禁忌の間

〜初交の間〜

 

 

「ねぇ、夕(ゆう)君。
 もう明日だよ?
 明日、私達…ここを出ちゃうんだよ?」

「そうだなぁ…。」

「明日から…ここを離れた生活…。
 ちゃんとやっていけるかなぁ…。
 夕君はどう思う?」

「さぁ…、何とかなるんじゃないかな。」

「夕君、本当に人の話聞いてる?」

「うん、聞いてるよ。
 ちゃんと分かってるさ、大丈夫。」

「本当かなぁ…。」

 

いつものように、二人は夕日を見つめていた。
赤銅の空が、暗い群青へと姿を変えていくこの時間帯。
時に、空しさを覚えるような風景だった。

 

「私達、ちゃんとやっていけるかなぁ…。」

「大丈夫だって。
 僕ら、ここでずっと遊んでたわけじゃないだろ?
 家事は一通りできるし、あとは職につければばっちりだ。」

「そっか…。
 そういえば夕君がいるんだっけ。
 だから、きっと上手くやっていけるよね。
 そうでしょ、お兄ちゃん?」

「あぁ、お兄ちゃんに任せとけ!
 …でも、男としても頼って欲しい…なんて。」

「え?
 今何か言った?」

「いや、何でも…無いよ。」

 

一陣の風が、砂を巻き上げ、草原を撫でていく。
まるで、二人との別れを惜しむように。

晩御飯になり、最後の共にする夕飯の時間を過ごす。
まだ十にも満たない女の子は、夜慧の話を聞いて和気藹々とする。

 

「ねぇねぇ夜慧姉ちゃん、どこに住むのー?」

「んっとねー、あなた達にはちょっと遠いところかもしれないなぁ。」

「えー!
 あたし、夜慧姉ちゃんのお家遊びに行きたーいー!」

「あたしもー!」

「そうね…。
 もうちょっと大きくなって、一人で街を歩けるようになったら、ね?
 いつでも待ってるから。
 それからもっと大きくなったら、お化粧を教えてあげるね!」

「え?ほんとー?!
 じゃああたし、早く大きくなるー!」

「あたしも大きくなるー!
 それで、夜慧姉ちゃんみたいになるー!」

「はははっ♪
 頑張って大きくなってね!」

 

一方。
男の子は男の子で集まり、夕と元気に話をしていた。
ちなみに、男の子の方は女の子と違い、
食べながら話ではなく、すごい勢いで片付けてからだった。

 

「なぁ兄ちゃん、知ってる?
 街ってさー、夜になるとお化け出るんだぜ?
 兄ちゃん、きっと腰抜かすと思うなー。」

「おーまーえー。
 兄ちゃん舐めすぎだろ!
 僕はお化けなんか信じてないから怖くないっての。」

「ホントかなー。
 確か去年、兄ちゃん、肝試しで」

「分かった、僕が悪かった。
 だからその話はするな。」

 

年上の威厳が崩れ去る瞬間であった。
ちなみに肝試しの話とは、去年のことだ。

去年の花火大会の後、孤児院で肝試しが行われた。
孤児院からちょっと離れたお寺まで行き、
そこに置いてあるお札を持って帰ってくるという単純なものだが、
途中で墓地を通らなければいけない。
勿論、お化け役として何人かが選ばれ、
そこで待機することになっている。
そしてそれは起こった。

夕と夜慧の二人で肝試しに行っていた。
最初は何ともない、と言っていた夕だが、
次第に怯えていたのは丸分かりだった。

 

「夕君、やっぱり怖いの?」

「こ、ここここ、こここここここ怖くなんか、無いぞぉ!
 ちょっと暗くて不安になってるだけだもん!」

「それ、怖いってことじゃ…。」

「だぁぁぁぁぁぁ!
 怖いって思ったら本当に怖くなるから、その言葉は言っちゃダメ…!」

 

