第60章 全ての王の降臨、そして……
……暗い……

落ちてるのか、?

地獄、かな?ここは……

俺、どうなるんだろう……?

上も下もわからない……どっちへ落ちてるんだろう?

地獄かな、やっぱり……



どさっと言う音をたてて俺の体が地面に倒れる。
「クレス!」
エルの声が響く。
一瞬にして、俺の命が断ち切られてしまった。
その突然の死に、エルとゼロギガに驚愕の表情が浮かぶ。
しかも、俺の返り血を浴びてもなお、ウォルトは笑みを浮かべたままである。
悪魔だ。
二人はそう思った。
「ふふ、後2人……いや5人かな?」
笑みを浮かべながら言うウォルト。
エルにゼロギガ、レインにガルム、4人のはずだが……
しかしそこへ、エルとゼロギガの間に風が巻き起こり、その風は姿を形作り姿を現す。
銀色の髪、鋭くも優しさを持った青い瞳が、レンとの兄弟の証である。
背中には、体に似合わない大剣を所持していた。
「神よ、お戯れが過ぎますよ」
といいつつも、その手は大剣に伸ばしている。
そして、抜き放つとその大剣の装飾にある鈴がリンと澄んだ音を出す。
「といいつつ、私に剣を構えるとは、どういう了見です?」
「恐れ多いが神よ、だが、今は悪魔そのものだ
俺は、神の意思を継ぐ者、貴様に」
シオン、かつて俺がフェンリルで暴走した時に一緒に戦った神族、いや、白犬族だった者。
シオンが、地を蹴り走り出す。
一瞬で、ウォルトの目の前まできて、大剣を振るう。
しかし、後ずさって避けるウォルト、その笑みにはまだ余裕が見られる。
「これならどうです?」
錐となった黒い塊が出現し、ウォルトに向かって放たれる。
そこでも姿を消し、かわす。
そこを見計らい、ガルムの奇怪な大剣が縦に斬りつける。
が、それも姿を消して避ける。
どこへ消えたと見回すエルとゼロギガ。
玉座へとふたたび、躍り出たのだ。
「ふふふ、神族、魔族、人が協力するなんて、それほど私は脅威なんでしょうか?」
なおも笑みを浮かべて言う。
5人が同時に対峙する、はずだったが、
シオンだけ、対峙せず、テットの元へ駆け寄る。
テットの近くには、仔竜2匹が泣き続けているが、テットは動く気配すら見せない。
シオンは無情にもテットに大剣を突きたてた。
『シギャアアァァァ!』
コウとトキノがやめろ!と言わないばかりに鳴き、シオンを噛み付く。
「くっ……我が命を糧とし、この者にさらなる力を与えん、我が名はシオン、そして傷つきし者……」
大剣が光を放ち、その光がテットを包む。
いや、シオンから大剣を通じて、テットに力が送り込まれてるように見える。
「テット!」
倒れている者の名を呼ぶと、テットは、深い光に包まれる。
ゆっくりと大剣を抜くシオンは、がくっと大剣を支えにして立つ。
コウとトキノはテットの様子に、心配そうに駆け寄る。
すると、光が消えていく時には、テットの傷という傷がすべて癒されていた。
死因となった大きな傷、そして、シオンに突きたてられた傷さえもキレイに消えていたのだ。
「あれ…?僕……どうして?」
むくりと、テットが起き上がる。
『シギャギャ!』
「コウ?トキノ?どうしたの?……僕、死んだんじゃ……」
わけも分らずコウとトキノを見るテット。
その様子に、エルもゼロギガも、表情が疑問の色に染まる。
普通ならその反応は当然だろう、目の前で死んだ者が、生き返ったとしか言いようがないのだから。
シオンはよろよろとした足つきで、クレスの元へと向かう。
「おい!やめろ!」
エルが制止の声をあげ、シオンをとめる。
「しかし、早くしないと、手遅れに……」
「非情かもしれないが、アイツは魔王を倒すことで自分が死ぬことをわかっても、まだ魔王に立ち向かったんだ。それで、魔王に倒された……なら動ける者が動かなくてどうする!
こうしてう間に、他に死ぬやつを出すか?
……動けるなら、戦いに参加しろ、倒さなければ……クレスが浮かばれないだろ?」
シオンは、ウォルト、そして戦いに戻ろうとしているエルをにらんだ。
「アイツが、他のやつを犠牲にして生き返るのが、何より嫌いだからな」
エルのつぶやきに、シオンだけが聞こえた。


