その先にあるもの。

Story7 夏休みの前に…
微妙に成人向け表現が含まれていますのでご注意を。


今日は、1学期の終業式だった。
コルネリア魔法魔術学院は3期制だから、今日で一段落というわけだ。
これから1ヶ月と少しの夏休みが始まる。
楽しみでしょうがない夏休みが始まるんだ。
…まぁ、学校の課題はちょっとね…。
必ず数ある魔導の法則の1つの実験を行い、それをはっきりと証明するという課題だ。
レベルの高い実験であればあるほど評価点が増えるので、皆力の入れ具合が違う。
僕だってそうだ。
今年は入学試験の時にエマが言っていた、錬金術に関する実験をしてみようと思っている。
この3ヶ月で分かったことだが、僕の力はそういう魔法にうまく作用する。
いつの間にか、魔導実験は僕に任せれば何とかなるという雰囲気がクラスの中でできていた。
そういう点は僕は嬉しく思っている。
ただ、この学校に入って一番苦労しているのは数学だ。
何か…理解できない。
感じるままにやればいいという感じではない。
魔導に関してはそれが通じるのに数学では通じないので、いつしか僕の苦手科目になっていた。
それでも平均点より少し高い点を取ることができているのは、偏にレナのおかげだった。
どの科目もずば抜けて優れているレナは、人に教えるのもこれまた上手なのだ。
そのおかげで、僕はある程度のレベルを保つことができたのである。
あぁ…、そうだ。
あの後のことだけど、あれからは一切キスはしていない。
何でかは…分からない。
キスなんて……そんなに数多くするものでもないし。

終業式終了後、僕たちは教室で計画を立てていた。
以前に言っていた、僕とジョアンとエマとノールで遊びに行こうという計画だ。


「じゃあドコにしようか。
 どこに行きたい?」

「オレは絶対遊園地!
 遊園地じゃなきゃやだからな!」

「珍しいね、ノール。
 前まで彼女作るまで行かないって言ってたのに…。」

「言っただろ?
 オレは常に恋を求めて彷徨っているんだ。
 出会いがあるところに我はありってな!」

「…ははは…。」

「エマはどこがいいんだ?」

「え、私?
 私は……どこでもいいや。」

「そうだね、僕もどこでもいいよ。
 言われたらそこ行く。」

「お前ら…何て言うか欲がないなぁ…。
 このままいくと遊園地になるぞ?」

「じゃあ遊園地でいいよ。
 遊園地も楽しいし…ねぇ?」

「うん、そうね。」

「んじゃ決定か。
 いや、俺は川辺でキャンプがいいかな〜とか思ったんだけど。」

「そんなの古いって!
 時代は遊園地一色だろ!」

「それこそ古いだろ。
 …じゃ遊園地決定!
 どこの遊園地にする?」

「オレはあそこしか行かないからな!
 新しくできたもの凄く広いところ!」

「はぁ?!
 ギャラクシーアイランド?!
 1つの島が遊園地になってるとこだろ?!
 絶対混むって。」

「混むから出会いがあるんだろうが!」

「…どう?」

「まぁ…ノールがそう言うなら…。
 僕は行っても良いよ。」

「私も。」

「ほ、本気かよ…。」


そんな時、聞きなれた声が後ろから聞こえてきた。
その人物がひょこっと顔を出して僕らの話に混じってきた。


「何の話?」

「レナ…。
 ほら、前言ったでしょ?
 どこか行くってやつ。」

「あぁ…。
 つまりその計画立ててるんだ?」

「うん、そう。」

「うっはぁ〜〜〜!
 そこにあるは麗しのレナちゃんじゃん!」

「ん?
 え?
 えっと……。」

「ノール。
 前話してた荒っぽいの。」

「あぁ…。
 よろしくね。
 私、レ」

「レナ・ブルーデンスちゃんじゃん!
 本物はやっぱ違うな〜。
 声も可愛いし…。
 よろしく!
 オレ、ノール・フォード・レスター!」


ノールがデレデレした顔でレナと握手をする。
以前に他の娘探すって言ったのは何だったんだよ!
レナと楽しそうに握手しているノールに、いつの間にか嫉妬心を抱いていた。
我慢できなくなり、レナとノールを引き離すように分け入って話を進めた。


