遠い昔

10.現代

 

あまりに現実味を帯びすぎている夢だった。
私が、アメリア・フローライト・ブルーデンスだった頃の夢。
数々の迷走。
愛ゆえの暴走。
その結果が、友人による抹消。
ステアさんとの一件で、全てを思い出したように思っていたけど、
それは間違いだったと気がついた。
私の、あの時の異常な攻撃性が、直前までのアメリアの記憶から
来ていたことを知った。
許せないものを破壊したい。
たった、それだけの衝動だったんだ。
だから、私はあの時…同じように狂ってしまったんだね…。

枕元のデジタル時計は、現在が5時であることを伝えてくれる。
今朝は…ちょっと寒い。
でも何となく、ベッドの外へと這い出て、
窓から見える景色を一望してみた。
…うん、間違いなく、現代だ。
さっきまで見てた夢の中とは違う。
眼下に広がる人々の家は、あの時代のものとは明らかに違う。
人々が、平和に暮らしていることがよく分かる。
どこかから聞こえてくる、一日の始まり。
でもそれは…彼女達が目指した平和とは、違うんだな…。
そう考えると、何となくセンチな気分になってしまう。

 

「…ん……?
 レナ…?」

「あ、起こしちゃった?
 おはよう、ミーちゃん。」

「…アー…ちゃん?」

「え?」

 

突然、かつての私の愛称を口にするミーちゃん。
何故、それをミーちゃんが知ってるんだろう?
…まぁ、今回の夢で、何となく理由は分かってるけど。

 

「あれ…?
 レナ…だよね…?
 んぅ…。
 あれ?…あれ?
 僕、兵隊じゃないよね?
 ケガとかしてないよね?」

 

うん、やっぱりだ。
こういう気はしていたけど、やっぱりそうだったのね。
あの場所にいたミーちゃんと、今目の前で眠そうに、
だけどワケの分からなさそうにしてるミーちゃんの中身は
同じ人だったということよね。
姿まで似る、なんて思いもよらなかった。

 

「ミーちゃんも…昔の夢を見てたの?」

「昔…。
 あれって、昔…なのかなぁ?
 なんだか、すごく遠いお話だった気がする。
 よく分かんないけど、すごく痛かった気がする!」

「あはは♪
 そっか…。
 やっぱり貴方は…ミハルクだったのね…。」

「ミハルク…。
 さっきの夢で、そんな名前で呼ばれてた気がするなぁ。」

「ねぇ、ミーちゃん。
 その夢のお話、して欲しいな。」

「えーっと…なんだかよく分からないけど…、うん。」

 

ミーちゃんの話し出す夢の内容は、まさに先程まで見ていた、
私の夢と完全にリンクしていた。
城から出兵して、戦線まで行って、奇襲を受けた。
その最初と最後に、私と同じような姿をしたアメリアを見たと言う。
さらに、アメリアとは深い恋仲だった、ということを
恥ずかしそうに喋っていた。
ちょっと、可愛い。

 

「でもまぁ…これで分かったんじゃないかな?
 ほら、時々懐かしい気がする、とか言ってたでしょ。
 だって私たち、すごく前の時代に会ってたんだもの。
 今と同じように、こうして、ね?」

「うん…。
 何だか…恥ずかしいなぁ。
 いつもなら、夢かーって終わるところなんだけど、
 これって実話だったんだねー。
 うぅ…ん…。

 僕は昔のことを覚えてるわけじゃないから、
 よく分かんない。
 でも、こうして一緒にいられるのは嬉しいよ!
 ありがとう。」

 

にまっ、という擬音が似合うような笑顔で、
ミーちゃんは私を見つめてくれる。
何かもう、私、だめかもしれない。
さっきの夢の感覚が混ざって、より一層ミーちゃんが素敵に見える。
アメリアはこういうの、多分苦手だったんだろうなぁ…。
いつも気丈に振舞っていたから、こんな素直な態度をされると
つい皮肉を飛ばしちゃったりとか。
彼女、エニスのことをツンデレとか言ってたけど、
アメリア自身もツンデレなんじゃないかと私は思う。
まぁ、そんなの今はどうでも良いけど。