声が響く。
暗い空間の中で、二人の声……俺とフェンリル。
―俺はここで朽ちるのか?―
俺が問いかける。
「さあな…」
―お前はどうなる?―
フェンリルは興味なさ気に言うと、俺は更に問いかける。
「俺様も、お前と一緒に消えるだろうよ……」
―………―
「……お前、あんだけ言っておいて、やられたらこのざまかよ……」
―え……?―
「まあ、それもいいかもな、一生懸命やるのは俺様じゃねぇ、お前だって命は惜しかったろ、何故逃げない?」
―逃げていたら、守れるものも守れない―
「はあ?死んだら全部なかったことになっちまうじゃねぇか?命より大切なもんがあるのか?」
―命より大切なものはない……だけど!その命をかけないと進めないものもある。―
「……わけわかんねーよ、で、お前はそのまま死ぬわけか……」
溜息混じりで言うフェンリル。
―わからない。だけど、それもいいかもしれない……―
「お前、他の奴が戦ってる時に、お前一人で楽しようってのか?」
俺は首をかしげた風にしてみた。
それに気づいてか、フェンリルは口を開ける。
「テットってやつ、生き返って参戦してやがる、たく、たいしたガキだ……」
―テットが……―
「お前は?
沈黙、何もいえない。
「ちっ、さっさと復活して魔王倒しちまえよ」
………………
「……あーあ、言ってる事全然違うじゃねぇか、俺様もお前も」
―……そうだな……―
苦笑混じりで俺は応えた。
そこで、フェンリルの気配が消えた。

しかし、また新たに気配が生まれる。
何故かわかる、その発する気配、フェンリルじゃない誰かに変わったのが分った。

「人の子よ、我に身を捧げよ」
―……捧げれるものなら捧げるよ、ちょうど、死んじまったしな―
「ん、そうだな、しかし時間がない、選択の余地はないぞ?」
―え、ちょっと、話聞いてな……―
「私にしばらく身を貸してやれば、全て解決してやるぞ?どうだ?」
―……人の話し聞いてないでしょ?―
「人の子よ、我に身を捧げよ」
―え?ちょっと、これって無限ループ?―
「ふふ、冗談だ、からかってみただけだ」
―……………―
「最後にもう一度問う、お前の大切な人を守るために、我に身を少し貸してくれはしないか?」
―あの状況を打破できるなら、いくらでも貸してやるよ!―
「すまんな、人のきょ……噛んだ」
―……緊張の欠片もないな……―



「なんだ……?」
シオンが声を上げる。
その視線の先には、俺が死んでいた場所、いや、今も俺の死体はあるのだが。
問題は、その死体が光を発してるって言うことだ。
深く、しかし柔らかい光。
俺は光に支えられるかのように立ち上がる。
髪は銀色に染まり、瞳は闇より濃く、黒い。
死神。おそらくその印象が一番強いだろう。
「な、何故!?」
ウォルトだけが、恐怖に満ちた表情を浮かべていた。
その表情を見て、『俺』は笑みを浮かべて、歩き出す。
一歩一歩、時が止まってるかのように、その一歩が長く感じた。
やがて、足に一つの塊があたる。
『ん?』
クリスの無残な死体、黒いローブが赤黒くなり、血の絨毯にさらに血を広げていた。
『俺』はそのクリスを見て、微笑しながらしゃがみ、手を添える。
『今回の私は働きすぎだな……』
全員の視線がクリスに映る。
それは、クリスが、さっきの俺と同じような光を放っていたからだ。
光が収まる前に、『俺』は立ち上がり、ウォルトに向けて歩み始める。
そして、ウォルトの目の前まで来た。
『ウォルト、何故お前は私の子供に体をのっとられているのだ?お前ぐらいなら動かすのは容易いはず』
「あっ、ああぁ、あっ!」
『そうか、日が経つにつれて、体を蝕まれていたか、しかし心配はいらない、私がすべて楽にしてやろう』
「やめてくれ!やめ!」
ウォルトはさらに動揺し、取り乱す。
「銀色の審判者……」
レインが、『俺』の名を口にする。
レインとガルムのみが、その人物の存在を知っているようだ。
「やめて!やめてくれえぇ!」
『情けないな、ウォルト、お前そんなに力をなくしていたのか?私が怒ったからか?むむ、すまない』
「ああぁ、ぁぁぁっ!」
『ほら、さっさと起きろウォルト、私一人で手にかけるつもりか?』
「あ……」
その言葉に、ウォルトは取り乱す様子はなく、ゆったりとした気配に変わった。
『ようやく起きたか、馬鹿者』
「……お喋りは、天国でしましょう」
『あいにく、私は天国というものは信じておらぬからな、行くならお前一人で行け』
「そうですか……」
『ん、やるぞ?ウォルト』
「……えぇ」
最後に、ウォルトは笑みを浮かべた。
『俺』が腕を振るうように見えた、しかし、その手には赤黒く染まった剣が持たれていた。
『俺』はウォルトに向かって切り刻むように斬りつける。
ウォルトの体は音もなく切り刻まれていく。
「……ありがとう……ウォルティナ……」
その言葉を最後に、ウォルトは跡形もなく消え去ってしまった。