「あ、あのね!
 僕達、今ギャラクシーアイランドに行くっていう話をしてたんだ。
 ほら、最近できたすっごく大きな遊園地!」

「そうなの?!
 テレビで見たけど、面白そうなのたくさんあるもんね〜。」

「え?
 テレビ?」

「うん。
 女子寮のロビーに置いてあるの。」

「えぇ?!
 僕達のところにそんなの無いよ〜。
 ねぇ?」


そう言って話を振ると、ジョアンとエマは小刻みに震えて笑いをこらえていた。
…その理由は分かってる。


「ジョアン、エマ!
 ……笑いたかったら笑いなよ……。」

「ご、ゴメンゴメン!
 まぁお前の気持ちも分からなくもないよ。
 なぁ?」

「うん。
 でも……可愛い。」

「あ〜んもぅ!」


その隠された意味のやり取りについていけてないノールとレナ。
とりあえず僕は話を進めることにした。


「とりあえず!
 今そこに行くってところまでは決めたんだ。
 次はいつ行くかだよ。」

「そうだなぁ…。
 ちょうど混まなさそうな日が良いけどな〜。」

「ノールが言い出したんだからノールが決めてよ。」

「はぁ〜?
 オレはパス。
 そういう方には頭が回らないから頼む。」

「ちょ、ノール!
 そんな逃げ方って無いよ!」

「う〜ん…。
 じゃあいつにする?
 少し家に帰りたいから早く決めてもらわなきゃね…。
 多分パパもママも心配してるし。」

「エマの父さんは娘第一って感じだもんな〜。
 寮に入るってのもダメって言われたぐらいだしな。」

「結局入っちゃったけどね。」


やや脱線しながら、いつに行くかがなかなか決まらなかった。
夏休み入ってすぐってのも混んでそうだし…。
かと言って終わりの方に行くのもどうかなぁ。
中盤は絶対混むし。
そんなことを考えていると、部外者のはずのレナが助言を出してくれた。


「じゃあ来週の月曜日がいいんじゃないかな。
 多分この日ならまだ大丈夫だと思うよ。」

「そうかなぁ…。
 夏休みに入って3日後ってことでしょ?
 もう人で溢れてて混んでるんじゃないのかなぁ…。」

「そうでもないよ。
 そんな気がするもん。」

「あぁ、うん。
 私もそんな気がする!」


これは所謂女の勘というやつだろうか。
他に候補もなかったので、僕は反論できなかった。


「…そうだな。
 じゃあこの日に決まり。
 時間は言うまでもなく朝から。
 …でどうする?
 泊まりで行くか?
 それとも日帰りするか?」

「と、泊まりって……。
 エマ除いて男ばっかだし、エマのお父さんが許さないと思うけどなぁ…。」

「そうか…。」

「う〜ん、レナも来ればいいんだよ!
 私はその方がいいな♪」

「え?!
 私も?!」

「うんうん。
 だって女の子の友達も欲しいと思ってたんだ、実は。」

「で、でも私なんかが入ったら…。
 元々4人で行く気だったんでしょ?
 奇数になっちゃうよ?」

「いいのよ。
 だってノールは出会いを求めて勝手な行動しちゃうから。
 でしょ?」

「うっ…。
 ……何とも言い返せない…。」

「ほら。
 ね?」

「う〜ん…。」

「ねぇねぇ、レナも行くの?
 暇なら行こうよ!
 絶対楽しくなるよぉ♪」

「ん〜…。
 じゃ、ミーちゃんがそう言うなら行こうかな。」

「ホントっ?!」


その時、僕は周囲の状況に気が付いた。
今度は、ジョアンとエマに加えてノールまでくすくす笑っている。
一体何がおかしいんだろ…。


「な、何でみんな笑ってるのさ〜。」

「ミック、お前気が付かないのか?
 尻尾。」

「へ?」


言われて見てみると、僕の尻尾はローブの上からでも分かるぐらい激しく動いていた。
僕は無意識のうちに尻尾を全力で振っていたのだ。


「わわわ、わぁあ!
 見ちゃダメ!!!」

「ハッハッハ!
 お前、本当に見てて飽きないなぁ。」

「本当ね。」

「んじゃこれからの時代はお前がいじられキャラだな!
 オレが認めてやる!」

「そ、そんなの要らないよ〜。
 ………。」


独り赤面する僕。
それでも尻尾を振っていたことには気が付かなかった。
…だって…しょうがないじゃん…。
あれ以来、恋と言うものを知った僕はただレナと一緒に過ごす時間を求めていた。
レナと離れたくないと思っていた。
でも…。
やはり不安はいくつもある。
たとえ最初にキスしてくれたのがレナであっても、それは………。
ジョアンの言う通り、発情期だったのかもしれないし…。
レナが僕を好きだって言う根拠は一つもないわけだし…。
だから僕は不安でしょうがなかった。
でも、もう抜け出せない。
この矛盾した螺旋の中で、僕は今も彷徨い続けている。
それでも不思議と出口を見つける気はしなかった。
この螺旋に…ずっとハマっていようかな…と思ったんだ。
辛いけれど…何だか楽しい。
前よりずっとずっと楽しい。
恋の良さっていうものを知ったのかもしれない…。