そうだ、エニスだ。
今まで忘れていたけれど、エニスの精神だって
どこかで受け継がれているはずだ。
エニスという人格は消えてしまっているかもしれない。
けれど、私は彼女に謝らなくちゃいけない。
私がしてしまったことを。
彼女に押し付けてしまったことを。
誰でもない、エニスにだけは…しっかりと謝らないと。

私は、ミハルクが死んでしまった後の話を、
アメリアが死んでしまった時のことを、ミーちゃんに話した。
その中で世話になった、エニスのことも含めて。
そっか、と頷く彼は、私と同じ気持ちで同じ意思を伝えてくれた。

 

「じゃあ、エニスさんを捜そうよ。
 今は名前が違うから分からないかもしれないけど、
 レナがそうしたいなら僕も手伝う!
 でも…どうやって調べたら良いんだろう…?」

 

その答えを、私は知っている。
確証はないけど、すがるしかない。
曖昧だけど、それだけが頼りの情報源。

 

「一応、心当たりが無いわけじゃないの。
 ほら、神学書ってあるでしょ?
 いっぱい昔のことが書いてある本。
 それに数世代前までだけど、各国の王が誰の能力を継承した人か
 ってことは書いてあったと思うわ。
 もしエニスの能力を引き継ぐ人が同じ国の王になっていたとしたら…。」

「そっか!
 今もその国の王様が、エニスさんの力を引き継いでるってことになるね!」

「そういうこと♪
 でも、神学書にはあやふやな部分も多いって話だから…。
 飽くまで、可能性の一つって考える方が良いのかも。
 ユリアン先生が詳しそうだから、先生にも話を聞いてみた方が良いかもねー。」

 

って言っても、今日は日曜日。
学校に行っても、先生がいるかすら分からない。
…でもまぁ、

「彼氏?
 そんなのめんどくさいから要らないわ。
 遊び相手ならいっぱいいるもの。」

なんて言ってる先生だから、きっと学校か家のどちらかだろう。
遊びに行ってる可能性もあるけど、それは考えない。
学校に行っていなければ、家に行ってみるしかない。
だから、学校に行ったら図書室で神学書を読んでみて、
その後先生の住所を調べることにした。
でも、今はまだ朝も早い。
とりあえず、寝よう。

窓側から暖かい布団に戻り、潜り込む。
ついさっきまで寝ていたミーちゃんの温もりで、
何となく優しい気持ちになれる。
こんなこと言うのもなんだけど、やっぱり人肌は良いと思う。
この感覚を忘れず、魔眼の力も使うことなく、
ミーちゃんとずっと一緒に、幸せに暮らして生きたいなぁ。
だってそれは、遠い昔からの夢だったのだから。

 

「えへへ、あったか〜ぁい♪」

「ひゃぁ!
 レナの足、冷たーい!
 仕方ないなぁ、僕が温めてあげるよ♪」

 

今のセリフはさすがにクサいけど、
ミーちゃんだからしょうがない。
こんな仔だから、私は好きなんだし。
二人でお互いを抱くようにして、私たちは再度眠りについた。

 

昼過ぎになってようやく目覚めた私たちは、
予定通り学校の図書館に向かった。
図書館奥の棚にある神学書の十一編のうちの
最後の編である、エニスが書き綴ったものを読むために。
エニスの文章は、とても彼女が書いたとは思えないような固い文体で
少しだけ新鮮な印象を受けた。
その本の最後の何十ページかには、彼女ではなくその後の王が
続きを書いた文章がある。
私たちの望む情報があるとすれば、きっとそこにあるはずだ。

三十分ほどで、それは読み切れてしまった。
というのも、案の定情報が古すぎたから。
最新の情報である最後のページには、なんと五十年も前の王の
履歴しか載っていなかったのだ。
この五十年で、各国の王は全員変わってしまっている。
ところによっては、その次の王になってしまっている。
そんな履歴が、役に立つはずはなかった。
たった一つの情報を除いては。

 

「どうも最近のエニスは、今で言うクレアドル公国の王になっているみたいね。
 エニス、って言うより橙華の魔眼を受け継いだ人ってことになるけど。」

「なるほど〜、クレアドル公国かぁ…。
 って、クレアドル?!
 それ、レナのお家があるところじゃんか!」

「うん、そうね。
 なんか…皮肉っぽいなぁ、こういう設定。
 ありがちというか…。」

「???」

 

