その先にあるもの。
Story１５ みんな、変
夏休みも終わり、また同じ日常が始まった。
でも、今は文化祭前だから、クラスの活気が違う。
何と言っても、文化祭一週間前だからね。
そりゃみんなもテンションが上がる。
まぁ「楽しむ」人たちはね…。
「さて、とうとう一週間前ね。
毎日毎日クラスの出し物で忙しいだろうけど、こっちの方も忙しくなるからね！
各自覚悟しておくように！」
「先生ー。
既に毎日こうして呼び出されて話し合いして、すごく忙しいんですがー？」
「はい、ファーミット君。
文句があるなら、私じゃなくて一年生主任の教頭先生に言ってくださいね♪」
「うぐ…。」
そう。
僕たち学級委員、それに加えて文化祭実行委員は大忙し。
毎日毎日話し合いをさせられてるんだ。
文化祭は一週間もあるんだし、当たり前と言えば当たり前かな。
色んなコト決めとかないと、当日バタバタしちゃうし…。
あ、ついでに言うとね、文化祭の最終日は全校魔法・魔術総合大会なんてものがある。
えっと…。
キミたちの世界で言う、体育祭みたいなものかな。
ただ単に魔法で競うだけなんだけど…。
例えば、どのクラスがより多くの火柱を消せるかってね。
勿論魔法を使うんだよ？
風を起こして消してもいいし、水を呼び出して消してもいいし…。
やり方は自由。
でもね、その火柱もそう簡単に消せないんだってさ。
先生の話によると、特別な陣を張って校長先生が出した火柱らしくて…。
水がかかろうが何だろうが消えにくいそうだ。
じゃあどうやって消すんだって感じだよね〜。
そこで試されるのが、クラスの協調性なんだ。
みんなで力を合わせれば、一人じゃ消せなくても消せる。
一本の矢は折れても、三本の矢は折れないってヤツだね。
クラスみんなの同調率が高ければ高いほど早く消えるんだ。
どれだけ信頼しあってるかってのがカギってコト。
他にもまだ色々あるらしいけど、当日しか種目は分からないんだってさ〜。
あらかじめ練習できないようにするのが目的らしいけど…。
あ、火柱のヤツは毎年共通らしいよ。
そんな感じかな、文化祭は。
そうそう、僕の踊りも大分マシになってきたってボルトが言ってた。
良いんじゃなくてマシなんだって。
それはまだ僕が下手だっていう意味n
「コォラ！ファーミット君！
ボーっとしてると分からなくなるわよ！
って言うか話し合いに参加しなさい！」
「ひゃう！
す、すいません…。」
…はぁ。
今日は帰るの、何時になるだろうなぁ…。
午後７時。
夏が終わったばかりとは言っても、未だに日は長い。
だから、こんな時間でも夕暮れが見える。
ちょっと暗いけどね。
その夕暮れを、僕はレナとぼ〜っと眺めていた。
「………。」
「…ははは！」
「え？いきなり何で笑うの？」
「だってミーちゃん、口開けてぼんやりしてるんだもん。
人形さんみたいに固まってたよ？」
「あぅ…。」
「…疲れてるの？」
「うん、ちょっとね。
クラスに居ればダンスの練習。
練習が終わればみんなで会議。
帰るのがいっつも遅いんだもん。」
「そっか。
でも私は楽しいよ♪
ダンスだって、会議だって…。
全部、文化祭でうまくいくようにやってるんだから。
みんなで一つのものを作るって、素敵じゃない？」
「まぁそうなんだけどね。
今忙しいから、当日楽しいハズなんだよね。」
「うんうん♪
…あと一週間かぁ…。
一緒に全部回ろうね♪」
「うん！
…あ、もうこんな時間だ…。
帰らないとマズイね…。
もう日も落ちちゃったし。」
「そうね〜。」
意味深な返事。
こっちを見てニコっとするレナ。
…？
あ、そういうコトか。
レナの表情から心を読み取るように、僕はそれを理解した。