「…だな?ミック。」

「ん?
 な、何?」

「聞いてなかったのかよ…。
 だから、月曜日の朝8時に駅前集合。
 オッケー?」

「う、うん。
 で、でも、泊まりって言ってたのどうするの?
 本当に泊まるの?」

「うちのパパが許可出してくれれば泊まりよ。
 レナも居るし、ノールは襲ってこないでしょ。」

「さ、さすがに人のを盗るようなマネするかよ!
 それに、その時にはオレは違う人の部屋で……グフフ♪」

「ノール、鼻伸びてるよ。
 それにそのスケベ、直した方が良いよ。」

「確かに…。
 お前、どこまで飢えてんだよ…。」

「うるせぇなぁ〜。
 …ボソボソ(お前らみたいに予約がないからマズイだろ!)」

「(マズイって何がだよ?)」

「(お前らより先に…終わらせたいもん…。
 初エッチ。)」

「(ハァ?!何?
 お前、泊まる時にするとでも思ってたの?!)」

「(ちょ、ちょっとノール!
 僕はそんな気ないよ!)」

「(え…違うの?
 でもお前ら、その気になればいつでもできるじゃん。)」

「(できるワケねーだろうが!
 俺らはお前とは違って純な付き合い方してんの!)」

「(僕、まだ付き合ってさえないんだけど…。)」

「(お前、まだしらばっくれるつもりか?
 完全に付き合ってるようなもんだろうが。)」

「(一応…まだ普通の友達だもん…。)」

「(へぇ〜……。
 毎日レナをオカズにしてるのにか?)」

「(………!
 そ、そんなことしてないよ!
 ……ちょっと待って?
 ジョアン、もしかしてノールに言っちゃったとか?)」

「(当たり前だろ?
 男としての1歩を踏み出したんだからな。
 それくらいの情報提供は…なぁ?)」

「(おぅ。
 ミックちゃんの意外に男らしい部分が垣間見られて嬉しいぞぉ?
 その顔でオナニーとか…ちょっと見てみたいぞ?)」

「(わぁ〜〜〜!
 もう、ジョアンのバカ!
 内緒にしといてって言ったじゃん!)」


僕らは女の子をそっちのけにして、猥談方面の話を繰り広げていた。
そんな時、エマが咳払いをして話を再開させた。


「うんっ、ちょっといいかな?
 とりあえずそんなとこよね。
 じゃ、今日は一旦家に帰んないとマズイから…。
 今日通知表貰ったでしょ?
 その日に見せないとパパがいじけちゃうのよ。」

「うわぁ…愛されてるんだね〜。」

「どうだかね。」

「じゃあ家まで送ってこうか?
 ついでに俺も家に取ってこなきゃいけない物もあるし。」

「そう?
 じゃ一緒に行こ♪
 それじゃまた今度ね〜。」

「ん、じゃあね。」

「じゃな。」


軽く手を振って出て行くジョアンとエマ。
それをやっぱり羨ましそうに見ているノール。
まだ諦められてないんじゃないかな…。


「…ノールも家に帰るの?」

「いんや?
 誰があんな家に帰ってやるもんか。」

「…それ聞いたら、お父さんとお母さんが悲しむよ?」

「いいんだよ!
 オレは今、自由と恋が欲しいんだよ!」

「あはは…。
 …そういえばレナってどうするの?
 カレンさんみたいに国に帰るの?」

「どうしよっかなって考え中。
 帰りたいんだけど……。」

「だけど?」

「私の国って遠いからさ、飛行機あんまり無くって…。
 飛行機取るにしても時間かかるの。
 それにね……。」

「???」

「ミーちゃんと一緒に居たいじゃない♪」

「そ、ちょ…。」


その言葉を聞いた瞬間に、僕の顔はすごい勢いで熱くなった。
…最近こういうシチュエーションが多い。
恥ずかしさで声が出せなくなってしまった僕を、隣でノールがニヤニヤして見ている。
僕はますます赤面してしまう。