とまぁ、ミーちゃんも顔からハテナ出すようなセリフを吐く私。
うん、私も十分よく分からないから大丈夫よ。
そんなこと言うと、

「何が大丈夫なの?!」

とか言われそう。
その反応を見たい気もするけど、今は敢えてやめとこう。

 

「ただ、今もクレアドルの王なのかは分からないわ。
 これを読む限り、転生先の人の出生地の王になることが多いっぽいから、
 必ずしもクレアドルにいる、とは言いがたいね。」

「うーん…。
 じゃあ、やっぱりユリアン先生に助けてもらうしかないかー。
 先生の住所って、職員室で他の先生に聞けば分かるのかな?」

「ミーちゃん、今日は日曜日。」

「???
 うん、そうだけど…それがどうかした?」

 

えーっと…。
どうやら、何か前提を勘違いしてるみたいだ。
確かに学校にいるかもしれない、と言ったのは私だけれど
普通休みの日に、律儀にも先生に徹している人はいない。
ユリアン先生がアウトローっぽいから、可能性の一つとして
学校にいるんじゃないかなぁ、なんて思ったわけだ。
つまり、他の先生たちはほぼいないわけで。
警備の人と図書館管理の人しかいないわけで。
運が良くて、部活動の担任の先生が運動場か練武場にいるか…。

さて、一体どこから突っ込もうか…。
苦い顔をしていた私の表情を見て、
重大な事実に気がついたっぽいミーちゃんは、
恥ずかしそうに照れ隠ししながら、どうしようどうしようと言っている。
状況的には、日曜日であることを失念していてどうしよう、ってことなのだが、
多分彼は、ユリアン先生の住所を他の先生に聞けないからどうしよう。
そう言いたいんだと思う。
まぁ、わたわたしてる仕草が可愛いから許す。

なんか、あの夢見てからミーちゃんを見る目が変わっちゃったなぁ。
きっと、あんな終わり方をしたミハルクの生まれ変わりなのだから、
守らなくちゃ、って意識してしまうのがあるのかもしれない。
そもそも、この仔は守ってくれるタイプじゃないから、
それは別に構わないんだけどね。
いや、ここぞ!という時には頼りになるのは確かだよ!
って私は誰に言い訳してるんだ。

 

図書の管理人に、偶然先生の電話番号を聞けた。
ほんとは守秘義務があるらしいんだけど、
ユリアン先生が相手なら良いでしょう、とのことだった。
あの先生、一体他の人からどんな風に思われてるんだろう…。
つくづく謎な先生だ。
っていうか、図書室の人が何で先生の電話番号知ってるんだろう。
多分、追求してはいけないことだと思った。
先生が、実はかなりモテることくらいは知ってたから。

 

 

「え?
 現在のクレアドル公国の後継者の能力?
 さぁ…調べて見ないと何とも分からないけど…。
 その前に、貴方達、私を古文書だとでも思ってるの?」

「先生、そういうのに詳しいじゃないですか。
 アメリアの話も、すごーくたくさん知ってましたし〜。
 尊敬です♪」

「ファーミット君、持ち上げてくれても何も出ないわよ?」

「大丈夫です、期待してないです。」

「…はぁ。
 貴方、明日は肩揉みしてもらうからね。」

「えー!
 そんなのやりませんよー!」

「私からタダで情報をもらえると思って?
 それが嫌なら、一日だけ私専属の執事にしちゃうわよ?」

「うぐ…。
 …はい…、肩揉みやります…。」

「よろしい。
 じゃあ悪いけど、先生の家まで来てくれる?
 そっちの最寄駅から、首都方面に五駅だから。
 一時間後に、こっちの駅で落ち合いましょう。」

 

 

電話を切り、学校を抜け、電車に乗って移動した。
約束の時間ちょうどに来たユリアン先生は、
やっぱり先生なんだなぁ…なんて実感する。
ミーちゃんとのやり取りを見ていると、
意地悪な年上お姉さん、というイメージが強い。
だから、待ち合わせも少し遅れてくるんじゃないかと
私は勝手に思っていた。
ちょっとイメージを改めなおさなくちゃ…。

 

「ファーミット君。
 私を使ったんだから、せめてお茶くらいおごりなさい。」

 

前言撤回しようと思った。
この人は真性サディストだ、きっと。

 

