その先にあるもの。

Story18 その影に背負うもの

 

「えぇっ?!
 別れちゃったの?!」

「ん…まぁ…。」

「どうして?!」

「ど、どうしてって…お前…。
 なぁ…?」

 

久しぶりにジョアンが部屋に来たらコレだ。
まぁ彼らの言葉を借りるなら、
「僕だと相談しやすいから」
なんだろうけどね。
文化祭も終わって一週間。
こんな静かな良い感じの夜に、ジョアンはやってきた。
分かってもらえていると思うけど、状況としては…。
ジョアンとエマが別れた。
ってことだね。
あんなに仲良かったのに何でだろう…。
あ、そういえば最近ちょっとギクシャクしてたっけ。
それで何となく察しがついて、少し問い詰めてみることにした。

 

「その様子だと…喧嘩が原因かな…?
 どうしたの?」

「まぁ…何というか…。
 喧嘩ってのも原因の一つ。」

「???
 他にもあるってこと?」

「うん。
 何て言うか…。
 ミック達みたいに、不思議なくらい波長が合うなんてのは滅多にないってことだ。」

「何それ?」

「そういうこと。」

「分かんないよ!」

「はっはっは!
 やっぱり面白い反応するなぁ、お前♪」

「僕は何が面白いのかさえ分からないよ…。」

 

ということらしい。
僕はさっぱりだけど。
要するに、エマとはソリが合わなかったってコトかな…。
とりあえず、今一番気になることを聞いてみることにした。

 

「…で、大丈夫なの?」

「何が?」

「何が?って…。
 エマとのことに決まってるじゃん!」

「…そういうことか。
 んー、まぁエマとはこれからも友達として…」

「それもそうだけど…。
 ジョアンはそれで良いの?ってこと。」

「…あぁ…。」

 

考え込むようにして、少し項垂れている。
顔には出てないけど、やっぱり別れたくなかったんじゃ…?

 

「でも大丈夫さ。
 オレたちはオレたちなりに一区切りついたからな。
 …別れたくなかったんじゃない?って顔してるな…。」

「あ、分かっちゃった?」

「あのなぁ、お前とは何年の付き合いだと思ってるんだ…。
 お前は、自分の気持ちが見事に顔に出てくるんだぞー?
 嬉しい時は本当に良い笑顔するし、悲しい時は本気で泣ける。
 隠し事してる時なんてのは素振りで丸分かり。
 良い意味でも悪い意味でも、お前は正直だな。
 少し羨ましい…。」

「ジョアン…。」

「今お前はオレの心配してるだろ?
 エマと別れたくなかったんじゃないか。
 オレが今悲しい気持ちになってるんじゃないか。
 そんなことばっかり考えてるだろ?」

「う…。」

「心配してくれるのはありがたいけどな♪
 でも今は、オレの心配より自分の心配の方が大事だぞ?」

「あぁ…うん。」

「ノールのことも大変だろうけどな。
 オレは中立の立場で見守ってるから。
 だって、レナを取るかノールを取るかなんて、お前が決めることだしな。」

「うん。
 …って、絶対にノールは選ばないから!」

 

ちなみに、この世界で男色は割りと一般的なんだ。
だから学校でも、時々屋上で男同士でイチャイチャしてる人がいるよ。
魔導大戦時代からそういうのが盛んだったって、
中等学校の時に教えてもらったなぁ。
だから、別にノールみたいなのがいても異端ではないってワケ。
それでも僕は、ノールよりずっとレナが好きだから。
ノールに傾くワケもなく。

 

「そういえばレナ…最近様子がおかしいな。」

 

僕がレナのことを考え始めたのを察したのか、ふとそんな話を切り出された。

 

「うん、そうみたい…。
 どうしたんだろう…。」

「お前に何か打ち明けたりしないのか?レナは。」

「んっと……。」

「何でそこで目が泳ぐんだよ。」

 

前よりレナがべたべたくっついて来てくれるのが、実はとても嬉しかったり…。
それでこれでも別に良いかなとか思ってる。
…なんてことは、今のジョアンにはとても言えそうにない。

 

「…あっ!そうだ!
 そういえば、レナのほっぺが最近特に赤くなってる気がする。」

「単に恥ずかしがってるだけ…じゃないよな。
 あの娘、意外にもポーカーフェイスが上手だしな…。
 …ん?
 頬が紅潮してる…?
 うーん…。」

「何?
 心当たりがあるの?」

「いやぁ、あるような無いような…。」

「どっちなんだ…。」

「…よし、明日図書館で調べてみよう。
 確かに思い当たるフシがある…気がする。
 朝一で図書館に行けば、レナもまだひっついてこないだろう。」

「???
 レナがいるとマズイの?」

「いや、さすがにちょっとなぁ…。」

「???」

 

まぁジョアンが何を調べようとしているのかは分からないけど、
レナの異変の原因が調べられるなら…良いかな。

 

「うん、分かった。
 図書館は朝8時から開くよね?
 その5分前には着いてた方が良いね。」

「あぁ、そうだな。
 んじゃ、明日の朝迎えに来るよ。
 …まぁ隣の部屋だから、迎えに来るも何も無いけどな!」

「ははは♪
 そうだね〜。
 んじゃまた明日。」

「ミック…ありがとな。」

 

