憂鬱〜クレスの場合〜


雨音の響き、その音が耳に届くほど意識がはっきりしているのに気がついた。
「やべ、頭が痛い……」
目が覚めて、身を起こそうとするまえに感じた頭の痛み、そして身体の怠惰感。
痛いと思いつつも、なんと身体を起こして頭を押さえる。
視界に入ってくる紅い髪が、今自分が生きていることを改めて実感する。
魔物がちらほらといる世界だ、いつどこで死んでしまってもわかりゃしない。そんな世界に、10代始めの自分が放り出されるんだ、毎日を必死で生きている。
といっても、ある人に出会ってからかなり力をつけた自分にとっては、必死な部分は主に精神面的なところだろうと思う。
あの人とも別れてから数年……今はどこにいるのだろう?
そんなことを考えるのも、これで何度目か、あの人にはあの人の事情があるのだろう。あんまり関わらないほうがいいかもしれないな。
「とりあえず……店の人にもう一泊頼んでみるか……」
少しづつ伸びてきた髪を整えて、窓の外の様子を見ると、昨夜の雨が今の降り続いている。
雲の様子からして、晴れるのはまだかかりそうであることを確認し、荷物の中身を漁る。
旅はいつ何時、何が起こるかわからないからな、少しの薬なんかは常備しているはずだった。
「うぇ、ない……」
はずだけだったようだ。
身体のだるさを感じながらも、俺はもう一度ベッドの中へ身を投げる。
昨日で寝慣れたベッドは俺の身体を簡単に包み込み、やわらかな誘惑に負けそうになる。
負けてもいいだろうか?
「いい、よね……たぶん」
病気になると気が弱くなるというのも、あながち間違いではないのかもしれない。
これほど気が弱い自分を見るのは、聖都にほそぼそと暮らしていた頃の自分を思い出すかのようだ。
あの頃は、自分じゃどうにかしなかったからなぁ……本当に……
姉さん……元気にしてるだろうか?
母さん…………父さ……はいいや。どうせ、またどこかでふらふら旅でもしてるんだろう。
そして、一番の元凶は兄ちゃん。
くそ、くそ……!
「ぜってぇ、見返してやる!」
なぜかこのときだけやたら元気が出たような気がする。とにかく、風邪を治すことを先決にする。
明日には治ってるといいが、治ったとしても、雨が続いてたら出れねぇなぁ……
明日のことを考えつつも、俺は再び目を閉じた。

気がついたら夕暮れ時になっていた。



―――――――――――――――――――――――

はい、クレス=ファンレッドのレンと出会う前のSS、ショートなんでみじかいですよ。
ある意味、クレスの一番弱気の時期でもあるころをっとおもって書いてみました。正直思い付きです(殴