周りは暗いから見えないしね。
どちらが先というわけでもなく、自然に僕たちはキスをした。
時間にしてみれば１０秒あるかないかだっただろう。
でも、僕にとっては長い安らぎの時間だった。
レナとのキスは、何故か知らないけどすっごく安心できるんだ。
疲れなんか取れちゃうみたいにね♪
「…。」
「ねぇ、ミーちゃん。」
「ん？」
「キス。
最初よりうまくなったね♪」
「そうなの？」
「うん。
最近、キスすると力が抜けちゃうもん。
キスが気持ち良いって言えばいいのかな、うん。」
「あはは…。
最初はキスするたびに回数を数えてたんだけどね〜。
もう忘れちゃったや。
レナが見えない圧力でキスをせがむから…♪」
「えー？
私、そんな圧力かけてないよ〜。
いつもミーちゃんからしてくるじゃん！」
「うぐ…。」
「な〜んてね♪
じゃ、そろそろ帰りましょっか。」
「あ、うん。
じゃあまた明日ね！」
「うん、また明日〜。
…えっと…。」
「ん？」
「大好きよ。
じゃあね！」
「ひゃうっ！」
思いがけないことを言われて、自然に驚いてしまった。
いつも唐突なんだよなぁ…。
嬉しい不意打ちってヤツだから良いんだけどね。
大好き、かぁ…。
僕もすっごく好きだよ、レナ…。
だって、もうレナ無しの生活なんて考えられないんだから。
部屋に戻ると、いつものように扉の前には二人の姿が見えた。
ジョアンとノールだね。
この人たち、何が面白くていつも通ってくるんだろう…。
まぁね、ジョアンは今エマと喧嘩中で何か悩みとかあるんだろうけど…。
ノールはよく分からない。
最近は何話してても異常に嬉しそうだしね。
何か良いことでもあったのかな…？
だったら何でいつも僕のトコに来るんだろう…。
「毎日毎日暇なんだね〜。
何で毎日僕が帰ってくるのを部屋の前で待ってるのさ？」
「う〜ん…難しい質問だな…。」
「え？何で？」
「あ、何でもない。
たまにはちょっと語らい合おうぜ♪」
「たまにはって、昨日も一昨日もそうだったじゃん！
…またエマのコト？」
「あ、え、えっと、うん！
まぁそんなところだな！」
「？？？
何でそんなにあたふたしてるの？」
「何でもないよ、うん。」
「ふ〜ん？
んじゃここじゃ何だし、部屋に上がってよ。」
最近のノールはおかしいけど、ジョアンも何だか変だ。
隠し事してる感じがするって言うか…。
どこか変。
ノールは変とかそういう次元を超えてるし…。
変なんてもんじゃない。
この二人、何かあったのかなぁ…？
二人を部屋に上げると、僕は二人に麦茶を出した。
９月と言っても、夜はまだ若干暑いしね。
「はい、どうぞ♪」
「ありがとな。
…ほら、ノール。」
「あ、ありがとう。」
「？？？
別にお礼をノールにさせるほどのコトじゃないでしょ、ジョアン？」
「まぁそうだけど、ちょっと事情があってだな…。」
「やっぱり…。
どうしたの、ノール？
最近おかしいよ？
何か悩んでるコトでもあるの？」
「あ、えっと、その…。」
俯いてモジモジしてしまうノール。
え？
何この反応？
まずいコト聞いちゃったかな…。
「そっか、まずいコト聞いちゃったんだね。
じゃあ無理して聞かないよ、うん。」
「あ、ありがとな！
ゴメンな…。
（本当は全部言っちゃいたいよ…）」
「え？」
「な、何でもない！」
「？？？
ところでジョアン。
何で毎日通ってくるの？
何かワケがあるんでしょ？
さっき難しい質問だ、なんて言ってたけど…。」
「まぁな〜。
難しい事情が複雑に絡み合ってるんだ、きっと。」
「益々ワケが分からないよ！」
「そうだなぁ…一つ言えることがあるとすれば…。
それは…。」
「それは…？」
「お前のせいだな♪」
「えぇっ？！
何で僕のせいなのさー！」