夜慧に支えられながら、何とか寺まで辿り着いた。
寺の祭壇にあるお札を一枚取ると、そそくさとそこを後にする。
そして安堵。

 

「なーんだ、やっぱり大したことないじゃないか!」

「…さっきと全然違うこと言ってる…。」

「う、うるさいなぁ。
 僕はちょっと…目に見えない系統は苦手なんだよ!」

「そんなことはずっと前から知ってますよ〜。
 ほら、帰ろ♪」

「う、うん。」

 

寺から墓地に出て、なるべく他人の墓を避けるようにして歩く。
墓地の道は結構長く、一本道なのに暗闇で先は見え難かった。
それでもゆっくりと、慎重に進む夕はさぞ滑稽なものだったのであろう。
夜慧はほぼ常にくすくすと笑っていた。
ついに、墓地を抜ける、そう思った瞬間だった。

 

「ばぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

孤児院の子供数人の襲撃。
白い布を被ったものがいきなり目の前に躍り出した!

 

「わ、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

それに驚いた夕が、思い切り横に飛び退いた。
それと同時に昏倒。
ついには口から泡を出して気絶してしまった。

 

「ゆ、夕君?!
 夕君!
 大丈夫?!
 しっかりして!!!」

 

…という話があった。
以降、夕のお化け嫌いは孤児院全体に伝わったと言う。

話は戻る。
一人の、いつも気弱そうな少年が、夕にぼそりと問いかけてきた。
その少年は年にして十二。
そろそろ色々と気にし出す頃だった。

 

「あ、あのさ、兄ちゃん。
 後から個人的に話があるんだけど、良いかな?」

「ん?
 良いよー。
 じゃあ後から僕の部屋おいで。」

「う、うん、ありがとう。」

 

そして、夜は更ける。

明日の荷物の確認をしていると、部屋の外に人影。
あ、きっとさっきの彼だろう。
そう思い戸を開けると、やはりさっきの少年が廊下をうろうろとしていた。

 

「あ、兄ちゃん…。」

「ん?どうした?
 ほら、中に入りなよ。
 こんなところで突っ立ってなくても良かったのに。」

「あ…、何か…入りづらくて。」

「いつもは普通に入ってくるのに、か?」

「そ、それは…。」

「ま、良いや。
 とりあえず、そこに座りな。」

「うん。」

 

とりあえず布団の上に座らせ、夕はいつもの自分の座布団に座る。
どこかそわそわしているのが、妙に変だ。

 

「で、翔。
 何かあったのか?」

「んっとね…。
 あ、誰も聞いてないよね?」

「用心深いヤツだなぁ。
 みんな個室だろ。
 それに、今頃お前より年下はもう寝てるもんだから。」

「そ、そうだよね…。
 あ、あのね、実は…相談があるんだ。」

「ほぉ…。
 まさかそんなことで来るとは思わなかったよ。
 どうしたの?」

「…。」

 

もじもじしてばっかりで、なかなか本題が出てこない。
その様子を見て、夕が思いついたのはある一つの答えだった。

 

「あ、分かった!
 誰か好きな子ができたんだろ!」

「ち、違うよ…ぉ。」

 

見事に外れた。

 

「じゃあ何だ?
 ほら、言わないと先に進まないだろ。」

「じゃ、じゃあもう言うけど…。
 兄ちゃんさ、…硬くなったこと、あるよね?」

「何が?
 …ってあぁ、分かったぞー?
 お前、何で悩んでるかと思ったらそのことか♪
 それで?」

「に、兄ちゃん、質問に答えてよ!」

「えー…。
 まぁ僕も男だしな、体も大分成長したし。
 硬くなったことなら何回もあるよ。」

「そ、そっか。
 そ、それで、最近ちょっとやらしいことを考えると、
 すぐに僕の、硬くなっちゃうんだ。
 どうすれば良いかなぁ…?」

「うーん…。」

 

