その先にあるもの。

Story2 色を知る歳


入学試験から3日後。
とうとう合格発表の日が来た。
実は昨日は緊張して、朝日が昇る頃にやっと寝付けたのだった。
その為にすごく眠い…。
でもやはり緊張している。
今日も皆と待ち合わせてたけれど、今日は僕が遅刻しそうだった。
緊張のしすぎは体に毒だ。


「…大丈夫か?
 目の下、クマできてるぞ?」

「うん。
 緊張して眠れなかったから…。」

「そこまで緊張するものでもないだろ。
 だってミックはいつも通りにできたって言ってたじゃん。」

「そうだけどさぁ…。
 やっぱり心配になるよ。」


傍らにいるエマもさっきから黙ったままだ。
見た感じで緊張しているのは十分分かった。
う〜ん、エマくらいになると別に緊張しなくてもいいんじゃ…?
そして緊張しなきゃいけないハズのノールが一番余裕を持っている。


「おら、お前ら!
 らしくねぇぞ?
 早く結果を見に行こうぜ!」

「元気だねぇ…。
 その余裕を少し分けて欲しいもんだよ。」

「悩んでもしょうがないだろ?
 結果はもう出ちまってるんだ!
 ダメだったら諦めればいいことよ!」


本当に何でこんなに前向きなんだろうか…。
でもノールの言ってる事は正しい。
結果はもう出てるから…。
それを受け止めるしかない。
4人で横一列になって掲示板まで歩いていく。
この20メートル弱の道のりが長くも短くも感じた。
目の前には大きな掲示板がある。
そこに、合格者の受験番号がずらりと並んでいる。
僕は目を瞑って下を向いていた。
怖い…。
でも、見なきゃ!
顔を思い切って上げた。
僕の受験番号は2314。
2246、2259、2281、2293…。
2308、2309、2312、2314…。
…?
あった!
僕の番号、あった!!!
その番号を見つけた瞬間に、思わず僕は飛び跳ねてしまった。
つまりそれだけ嬉しかったんだ。


「やった!
 僕、受かったんだ!
 わ〜い!!!」

「おめでとう、ミック。
 来月からもよろしくな。」

「あ、やっぱりジョアンもあったんだ。
 …まぁジョアンなら当然か…。」

「別に当然ってワケでもないよ。
 努力が報われたんだって。」

「うん、僕も頑張った甲斐があったよ…。」

「良かった…。
 私の番号もある…。」

「おめでとう、エマ!
 これからもよろしくね!」

「うん!
 …ノールは?」

「あぁ……ココ。」


ノールが指差す方向を3人で同時に見た。
…補欠合格。
確かにそう書いてあった。


「補欠……。」

「ちょっと微妙だな。
 受かってるのか受かってないのかよく分からねぇもん。」

「ノール、何でまだそんな余裕があるんだよ。
 もしかしたら入れないかもしれないのに…。」

「大丈夫だって!
 何が何でも入ってやるさ!
 …はぁ。」


やっぱりそれなりにノールにはダメージがあったみたいだ。
悪いけどそのことは置いておいても、僕は受かったんだ!
じゃあ家に帰って急いで準備しなきゃ。
このコルネリア魔法魔術学園は、基本的には寮に入る必要がある。
特別な事情がない限りね。
例えば、寮での生活費が払えないって人は別に家から通ってもいいということになっている。
だから普通は入寮しなければならない。
これは寮に入れさせておいた方が、緊急の連絡が素早く回るからという理由らしい。
この学校の寮は豪勢なことで有名だ。
何と言っても名前もすごい。
男子寮は『星霜館』、女子寮は『麗月楼』と言う。
何処かの旅館みたいな名前だ。
内装もその名に負けないようなものらしい。
そんなところ。
さ、これからも頑張るぞ!


あの日からさらに1週間後。
入学式の一週間前までに入寮しなければならないため、
なら早いうちにということで二週間前に入寮することにした。
両親と離れて暮らすというのは少し寂しいけれど…。
会えないような距離でもないから、そこまで不安は感じていない。
今日も4人で学校まで行くんだ。
あぁ、そうそう。
ノールも入学を許されたんだ。
何でも数名入学を辞退したために、成績順で繰り上げになったそうだ。
…ノール、もうちょっと勉強した方が良かったんじゃ…?
心の内で密かにそう思った。