「何でって言われてもなぁ…。
こんなのに理由なんて要らないよ。」
「えー？
何か言ってることがよく分からないんだけど…。」
「んー…。
ま、とりあえずお前は何も気にしなくていいってコトさ。」
「んっと…よく分かんないけど…。
分かったことにしとく。」
「そうそう。
ところでさー、聞いてくれよ！
またエマのヤツがさー！」
とまぁこんな感じに、エマに対する愚痴が小一時間ほど続いた。
ジョアンとエマのことは時間が解決してくれるから良いとしても…。
どうにもノールのことが気になった。
ぼーっとしてるかと思ったら、いきなりニヤニヤしたり…。
ニヤついたと思ったら、今度はいきなり切なそうな顔になるし…。
よく分かんないや。
文化祭前日。
今日は朝からバタバタとしていた。
何しろ明日からの準備を始めてるからね〜。
第一練武場で文化祭のオープニングをやるから、まず会場のセットでしょ？
それからクラスの出し物の最終チェックでしょ？
それに明日からのスケジュール等の最終確認。
それであっち行ったりこっち行ったりを繰り返してるワケだ。
一般の生徒は自分のクラスのコトだけ考えていれば良いから、気が楽なんだろうなぁ…。
「ほらほら、ミーちゃん！
ボーっとしてちゃダメだよ！
次は職員室に行かなくちゃ！」
「あ、うん！
もう、何でこんなに忙しいんだか…。」
この時ほど前方不注意なことは無かった。
下を向いてとほほって言いながら走ってたからね…。
次のレナのセリフは全く意味を成さなかった。
「ミーちゃん、前！」
「え…うわぁ！」
「きゃっ！」
どん、という衝撃音の後に、思い切り後ろに倒れこんでしまう。
僕が声を上げたのと同時に、誰かの声も混じったような…。
どうやら人と正面衝突したみたい。
「痛た…。
ご、ゴメンなさい！
僕の不注意で…。」
「あ、えっと大丈夫、みたいです。」
「立てます？」
「はい…ありがとうございます。
………！」
その犬族の女の子は、立ち上がって僕を見るや否やいきなり顔が固まってしまった。
え？
僕、何か悪かった…？
「えっと…あの…、本当に大丈夫？」
「は、はい！
どうもすいませんでした！
私も気をつけます。
そ、それでは！」
その子は逃げるように僕たちの行く方向と反対方向に走って行ってしまった。
そんな逃げなくても良いんじゃないかとは思うんだけど…。
「向こうの人も大変そうだったねぇ…。」
「いや、大変なハズよ？」
「どうして？」
「だって彼女も学級委員じゃない。
ミーちゃん、さっきも会議で会ったでしょ。」
「え？えぇっ？！
だって僕、あんな子見たこと無いよ？！」
「それはただ単にあの子の影が薄いから…かなぁ。
目立たない子だけど、仕事はしっかりやってるのよ？
学級委員長だしね〜。」
「えぇっ？！
何で僕、学級委員長のコト知らなかったんだろう…。
学級委員って６人しかいないのに…。」
「ステアさんも良い子なんだけどね〜。
内気な性格が災いしちゃってるのかなぁ。
行動力も判断力もあるのに、どうして影が薄いのかしら…。」
「ステアさんって言うんだ…。」
「でも大丈夫よね、うん！
信じてるからね、ミーちゃん♪」
「えー？
いきなり何？」
「何でもないよ♪
ほらほら、早く職員室行こうよ！」
「う、うん。」
最近ホントに変なコトが多いなぁ…。
ジョアンもノールもレナも。
そして、さっきのステアさんって子も。
っと、こんなコト考えてる場合じゃないね！
さっさと職員室行って飾り用の花を取りに行かなきゃ。
大したことない問題だろうと思ってた、全てが。
でも、本当はそんなに小さなコトでも無かったんだ。
この時それを知っていたら、僕は何て楽だったんだろう…。