さて、ここで何を教えよう。と思案する。
少し考えて、ここで妙案が浮かんだ。

 

「あ、そうだ。
 これ、知ってるか?
 …って知るわけないか。
 多分これをやれば、そうなっても抑えられるはずだけど。」

「え…?
 何かあるの?」

「うん、簡単な話さ。
 ちょっとむらむらっと来ちゃうってことだろ?
 それを放出すれば良いってこと。」

「どうやって?」

「そうだなぁ。
 硬くなっちゃったら、自分の部屋で誰も居ないことを確認して…。
 それから、下着を脱ぐ。
 で、硬くなったものを、こうやって扱くようにするんだ。」

 

手でその動作を表現してみせる。
翔はその話を、かなり興味津々に聞いていた。

 

「そ、そっかぁ…。
 でもそれ、よく分かんないなぁ…。」

「えー…。
 困ったなぁ、これ以上教えようが無いぞ。」

 

そして、この悪魔(こども)は恐ろしいことを言う。

 

「じゃあ兄ちゃん、ちょっと…見せて。」

「えっ?!
 い、いやいや!
 これは人に見せるためのものじゃないからな?!
 分かってるだろ?!」

「う、うん…。
 でもおいら、よく分かんないし…。」

「だ、だからって僕の見せるわけにはいかないじゃないか…!」

「じゃ、じゃあ…。」

「じゃあって、何か他に考えがあるのか?」

「うん。
 恥ずかしいけど…、僕の、して…。」

「は、は?
 うーん…。」

 

果たして、自分は年下にこんなことを教えて良いのだろうか。
そんなことを考える夕だったが、そういえば自分も年上に教えてもらったことを思い出す。
今の翔のように、自分の性について聞かされた覚えがあった。
そして…。

 

「ま、僕もそうやって教えてもらったからなぁ…。
 じゃあ、僕らも明日出るし、これは遺産として残していこう、うん。」

 

という、わけの分からないの自己解決。

 

「仕方ないなぁ。
 ほら、じゃあ下着脱いで。」

「え?!
 ここで?!」

「ここで?!って、脱がなきゃできないじゃないか。」

「そ、そっかぁ…。」

 

ようやく納得したようで、着流しの帯をするりと解き、
さらりと着流しを脱いでいく。
そこに現れたのは、まだ少年の体つきをした翔だった。
…風呂でよく見かけていたが。
そしてその下、褌の前部分は…。
若干不自然な盛り上がりがあった。

 

「ん?
 もう硬くなっちゃったの?」

「あ、見ちゃだめ…。」

「って、恥ずかしがってたら、この先どうするんだ…。」

「う…。
 じゃ、じゃあ恥ずかしくないように、兄ちゃんも脱いでよ…。」

「…ん?」

 

今、翔は何と言った?
恥ずかしいからお前も脱げ、と?
確かに翔は夕にそう言った。

 

「…でも僕が脱いでも、あんまり…なぁ?」

「じゃ、じゃあ僕、脱がない…。」

「じゃ、じゃあ僕、教えない…。」

「兄ちゃんのいじわる…。」

「…はぁ、分かった、脱いでやる。
 このこと、内緒だぞ?
 勿論夜慧にも。」

「うん。
 ありがと、兄ちゃん…♪」

 

夕も、手馴れた様子で着流しを脱ぎ、そしてあっという間に褌だけの姿になる。
やはり翔とは違い、青年の体になっている夕は、それなりにたくましさがあった。

 

「うわぁ…、兄ちゃん、男っぽいなぁ。」

「いや、それ以前に男だからね?
 ほら、ここまで脱いだんだから、翔も脱いじゃえ。」

「うん…、僕脱ぐ。」

 