4人で学校まで歩いていると、周りにも少しずつ生徒の姿が見え始めてきた。
皆考えることが同じらしく、結構な数の人が今日から入寮するらしい。


「へぇ〜。
 結局皆考えることは一緒か…。」

「そうみたいね。
 まぁ誰でもそう思うよ。
 入るなら早いうちにって。」

「そうだよな。
 オレは家から離れたくてしょうがなかったし。」

「?
 どうして?
 ノールのお母さんってすっごくいい人じゃんか。
 お父さんもしっかりしているしね。」

「家にいると親がうるさくてさ…。
 ごろごろするなー!とか、勉強しろー!とか…。」

「随分大変なんだね〜。
 僕も言われるけど、嫌になるほどは言われたことないよ。」

「それ、嫌味か?」

「全然そんなつもりないよ!」


ノールって…やっぱり家で苦労してるんだって思った。
彼の性格から、外では好き勝手にはしゃいでて家では逆でって感じなのは想像がついていた。
そんな会話をしていると、いつの間にか目の前に学校があった。
学校の正面玄関からすぐのところにある事務室で手続きを取らなければいけないため、
一度学校に行く必要があったのだ。
来る途中に生徒を結構見かけたのに、事務室の前には人なんていなかった。
皆どこに行っているんだろう?
そんなことは置いといて、とりあえず自分の手続きを済ませる。


「すいません。
 入寮の手続きに来たんですが…。」

「あ、は〜い。
 …ではここに名前と受験番号を書いて下さい。」

「………。
 これだけでいいんですか?」

「はい。
 …ではこちらの入寮許可証を管理人の方に提出して下さいね。
 そうすると部屋の鍵が貰えますから。
 あ、そうそう。
 部屋の鍵は合鍵を作っておいた方がいいですよ?
 失くした時にわざわざ管理人に言わなくてもすみますし…。
 もちろん卒業の時にそれは回収させていただきますがね。
 あと、…。」

「はい?」

「彼女とかできた時には…ね。」

「は、はぁ…。
 ありがとうございました。」


彼女できた時に…って何だろう。
別に僕はそんな気ないけどなぁ…。

寮までは学校からだと徒歩数分というとても近い距離にある。
でも、男子寮と女子寮は学校を中心に真逆の位置に建てられている。
その辺りは配慮されているようだ。
学校の正門で、エマと別れの挨拶を交わす。


「じゃあまたね、エマ。」

「えぇ。
 ちょっとゴタゴタするから入学式までは会えそうにないわね…。
 でも、入学式にはちゃんと会いましょうね!
 約束よ?」

「あぁ、そうだな。
 今のうちに友達増やしとけよ?」

「うん、分かった。
 じゃね♪」

「あぁ!
 まだオレは何も……。」


そんなノールをよそにテコテコ歩いて行ってしまうエマだった。
彼の背中を見ているとちょっぴり切ない。


「ドンマイ、ノール。」

「オレはまだバイバイも言ってないのに行っちゃったよ…。」

「この際どうだろう…。
 学校で新しい娘見つければいいんじゃない?」

「嫌だ!
 オレはエマがいいんだよ!
 …あ。」


まだジョアンには知られてないと思っていたから、ノールはすごい勢いで赤面した。
まるでトマトだよ…。
しかもノールは一つ勘違いをしている。
実は彼はジョアンとエマが両思いだって思ってるんだ。
それは勿論空想の事象に過ぎない。
当のジョアンは好きな人なんか居ないって言ってる。


「お前、今頃気付いたのか?
 俺たちはお前のことずっと前から知ってたぞ?」

「あ、もちろん僕が教えたわけじゃないからね?
 だってノール、態度が全然違うんだもん。」

「…はぁ。
 これで俺の夢は儚く散ったわけさ…。
 ジョアン相手じゃ勝てっこないし…。」

「はぁ?
 相手って何だよ。
 俺は別にそんな好きな人とかいないぜ?」

「え?」

「ノールが一人で勘違いしてるだけだよ。
 ほら、僕とジョアンとエマは3年生の時は同じクラスだったから。
 ノールより一年も長く一緒に居ればそりゃ仲良くなるに決まってるでしょ?」