後ろを向いたままそう言って、彼は自分の部屋へと帰っていった。
その背中は、何となく寂しそうだった。
やっぱり、ショック受けてるんじゃん…。
素直じゃないなぁ…。

 

翌朝。
朝早くに迎えに来たジョアンと一緒に、僕は図書館へと向かった。
早朝の図書館は、いつもとは違う静かさが漂っていた。
何かこう…。
朝だなぁって感じ。
分からない?
この時間でも、図書館で勉強している生徒がちらほらいる。
まぁ確かに、こんな雰囲気で勉強すればはかどるような気もしなくも無い。
そんなことを考えながら呆けていると、
ジョアンにさっと手を引かれて図書館の奥へと連れてこられた。
この辺りは…。

 

「生理学…?」

 

そう、生理学の分野の本が固まっている本棚だ。

 

「あぁ。
 この辺で引っかかることがあるんだな〜。
 んーっと…。
 あ、あった!
 これだこれ。」

 

幻想族の生理学の本…みたいだね。

 

「これとレナが関係あるの?」

「…お前も鈍いヤツだなぁ…。
 ま、良いや。
 えっと………。
 んー…これだな。
 やっぱりそうだったんだなぁ…。
 これで分かる辺り、やっぱりレナも典型的な幻想族ってことなんだろうな。」

「???
 どういうこと?」

「良いか?
 この本に拠るとだな…。
 今レナは…その…発情期に入ってるんだ。
 幻想族の発情周期は不定。
 つまり、いつ発情期に入るのか分からないってことだな。
 しかも期間も不定らしい。
 オレたちは一定の周期で一定期間だけだろ?
 それに性欲が強くなるって言っても、まだ理性を保ってられる。
 でも幻想族は違うらしいんだ。
 種を残そうとする本能が他のどの種族より強い。
 それ故に、オレたちより遥かに強い性欲が出てくる。
 発情期が短期間だったら、まだ少しは耐えられるはずだろ?
 仮にそれが長期間続いたとしたら…どうなるか分かるか?」

 

つまりそれは…。
理性で抑えられなくなる、ってことだろう。

 

「理性が性欲に負けて、何するか分からないってこと?」

「そういうこと。
 最近のレナ、何かおかしいだろ?
 きっとこれが原因だぜ。」

「で、でも、原因が分かったところで対処できなくない…?」

「そうだなぁ…。
 状況からして二通りだな。
 一、理性を強く持たせて何とか性欲を抑える。
 二、性欲を晴らす。
 このどっちかしか無いだろうなぁ。
 まぁ、性欲を晴らそうにも、発情期である限り不可能だろうから消去。
 しかし一の方法を取ろうにも、それはレナの精神力の問題だからなぁ…。
 最近お前に甘えるようにしてるのは、きっとそれなんだろうなぁ…。
 自分で抑えきれないものを、お前に頼ることで何とか抑えてるって感じ。
 彼女一人が戦ってるような状況だな…。
 いつ折れるか分かんないぞ…。」

「そっかぁ…。
 じゃあ僕が支えてあげれば、レナはまたいつか元に戻るんだよね?」

「多分…。
 これ以上発情期が続かなければ、な。」

 

どうやら、思っていたより事態は深刻らしい。
何とかしてレナの力にならなくちゃ…!
じゃないとレナが危ない。

 

「…あ。」

「???」

「本当にマズイな…。」

「どういうこと?」

「発情期で理性を保てなくなると、暴走をするようになる…らしいな。」

「暴走って…どんなこと?」

「あんまり大きな声では言えないけどな…。
 無差別に人を襲ってエッチをするとか…。
 あと、性欲を晴らそうとする余り、反動で破壊衝動が芽生え…。
 無差別に人を襲うらしい。」

「つまりはどっちも人を襲うんだね…。」

「そうみたいだな…。
 何とかしないとマズイぞ。」

 

とりあえず、レナが狂ってしまう前に何か手を打たなくちゃ…。
何か…考えなくちゃ…。
色々と思考をめぐらせると、僕はあることに気がついた。
そうだ…同じ幻想族の女性に聞けば…。
だってそうでしょう?
何か対処法が無ければ、今生きてる幻想族は暮らしていけないじゃん。

 

「ジョアン。
 もしかしたら何とかなるかも…。」

「どういうことだ?」

「聞けば良いんだよ!
 どうしてるかをさ!
 同じ幻想族の人に!!!」

「お前、何言ってるんだよ!
 この学校に同じ学年で幻想族の人が…。
 あ…。」

 

ジョアンも気がついたらしい。
そう、この学校に割りと親しい人で、唯一該当する人がいる。
僕たちのクラスの担任、ユリアン先生だ。
彼女は白虎族の人だし、きっと何か対処法を知っているハズ。
…まぁ、先生にそんなコト聞くのは気が引けるけどね…。
でも今は手段を選んでいる場合じゃない。
レナには何としてでも立ち直ってもらわなくちゃ…!