近場の落ち着いた喫茶店に場所を移す。
クリームソーダを注文するミーちゃんを笑いながら、
先生は机の上に数枚のレポート紙を出した。
ぱっと見るに、一枚は家系図みたいなものに見えた。
実質一時間にも満たないこの短時間で、
これだけの資料を集めるとは…本当にこの人は只者じゃない気がする。

 

「ちょいちょい調べてみたんだけど、エニス・アトラシア女王の能力は
 既に衰退してしまって殆ど残っていないようね。
 今のクレアドル公国の王は、形だけの王様みたいだわ。」

「え?
 じゃあどうやって王様に…。」

「それも調べてみたんだけど、先代からクレアドルは
 血筋で王位を継承しているみたいよ。
 でもそれでは影の魔導史実歴呈には反する。
 だから、補佐を何人も用意して、議会を設置して政治を行っているわ。
 二党制を組んで、現在の態勢を維持してるのね。
 公国とは名ばかりで、今は完全に民主主義国家。
 まぁ、今ではどの国でも二党制が基本なんだけどね。」

 

なるほど。
あれから500年も経ってるんだし…。
確か、調べた限りでは魂遺伝と人格転写の間の技法を使ってるようだから、
能力が薄れていくのは当然か…。
私はその説明で理解できるけど、ミーちゃんは分かってないようだった。
顔にハテナを貼り付けたような表情で、
一切分かってなさそう。
遠い昔の話も、ミーちゃん自身は殆ど覚えてないから
余計に話が見えないのだろう。

 

「あ、あの、すみません。
 影の魔導史実歴呈って…なんですか?
 神学書とは違うんですか?」

「まぁ…ファーミット君は知らなくて当然よね。
 この世には、神学書の元になった魔導史実歴呈という
 歴史書があったのは分かってるわよね?」

「はい。
 今では国の重要図書として厳重に保管されてる、ってとこまでは。」

「実はそれは表の魔導史実歴呈なのよ。
 本当にただの歴史書なの。
 一方、今後の国の方針や在り方など、未来に向けて書いた指導書こそ、
 影の魔導史実歴呈と呼ばれている書物ね。
 一般人には閲覧不可だから、私も読んだことはないけど…。
 存在だけは、研究室内では知られているわ。
 大まかな内容もね。」

「じゃあそれって影って言わないんじゃ…。」

「今となってはそうね。
 飽くまで国の方針がまとめられてるだけだからね。
 今はどの国も同じような態勢を取ってるから、
 まー、自然と内容が明らかになってきたって感じ?
 存在していて、無いが如し。
 それが影と言われるようになった所以よ。」

 

私、正確にはアメリアか。
彼女が編纂に関わっていないから分からないけれど、
あの時目指していたものと同じ方針だとすれば、
現在の安定した世界も理解できる。
ヒトと共存するという条件を除いては、全てクリアしているだろう。

って、話の本筋がずれてない?
私は、先生に単刀直入に聞いてみることにした。

 

「先生、エニスの魂の一片でも、今のクレアドルの王に
 残っているとは考えられませんか?」

 

うーん、と言いたげに悩ましげな顔をして、
珍しく手を顎に当てている。
その姿は、さながら推理に行き詰まった探偵のようだった。
我ながら、変なたとえだと思ってしまう。

 

「なるほど。
 貴女はエニス女王の精神に、何かを伝えたいわけね?
 だからこうして、私に調べて欲しいと頼んだ、と。
 その答えを聞きたがってる、そういうことね。」

「え…?
 ど」

「どうして分かるのかって?
 簡単な推理よ。
 

 そうね…。
 私が独断で考える、エニス女王の精神の残存確率は、
 …高くても5%かな。
 仮にあったとしても、当時のことなんて殆ど覚えていないと思うわ。
 それは貴女自身が、自分の中のアメリア女王のことを照らし合わせても
 実感できる数字だと思うんだけど。」

 

確かに、その通り…な気がする。
私の中にいるアメリアの人格は、あまりにも希薄だ。
むしろ、無いと言って良い。
彼女の人格は殆ど残っておらず、記憶・経験くらいしか
私には残されていない。
それが、500年と言う長い隔たり。
私の事例は、奇跡に近いレベルのはずだ。
魂に刻まれた呪を、他の使徒は時間と共にすり減らしていっているだろう。