「そういうこと。
 だからお前、頑張れよ。
 俺も応援してるからさ。
 相談ならいつでも乗るよ。」

「…ジョアン…。
 お前、本当はいいやつだったんだな…。」

「何だよ、本当はって。
 俺はそういうのがあるとしたら、この6年間の中で見つけるさ。
 今はそんな気はないけどな。
 しかし…。」


ノールの肩を優しく叩いていたジョアンがいきなりこっちを見る。


「お前はそういうワケにはいかんだろう。
 な、ミック?」

「え?
 えぇ?!
 何で僕なのさ!
 僕はそんな恋とか興味ないし…。」

「そんな悠長なことを言ってる場合か?
 今年16になるやつが初恋もしたことないんじゃ…なぁ?」

「嘘ぉ?!
 初もないわけ?
 お前今まで何して生きてきたんだよ!」

「そ、そんな壮大に言われても…。
 だって僕はジョアンみたいにそれなりにカッコイイワケでもないし…。
 ノールみたいに飢えてるワケでもないし…。」

「飢えてるって何だよ。
 ……あぁ、分かった!
 要するに、顔と一緒でまだまだお子ちゃまってワケだな!」

「あ、ひっど〜〜い!
 それなり気にしてるんだぞ、それ!」

「まぁとりあえずその話題は歩きながらにしようぜ?
 いつまでここに突っ立てる気だよ。
 行こ。」


………。
そりゃ本当のこと言えば、完全に興味ないってわけじゃあない。
でも目の前に三角関係もどきがあると、こういうのに絡まれたくないって思うのが常じゃない?
そんな苦労するぐらいなら、興味持たずに日々を過ごしていけばいいと思う。
普通に暮らしていれば何の問題もない。
だから興味を持たないんだ。
僕の夢は父さんを超えること!
だからそんなのに振り回されてる暇なんてない!

学校から1キロも歩くと、周りのビルに負けない程の高さを誇ったマンションがある。
ここが男子寮『星霜館』。
見た感じは高級マンションのような風貌。
その名の通り、濃紺の壁地に無造作に散りばめられた様な星が刻まれている。
へぇ〜、ここに6年間住むのかぁ…。
ちょっぴり富豪にでもなったような気分になる。
僕たちは1階の管理人室に行き、管理人さんに入寮許可証を提出した。


「あぁ、新入生か。
 ちょっと待ってなさい。
 …………。
 はい、君はこれ。
 君はこれ。
 そっちの君はこれ。」

「これって人毎に部屋の割り当てが違うんですか?」

「あぁ。
 今年入学してきた君たちは11階から15階までの割り振りだよ。
 部屋は受験番号と成績に連動している。」

「そうなんですか…。
 僕は1503号室。
 ジョアンは?」

「俺は1502号室…って隣じゃん。
 良かったな!」

「うん!
 成績と連動してるってことは…ジョアンと同じくらいだったんだ!
 やったぁ!
 …で、ノールは?」

「1108号室。
 ま、こんなもんじゃん?
 お前らより大地に近いってことで満足しとくよ。
 じゃ、先に行ってるからな。
 後からミックの部屋に集合な!」

「えぇ?!
 ちょ、ノール!」


僕の問いかけを無視して、ノールがドタドタ走りながら中に入って行ってしまった。
僕の身長くらいあるカバンを軽々と頭の上に上げて…。


「ノール…。
 何であいつはこうマイペースなんだろう…。」

「ん〜…。
 まぁそれを取るとノールじゃなくなる。
 さ、俺たちも行こうぜ?」


スーツケースを引きずりながら、僕たちはエレベーターに向かった。
そりゃ高いマンションだから、エレベーターくらいの備え付けはある。
無かったら毎日15階から往復しなければならなくなってしまう。
今時の体育系部活でもそんなことやらないよ。
エレベーターに乗ると、そこにはガラス張りの部屋があった。
閉塞感を感じさせない造りだとは思うけど、これは怖い。
ゆっくりと階数を重ねていく。
順番に広がっていく俯瞰の視界は、空へと登っていくような錯覚を起こす。
僕がその風景に見入っていると、チン、という音と共に自動ドアが開いた。
目の前には一定の間隔で置かれた部屋のドアが見えた。
ドアには部屋番号が金色のプレートに刻まれている。
1510、1509…と順番に遡っていく。


「あ、あった。
 1503号室!」

「じゃあ俺はこっちだな。
 んじゃ、また後でそっち行くからな。
 …ノールが何言うか分からないから。」

「うん。
 後でね。」


ドアノブをがちゃりとひねって中に入ってみる。
うわぁ…広っ!
これって8畳はあるんじゃないかな。
てっきり6畳一間くらいかと思っていたけど…。
お風呂場も洗面所もロフトもある。
しかも既に家具は置いてあるから、何不自由なく過ごせそうだ。
…流石にテレビはないけどね。
僕は部屋の中央にスーツケースを置き、中の物をタンスに入れ始めた。


「これはまだ季節じゃないから奥の方に入れて…。
 こっちはここ。
 ……ふぅ。
 もう終わっちゃった。
 …ま、持ってきてる物が少ないしね。
 あとこのローブを…あぁ、あった。
 これにかけて……はい終了。」