 

その日は何とかレナを説得して、先に帰ってもらうことにした。
説得と言っても、また後から会うって約束をしたんだけどね。
授業が全て終わると、僕はジョアンと一緒に職員室へと向かった。
先生は…今日も相変わらず眠そうな目でぼーっとしてる。
それでもちゃんと仕事やってるもんだから、
あの先生は実は凄い人なのではないかと思う。
ユリアン先生を廊下に呼び出すと、僕たちはあまり人のいないところへと連れて行った。
勿論、先生はとても不思議そうな様子だったけど。
第一練武場の裏まで連れてくると、先生はワケの分からないことを口走った。

 

「貴方たち、どういうつもり?
 私、彼氏がいるんだけど。」

 

そんなこと全く聞いてない。
勘違いも良いところだ。

 

「誰が先生みたいなテキトーな人に告白をしなきゃならないんですか…。」

「それもそうねぇ。
 私みたいなテキトーな人に告白してくれる人なんて…
 って何言わせるのよ、ディスケンス君!
 で、何か御用かしら?
 こんなところまで連れてきて、それなりに理由があるんでしょ?」

「流石先生、その通り!
 あ…えっと…ほら。
 ミック!お前のことなんだからお前が言えよ!
 オレ、先生にそんなこと言えねぇ!」

 

?!
何か僕に回ってきたし!
でもまぁ…話さなきゃ進まないしね…。
勇気を出して言おう。

 

「せ、先生…。
 これは真面目な質問ですから、変な顔せずに答えてくださいね…?」

「???
 とりあえず話してごらんなさいな。」

「先生って…発情期…どうしてます?」

「はぁ?」

「だ、だから!
 発情期をどうやって対処してるんですかって!」

「どうやってって、そんなの簡単じゃない。
 …ははーん、読めてきたぞ〜♪
 ファーミット君、それってブルーデンスさんが関係してるんでしょ?」

「えっ?!」

 

本当にこの人は何者だろう…。
何故こっちの言わんとすることを読み取れるんだろう…。
謎だ。

 

「あ、ビンゴ?
 そうよね〜。
 彼女、夏休み前からその兆候が見られたしね〜。」

「そうなんですか?!」

「あら、彼氏のくせに何にも知らないのね、ファーミット君♪
 あの娘のほっぺ、夏休み前からちょっと赤かったでしょ?
 今では完全に真っ赤だけど。
 あれはヒドイわね〜。
 あんな状態で普通に学校に来られるブルーデンスさんが凄いわ。」

「ジョアンの言った通りだ…。
 でも僕、夏休み前から赤かったかは覚えてないんですけど…。」

「ダメねぇ…。
 確かに、同じ幻想族だから分かりやすいのかもね。
 んじゃ手っ取り早く対処法を教えてあげましょうか♪」

「はい、お願いします!」

 

次の瞬間、彼女から有り得ない言葉を聞くことになる。
そんなにさらりと言っちゃって良いの?!みたいな。

 

「要するに、セックスしてあげればいいのよ。
 それで落ち着くようになるわ。」

「は…?」

「だからセックス。」

「何の恥ずかしげもなくそんなコト言わないでくださいよ!」

「何で?
 別に隠す必要ないでしょ。
 自然な生命の営みなんだし。
 隠してる方がよっぽどおかしいわ。
 避けられないことを隠すって、何かおかしくない?」

「いやまぁそうなんですが…。
 でも生徒がそんなの勧めないでしょ…。」

「普通は、ね。
 でも状況が状況だしねぇ。
 ブルーデンスさん、このまま行くと狂乱状態になるわ…。
 一応私なりに保健室の先生に相談してるんだけどねぇ。」

 

驚きだ。
まさかこの先生が、生徒一人のためにそんなことをしていただなんて…。
まぁ、同じ幻想族だからかもしれないけど。

 

「ともかく、そういうことね。
 私はこれ以上は何も言わないわ。
 最終手段で薬を使って抑える方法があるけど、
 効き目も悪いし副作用も強いし、オススメできないしね。」

 

つまり、先生自身が試したってことか…。
うーん、実情を考えると、レナと…その…エッチをするしかないのか…。
そんなことを考えていると、ジョアンが先生にもじもじとしながら質問をした。

 

「あの…こんなこと聞くのもどうかと思うんですが…。
 やっぱり先生も、そういう状態になったことが…?」

「うん、あるよ。
 私も困ったもんだね、うん。
 実に懐かしい。」

「その時は…」

「うん、セックスしたら治った。」

 

体験談だったワケか…。

 

「何か…わざわざありがとうございました。
 飽くまで参考までにってことで。
 飽・く・ま・で。」

 

一応、表面上はね。
先生に公言しても…ねぇ?
それにしても…まさかそんなことになってるなんてなぁ…。
全く予想してなかった。
本当に…エッチしなきゃ治らないのかなぁ…。
何か…とっても不本意だけど…。
とても複雑な気分だなぁ…。
どうすれば良いんだろう、僕は。
レナには元に戻って欲しい。
だからって、こんなことで…エッチにいっちゃっていいのかなぁ…。
早急に決断を下す必要がある今の事態に、僕は身動きが取れなくなりそうだった。

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