その先にあるもの。

Story12 僕の本心
この話の中には、
成人向け表現が少しだけ含まれています。

「えっとね、あの人は…グリフィン族。
 鳥族のワシ系統に似てるんだけど、ちょっと顔に違いがあるの。
 脚の感じも全然違うし…。」

「じゃあ、あの人は何族なの?」

「ミーちゃんは何族だと思う?」

「んっと…馬族かなぁ。」

「ブブー♪
 あの人はペガサス族だよ!」

「そ、そんなの分かるワケないじゃ〜ん!
 僕は普通の犬族なんだよ?
 幻想族の人って、普通の種族と区別にしにくいって!」

「そうかなぁ…。
 私から見れば違うんだけどなぁ…。」

「同じ幻想族だからじゃないの?」

「そうかもね♪」

 

ここは、レナの家からちょっと離れた町の公園。
意外にも人が多くて、少しだけビックリしてる。
何でこんなトコに居るかって言うと、レナが町を案内してくれるって言うから…。
それでここに居るワケなんだ。
レナの家から徒歩10分程度行くと、いつも行く隣町くらいに栄えている町があるんだ。
そこにある公園で、今はレナと幻想族の種族当てゲームみたいなことをしてる。
本当に区別なんてつかないけど。
分かるのは、鳥系なのか馬系なのかとかそんなトコロ。

 

「???
 あの人ってマルコシアス族…かなぁ?」

「そう!
 大分分かってきたじゃん♪」

「えへへー♪
 ところでこれからどうするの?
 町を案内してくれるって色々周ったけど…。」

「ご飯は飛行機で食べちゃったしね。
 遊ぶトコなんかないし…。
 何か教えて欲しいことがあるなら聞くよ?
 それによって行く場所決めるから♪」

「聞きたいことぉ?
 えっとねー、魔導とかに関する場所ってないの?」

「そういうところはちょっとないかなぁ。
 図書館くらいかな、あっても。」

「そっかぁ…。」

「……あ、そうだ!
 あそこは面白かも♪」

「あそこ…?」

「魔導は関係ないんだけど…。
 ミーちゃんは面白いかもしれないよ。
 私は行き慣れてるからそうでもないんだけど。」

「本当?!
 行きたい行きたい!」

「決まりね♪
 行こっ!」

 

また僕の手を取ってくれた。
それだけのコトだけと、何だか恥ずかしくて…嬉しくて…。
心の中が暖まる感じがする。
夏だからっていう理由じゃ言いくるめられない何かがある。
レナの笑顔を見られるだけで幸せだなって思うんだ。
そして………。
この瞬間がずっと続いたら…って思う。
いや、ずっと続くんだって思ってたんだ。

レナの言っていた場所は、さっきいた公園から約30分歩いたところにあった。

 

「ここここ、ここここここ、怖いぃーー…。
 早く帰ろうよぉ〜…。」

「え〜、何で?
 まだ来たばっかりじゃん!」

「だ、だって…あわわ…。」

 

レナに連れられてやってきた場所。
そこはとんでもない場所だった。
面白いって言ってた場所は、断崖絶壁だったのだ。
ちょうどここは丘になっているらしく、周りより標高が高めらしい。
それだけでは断崖絶壁とは言えないよね。
理由は分からないけれど、丘が何かで大きくえぐられたようになっているんだ。
えぐられたような跡が崖のようになっている。
高所恐怖症の僕には、怖い以外の何物でもない場所だ。
怯えてしゃがみこんでいる僕を見ながら、レナはくすくす笑っている。

 

「怖いよぉ〜…。
 帰りたいぃ〜。」

「ふふふ!
 何言ってるのよ♪
 ここからの景色はすっごいんだから!
 ほら、アレ。」

「うぅ…?」

 

近くの木にしがみつき、さらにしゃがみこんでいた僕。
怖くてつむっていた目を恐る恐る開いて見た。
……あれ?
どこかで見覚えがある色だ…。
これは………。

 

「この色……。」

「覚えてる?
 あの時と同じ色だよ。」

「あの時…。」

 

忘れるはずも無かった。
社会見学の後、居残りさせられたあの日。
初めて見た不思議な夕日の色。
そして…。
レナとの生まれて初めてのキス。
あの時のことは今でも鮮明に覚えてる。
景色は勿論、気温・匂い・感覚…。
レナの唇は柔らかくて、暖かくて…。

 