恥ずかしながらも、ついに下着に手をかける。
結び目を解き、ゆっくりとその褌が解かれていく。
そこから現れたのは、少し大人になり始めた陰茎。
同じく犬の種類である子だから、夕にはよく分かった。
股間に生えている、体毛とは違う毛質、色の毛。
間違いなく陰毛であった。
範囲こそまだ狭いが、確実にそれは育っていた。
そして、それの中央にそびえる、翔の陰茎。
まだ皮は剥けておらず、ピンクがほんの少し先に出ているのが確認できる。

 

「ふむ。
 まぁ良いんじゃないか?
 良い感じに成長してるじゃん。」

「そ、そっか、…嬉しいな♪」

 

この少年は、あまり喜ぶ顔を人に見せない。
楽しくないのか、ただ単に見られたくないか…。
理由は分からない。

 

「よーし、んじゃちょっと横になってみろ。
 これからすることを覚えるんだぞ?」

「うん、分かった。
 …よいしょ。」

「じゃあ…触るぞ?
 良いか?」

「うん…。」

 

そっと、夕は翔の猛りに触れる。
あ…っ、という声が、自然と翔から漏れた。
何かに耐えるように、歯を食いしばっている翔は、あまりにも初々しかった。
やがて、夕の手が翔の全てを包み込む。

 

「…うん、なかなかの硬さだなぁ。」

「ふぁぁー…。」

「じゃ、これからやることをよく見てるんだぞ?
 これを、こうやって上下に…。」

 

ゆっくりと、夕の手が上下に動き出す。
それは翔にとって優しく、緩やかに。
徐々に押し寄せる快感に、翔は身を悶えさせるしかなかった。

 

「ぁ…、ふぁ…。」

「気持ち良い?」

「分かんないけど…、力が…入らないぃ…。」

「そっかそっか。
 とりあえず、こうやってやるんだぞー?
 分かったか?」

 

ちょっと意地悪に、途中で手を離してみる。
すると、やはり予想通り。
翔はもっと物欲しそうな目で、じっと夕を見つめていた。

 

「兄ちゃん…?」

「どうした?」

「もっと…してくれないの…?」

「もうやり方は分かったよなー?
 だったらもう自分でできるだろ。」

「そ、そうだけど…。
 に、兄ちゃんにやってもらう方が…良いと思う。」

「うーん、でもなぁ…。」

「あれ…?
 兄ちゃんのここも、硬い…。」

「って、どこ触ってんだ!」

「僕…、兄ちゃんの、見たいな。」

「えー…。
 まぁもう良いか。
 じゃあ…。」

 

渋々、夕も自分の褌に手をかける。
目の前に現れたものに、翔は若干戸惑っていた。

 

「これが…兄ちゃんの…。」

 

そこには、翔のとは違い、ほぼ成長しきった姿があった。
股間にはたくさんの色の濃い毛が溢れており、
その中央にあるのは、硬く、剥けきった陰茎が空気を貫いていた。

 

「うわぁ…おっきい…。」

「そんなに大きいわけじゃないけどね。
 ただ単に、それは翔と比べてってだけ。
 じゃ、こっちは続きをしようか。」

 

見せるのも程ほどに、離していた手をもう一度翔に重ね合わせる。
そして、一連の動作を再開。
また快感に身を任せる翔だが、今度は夕のものを握っていた。

 

「こ、こら!
 握っちゃダメだー。」

「はぁ…何で…ぇ?
 僕、兄ちゃんの、触ってぇ、たいなぁ。」

「…もう、好きにしろ。」

 

とりあえず、放置。
一応自分で鍛えている、というか定期的に抜いているので、
それなりに持久力はある。
だから、初心者の翔にいくら触れようと耐えることができた。
それに、翔の方に意識を集中すれば、別に耐えられなくはなかった。

手の動きを少しずつ早めていく。
最初は目を瞑って、歯を食いしばるだけの翔だったが、
順番に息は荒くなり、ついには口を開けて涎を垂らし始めた。
顔は紅色に染まり、目は半開きでどこか妖艶だった。
そして、何より翔の陰茎は、この上も無いほどびくびくとしている。
終わりは近い。

