その先にあるもの。

Story21 真実と事実の間

 

夢を…見ている…。
遠く懐かしい、ずっと前のことを見てる。
あの丘にそびえる古城。
七人の魔眼使い。
全員が揃って虹になる。
そして…。
あの、最後の夜。
いや、彼にとっては私との最期の夜だったんだろうか。
激しく、お互いを確かめ合うように、長く愛し合った夜だった。
その感覚は妙に鮮明で、未だ経験の私には狂いそうなほど快感。
いや、確かに私の経験なのだろう。
私の中に潜んでいた私の…。
紅炎の魔眼の持ち主、アメリア・フローライト・ブルーデンスの経験だったのだろう。
その夜、愛を確かめ合っていたのは誰なんだろう。
彼女のとても大切な人らしいけれど、私には分からなかった。
いや、分からなかったワケではない。
理解できなかった。
だって…500年前なのに…。

 

何でミーちゃんがいたのだろう。

 

 

「ん……?」

 

ふと目が覚める。
天井やら壁やら、全てが白いこの空間。
現状の把握をしようと体をむくりと起こす。

 

「レナさん?
 目が覚めたのね…。
 良かった。」

「…ステア…さん?」

 

完全に起き上がったところで、自分の身に覚えのない痛みが走る。
何だろうと思い自分の体を見てみると、左腕には軽く包帯が巻いてあった。
包帯…ベッド…白い壁…。
この状況から把握すれば、きっとここは病院だろう。

 

「何で私…病院に…。」

「???
 覚えてないの?
 あの時のことを…。」

 

あの時…?
はて、それはいつのことだろう。
…とはならず、言われて何が起こったかフラッシュバックした。
そうだ…、私は…この娘を…。

 

「ステアさん…本当にごめんなさい…。
 私…あなたを…。」

「えぇ、本当に殺されると思ったわ。
 …いや、思ったなんて生やさしいものじゃない。
 確信した。
 九死に一生を得るとはこのことかしらね。」

 

何か違うような気もするけど、とりあえずツッコむのはやめよう。
私が加害者なのは変わりないし。
ツッコんだら恐ろしい気がする。

 

「そういえばレナさんの目…元に戻ってる…。」

「あ、あぁ、それは私が魔法を使おうとしてないだけ…。
 …?
 あれ?
 体が…ぁ、な、何でもない…♪」

「???」

 

言い出しかけて、途中でやめた。
私の体に火照りを感じないのだ。
あの頭が割れそうに苦しかった、大きな欲望の塊も消え失せている。
…何でだろう。
何だかとても清々しい気分だ。
もしかしたら、夢でミーちゃんが出てきたからかな…♪
夢に……ミーちゃん?
そういえば…ミーちゃんはどこだろう。
最後に覚えてるのは、確かミーちゃんが私の方へ飛んできて…。
飛ぶ?
何で?
私…何してた?
…うーんダメだ、何故か思い出せない。
ステアさんを襲おうとした瞬間に、ミーちゃんが来たところまでは覚えてる。
それ以降が…謎だ。

 

「あの…変なこと聞いて良い?
 私…どうして病院にいるの?
 何で…左腕だけ包帯が…?」

 

ステアさんは、すごく驚いたような表情で私を見た。
いや、そんなに驚かなくても、って感じの表情。
それを見せた後、何故か彼女は俯いてしまった。

 

「???
 知ってるんでしょ?
 なら…」

「いや…知らないならその方が良いかもしれない…。」

「え?
 どうして?」

「それは……。
 あなたにとって、とてもツライことだと思うから……。」

 

私にとってツライこと?
そんなの、言われたら気になるに決まってるじゃん。
ここは何としてでも問い詰めてみよう、という気になるのが普通だと思う。
何よりも、私のことなんだし…。

 

「でも教えて。
 私、本当に何も覚えてないの。
 残ってるのは…。
 ミーちゃんが私に向かって手を伸ばして飛んできたって光景…くらいかな。」

「なら…尚更聞かない方が良いと思うけど……。
 良いの?」

「うん、知りたい。」

「えっと…とても言いにくいことなんだけど……。
 あなたはね、事故に遭ったの。
 …いや、遭ったって言うのも変か。
 投身自殺をはかろうとしたの。」

 

…え…?
私が…?
覚えて……なくはなかった。
そういえばそんな気もする。
あまりにツラくて、もうダメだって思ったから…。
確かミーちゃんに殺害依頼まで出してたような…。
ど…どうしよう…。
私、ミーちゃんに悪いことばっかりしちゃったなぁ…。

 

「で、まぁそのままケガして病院に運ばれたのね。
 私がここにいる理由は分かったわ♪
 じゃあミーちゃんは……」

 

言葉を言いかけて、私はあることに気がついてしまった。
私は事故に遭った。
それが今聞かされた事実。
そして、覚えているあの光景。
さらに、私は事故に遭ったにもかかわらず、左腕だけケガしているというまさかの軽傷。
おかしい、おかしすぎる。
さすがに竜族の血が混ざった私でも、事故をすればもっと大きなケガをするはず。
なら何でこんな軽傷で済んだのか。
それは…きっと……。

