その先にあるもの。
Story3 自分と皆
「すいません、入学試験結果を貰いに来たんですけど…。」
「あ、は〜い。
受験票を見せてください。」
「これで。」
「2314ですね。
……はい、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
入学して既に一週間が経とうとしている。
学校生活にはまだ慣れてない。
不慣れなものが周囲を覆っているということは結構辛い。
どうやら僕の順応性はそれほど高いものではなさそうだ。
今受け取った入学試験の結果を見てみた。
「……?
あれ?
実技、満点の自信あったのに…。
99点だ。」
「99点?!
一体何をミスしたら99点になるんだよ。
まぁ取るやつも取るやつだけど…。」
「へへへ…。
ジョアンはどう?
…って何この点数…。」
「ん?
別に大したこと無いだろう。」
「大したことあるよ!
数学と理科、満点近くあるじゃん!
コケたのは魔導学か…。
どうしたの?!」
「どうしたの?!って言われてもな〜。
ま、運が悪かったんだよ。」
「テストの良し悪しを運で片付けられても…。
ん?
ここに何か書いてある…。
所感?
…『実技は迅速かつ的確であったが、多少の私語が目立ったために1点の減点』。」
「え、何?
お前私語なんかしてたの?!」
「あ〜、そういえば一人でぶつぶつ言いながらやってたっけ…。
って私語って禁止なの?!
個別なのに?!」
「当たり前だろ!
テスト中に喋るヤツがどこにいるんだよ!」
「ここに。」
「…そっか。
なら仕方ないよな!」
「そうだよ〜。
アハハハハ!」
「ハハハハハ!
…ってこのバカぁ!」
「痛いっ!
そんな鋭いツッコミ入れなくてもいいじゃんか…。」
「悪い悪い。
そうだ!
今日って確か掲示板に入学試験の科目別の順位が出る日だよな?」
「うん、そうだよ。
あ、じゃあ見に行ってみようか!」
「あぁ。」
ついでに言うと今は昼休み。
御飯を早く食べて、試験結果を貰いに来たんだ。
僕たちが掲示板の前に行くと、ちょうど見終わった生徒が教室に帰っていってる。
掲示板の前に立っているエマを発見して、僕たちは彼女に話しかけることにした。
「エマ!
エマも順位見に来てたんだね!」
「うん。
…とりあえず見てよ、これ。」
「ん?」
順位表を見てみると、そこには僕らの計り知れない世界があった。
…首席の人の名前が全部一緒なのだ。
しかも全部満点。
「うっひゃ〜。
すごいね〜、この人。
…レナ・ブルーデンス…。」
「そうなのよ。
確かに多少簡単ではあったけど、容易に満点とれるものではなかったじゃない?
だからビックリしてたの。」
「でもエマもちゃんと名前あるじゃない。
この学校の5本の指に入ってる。」
「うん。
運が良かったみたい。」
このデキる人たちは、自分の実力を運のようなものと決め込んでるらしい。
まったく僕には理解できない。
「でもエマ。
ミックもすごいんだぜ?
こいつ、実技が99点だもん。
…ほら、2位のところにちゃっかり名前があるし。」
「うん。
ミック、頑張ったね!
でも何で99点なの?
何をミスしたら99点になるの?」
「……ハハハ……。」
「私語で減点だってさ。
テスト中に何かぼやいてたらしいよ。」
「あははっ!
そんなことしてたの〜?」
「だって私語しちゃ駄目なんて言われなかったんだもん!
……あぁ!」
「な、何だよ急に!」
「ほら、ジョアン!
うちのクラスにレナって子いたよ!
犬と竜のハーフの!」
「え…?
あぁ、そういえば居たなぁ…。
あの子もレナって名前だったか。」
ここで付け加えると…。
僕とジョアンは同じ102教室。
エマとノールは101教室と見事に分断されてしまったんだ。
あの時のノールの喜びようといったら…例えようがない。
で、そのレナって子も僕と同じクラス。
竜の種族はこの世界では結構珍しいんだ。
俗に言われる幻想種っていうのはかなり少ない。
現にこの学校でも、今のところ竜はレナって子とあと一人くらいしか見たことがない。
しかも最近は混血が進んでいるらしく、その彼女は犬と竜のハーフらしい。
別に本人に聞いたわけではない。
一見竜なんだけど、耳とか毛の具合が犬みたいだから僕たちでそう解釈している。
そんな解釈をしてもあながち間違いでもないのだ。
あぁ、そうそう。
うっかり忘れていたけど…。
入学試験の時に知り合ったボルトも僕と同じクラス。
しかも何故か席が真後ろ。
ここまで来ると偶然ではなく必然性を感じてしまう。
そんなことを考えながら、僕は掲示板を眺めていた。
するとあることに気がついた。
「あぁ!」
「こ、今度はどうした?」
「ボルトも名前あるじゃん!」
そう。
数学で逆フィーバーとまで言った彼の名前が、数学の上位にしっかりと載っている。
それでも2位の98点。
彼の逆フィーバーの意味が分からない。
「ボルト?