 

「に、に、兄ちゃ。」

「ん?」

「小、便、漏れちゃう、かもっ。」

「大丈夫。
 出したくなったら言えよ?」

「う、う、う、うん。
 で、でも、もう、で、出ちゃう…。」

「我慢してるのかー?
 しなくても良いって♪
 ほらほら。」

「あっあぁ、も、もうだめっ!
 漏れるぅぅっ!」

 

最高潮に息を荒げ、顔を紅く染め、ついに絶頂を迎えた。
快感を知らなかった体は、ついに大人への階段を上る。
大きく、びくんと痙攣すると、翔の陰茎からは濃厚な白濁とした液が射出された。
びゅるるっ!と勢いを立て、何度も翔自身と夕の手を白で埋め尽くしていく。
何度も放たれ、何度も脈打つ。
そこには、確かに男…いや、オスを感じることができた。
ゆっくり、そして静かに収束していく。
やがて、長かった射精は終わった。

 

「あぁ…。」

「よーし、よく頑張ったな♪」

「ふぇ…?
 でも僕…漏らしちゃったよ…?」

「これは漏らしたんじゃなくて、出ちゃったんだよ。
 いや、一応漏らしたで合ってるのか。
 ほら、自分で見てみなよ。
 これ、白いだろ?」

「…本当だ…。
 それに、何だかとっても粘り気がある…。」

「これは精液って言って、要するに赤ちゃんの素だな。
 これが出るようになると、男は大人の体になったって分かるんだ。
 しかもこれ、出すと気持ち良いだろ?」

「よ、よく分かんないけど…うん。」

「だから、今後は硬くなっちゃったらこうやってすると良い。
 分かったか?」

「分かった…、ありがと、兄ちゃん。」

「どういたしまして。
 さ、この手ぬぐいで拭いて…。
 今日は風呂入ってもう寝ると良いさ。」

「うん…。
 じゃ、じゃあおやすみ、兄ちゃん!」

「あぁ、おやすみなー。」

 

そうして、性の快感を知った者がまた一人増える。
気が付けば、自分は全裸のまま何をやっているんだろう、なんて考えたりもする夕だが
次の瞬間に意識は飛んだ。

 

「夕くーん、あのねー…」

 

「「あ…」」

 

わずかな静寂。
夕が目にしたのは、呆然とする夜慧の姿。
夜慧が目にしたのは、手には白い液体をつけたまま、
股間には未だ硬く大きくなっている、もうひとつの夕の姿。
時は止まる。

 

「あ、あのだな…。
 これは訳があってだな…!」

「お兄ちゃん…こんな時でも元気、なんだね…。」

 

妙に気の利いた言葉が、逆に夕を焦らせる。

 

「話を聞いてくれ、夜慧!
 僕はさー」

「う、うん、分かってるよ…。
 しゅ、手淫をしてた…んだよね…?」

「いや、それはそうなんだけど、そうじゃないんだ!」

 

関係ないが、よくこの状況において、
夜慧は兄の陰茎を見たまま平常でいられるものだ。
普通の女子なら卒倒ものである。
しかしそれは、夜慧が見ているのは兄だからであって、
それならば許容できると思っていた。

 

「あ、あの…。」

「ねぇ、夕君…。」

「…ん?」

「して、見せて。」

「え?」

 

おかしなことを言うものだ、と夕は思った。
まさか夜慧がそんなことを言い出すなど、思ったことはなかったからだ。

 

「私…、よく分かんないけど…。
 夕君がしてるところ、見てみたいな…。」

「で、でも…。
 夜慧…そんなの、見たいのか…?」

「何か…そう思っただけ…。
 いや?」

「は、恥ずかしいけど、別に嫌じゃ…。」

「私もすれば…おあいこ…?」

「え?」

 