「………。」

「ミック、お前感情が顔に出すぎ。」

「しょ、しょうがないじゃんか!
 僕は嘘をつけないタイプなの!」

「ははは、ミーちゃん可愛い♪」

「ぼ、ぼぼぼぼ、僕のことはもういいから!
 レナは帰っちゃうの…?」

「来月の中盤に帰りたいかな…とは思ってるんだけど。
 やっぱり飛行機がとれるか心配。」

「じゃあ今のうちに予約取ったらいいんじゃないか?
 それなら普通に飛行機取れるだろ。」

「そうね…。
 でも詳しい日程決めなきゃいけないし…。」

「そうだね…。
 んじゃ早く決めちゃった方がいいよ。
 ね?」

「う〜ん、じゃそうしよっかな。
 …ってことで、今から行きたいからついてきてね!
 ミーちゃん♪」

「え?!
 早くって確かに言ったけど…。
 今から行くの?!」

「うん。
 ほら、早く!」

「あ、あぁ、ちょっとレナ!」


椅子に座っていた僕の手を、レナはぐいぐいと引っ張った。
口では拒みながらも、僕の手を握ってくれただけのことが嬉しかった。


「ごめんね、ノール!
 エマから話を聞いたらまた連絡するから!」

「おぅ!
 んじゃオレも誰か捜しに行くかな〜。」


レナに引っ張られながら学校を出たが、さすがにちょっと恥ずかしかった。
校門まで来て手を離してもらったとき、僕はあることに気がついた。


「…ん?
 そういえばさ、飛行機のチケットってどこで買うの?」

「ふふ、そんなことも知らないの?
 勿論空港♪」

「えぇっ?!
 空港って歩いて行ける距離じゃないじゃん!」

「嘘よ、う・そ♪
 空港でも買えるんだけど、チケット売り場みたいなとこでも買えるのよ。
 …どこにあるか知ってるよね?」

「チケット売り場…?
 多分隣町に行けばあると思うけどなぁ…。」

「そっか。
 じゃ、隣町までよろしくね♪」

「ほ、本当に〜?」

「当たり前じゃん♪」

「それならさ、ちゃんと着替えてから行こうよ〜。
 午前中に学校終わったんだからさ。」

「そうね〜。
 さすがにローブのままじゃ嫌よねぇ。
 じゃ、今11時半だから…13時に駅ね。
 ちゃんと遅れず来てね!」

「うん、分かった。
 じゃあまた後でね。」

「うん、じゃあね!」


レナに手を振って部屋に戻ると、僕はすぐに着替えた。
何だか焦る気持ちが僕を動かしているような気分だ。
時間を確認してみると、別れてからまだ10分も経っていなかった。
時間も時間なので、昼食にしようと食堂に行くことにした。
今日のオススメランチというのを食べていると、またもやノールに遭遇。
不思議な顔をしているノール。