あぁ、入学試験の時に友達になったってやつか。
同じクラスのだろ?」
「うん。
彼、数学で逆フィーバーしたとか言いながら、普通に2位なんですけど…。」
「…本当だ。
ま、頭のいいヤツなんて言ってることよく分からねぇから。」
僕にはジョアンの言ってることもよく分からない時がある。
もちろんエマも。
こういう天才肌の人たちがいっぱい居るんだなぁ…。
ただ努力してるだけじゃ勝てないかも。
「じゃあそろそろ戻るか。
もうすぐ昼休みの終わりのチャイムがなるし。」
「そうだね。
次って何だっけ?」
「委員会決め。
そこで俺はあるプランを立ててるんだ。」
「へぇ〜。
何かなりたいのがあるの?」
「いや?
俺じゃないよ。
まぁ楽しみにしとけって。」
「な、何か嫌な予感…。」
「じゃ、私も行くね。
また放課後にね!」
「ん。
じゃあね。」
委員会決めか…。
僕は何をやろうか。
基本的に忙しいのはパスだから…。
学級委員はもってのほかだし、文化祭実行委員会もパス。
手堅く保健委員にでもなっておこうかな。
「それでは学級委員決めるまでは先生が進めますね。
まず学級委員になりたい人、居ませんか?」
僕たちのクラスの担任は、試験監督だったあの白虎族の先生だ。
ユリアン・マダルカット先生だ。
「誰か居ませんか?
…これ決まらないと先に進まないのよね…。」
「はい!
私、やります!」
手を上げたのは、先ほど話に上がっていたレナだった。
あぁ…確かに。
見た感じ、彼女は統率力とかありそうだしリーダーって感じがする。
「じゃあ女子の方はレナさんに一任するわね。
はい、男子でやりたい人は居ませんか?」
誰もそんな重要なポストやりたくないよ…。
そう思って窓の外を見ていると、いきなりジョアンが口走った。
「先生、僕はファーミット君を推薦します。」
はぁ?!
何言ってるんだよ!
ピースしてこっち見てる彼が、一瞬悪魔に見えた。
「ちょ、ちょっと待って下さい先生!
僕はそんな」
「ファーミット君、発言は挙手してからね。」
「…はい。
先生、僕はそんな学級委員とかやったことないですし…。
僕は不向きかと思います。」
「…ならやってみた方がいいよね…。」
どこかからそんな言葉が聞こえた。
誰だ、そんな風にいったやつは!
そのせいで教室全体がそんなような言葉で溢れかえっている。
「ちょっとみんな静かに!
…ファーミット君、学校生活は長いのよ?
6年のうちの1年くらい、リーダーとしてやってみた方が人生経験が積めるわよ?」
うっ。
先生が説き伏せモードに入ってる…。
クラスの皆も僕になれっていうすごく熱い視線を送ってくる…。
そして小刻みに震えている、明らかに笑っているジョアン。
はぁ、何で僕がこんな役回りを…。
でも、いずれは魔導省に勤めるわけだし、一回ぐらい体験してもいいかなって思えてきた。
まず先生が諦めない。
「ね、ファーミット君。
私もさっさと決まって欲しいワケよ。
お願い?」
「…はぁ。
分かりました!
やればいいんでしょう?やれば。」
「はい決定!
じゃ、あとはファーミット君とブルーデンスさんにお任せするわね。」
…結局やらされるのか。
少しは感づいてたけど、まさかジョアンが学級委員に推薦してくるとは…。
ま、お返しということで、彼には文化祭実行委員をやってもらうことにしたけどね。
これでおあいこだ。
その日、学級委員は放課後残って仕事をさせられる羽目になっていた。
クラスの皆の名前とか役職とかを書いて明日プリントして配るんだとか。
そんないきなり労働させられるなんて思いもよらなかったなぁ…。
徐々に確実に仕事をこなしていく。
そんな時、いきなりレナが話しかけてきた。
何と言っても無言で作業していたから、結構ビックリした。
「ファーミット君。」
「ひゃう!