あっけなかった、あまりにも。
『俺』の手にはすでに剣が消えていて、ウォルトのいた場所をじっと見つけていた。
「まさか貴方様が、おいでになるとは……」
『ん、暇だったからな』
レインの言葉に、あっけにとられるような発言をする。
『しかし、時間がない、そろそろ……』
そこで言葉を止める。
そして振り返って、笑みを浮かべながら。
『私は帰る』
そう言って、また俺に光が包まれ、その光が天へと上っていった。
俺の姿は、元の真紅の長髪、真紅の瞳に戻り、意識も、だんだん元に戻っていった。
それと同時に、水晶体が、音もなく砕け散り、レンがその場に倒れる。
「レン!」
シオンが、駆け寄る。
抱き寄せて、顔が見えるように抱き上げる。
「お兄……ちゃん……?」
「レン!」
その様子を、俺は笑みを浮かべるように見ていた。
が、その瞬間。
「ぐはっ!?」
「やったじゃねーか!クレス!」
後頭部に強烈な痛みが走る。
クリスがいきなりラリアットをかましてきやがった
その痛みを耐えるかのように、俺は頭をおさえてちぢこまっていた。
少し痛みがおさまってきたとき、文句を言おうとクリスに向かって口を開こうとしたが……
「クリス、足……」
クリスは、足の部分だけ消えていた。
徐々に、消えて行く部分が増えていく。
「あぁ、まあ俺も魔族との合成体だったし、魔族も消えれば俺も消える、当たり前だよな」
苦笑しながら言うクリスに俺は文句を言う言葉さえ失っていた。
しかし、クリスは笑いながら言う。
「お前のコピーだって言うのも、なかなか楽しかったぞ、まあ、本物より俺のほうが強いがな!」
「クリス……」
「おいおい、別れってのは悲しい顔してやるもんじゃないって、昔言われなかったか?最後に移した者が悲しい顔だったらこっちも悲しいぞ?」
「あぁ……」
「それに、まだ最後だって決まったわけじゃないんだ、また会お……!」
その言葉を最後まで言えずに、消えていくクリス。
「あぁ、また会おう、クリス……」
俺がその言葉を続ける。
「あぁ、やっぱり俺達もですか」
その言葉、レインが言う。
俺はレインのほうを振り返って見ると、レインとガルムが、すでに胸の下が消えていた。
しかし、レインの笑みは今も変わってない。
「俺達も消えてしまうんでしょうか?」
「………お前なら消えないだろう、ゴキブリ並みだしな……」
「ふふ、褒め言葉として受け取っておきますよ」
「………最後まで、わからんやつだったな……」
「それは俺のほうも同じですよ」
そう言いあって、二人は消えていった。
そこには、何も存在しなかったように、虚空のみが存在する。
「お兄ちゃんもなの……?」
レンの言葉に、俺はそちらに振り向いた。
シオンが足から徐々に消えていく。
「お兄ちゃん、やっと会えたのに、やっと……」
「レン、この剣、お前にやる……持っていけ……」
大剣を、レンの隣に突き立てる。
鈴の音がむなしく響き渡る。
「嫌だよ!嫌だ!お兄ちゃん!やだ!」
「……いい弟を持った、俺は幸せだ……また会えると信じれば、会えるさ……」
「……うん、」
「……またな……」
その言葉を最後に、シオンは完全に消えてしまう。
剣についている、鈴の音を響かせて……
「なんだ、やっぱり俺もか……」
俺は自分の足を見ると、その足が、少しづつ消えていた。
他の奴よりも若干遅いが、どっちにせよ、消えてしまうんだ。
「くれ、す……!」
レンが駆け寄り、抱きしめる。
「おいおい、クリスの言葉と似ちゃうが、悲しい顔をしたまんまじゃ俺はいやだぞ?」
「だって、クレスも、僕嫌だよ、みんな消えちゃうなんて、やだ……」
「バーカ、エルも、テットも、ゼロギガもいるじゃねーか……」
「それでも、クレス、やだ……」
もううまく言葉にできないらしく、泣きじゃくるレン。
俺はすでに下半身が消えていた。
「んー、消えちゃうけど、いなくなるわけじゃないぞ?レン」
その言葉に疑問の色を表情にくっつけて見上げるレン。
「消えちゃうけど、俺はレンのすぐそばにいるよ、だけど見えないだけ、だからレンが見つけてよ、俺を!」
「僕が……?」
笑みを浮かべて俺が更に言葉を続ける。
「だってさ、俺まだ、食べたことのない料理が山ほどあるんだぜ?それを食べずに消えるなんておかしいだろ?」
「うん……」
「だから、見つけて欲しいんだ、レン、俺をな……」
「クレスを……」
胸、腕も消えてしまう。
「そう、だから、見つけるまで、俺は待ってるよ」
その言葉に、レンは自分の涙を拭いて、俺に向かって笑顔を見せる。
「うん、僕、クレスを見つけるよ!」
「よし、待ってるぞ!」

そして、踵を返して歩く。

足が消えてるせいか、やはり足音は聞こえない。

エルも悲しそうな表情を浮かべるものの、俺が見てるとわかってすぐに笑みを浮かべる。

すぐ足元にテットがいるが、泣きじゃくっていた。

しかし、すぐに涙を拭いて、笑顔を見せる……だけど、やはり頬に涙が零れ落ちる。

ゼロギガは、表情は硬いが笑みを浮かべてるのが分る。

なんだかんだいったって、全員強がってるんだな、とその時点でで分った。

さびしがってくれてるんだな、とも……

そしてもう少し歩くと俺は全員に振り返って言った。












「またな」