「あれ?
 お前らチケット買いに行くって……。」

「ん?
 13時に駅に集合なの。
 それまで時間があるからご飯食べてるんだよ。」

「へぇ〜。
 ついでに一緒に食べてくればいいのに……。」

「あぁ、そっか。」

「そっかって…。
 何かそういうところ抜けてるな…。」

「…だって時間決めたのレナだもん。」

「あのなぁ、そういうのは基本的に男の役目だぞ?
 何事も決めるのは男の役割だろうが。」

「そう?
 僕はいつもレナが決めてくれるよ?」

「……何か特別なんだな……。
 お前ら、相当変わってるぞ。」

「そうかなぁ…。」

「と・こ・ろ・で!」


自分のお昼ご飯を僕の目の前の席にどんと置いて、ノールはずいと顔を突き出した。
…ノールの顔がすごく近い…。
何か……レナとは違って嫌だ。


「もう何回キスした?
 どうなんだ?
 実は1回くらいやっちゃったとか?!」

「ぶっ!」


思いもよらない言葉に、思わず口の中のご飯をふき出してしまった。


「うわぁ!
 汚いなぁ…。」

「ご、ごめん…。
 でも、そんなのいきなり聞くことじゃないよ!」

「そうか?
 何か今じゃないと聞けなさそうな気配が…。」

「意味分かんないよ。」

「まぁそんなことは良いんだよ!
 で、どうなんだ?
 初めての時って男も痛いのか?」

「はい?
 あのさ、さっき言ったじゃん!
 そんなつもりないって。」

「じゃあまだ何にも進んでないのかよ〜。
 つまんねぇなぁ…。」

「……まぁ、もう1回くらいは……キスしたけど……。」

「本当か?!
 キスってどんなんなんだ?
 どんな感じがするんだ?」

「あはは……、興味津々だね…。」

「わ、悪かったな!
 …オレ、キスしたことないからな…。
 だから……知りたいじゃん。」

「う〜……んとねぇ。
 何て言ったら良いかな〜…。
 今考えると、すっごく幸せな感じになる。」

「幸せな感じ?」

「うん。
 暖かくて、柔らかくて……。
 そんな感じ。」

「そうか!
 くぅぅ!オレもキスしてみてぇ!!!」

「あ、あのさ…。
 そんなに大声で言うもんじゃないよ。
 周りの人が…見てるし。」

「え?
 あ……。」


そう。
ノールの大声に、周囲が僕らに注目していた。
男子寮ではあったけれど、クスクス笑っている人がいて、僕はとても恥ずかしかった。
でもノールの方が余程恥ずかしかったらしく、今までに無いくらい赤くなっていた。


「す、すまん…。
 でもキスしてみたいなぁ…。」

「大丈夫だよ、ノール。
 学校生活はまだ5年以上もあるんだよ?
 きっとチャンスあるよ。」

「そ、そうかなぁ…。」

「うん。
 だって僕達、まだ1年生じゃん。
 時間はあるよ。
 もしかしたら…その………。」

「あ?
 何だって?」

「エッチ……できるかもしれないよ?」


何故か、ここで少しの沈黙があった。
その瞬間、ノールはすごい勢いで笑い出した。


「アハハハハハハ!」

「な、何がおかしいのさ!」

「まさか…なぁ?
 お前の口からエッチなんていう言葉が出てくるなんてなぁ!
 その方にビックリだよ!」

「も、もぅ!
 僕はノールのことを思って……。」

「分かってる!
 分かってるけど……。
 でもなぁ……。
 ちょっと本気でお前のオナニー姿が見たくなってきた。」

「そ、そんなこと言わないでよ!
 恥ずかしいし…。
 悪い冗談だよ!」

「んふふ〜。
 お前、顔は女の子だしな〜。」

「う、うぅ…。」


その時のノールの目が本当に怖く感じた。
何故か……野生そのものって感じで。
何か本当に狙われそうで、僕はすくみあがってしまった。


「うし、じゃオレもう行くな?
 んじゃ今度その時に…なぁ♪」

「…じょ、冗談だよね…?」

「さ、どうでしょう?
 じゃあな。」

「う、うん…。」


食器を返却棚に戻すと、ノールはすたこら食堂を出て行った。
あ〜、怖かった。
本当に襲われそうな気がしたよ…。
でも……ノールは女の子にしか興味ないし。
多分大丈夫。
第一に……そんなの恥ずかしくて見せられるものじゃないよ。
そう自分に言い聞かせ、僕は口をもぐもぐさせた。
とりあえず食べ終わり部屋に戻ると、現在時刻は12時半だった。
まだ30分もある…。
やることもないので、そのまま駅に向かうことにした。
部屋を出て扉の鍵を閉めたその時に、またまたジョアンと遭遇した。


「あぁ、ジョアン。
 お帰り。
 早かったね。」

「まぁ。
 オレは家に夏用の服を取りに行ってきただけだからな。
 ほら。」


そう言って、ジョアンは袋の口を開けて何着かの服を見せてくれた。


「え…。
 夏用の服、持ってきてなかったんだ。」

「あぁ。
 いつでも家に帰れるしな。」

「あ、そっか。」

「そっか…って。
 まさかミック、お前最初に全部持ってきたのか?」

「うん、面倒だもん。」

「うわぁ…家近いのにか…。」

「でもそんなに荷物無かったし。」

「ところで、お前今からどこか行くのか?
 そんな格好して…。」

「うん、ちょっとレナと飛行機のチケット買いに。」


あ、今のだとまるでレナと旅行に行くためにチケット買いに行くって言ったようなもんじゃん!
でも気がついた時にはもう遅かった。


「え?
 レナと旅行にでも行くのか?!
 そっか〜、レナとねぇ…。」

「あ、いや、そうじゃなくて…。」

「ま、楽しんで来いよ。
 じゃあな。」

「ちょ、ちょっと…。」


僕が言い終わらないうちに、ジョアンは中へと入っていってしまった。
…はぁ、後から弁解しなきゃね。
ショボショボとした足取りで、僕は駅に向かった。
着いた時間は…12時45分。
ってまだ15分も前じゃん。
ならレナも来てないかな…と思ったが、改札口の前にはレナの姿があった。
…一体何分前からここに居るんだろう。