この学校は制服代わりに学校指定のローブを着ることになっている。
すそには病院で見かける心電のようなギザギザ模様がある。
男子のローブと女子のローブ、一見同じだけど違うところが一つだけある。
それは後ろの布が羽根みたいに長いんだよ。
あとはこの入学年度ごとに決められたチョーカーをつけることになっている。
今年の新入生のは青い満月を描いたものだ。
そうだなぁ、適当に描いてみるとこんな感じ。


ごめん。
僕、絵が下手なんだ…。
だからこれぐらいで精一杯。

ピンポ〜ン!
ん?
今の何?
…あぁ、呼び鈴か。
どうやらもうノールかジョアンが来たらしい。
僕が開けようとした瞬間に、中に押し入ってきたのはノールだった。


「よっ!
 早速遊びに来たぜ!」

「早すぎだよ…。
 自分の部屋の設備とかちゃんと調べた?」

「そんなの後でいくらだってできるだろ?
 今は腹を割って話そうぜ!」

「へ?
 別に特別話すことなんてあったっけ?」

「続き。」

「はい?」

「さっきの続き。
 思春期には恋話に花咲かせるもんだぜ?」

「何でそれが引っ越してきたばかりの今日なんだよ!
 それに、僕はそんな……。」

「いや、ここはお前のためを思ってこういう席も必要だろ。」

「ジョ、ジョアン!
 何でジョアンまでそんなこと言い出すんだよ!」

「だってミックはいつも第三者じゃんか。
 たまには当事者になってみろよ!
 相談に乗るぞ?
 俺たち、長い付き合いじゃないか…なぁ?」

「おうよ!
 16にもなるやつが、色も知らなくてどうする?」

「そんなこと言われても…。
 ま、まぁとりあえず玄関で立ち話も何だから…。
 中入ってよ。」


結局僕はこの二人を上げることにした。
…立ち話であんなの聞かれたら嫌だし。
そして僕たちの暴露大会が、ここに切って幕を下ろした。
…本当は参加したくないのに…。


「そういえばジョアンってどうなんだ?
 謎めいててよく分かんねぇんだけど。」

「俺?
 俺は相談する時はミックにしかしてなかったからな。」

「オレもミックにしかしてなかったぜ?
 …って何でみんなして恋愛経験のないミックに相談するんだよ。」

「あぁ、それ僕も思った。
 前々から何でだろうなぁ…とは思ってたんだけど…。」

「ほら、ミックって何でも真剣に話聞いてくれるだろ?
 だから聞いてもらってるだけで楽になるんだよ。」

「そうか。
 しかもミックは口が堅いから絶対に他言しないしな。」

「口が堅いって…。
 僕は別に言う必要がないから言わないだけだよ〜。
 聞かれたら話しちゃうかもしれないし…。」

「いや、ミックはそんなことしないよ。
 話す相手によって会話の内容を切り替えてるヤツがそんなことするもんか。」

「え?
 僕ってそんなことしてたっけ?」

「こっちがえ?だよ。
 何?
 してないの?」

「僕はいつでも普通に会話をしてるよ?」


この後少し話を聞いて分かったことだが、
僕は話し相手によって自分のスイッチを切り替えて話すということを、
無意識のうちにやっているようだ。
やはり客観的に物を見るということは、他人の本質が垣間見られる瞬間なのかもしれない。


「オレは中等学校の2年生の時。
 ほら、すっごく可愛い子いただろ?
 シェーラって子。」

「あぁ…そういえば居たなぁ…。
 マドンナって呼ばれてた子だよな?」

「うん。
 初はその子。
 初めて告白したのに振られたんだよな〜。
 あの時はショックで一日中うなだれてた。」

「へぇ〜、お前秘密裏にそんなことしてたんだ〜。
 俺はそんな大したことじゃないけどな。
 3年生の春にユナって子に告白されて、そのまま付き合って…。」

「えぇ?!
 お前そういう付き合い経験があるんだ!
 ジョアンは顔がかなり整ってるからな〜。
 羨ましいぞ、こんちくしょー!」

「でもアレだよ?
 付き合うってのはすごく難しいことなんだぞ?
 結局秋に別れちゃったし。
 …実は人を好きになったのはその時が初めてさ。」

「お前もいろいろ苦労してんだな〜。」


僕の目の前で暴露大会が盛大に開かれている。
僕はそのどちらの話もより詳しく知っているから、聞いているフリして違うことを考えていた。
恋って…そんなに必要なことかな…。
無くても別に生きていけるじゃないか。
何だってそうそんなよく分からないことに夢中になれるんだ。
僕にはさっぱり分からない。
…勿論、そんなの体験したことの無い僕だからだろうけど。
でも要らないものは要らない。
…そう、この時はずっとそんなことを思っていた。
これから先に起こることが、僕の人生を一変させるなんて思いもよらなかった。

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