ミーちゃんが助けてくれたに違いないから。

 

…自分の身を犠牲にして。

 

…ということは、私と一緒にこの病院に運ばれてきたハズ。
一体どの部屋だろう。

 

「うん、分かった。
 ミーちゃんはどこの部屋にいるの?
 この病院に運ばれてるんでしょ?」

「あ……えっと……まぁ……。」

 

何とまぁ曖昧な返事。
でも…いることはいるみたいね。
あとはどこの部屋か探さなくちゃ。
きっとステアさんは教えてくれないから、私はベッドから抜け出すことにした。

 

「よいしょっと。
 …つぁ…っ!」

 

足に若干痛みが走る。
そういえば何だか頭が妙に重い。
足ももたついてしまう。
まるで何日も眠っていたかのような…。

 

「あっ、ダメよ!
 ベッドでちゃんと寝てなくちゃ!
 あなた…三日間眠りっぱなしだったんだよ?!」

 

…正解なのね。
道理で頭が重いわけだ。
でもそんなこと言ってられない。
ミーちゃんに会って…謝らなくちゃ…!

 

「でも会わなくちゃいけないの。
私のせいで…こうなってしまったんだから…!」

 

私の体を支えているステアさんを振り払い、よろよろとした足取りで部屋を出る。
出ようとした瞬間に、ステアさんから「705号室」と聞こえた気がした。
いや、多分私のために言ってくれたのだろう。
とても優しい子なんだな…。
そんな子を…私は……。
一体何してたんだろう、私。

私がいた部屋は604号室。
だから、階段を一つ上がるだけで済んだ。
…こんな体だと、階段一階分だけでもツライけど…。
壁伝いに手すりを使いながら、徐々に徐々に階段をのぼっていく。
少しだけの距離のある廊下を歩き目的の部屋に到着すると、
私は多少の緊張とともに、ゆっくりとドアを開いた。
ミーちゃんが、私が思っていたよりも深刻な状態になっていたとは…思いもよらずに。

 

「うそ…。」

 

扉を開けた瞬間、信じがたい光景が私の目に飛び込んできた。
その部屋は機械音と呼吸音で支配されていて…。
そして、人工呼吸器やらそういう類の機械の中心には……。
横たわるミーちゃんの姿があった。
私には、ミーちゃんが機械に生かされているようにしか見えなかった。
意識なく眠るミーちゃん。
深刻な状態であることは…イヤというほど感じられた。

 

「ミーちゃん…?
 うそ…やだ…。
 私……。」

 

言葉が…うまく出ない。
絶望感だけが私を襲う。
ただミーちゃんを見ていることさえできず、勢いでその部屋から飛び出してしまった。
ちょうど出た時、エマとジョアン君、それにノール君の三人が、
ミーちゃんの様子を見にやってきたところだった。

 

「あ…。」

「レナ…?
 レナ…意識が戻ったのね…。
 良かった♪」

「え…あ…うん。」

 

曖昧な返事しかできない。
さっきのショックがあまりにも強すぎて…。
それに…。
正直言って、ノール君に会うのはつらかった。
暴走してた時には気にしてないってミーちゃんに言ったけど、
実際あれが引き金になっちゃったしね…。
彼を見てると…またそうなりそうで怖い…。
だから、どうしても彼を直視できなかった。

 

「ミックの様子…見たのか…。」

「うん…。
 私がしっかりしてれば…こんなことには…。」

「いや、非があるとすれば…コイツとミックだからさ。
 …ほら、謝れよ。」

「レナちゃん…ゴメンな…。
 オレのせいでレナちゃんが…。」

 

悪いけど……そんな言葉じゃ全然足りない。
…と言いたいところだけど、そんなことに固執していたところで現状が変わるハズもないし…。
それに、謝ってもらえれば全部なかったことにしようって、少しでも思ってたしね。
だから、その件についてはこれでおしまいにしよう。
もっと酷いことを、私はしていたのだから。
公然でキスとか…ね。
ノール君には…つらかったと思う。
…私…何してたんだろ…。

 

「私の方こそ…ゴメンね。
 それに…ミーちゃんまで巻き込んじゃって…。
 私…どうしたら…。」

「いや…巻き込んだというか何と言うか…。
 まっ、信じて待つしかないよ。
 私たちが信じて待ってなきゃいけないと思うんだ。
 だから…待とう?
 とりあえず、来たのならミックに話し掛けてみたら?
 レナならすぐ起きるかもよ♪」

「…そう…ね…。
 …そうよね。
 うん、話し掛けて…みようかな…。」

 

私が招いた事態だから…。
私が解決に導けたら良いなって思う。
どれだけのことができるか分からないけど…。
エマの言う通り、今は信じてミーちゃんを待とう。
今できることは…それだけだ。
ミーちゃん…待ってるからね。

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