最愛の友〜Best Frend〜



「ディコル〜!」
子供の竜人に対して、同じような姿をした子供の竜人が声をかける。
その声に気づいて、自分の名前を呼ばれたことに気づいて振り向く。
「なんだ?」
「相変わらずの仏頂面だなぁ」
苦笑しながら言う竜人に、ディコルは相変わらずの無表情で見ている。
まあ、いっかと竜人が笑いながら言うと、ディコルの手をとって―
「ほら、早く行こうぜ!」
「ん……」
相変わらずの無表情のまま、手を引く竜人に引っ張られるままに連れて行かれる。
村を離れ、森の奥へと入っていく竜人の子供に、引っ張られるままに連れて行かれるディコル。
しばらく引っ張られていくと、岩の上へとのぼっていく。
「早く!見れなくなるぜ!」
手を引かれて連れられた場所を上った瞬間、大きな爆発音と共に、空がぴかっと光る。
ディコルが天を見上げると、夜空に浮かぶ大きな花火が散っていた。
「ほら、ここだと綺麗に見れるだろ?」
歯を見せながら笑うその竜人の子の後ろの背景に、また花火が天に浮かぶ。

ディコルも笑いかけようとするが、場面が一転して暗くなる。
場所は認識できた、それはディコルの、自分の家であるのだが、状況が全く違う。
床には親が倒れ、倒れた先にいるのはディコルの知らない男性。
その男が持っている長剣には、今斬られた親の血が滴り落ちる。
一瞬にして、悲しみなんかがふきとび恐怖がディコルに襲い掛かる。
逃げなきゃ殺される。
一瞬、浮かび上がった単語がディコルの体を動かせる。
男とは反対方向の廊下へと逃げ込み、台所をとおり、裏口から外へ飛び出す。
そこにはいつも見てきた風景。見慣れてしまったはずの風景とは違っていた。
夜空を赤く染めるほどの炎が、家々を襲い、悲鳴があちらこちらから響く。
逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ!
森の奥へと足を進めようとすると、ふと頭に友人の顔がよぎった。
逃げなきゃと思いながらも、友人の安否がきになる。
ディコルは村の中へと駆ける。なるべく襲い掛かってきた人達に見つからないようにと。
友人の姿はすぐに見つかった。生きてもいる。だが、手ばなしで喜べるような状況ではなかった。
友人の竜人の子供は男にどこかへと連れて行かれる最中で、腕を引っ張られなんとか抵抗を示している状態だった。
ディコルが友人に向かって名前を叫ぶ。
それに気づいた友人が、ディコルの姿を確認して、呼び返す。
その声に、男が一瞬ディコルのほうへ向いたとき、友人が男の手に牙を剥き出し、噛み付く。
ひるんだ男の手が、一瞬緩んで、その手から抜け出し友人がディコルの元へと駆けていく。
友人が無事なことに、ディコルは安心し、合流してから森のほうへと逃げることを考え始めるが、その考えも安心して出た笑みもすべてふきとんでしまった。
駆けてきた友人の背中から鮮血が飛び、目の前で友人が倒れてしまう。
友人に向けて伸ばしていた手が、空しく、そのまま固まってしまう。
今起きた状況に、結果に、ディコルは認めたくなかった。認めたくなかった。
しかし、見下ろすと……友人は自らできた血の池に身を沈めていた。
「ああああぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁっ!!!」
一気に両親が死んだ悲しみ、友が殺された憎しみ、怒りがディコルの中で爆発する。
夜空を赤々と染め上げる炎、その中で村全体に響き渡る悲鳴が、今の惨状を変えるには弱すぎた。


ディコルは再び、故郷へと足を踏み入れた。
焼け野原に変わっていたはずだった村は、焼け焦げた木材がそこらへんに転がっている以外、あの頃と変わっていなかった。
昔よく遊んでいた木も、あの炎の中でも生き延び、少し焦げた部分は残っているものの、成長を続けていた。
「………懐かしいな……」
木を撫でて、そこに記されていた字を確認する。
難しい漢字を頑張って書いたようなものが自分の字、そしてもう一つが……














―ずっと一緒だぞ!親友!―


そんなことが書かれており、ディコルはあの頃と同じように、そのすぐ隣に書いてある字を読む。
「馬鹿……」
一緒だといったのに、離れていったのはそっちじゃないか……
いや、そうか……一緒か……
今、その言葉の意味を、ディコルは初めて理解し、あの頃言えなかった言葉を口に出す。
「ずっと、ずっと一緒だ……カイン」
俺が生きてる限り、俺の中で、友人は生き続ける。ずっと……


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はい、ディコルの暗い過去をほじくってみました。
時間系列的には、エルと別れた後、クレスと会うまでの話になります。
一応、最初のほうは回想的にまとめてみたものです。ある程度成長したディコルがまた故郷に訪れたときの心境みたいな感じ、なのだろうかな?
メインキャラクターとしての登場は少なかったので、ここで出番を増やしてみたり、とりあえずSS第1弾、暗い話から始まりました。