…あぁ、ごめん。
何?」
「ミーちゃんって呼んでもいい?」
「えぇ?!
普通にミックでいいよ〜。
何か恥ずかしいし…。」
「じゃあ決まりね、ミーちゃん♪」
「や、やめてよ〜…。
じゃ、じゃあ僕はレナさんって呼べばいいかな…?」
「いいよ、レナで。
私、固いの嫌いなの。」
一見固そうに見える彼女から、思ってもみない言葉が飛び出てきた。
この人が本当に首席なんだろうか…。
本当に疑ってしまうほどだ。
「ミーちゃん、何で学級委員なんてやる気になったの?」
「本当にもうミーちゃんで決定なんだ…。
だって皆からやれ!っていうオーラが出てたし…。
それに先生がしきりに食いついてくるし…。
だからだよ。
本当は僕だってこんな面倒な仕事はやりたくなかったよ。
レナは何で?」
「私?
私は…。
中等学校までの自分を変えるため、かな…。」
「変えるって…何か問題でもあったの?
…って別に僕に聞く権利ないよね。
そんなに親しい訳でもないしさ。」
「…うん。
もう少し慣れてきたら言うね。
ありがとう。」
もの寂しそうに彼女はにこっと笑った。
教室の窓から入ってくる夕暮れの光が、彼女をより際立たせた。
こうやって見てみると、レナも結構可愛い感じだ。
エマみたいに両極を同時に持ってる訳じゃなく、ただ可愛さの残る顔立ち。
髪の毛は金色でさらさらとしてそうに見える。
それでもあまり興味のない僕はそんなに気にもしなかった。
絶対ノールが好きそうなタイプだけれどね。
「そういえばさ、ミーちゃんって…。」
「何?」
「女の子みたいな顔してるよね。
すっごく可愛い♪」
「な…。
またいきなりぐさりと刺さることを…。」
「え?」
「それ、結構気にしててさ…。
ほら、僕背だって小さいし…。
声だって殆ど女の子と同じ。
それが原因でいじめられたワケじゃないけど、どうも皆と違うことがコンプレックスになっててね。」
「ご、ゴメンネ。
私…。」
「まぁ慣れてるって言えば慣れてるから…。
気にしないで。」
「…でもさ…。
それでいいんじゃない?」
「…え?」
「だってさ、それがミーちゃんらしさってことでしょ?
全部皆と一緒じゃつまらないじゃない。
違ってるからいいの。
違ってるから助け合えたりするの。」
「…そうだね。
違うことをコンプレックスとして感じてるのは間違ってるね。
それに、これから僕だって成長するさ。」
「そうよ。
まだまだ長いんだから。
のんびり行こうよ!」
ちょっと不思議な子。
ボルトみたいなヤツってことじゃなくて…。
何故か近くにいると何となく安心できる。
そんな不思議な空気を身に纏っている子だ。
その後、数分で作業は終了してマンションに帰った。
マンションに戻ると、ジョアンがちょうど部屋から出てきたところだった。
「ミック、随分と遅い帰宅だな。」
「誰のせいでここまで遅い帰宅になったと思ってるんだよ。」
「ま、まぁまぁ。
それにお前も俺にやり返してきたじゃないか。
文化祭実行委員!
来週から早速仕事があるよ…。」
「僕は今日から早速仕事だったんだけど。」
「ごめんごめん。
…それで、どうだった?」
「はぁ?
何が?」
「何がって……。
レナだよ、レナ。
えぇ?!
何も感情湧かなかったのか?!」
「え?
もしかして、そうしようとしてたの…?」
「あぁ。
これはお前の為だからな。
ただ学級委員にしただけじゃないんだぞ?!」
「確かに可愛いとは思ったけど…。
僕は今までの人生の中で培われた頑丈な心のおかげで、そんな感情湧かないよ。」
「ちぇ〜。
せっかく予めレナが学級委員になりたがってるって情報を入手しといたのに…。」
「この計画犯め。」
プランってこういうことだったのか…。
酷いことするなぁ…。
とりあえず自分の部屋に戻ってくると、適当に明日の予習をしてお風呂に入って寝ることにした。
御飯はマンションの10階の食堂で取れるし、時間になるとジョアンが呼びに来てくれる。
それまではひたすら勉強した。
勉強していると、途中でいきなり手が止まってしまった。
頭の中は違うことでいっぱいだったから…。
残念なことにレナのことじゃない。
何て言うか、恋そのものに考えを巡らせていた。
あれだけ勉強って言ってたのが嘘みたいに、最近その話題を振ってくるジョアン。
そんな気ないって言ってたのは何だったんだろうか…。
もう…よく分からない。
そんな時、何の前触れもなく呼び鈴が鳴った。
誰だろう。
まだ夕御飯の時間じゃないし…。
じゃあノールかな。
そうやって考えている間も呼び鈴は鳴り続けた。
「は、は〜い、今出ます!」
…余程のせっかちだろうか。
ドアノブをひねって開けると、そこには予想外の人物が居た。
「え、ボルトじゃんか。」
「よ!