ここから察するに、各国の王は魔法が使えるという認識は
いつの間にか刷り込まれていただけの情報に違いない。
現在魔法が使える可能性があるのは…何人かの王と、学長くらいか。
私の魔眼も、どうやらかなり力が衰えているみたいだし…。
いよいよもって、魔法の存在が薄れ始めてしまってるのかな…。
あの時代を今朝まで見ていた私にとっては、
少しだけ恐怖を感じた。
魔法が魔術に成り下がる、そんな事態になっているのは。

 

「それでは、エニスに会うのはもう不可能なんですね…。」

「できなくはないけど、きっと実現できるのは魔法だけね。
 私たちの力じゃどうしようもないわ。
 以上!
 私が短時間で調べた情報よ。」

「そうですか…。
 レナ…。」

 

私よりしょんぼりとした顔で、私を見つめるミーちゃん。
本当に…この子は優しすぎると思った。
ミハルクだった頃も、確かそうだと思う。
いつも、この人は他の存在ばかりを気にする。
でも、それがミハルクの良さだったし、ミーちゃんの良さでもある。
何となく、昔の面影を見ることができて、
少しだけ幸せになったような気がした。

 

「大丈夫。
 良いわ、また何か方法を考えてみる!
 先生、ありがとうございました!」

「良いのよ、別に〜。
 ブルーデンスさんには協力してあげなくちゃね。
 女同士なんだし、幻想種同士なんだし。
 ファーミット君には、当分は丁稚奉公してもらうけどね♪」

「そ、そんなぁー!
 ここのお金ももつのにですかー?!」

「良いわよ、ファーミット君。
 それでこそファーミット君。
 お礼よ。
 肩揉みは無しにしてあげる。
 それじゃ私は、愛人3号とそろそろ会わなきゃだから
 今日はこれでお暇するわね。」

 

なんかものすごいことを言った気がするけど、
まぁ気にしないようにしよう。
飲みかけのコーヒーを一気にぐいっと飲むと、
先生は軽い足取りでバァイ♪なんて言って去ってしまった。
まるで台風のような先生だ。

 

「すごい先生だなぁ…。
 大丈夫なのかなぁ…色んな意味で。」

「教頭先生に目を付けられてるのも、何となく分かる気がするわ…。
 いや、何となくとかじゃなくて、十分にはっきりと。」

「うん…。」

 

「今日は、付き合ってくれてありがとね♪
 今度クレアドルに帰る時に、また何かできないか考えてみる。」

「そっかー。
 じゃあ僕、またレナの家について行っても良いかな?
 僕も手伝いたいし!」

「うん!
 お願いね♪」

 

 

時は夕刻。
二人で川原を歩きながら、私は考えていた。
エニスとの別れの瞬間を。
失ってしまったミハルクとの瞬間を。
ヒトを消してしまった瞬間を。
本当にこれで良かったのだろうか?
そりゃまぁ、今が平和なのだから、あの時の行動は正しかったんだろう。
ただ…。
もし、あの時、ミーちゃんじゃなくて違う人が先遣に行っていたら…。
私はどうしたんだろう?
今とは違う世界になっていたんだろうか?
そしたら、私はあの時代でも幸せになれたのだろうか?
そんな、取りとめもないことが頭の中でぐるぐると回っている。
為政者って、あんなにも苦しいのかな…。
もし、私の存在が世間に晒されることがあったら…。
私は、もう一度あの場所に戻らなければいけないのだろうか?

ぼーっとしている私が珍しかったのか、
横からミーちゃんが不思議そうな顔をして見ている。
前に少しだけ天然って言われた私が言うのも何だけど、
むしろこの子の方が、よっぽど天然気質なんじゃないのかな?
っていうか絶対そうだ。
…なーんて考えてたら、さっきまで悩んでたのがバカみたいに思えた。
だって、私はアメリアじゃないもの。
私はレナ。
で、この子はミーちゃん。
それで良いじゃない。

確かに、あれは私の話だったけど、とても遠い昔の話でもあった。
今の私を縛るものは何も無い。
心残りなことは多いけど、いつかは清算してみせる。
だから、今は昔のことは忘れてしまおう。
次に帰るときがあったら、私はエニスに会えるよう努力する。
あの時は素直になれなかった私だけど…。
今度は素直に、辛い役目を押し付けてごめんなさい、
って謝ろうと思うから。

 

 

 

 

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