出たのは大きな声での祝いの言葉だった。

 

「は、はぁ…?」

「殿、ようやく精通を果たしたのですな?!
 殿がいつ性的なことに目覚めるかと、陰ながら冷や冷やしておりましたぞ!」

「…え?」

「殿、精液を出されたのは初めてでございましょう!」

「ま、まぁ…。」

「今宵は宴にしましょう!
 祝宴じゃ!
 殿のご成長を祝うのじゃ!
 それでは殿!」

 

一人で興奮して、疾風の如き速さで部屋を出て行く爺に取り残され、
状況がまったく飲み込めない清将だった。
そして出た言葉は、

 

「あの…着替え…たいんですが…。」

 

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