「レナ…?
 やっぱりレナだよね…。
 何でこんなにも早いのさ。」

「ん?
 ミーちゃんのこと考えてたらもう着いてたの。」

「………。」


思わず赤面してしまう。
何で僕のこと考えてるんだろ…。


「あはは、相変わらずミーちゃんは可愛いわね♪」

「そ、そんなこと言うからだよぉ。
 じゃあもう行く?
 今から行くと早く帰ってこられるよ。」

「そうね、さっさと行っちゃおうか!」


電車に乗り込み、隣町へと電車は走る。
平日の昼間だからか、乗っている人はいつもに比べると少なかった。
と言っても、座席は全て埋まってるけど。
中には学校の人もちらほら。
…何でローブ着たまま電車乗ってるんだろう…。
僕にはとてもじゃないけど真似できない。

隣町に着くと、まずチケット売り場を探した。
何度も隣町には来るけど、チケット売り場なんて意識したこと無かったから…。
僕にもどこにあるのか見当も付かなかった。


「どこにあるんだろうね〜。
 何でも売ってるはずなんだけどなぁ。」

「本当にどこにあるのか知らないの?」

「うん…多分…。
 僕、そんなの意識したこと無いからさ…。
 あるとは思うよ。
 どこにあるのかは……まったく知らないけど。」

「そっか。
 私の勘だとここを右に曲がる気がする。」

「…何の勘を使ってんの?」

「女の勘よ。
 まぁ信じなさいって。」

「えぇ〜…。
 じゃ手がかりもないし、そっちに行ってみようか。」


………。
あった。
まさか本当にあるとは……。
女の勘ってそんなにバカにできないものかも……。
女の人にはそういう魔法が備わってるのかな?


「ほら、あったじゃない。」

「う、うん…。」


「あの、すいません。
 クレアドル公国への飛行機のチケットが欲しいんですけど…。
 予約取れますか?」

「クレアドル…ですか?
 また遠いところへ行くんですねぇ〜。」

「えぇ、まぁ…。」

「ってクレアドル公国?!
 この大陸じゃないじゃん!
 すっごく遠いところだよね?!」

「うん、そうだよ。
 あれ?言わなかったっけ?」

「そんなのまったく聞いたこと無かったよ…。」

「あの…いいですか?
 日程はいつ頃…。」

「来月の10日辺り…。」

「その日なら……あぁ、ちょうど2席空いてますね。
 では2席分の…。」

「ちょ、ちょっと待って下さい!
 僕は行かないんで、1人分だけでいいですよ。」

「そうですか。
 では1席分の…。」

「でも丁度2席分空いてるんでしょ?
 …ミーちゃん♪」


…嫌な予感。
まさかついて来いなんて…言わないよね?


「行こ♪」

「そ、そんなバカな!
 だってすっごい遠いじゃん!
 それに僕お金だってそんなに持ってないし…。」

「お金なら大丈夫。
 飛行機代ってすっごく安いから。
 …ですよね?」

「はい。
 2席分ですと……38デラですね。」


※1デラ=100円の価値です。


「や、安っ!
 普通航空運賃って100デラはするじゃん!」

「ん〜、私の国って物価安いし…。」

「物価って関係ないんじゃない?」

「だから行こうね♪」

「……僕は別に良いけど……。
 レナのお父さんやお母さんが……。」

「大丈夫。
 電話で話しとくから。」

「そ、そんなんで良いの?」

「良いよ。
 じゃ、決まりね♪
 2席分で。」

「はい。
 えっと…確かに38デラですね。
 チケットは来週以降に取りに来てください。
 ここでしっかりと保管しておきますからご心配なく。
 ご利用、ありがとうございました。」


…その場のノリで、遠く離れたクレアドル公国に行くことになってしまった…。
クレアドルは結構な小国で、治安が良いことで有名な国だ。
まさかそんな遠くに行くことになるとはね。
(感覚で言えば、日本からヨーロッパへ行くような感じです。)
本当に夏休みは忙しくなりそうだなぁ…。
でも、何故かハシャいでしまう僕。
…楽しそうな夏休みになりそうだ。

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