今日の夜慧はおかしなことを言う。
いつもはこんなことを言う子じゃなかったはず。
何か理由があるはずだった。

 

「夜慧…今日、おかしくないか…?」

「私…?
 私も、そう思う…。
 でも、もう熱いの…。」

「へ?」

 

目の前で、夜慧が着流しを脱いでいる。
その状況で、既に夕は正常な思考が働かなかった。
そのままの勢いで、おもむろに夜慧を布団に押し倒す。

 

「だーめ。
 手でするだけ…。」

 

ちょっと残念に思うが、今考えればそれもありかな、なんて思う夕だった。
この至近距離になって、ようやく気が付いたことがあった。

 

「夜慧、どっかで酒入れられたな…。」

「お酒…?
 覚えてないけど、院長先生が飲んでたお水をもらったら、
 急に気分が高揚してきて…、体が熱くなってきて…。」

 

院長は一体何をしているのであろうか。
そんな疑問を抱きつつ、既に着流しを脱いでしまっている夜慧を目の前に、
疑問はどこかに吹っ飛んでいく。
酒の効果が相まって、妖しく艶やかな夜慧の姿は、
夕にはかなりそそられた。
先程萎えてしまった陰茎は、それ以上の力で跳ね上がっていた。

それを横目で見ながら、夜慧はついに自らの手を陰部へと持っていった。
既に潤いを得ていたそこは、簡単に指の進入を許した。

 

「ぁぁ…。
 夕君、見てる…?
 私、こんなにも…濡れてる…。」

「わぁ…。」

 

実はこの時、夕は女性器を見るのが初めてだった。
初めてみたそこは、ひだの多い花のように思えた。
好奇心から、夕はちょっとそこに触れてみる。
少し触れただけなのに、そこはとても暖かかった。

 

「夕君…触ってくれるの…?
 じゃあ私は…夕君の、触ってあげる…。」

 

お互いが向き合うようにして座り、お互いが見えるように陰部を見せつけ、
さらにはお互いの性器を弄りあう。
とても艶やかな光景だった。
夕は、よく分からなかった。
夜慧も男性器は見たことが無いはず。
なのに、その手淫の技術はそれなりのものだった。
刷り上げられていくたびに、快感が迸る。
夕の赤い猛りからは、少しずつ喜びの涙が零れ始めていた。
それは夜慧も同様。
夕に触れられるだけで、それは快感に変換されていった。

 

「あぁ…どうだぁ…夜慧…。
 気持ち…良いかぁ…?」

「うんっ…気持ちい…いよ…ぉ。
 夕、君は…?」

「僕も…気持ち良い…。」

 

お互いが、お互いを導きあう。
二人が辿り着く場所は同じ。
ただそこに向かって、興奮を高めるだけ。
興奮は最高潮に高まり、見えるのは頂。

 

「なぁ…夜慧…ぇ…。
 僕、もう…出そう…なんだけど…。」

「私…も…、もう…。
 一緒に…、一緒に…。」

「分かった、一緒に…行こう…。」

 

その声を合図に、より激しく、優しく、お互いの性器に刺激を与える。
そして、若干夕が早く、絶頂を迎えた。

 

「で、出るぅっ!」

 

赤色の獣が飛び出したのは、白く濃く粘り気のある液体。
飛沫となって、夜慧を汚していく。
夕が絶頂を迎えた直後、夜慧も後を追った。

 

「あんんっ!!」

 

ぷしゃっという音と共に、夕の手いっぱいに愛液を広げた。
まさに、愛情の分だけだった。
それは、手に余るとも言い換えられなくも無かったが。

 

お互いが絶頂を迎えると、二人はそのまま、寄り添い合って同じ布団で夜を過ごした。
そして、気が付くのである。
出発前に何をしていたか。
この状況は何なのか。
これのせいもあり、後々色々なことが起こった、のかもしれない。

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