遊びに来てやったぜ!」
「あ、遊びに来たって…。
勉強は?」
「うん?
あぁ、もう終わった。」
「終わったってまだ7時前…って当然か。
普通の生徒ならそろそろ終わってても問題ないね。」
「何?
終わってないの?」
「うん。
学級委員として残されててね…。
帰ってきたのが1時間前なんだ。」
「そっか。
まぁいいや。
遊ぼうぜ?」
「あ、遊ぼうって…。
だからまだ勉強が終わってな」
「じゃあ勉強見てやるよ。」
何だろう…この勝手さは。
ノールに似てるけどちょっと違う。
「で、何の勉強やってたんだ?」
「明日の予習。
ほら、明日古代語の授業があるじゃん。」
「あぁ…。
別にやることなくねぇ?」
「あるよ〜。
不安なところは全部やっとくの。
ずっとそうして来たんだから…。」
「不安なところ、どこだよ。
教えてやるから。」
「ここと、ここと、あとここ。」
「こんなもんは覚えちまえば楽勝だ。
いいか…。」
「…てなところ。
分かったか?」
「うん。
すごいね〜。
参考書より分かりやすいよ!」
「それで終わりか?」
「うん、今日はこれでおしまい。
へぇ〜…。
一人じゃ1時間半かかるところが30分で終わっちゃった!」
「あのなぁ、勉強なんてどれだけ要領よくやるかだぞ?
短時間で如何に楽して知識を取り込むかなんだ。」
「へぇ〜。
僕は1を知れば10を知るなんてことできないから。
…で、余裕が30分できたし…。
何する?
って遊ぶって言っても何にもないよ?」
「あ、あぁ…。
話でもしようかなって思って…。」
「ふ〜ん。
いいよ。
何?」
イスに座っていた僕は、部屋の中央の机をボルトと囲むようにして座った。
一応いつでも座布団が4つ出してある。
誰が何人来ても良いようにね。
「あのさぁ…。
ミックは恋とかしたこと、あるか?」
「えぇ?!」
またもや思いもよらない言葉が飛び出てきた。
う〜ん、今の年代ってそういうの流行ってるのかな。
「まぁあるかないかで聞かれればないけど。
何で?」
「いや、その…。
今オレ、好きな人居るみたいで…。」
「みたいで…って。
何でそんな不確定なの?」
「自信がないんだ。
何て言うか本当にそうなのかが分からない。」
「ん〜。
僕そういう経験ないから分からないけど…。
ボルトがそう思うなら好きなんじゃないかな。
自分の心って言うのが一番正直なものだよ?」
「そうか…。」
「どうしても…って言うなら思い切って告白しちゃった方がいいんじゃない?
友達を見てると一番それが良いと思うよ。
いつまでも迷ってると前になんか進めないし。」
「…うん、そうだな。」
「…あのさ、何で皆僕に相談してくるの?
ボルトって前の学校の友達居るんでしょ?」
「いや、居るには居るんだけど…。
受かったのってオレ以外全員女子でさ…。
男子で知ってるやつってミックしかいなくて…。」
「そっか。
じゃあしょうがないか…。
いやね、僕の友達も皆僕に相談に来るからさ〜。」
「なんかさ、お前なら真剣に聞いてくれそうだったしさ。」
「あぁ…友達もそう言ってた。
ジョアンって言って、この部屋の隣に住んでるんだけど…。」
「ジョ、ジョアン?!
あの有名なジョアン・ディスケンスか?!」
ボルトはすごく驚いた顔をして僕を見た。
僕、まずいことでも言ったかなぁ…。
「う、うん。
有名ってそんなに有名じゃないと思うよ…。」
「何言ってんだよ。
他の学校で持ちきりだったぜ?
美の貴公子って呼ばれてる存在だぞ?」
「他の学校の事なんて知らないからね。
へぇ〜、ジョアンってそんなに有名なんだ…。」
「だってすごい美形なんだろ?