「うん、覚えてる。
 忘れたことなんてないよ。」

「そう…。
 あのね、ミーちゃん。」

「何?」

「ごめんね。」

「何が?
 謝られるようなことなんてないよ。」

「あるよ。
 だって……。
 あの時、急にキスしたりして…。」

「あぁ、そのこと…。
 気にしなくて良いよ。
 僕だって同じことしたし…。
 それに、僕はレナを泣かせちゃった。
 ごめんね?」

「ミーちゃん…。
 あれは違うの。
 私が泣いちゃったのは、すっごく嬉しかったからなんだよ?
 好きな子からキスしてもらえたんだから…。」

「でも、やっぱり僕が悪くて…。」

「ふふふ!」

「どうしたの?
 僕、おかしなこと言ったかなぁ…。」

「私たち、お互いに謝ってるんだよ?
 おかしくない?」

「あ…本当だ。
 おかしいね、ははは!」

「………。」

 

いつの間にか現れた夕日を背に、いきなりレナは無言になった。
微笑みながら、ゆっくりと僕の方へ歩み寄ってくる。
ここが高いところ、だということは気にもならず、僕もゆっくりと立った。
何の合図もなく、僕たちはお互いに相手を抱き寄せていた。
やっぱり…。
あの時と同じ感じだ。
柔らかくて、暖かくて…。
それに心地良い。
ただこうしてレナを抱いて、抱かれているだけですごく幸せだった。
それなのに、何故か涙が出そうになる。
僕はより強くレナに抱きついた。

 

「…!」

「レナ……。」

「あ、あのね……?」

「何?」

 

うずめていた顔を少し上げる。
その時見たレナの顔は、照れてるといか恥ずかしいというか…。
そんな感じの表情をしていた。
……?

 

「ちょっと…言いにくいんだけど……。」

「何?
 僕、何かした……んだよね?
 言って?
 レナの言う通りに頑張るから。」

「でも…これはそういうのじゃないと思う……。」

「???」

「あ、あのね……。
 何か硬いのが当たってる……。」

「へ?」

 

その時、僕は一瞬で血の気が引いた。
恥ずかしくなって、慌ててレナから離れた。
穴があったら入りたいぃ……。
いつの間に?!
何で?!

 

「あ、あの!
 これは違うんだって!
 えっと……その……。
 違うんだよ!
 お願い、信じて!!!」

「ふふふ!
 別に怒ってないよ。
 男の子だもんね。
 元気な証拠だよ♪」

「で、でも……!
 違うんだよ!
 あの…その…。
 僕だって……無意識の内に……。
 あれ?」

 

僕は気が付いた。
そういえば最近…。
何も考えていないのに、僕のものはいつの間にか勃起していた、なんてことが多い。
そして何より…。
レナと居ない時に限ってずっとムラムラしていた。
これってまさか……。

 

「そうだ……これだ。
 僕、発情期になったんだ……。」

「え?」

「通りでおかしいと思ってんだ。
 変にムラムラしてたし……。
 僕、今まで発情期なんて来たことが無かったから…。」

「そうなの?
 でもそれ、女の子に言うこと?」

「え?
 あ……。
 ご、ゴメンね!!!
 でも勘違いしないで欲しいのは、これは発情期のせいだからであって決して僕がそんな……。」

「いいじゃん、男の子なんだから♪
 ………。
 本当は”したい”んでしょ……?」

 

恥ずかしそうな顔をしながらも、ズバリと言ってくる。
確かに本心としては…”したい”。
でもそれってとっても大事なことだし、軽々しく”する”なんてことできない。
でも僕は無意識のうちに頷いていた。

 

「そうだよね…。
 でもね、やっぱりそ」

「分かってる!
 言わなくても分かってる……。
 それがすっごく大事なことなんだって。
 だから……。
 発情期のせいなんだよ…。
 忘れて?」

「うん。
 ごめんね、力になれなくて。」

「何で謝るの?
 今のは僕が悪いんだからさ…。
 本当にごめん!
 絶対レナを襲ったりしないから!」

「うん、ありがとう。
 ……これで我慢して?」

 

レナは僕を抱き寄せると、静かにキスをしてくれた。
僕もそれに答えるように、唇を重ねた。
大事なことだから、ずっと先まで取っておきたい。
本当はそうなんだ。
でも今は、その発情期ってヤツで狂ってる。
キスをしながら、僕は改めて心に決めた。
不謹慎かもしれないけど、レナが言い寄ってくれるまでしないって。
もしかしたらしないかもしれない。
それでも僕は待つって決めたんだ。
それが、とても大事なことだと思うから……。

 

「…じゃ、そろそろ帰ろっか。
 お母さんたちが心配するし……。」

「うん。
 あのね、レナ?」

「なぁに?」

「気にしないで…。」

「生理現象なんでしょ?
 気にしない気にしない♪
 さ、帰ろうね♪」

「うん!」

 

今度は僕からレナの手をつないだ。
僕がしたいのは、こうしてレナと手をつなぐこと。
レナとただ一緒にいることなんだ。
それを忘れないように、僕は僕のものに言いつけた。
いくら硬くなっても、お前の言う通りになんてしてやるもんか!
ここに居る間は絶対に負けない。
レナに悲しい思いをさせたくないから……。

 

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