何でも1週間の中で会ってる女が毎日違うって…。」
「ハハハ、そんなの嘘だよ。
彼、付き合ったことあるの一回だけだもん。」
「へぇ〜、知らなかったなぁ。」
「でも多少モテるってのは聞いたことがあるなぁ。
…あぁ、そっか。
うちの学校はエマが居たから…。」
「えぇ?!
エマ?!
エマってあのエマ・トゥルーリーか?!」
またもやすごく驚いている。
一体どこからそんな情報を手に入れてくるんだろうか。
「…よく知ってるね…。
うん、そのエマ。」
「お前の学校すごいヤツばっかだな!
エマと言えば吐いて捨てるほど男が居るって噂だぞ?
しかも容姿端麗な上に性格、プロポーション共に抜群の万能少女!
他の学校じゃ『麗しの天使』って言われる存在なんだぞ?」
「天使って…。
確かにエマは教会の牧師さんの娘さんだけど…。
それにエマは男なんて居ないさ。
彼女、純粋で誰とも付き合ったことなんかないんだぞ?
でも3年生の夏に4人に告白されて困ってたなぁ…。」
「よ、4人か?!
へぇ〜、やっぱりお前んところって強者揃いだな。」
「そんなことないよ。
だってその有名なのってジョアンとエマだけでしょ?
他にはノールっていうマイペースなのが」
「ノールってあれだろ?
ノール・フォード・レスターだろ?」
「よ、よく知ってるね…。
でも彼はそれ関連の噂はないと思うけど…。」
「ノールは違うぞ。
やつの前では鬼神でさえ赤子同然って…。」
「何それ?」
「知らないのか?!
中等学校の全国総武術大会で圧倒的なまでの力を見せつけて、
周りを地獄と化すまで戦ったってことで、戦いの神とまで言われてる。」
「あぁ、そういえば何かの大会で優勝したってのは聞いたことあるなぁ…。
彼さ、大きな武術道場の師範のご子息でさ…。
物心ついた時には戦ってたって言ってたっけ。
でもそれは去年までの話。
夏にやめてからは本格的に勉強しだしたんだよ。」
「…お前、友達のこと何も分かってなかったんだな…。」
「そんなことないよ〜。
…まぁそこまで変な噂立ってるのは知らなかったけどね。」
「そういえばあと一人居るよな。
ミック以外に。」
「え?
もう誰も居ないよ?
最初に4人で受けに来たって言ったじゃん!」
「嘘だ〜。
すっごく可愛い女の子が入ってきたって女子が言ってたぞ?
女から見ても可愛いって…。
…あ…。」
いきなり僕を指差して固まるボルト。
ちょっと待って?
この流れからすると…。
「…それって…僕?」
「…どうやらそうみたい。
ほら、お前らいつも4人で歩いてたろ?
だからきっと勘違いされたんだよ。」
「…何で僕だけ性別さえ一致してないんだよ…。」
まったく、失礼しちゃうな〜。
一応僕は男なのに…。
そういえばレナが言ってたっけ。
それが僕らしさって。
そんなことを思いながら、彼の話に耳を傾けた。
ピンポ〜ン
またも呼び鈴が鳴る。
今度こそジョアンだろう。
ドアを開けると、やはりジョアンがそこに立っていた。
「ミック、そろそろ飯食いに行こうぜ。」
「うん、分かった。
ボルトも行こうよ。」
「あ、あぁ。
オレも一緒で良いのか?」
「良いでしょ。
…ね、ジョアン。」
「うん、少しでも多い方が楽しいだろ。」
「だってさ、行こうよ。」
手招きをしてボルトを外に出した。
その次の瞬間、ボルトは悲鳴にも似た声を上げた。
「ぎゃ、ギャーーー!」
「え、どうしたの?」
「ほ、本物のジョアンだ!!!」
「…俺、君と同じクラスなんだけど。」
「あぁ、そうだった。
とりあえずよろしく。
オレはボルト・ローレンス。」
「よろしく。
ミックから話は聞いてるよ。
俺は」
「知ってる。
美の貴公子、ジョアン・ディスケンスだろ?」
「美の貴公子?
何だそりゃ?
でも名前はその通り。
…ミック、何これ?」
「行きながら説明するよ…。」
こうして3人で食堂に行くことになった。
今日までを過ごしてきて思ったけど、皆いろいろ考えてるんだな〜と思う。
何か同じことを考えてない僕って何だろう…って思ってしまう。
でも、それが自分。
自分らしさなんだ。
そうレナが教えてくれた。
違うから助け合える。
全くその通りだと思った。